釜ヶ崎反失業連絡会から国へ

 大阪市の国に対する要望は、同意できる点を含みながら、不十分な点、そして私たちの考えるところ野宿生活者に不利益をもたらしかねない点を持つものでした。

 私たちは、大阪市へ国の要望を要請していましたが、「強制力の伴った本人確認のための調査権」や不法占拠事案に対する緊急措置の施設適正管理策の強化」などの要望を要請したわけではありません。

 私たちは、大阪市の要望にある否定面の是正を図るために、そして、実効性のある国の対策を引き出すために、私たち自身の野宿生活者のための要望を考え、提出することにしました。

   野宿を余儀なくされている労働者の

       経済的自立援助に関する要望

 要望事項

  1. 大阪市に対し、今年度野宿生活者対策費として100億円を早急に交

 付されたい。

 (2)野宿生活者支援法(案)の成立をはかられたい。

  1. ホームレス問題連絡会議に大蔵省・通産省を加えられたい。

要望する理由

(1)大阪市に対し、今年度野宿生活者対策費として100億円を早急に交付されたい。

 大阪市は、要望の3.で、生活ケアセンター事業や生活道路清掃事業等の日雇労働者雇用創出事業への国の助成をあげています。この要望自体は必要で、実現されるべきことであると考えています。

 しかし、生活道路清掃事業等の日雇労働者雇用創出事業の現状は、2千人近くの就労希望者に対して、1日43人分の仕事提供でしかありません。生活ケアセンター事業は、拡大されて170人となったに過ぎません。

 大阪市が昨年夏に把握した野宿生活者は8,660人でしたし、昨年末にはさらに増えて、1万人なっているのではないかと磯村市長が述べていることからしても、事態の認識と対策に量的な隔たりがあることは誰の目にも明らかです。

 生活ケアセンター事業や生活道路清掃事業等の日雇労働者雇用創出事業への国の助成を要請するのなら、対策が有効性を持つ規模について明示されるべきだと考えます。

 私たちは、緊急・即時的な「寝場所と食」の対策が、大阪市の野宿生活者対策としては以下の規模で実施されなければ有効たり得ないと考えています。

@緊急一時的措置としての「ドヤ券」「食券」の発行に対する国の助成。

 野宿生活者対策の本格実現までには日数がかかると思われるので、過渡的対策として「ドヤ券」「食券」を発行し、野宿生活者の野宿状態からの「救済」がはかられるべきである。6ヶ月以内に他の本格的な対策に移行し、廃止することを前提とする。

・試算

 {ドヤ代1,300円+(食券500円×2食)}×30日×8,000人×6ヶ月=33億1200万円

 間接事業費見込み 5000万円。合計33億6200万円

 大阪市内いたるところでの野宿者の増加は、昨年4月からでした。大川沿いの遊歩道でここ数年テントを張っている野宿生活をしている人は、「以前は5人しかここにいなかったが、4月過ぎから、南の方から人があがってきて、ここにテント張らしてもらっていいかといってくるようになり、今では何人になっているかわからんが、この周辺で100人はいるだろう。話を聞くと西成から来た人が多いようだ。」と話していましたし、城東区の商店街でも、「昔は、万博の後や花博の頃に多くなったことがあるが、最近は4月以降増えてきたような気がする。」と語っています。

 野宿生活者の急増からすでに1年が経過していることが確認されます。この長期の野宿生活で体力が衰え、救急車で運ばれる人や路上死させられた人も増えています。

 寝場所と食の提供は、急務です。そして、野宿生活者の数に対応した規模で実施される必要があります。これは、国の補助が確定しなくても、国の補助が降りる前でも、大阪府・市の共同負担で実施されるべきことでもあります。国への要望とは別に、地方自治体の責任を棚上げしている現在の大阪府・市の姿勢は非難されるべきであり、野宿生活者対策を本気で言うのであれば早急に対策の量的拡大をすべきであると考えています。

 8千人の受け皿は、民間施設、釜ヶ崎地区内簡易宿泊所の活用が考えられます。施設の建設では、規模の点、完成までの時間を考えると急場には間に合いません。

 釜ヶ崎の労働者が多く野宿生活者となっているということは、彼らが元生活していた空間、簡易宿泊所があいているということでもあります。釜ヶ崎地区内の飲食店なども、多くの顧客を失っているということでもあります。現に、簡易宿泊所組合は、野宿生活者のために簡易宿泊所の空き部屋を活用するよう大阪市へ申し入れる動きを示しています。

 「この方法は、野宿生活者を西成区に集中させるものである。」との反対意見が出されそうですが、この意見は間違っています。野宿生活者は元々釜ヶ崎にいた人たちが中心なのですから、元生活していた場所へ、簡易宿泊所の利用客として、とりあえず戻そうということなのです。身銭を切ってであれ、「ドヤ券」を使ってであれ、簡易宿泊所に寝泊まりする人たちは、すでに野宿生活者ではありません。

 中途半端な規模で実施すれば、「ドヤ券」を当てにして集まった野宿生活者が、そのまま釜ヶ崎及びその周辺に居残ることは考えられます。対策の中身と共に規模が重要な意味を持ちます。十分な規模で実施されれば、市内の野宿生活者は激減します。そのことは多くの市民の望むところであろうと信じ、広範な市民の共感と理解が得られる対策であると考えます。

A大阪市が実施している日雇労働者雇用創出事業への国の助成。

 大阪市が実施している日雇労働者雇用創出事業は、就労希望者に対して求人数が過小であり、対策の体をなしていない。少なくとも1日三千人に拡大される必要がある。1日3千人の就労確保と日雇雇用保険を組み合わせれば、総数6千人規模の事業となる。

 一人当賃金6,200円×3,000人×26日×12ヶ月=58億320万円。

 間接事業費見込み 6億円。合計64億320万円。

・就労希望者全員が日雇い雇用保険手帳の発行を受けることを前提とし、給付金受給資格を得る1ヶ月平均13日就労を各人の就労日数上限とすれば、労働者の月間収入は以下のようになる。

 労働者の収入(月13日就労とし、日雇雇用保険3級の給付金を受給すると仮定)

 手取り賃金5,700円×13日+アブレ手当4,100円×11日=119,200円

 一人当賃金と手取り賃金の差額5百円は、雇用保険印紙保険料本人負担分等。

 これにより6,000人が生活保護(居宅保護)受給者と同等の最低限度の生活費が得られることとなる。なお、「ドヤ券」「食券」発行見込み人数と日雇労働者雇用創出事業対象見込み人数との差2千人は、就労に適さない層の見込み人数であり、生活ケアセンター事業や市更相を通じての施設入所あるいは入院または居宅保護の対象となるものである。


切ない「行旅死亡人」告示
 大阪市中央区役所にある掲示板を、男性(六八)が口をへの字にして見入っていました。
 男性が見詰めていたのは、行旅死亡人の告示です。路上などで行き倒れになって亡くなった、身元が分からない人の死を知らせる掲示です。掲示板には六枚の告示が重なるように張ってありました。下に張っであるものは、内容を確認するのも困難です。中の1枚から目が離れません。
 その告示は、一月三一日朝に中央区日本橋の路上で発見された死亡人のもの。「本籍・住所・氏名、不詳。年齢六0〜七0歳、男。身長一五九a野宿者風、灰色作業衣上下、遺留金品・現金一九円」と書かれていました。
 男性は、段ボールや銅線などを集めている時に顔見知りになった友人を、最近見かけないので「ひょっとしたら」と思い、立ち寄ったといいます。年齢や体の特徴などから、その告示が友人ではないかと思ったそうです。男性は「本名も知らんし、どうしてやることもでけんけど」とポツリ。そして「一九円しか無いいうのは、あんまりにも切ないな」と目を赤くしました。
 二ヵ月の告示期間に、身元の分からなかった遺骨は、斎場で一年間保管され、引き取り手が現れない場合は、無縁仏として合葬されます。告示期間はもう過ぎました。
 この男性は「外で暮らす人間は、寒い時は寝たらあかんのよ。一晩中歩いて昼間寝るんや。昼寝たら稼ぎがなくなるけど、しゃーないわ。今年の冬はきつかったで」と話しました。去り際、もう一度掲示板を振り返った男性は寂しそうに笑って一言いました。「もう春や。あいつもひょっこり現れるかもしれんな」
 昨年四月から今年三月までの行旅死亡人は一六九人(大阪市保護課調べ)。前年度より一三人増えました。一月三一日朝の最低気温は0・九度でした。【東海林 智】
一九九九・五・六 毎日新聞・大阪・夕刊「街の灯」欄


 野宿生活者の多くは、いやそうではありません、すべての野宿生活者は、野宿状態に至る以前は、仕事をし、収入を得て、住居や食事を自力で確保していた人々です。

 この表現も正しくはありません。なぜなら、野宿生活者は、ダンボウルやアルミ缶を集めて収入を得ており、公園や道路に寝場所を確保し、食べている、自力で生きているからです。「人様やお上の世話になりたくない」と、現状で可能な仕事を精一杯やっている人たちなのです。

 ただ、野宿生活者の野宿を脱したいという思いと努力にもかかわらず、野宿生活者がする仕事は、今の世の「平均的な水準の生活」を確保できるだけの収入をもたらさないだけなのです。

 野宿生活者に必要なのは、一定の収入に結びつく「仕事」です。「ドヤ券・食券」の緊急対策の後に、恒常的な就労対策が続かなければ、野宿生活者への対策は完結しません。

 野宿生活者の年齢構成と今の雇用環境を考え合わせれば、労働省のいう「雇用対策は民間活力で」、が夢物語であることは明らかです。

 「集客都市大阪」は、もっと街路をきれいに維持管理する必要があるでしょう。人類の未来の、今の、「地球環境」を守るために、資源の回収と徹底した分別・再利用はもっと労働力を投入されてしかるべき分野です。経済的な採算が問われてはならない分野です。そういった「社会的労働」を、就労対策として創出・活用すべきだと考えます。就労対策についてのこの考え方は、多くの市民の共感・同意を得られるものであると信じます。

 就労対策の規模は3千人としていますが、日雇労働雇用保険制度と組み合わせることにより、最大6千人対象の対策となります。

 日雇労働雇用保険制度は、働いた日毎に雇用保険印紙を貼付する事によって保険料を納め、2ヶ月26枚(1ヶ月平均13枚)の貼付で3ヶ月目から受給資格が得られる制度です。例えば、登録番号の奇数・偶数番号別に1日置きに就労すれば日々3千人規模の対策で6千人が最低限度の生活を維持できることになります。(実際の実施にあたっては、祭日や小の月などの関係がありますから、貼付枚数の軽減などの特例が必要となります。また、出発当初に一律に資格を認める特例も必要となります。)


河北新報 1999年01月29日金曜日
ホームレス実態調査へ/仙台
 不況時に増えるとされる特定の住居を持たない「ホームレス」の実態を把握するため、仙台市は3月にも調査に乗り出す。同市内では青葉区のJR仙台駅周辺や西公園、勾当台公園などで、路上生活者の姿が見られるが、このところ病院に運ばれたり、市役所から身寄りのある土地への交通費支給を受けたりする住所不定者が急増している。市民から防犯上の不安を訴える声も出ており、市は取りあえず現状を把握し、今後の対策の参考にしていく方針だ。
 仙台市は平成8年12月に市中心部で、ホームレスとみられる人についての聞き取り調査をしたことがある。この際は、JR仙台駅周辺を中心に二十数人程度が路上生活しているというデータが得られた。
 しかし、最近の不況の影響で、急増しているとみられる。市は、救急車や警察を介して病院に運ばれた住所不定者の医療費を肩代わりしており、この「1日外来・1日入院」制度の世話になった人は、青葉区の場合、9年度は47件で前年度より12件増えた。本年度は既に昨年10月末で27件に達しており、9年度を上回るペースで推移している。
 また仙台市は、お金に困った住所不定者が身寄りのいる土地に各地の福祉事務所などを頼って移動していくための費用として1000円以内を「移送費」として支給する制度を設けている。こちらも青葉区で9年度は604件と前年度から一気に245件も増加。本年度は昨年11月末で678件と、既に9年度の年間件数を突破している。
 青葉区保健福祉センター保護課によると、「夜になるとビルにホームレスが来て困る」といった苦情も寄せられるようになった。
 調査は、人権の問題からプライバシーにかかわる内容に踏み込めないなど、難しい側面がある。具体的な手法は市健康福祉局が検討しているが、各区の福祉事務所や宮城県警の協力を得て、人海戦術で実数と生活場所を把握していくことになりそう。ホームレスの中には夏に涼しさを求めて移動する人もいるため、市は春先に調査をすることで、できるだけ実数に迫りたい考えだ。
 市健康福祉局は「大都市では簡易宿泊施設を設けたり、パン券を配ったりしているケースもあるが、結果的にホームレスを増やすとの批判もあり、対応はなかなか難しい。まず実態を把握し、今後どのように対処すべきか、その検討材料として活用したい」と、話している。

次の頁へ