(2)野宿生活者支援法(案)の成立をはかられたい。

 関係自治体が国へ提出した要望書の中で、野宿生活者増加の最大の要因について述べていることをまとめれば、「社会経済構造の変化、景気の低迷、日雇労働者の高齢化の進展等(大阪市)ーでありー、ホームレスの多くは、地方から仕事と生活を求めて大都市に集まって来た人達で(新宿区)、大都市の特性である(東京都)。」ということになろう。

 釜ヶ崎に於いても、釜ヶ崎に来たその日から野宿という人がふえてきており、日雇労働者対策の一部としての野宿生活者対策、釜ヶ崎という地区に注視した野宿生活者対策では現状にそぐわなくなっていることは明らかであり、その状況は全国的広がりを持つものであることから、国としての法による対策が求められている。法の成立とそれに伴う野宿者対策の全国化は、野宿生活者対策の特定地域への偏在を防ぎ、野宿生活者の特定地域への集中を防ぐことにもつながる。

 野宿生活者が存在するのは、大阪だけではありません。もちろん、東京・横浜・川崎・名古屋を含めた5地域だけでもありません。前頁「河北新報」の報道に見られるように、野宿生活者対策は、全国共通の課題となっています。

 「大阪の対策が先行すると、今以上に野宿生活者が集中するようになる」というのが、大阪の野宿者対策を小出しなものとする言い訳として使われています。それだからといって、野宿生活者を路上死に追い込むまで放置しておくことは、とうてい許されるものではありません。しかし、現実問題として、釜ヶ崎、その周辺は過密状態にあり、これ以上の集中は誰にとっても、今いる野宿生活者にとっても、これから野宿を始めざるを得ない人にとっても、野宿しなくて済む人にとっても、望ましいものではありません。

(例えば、せんたー夜間開放では、雨の日などは利用者が1300人を越えて、階段の一段一段に人が寝る、それでも入りきれないという超過密状態になります。)

 野宿生活者対策は、全国規模で実施される必要があります。各地の野宿生活者が、追い立てられ、都市へ追いやられることを防ぐためにも。

 全国的な野宿生活者対策のシステムを創るには、根拠法が必要となります。

 私たちは、野宿状態にあるものに対して、職と居住の安定を保障し、野宿生活者が野宿状態から脱することを目的とする法律(仮称野宿生活者支援法)の制定を求めます。

 野宿生活者への支援は、「野宿生活」の現状に対して行われるものであり、扶養親族の有無・過去の経歴・国籍等により制限されることなく行われるものでなければなりません。また、「支援」は、野宿生活者の人権と自己決定権を尊重した上で行う、食と居住空間の提供と安定した収入につながる職の提供を指すもので、簡易な追い立て策を望む大阪市が考え出しそうな、野宿生活者の意志に反した現住地からの追い立て、強制施設収容を含むものであってはならないと考えます。大阪市は強制収容したくても施設がないという事情から実行できませんが、100人前後の地域では予想されます。施設の不足する大阪市は、強制収容よりもっとあくどく無責任な、単なる追い散らしをもっぱらとしています。それらを、法の中であらかじめ禁止しておく必要があると考えます。


西日本新聞(夕刊) 1998年11月26日
不況、リストラ…生活直撃/ホームレス急増/働き盛り世代目立つ/福岡市、四年前の三倍

 不況が長引く中、職を失って公園などで生活するホームレスの人が福岡県内の都市部で急増している。福岡市の調査によると、市内の公園では四年前の三倍近くに増加。北九州市でも市民グループによる食料支援が昨年の量では足らなくなっている。リストラで失業した働き盛りの世代も目立ち始めたのが最近の特徴。本格的な冬到来を前に、市民グルーブは一時宿泊所の設置や食料などの公的支援を訴えているが、行政側は財源問題もあって今のところ静観の姿勢だ。
 福岡市公園管理課が今年七月末に行った調査によると、市内三十八カ所の公園で確認したホームレスは約百四十人、前回調査時(九四年)の五十五人を大幅に上回っていた。毎月、中央区天神地区など三カ所で支援の食料を配布している「福岡おにぎりの会」によると、四年前の冬は一回約八十食分で足りたおにぎりなどの食料が、昨冬は約百食に増え、今年はさらに百三十食でも足りない状態という。
 北九州市の市民グループ「北九州越冬実行委員会」も、昨年は、一回百〜百二十食分で足りていたが、現在は毎回百四十食分を準備している。同会によると、かつては日雇いの労働者がホームレスになるケースが多かったが、最近では食堂経営者やサラリーマンなどにも広がり、年齢層も以前からの五十代以上に加え、不況でりストラにあった三十〜四十代の人が目立ち始めているという。JR博多駅でもホームレスの人は多く、深夜から未明にかけてコンコースを巡回しているJR九州の助役は「今は約百三十人が寝ている。若い人や今まで見たことのない顔を見ることもあり、不況の深刻さを感じる。去年は多い時で約百五十人だったが、今年はもっと増えそうだ」と話す。
 博多駅近くの公園で夫婦で暮らす女性(五四)は「夫が会社を辞めて、半年ほど前からホームレスの生活。腹が減って仕方がない」と言葉少な。別の男性(七五)は「この年齢になると日雇いの仕事も少ない。加えてこの不況。今後が心配」と話していた。カンパなどで支援費用をまかなっている両会は、行政へも救済措置を働きかけてきた。全国では、東京都、大阪市、横浜市、川崎市、名古屋市などが、ホームレスへの食料支援や冬季の宿泊所開設などを行っているが、福岡、北九州両市は「財政負担が大きい」などを理由に、救済には乗り出していない。「公的支援を行うとホームレスがさらに流れ込む可能性が高い。税金投入に市民の理解も得にくい」(北九州市職員)との声も間かれる。


国の財源で地域事情に応じた対策

 「ホームレス問題連絡会議」メンバーである自治体が、国へ出した要望の最大の一致点は、野宿生活者対策費用の国庫負担です。(3234頁参照)

 野宿生活者支援法の目的を達成するために行われる事業の費用は、全額国庫負担とするのは、当然のことでしょう。

 野宿生活者対策費用の国庫負担要求で一致はしていますが、その要求の基礎となっている個々の対策内容は、自治体間で違いがあります。その違いは各地域の特色、野宿生活者が層を成す背景と経緯・規模、野宿生活者及び支援組織の運動、地域環境などによるものと思われます。各地域で違いがあるということは、全国一律の対策は地域によってはそぐわないものになる可能性が高いと考えられます。

 また、全国一律の対策づくりは、その性格上、野宿生活者を対策の対象として極度に抽象化した上でつくられることになります。できあがる対策は、具体的且つ一人一人異なる個性を持つ野宿生活者に適用するには不向きな、非現実的で融通の利かないものとなることが予想されます。対策内容を実施する機関、システムも、弾力性のない硬直したものになると思われます。

 国は財源の確保を保障するにとどめ、具体的な対策の内容は、各地域にゆだねるのが妥当ではないでしょうか。

 当該地区の民生行政機関だけでなく、労働行政機関も参加し、野宿生活者支援団体が存在する地区においては、当該団体の参加も要請して、「野宿生活者支援センター」を創り、具体的な対策を検討、実施に当たる。

 この方式ならば、地域の特色、これまでの経緯にあった、そして野宿生活者の直接の声を反映した対策の立案・実行が可能になると考えます。

 しかし、各地域の極端な対策のバラツキを抑制するために、次の3点は、必ず実施する事業としています。 
@野宿生活者からの相談があった当日から対応できる食と居住空間の提供事業
 野宿生活者の対策には即応性が求められます。「食と居住空間」については、「明日おいで」の言葉を使わなくても済む、日常の体制が必要です。

A野宿生活者が相談日から10日以内に就労可能な職業斡旋事業 
 野宿の原因の第一要因は失業ですから、当然のことでしょう。職業斡旋事業は、多くの市民の共感を得るためにも必要です。

B野宿生活者への医療相談事業―巡回医療・福祉相談は、基礎活動です。

「大阪市野宿生活者支援センター」の役割

 野宿生活者支援センターの第一義的な役割は、野宿生活者に居住と安定した職を提供し、野宿状態の解消を図ることです。

 「大阪市野宿生活者支援センター」の場合は、「寝場所対策」として、先ず生活ケアセンター、生活ケアセンターに空きがない場合、簡易宿泊所の活用(ドヤ券)が考えられます。「食の確保」は、生活ケアセンター以外で宿泊する場合は、「食券」の活用、給食センターを設置しての配食が考えられます。「職の提供」は、当面、雇用創出事業への登録・就労が考えられます。

 あらたに付け加えられる対策として、野宿生活が長期化している結果、十分な収入は確保できないが、公園や道路を居住・作業場として利用し、廃品回収をおこなっている野宿生活者が、「職の提供」に応じることを心良しとしない場合の対策があります。「職の提供」で考えられている「資源回収・分別」作業の活用と重なる面はありますが、「自営・自立」の気概を保ち続けたいという本人の意思は尊重されるべきです。公園・道路以外の場所に共同の作業場と付属の寮が設置され、生活費の不足は生活保護法により扶助することが、考えられます。業者の買い上げ値段に補助金を上乗せすることによって、収入を引き上げる方法も考えられます。

 巡回野宿生活者医療・福祉相談によるパイプから、あらたに考えられるべき「対策」が汲み上げられることが期待されます。

 もちろん、「対策」の原則的目標は「野宿生活者の就労確保による経済的自立」ですが、就労が総てというわけではありません。相談受付から10日間の間に、相談者の話をよく聞き、相談者(野宿生活者)の年齢・体力・その時の気力・希望などにより、相談者が得心した上で、生活保護法による居宅保護・施設保護・医療保護(入院・通院)の適用も考慮されなければなりません

野宿生活者支援センターと縁が切れる生活者づくり

 野宿生活者支援センターの居住と職の提供は、一時的なものにとどまります。多分、大阪では、紹介する職から得られる収入も、世間並みとはいかないでしょう。住居も自分で自由に選ぶというわけにはいかないでしょう。職業能力開発支援事業やグループ作り・小規模事業の育成・生活相談事業などアフターケアーをおこなうことによって、野宿生活者支援センターと縁が切れる生活者づくりが、最終目的とされるべきだと思います。

 農耕文化研究振興会代表渡部忠世さんが、(1999年4月22日毎日新聞夕刊・大阪)「提言21ーどうする関西・農業の明日」(1999年4月22日毎日新聞夕刊・大阪)で提言された、「中山間地域で林業や農業をやる人を地方公務員並みの待遇にするぐらいの思い切った政策」は、地方公務員並みとまではいかないが、生活保護法と組み合わせて現状でも実現可能と考えられ、野宿生活者の将来の職業・居住の選択の幅を拡げるものとして考えられてもいいかも知れません。

◆経済効率万能で進んできた農業を見直そうということ。20世紀の農業は有史以来、最も生産効率が進みました。反面、合理性だけを追求した結果、農業が自然から遊離したのも事実。その反省から農業をもう一度、自然に近いところに返してやる必要がある。そういう農業が、人々の心に潤いと社会や家庭に和らぎを与えるに違いありません。

 関西には営農に不利とされる中山間地域(平野でない標高の高い地域)が5割ある。でも見方を変えれば、ゆとりある農業をできる地域がそれだけ残っていることになる。新しいゆとりある農業を構築していくために、これらをどう使うかが、多面的な価値観を発展させる方策になると思う。

 ただ、一番の問題は中山間地域の農業の担い手です。とっぴに聞こえるかもしれないが、中山間地域で林業や農業をやる人を地方公務員並みの待遇にするぐらいの思い切った政策が必要でしょう。日本の国土や環境の保全を考えれば、わずかな補助金を出し万事終わりというほど、安易な問題ではありませんよ。「文化としての農業」を発信する必要があります。

野宿状態への手前で

 また、野宿生活者支援センターは、野宿を余儀なくされる以前の段階での「予防」についても、役割を担うべきだと考えます。

 釜ヶ崎に高齢単身者(60歳以上)が多いことは先に紹介しました(13頁)。来年4月から「介護保険法」が施行されますが、住所はともかく、医療保険加入が被保険者資格の必要条件であること、給付年限が65歳であることなどから、釜ヶ崎では有効なもの足り得ないことになりそうです。釜ヶ崎労働者の加入する医療保険は、日雇健康保険(国民健康保険特別被保険者)か国民保険です。日雇健康保険は雇用保険と同様に月平均13日働いていることによって資格が維持されます。働けなくなったとき、健康保険の資格もなくなります。当然、介護保健法の被保険者でもなくなります。健康保険に未加入の人も多くいます。これらを勘案して、弾力的な介護保険法の適用、給付の運用をさぐることも、「予防」の一環となるでしょう。

 お役所のにおいの比較的薄い相談窓口として地域に根ざした隣保施設を活用し、野宿生活者からの相談を受けると共に、野宿にいたる以前の生活相談を受け付けるということも考えらてよいことだと思います。

要望の理解と、実現に向けてのご協力を

 野宿生活者の置かれている状況は厳しいものがあり、私たちの力は、その抱える問題を解決するにはあまりにも非力です。それでも、できる限りの力を注ぎたいと考え、行動しています。

 冒頭で紹介した「大阪市政だより」が配布された同じ日、5月1日付の長居公園周辺地域団体広報紙「たなべ」も、野宿生活者対策について広報しています。

野宿生活者(ホームレス)問題/対策を求める声高まる

 区内・長居公園の中に野宿生活者(ホームレス一のテントが230以上張られており、さらに増える傾向にあるといわれています。野宿生活者が今日のように増えた原因は、経済不況による企業の倒産とかリストラによって仕事や住宅を失った人達が増えたことに因るといわれ、政府の緊急な対策が強く望まれています。

 野宿生活者は、公園とか高架下、空地などにテントを張って生活していますが、田辺地区でも3月時点の調査で8名が報告されており、桃ヵ池公園でもかなりの野宿者がいます。野宿者が増えることにより環境、衛生、犯罪、人権などの諸問題が発生しており、公園附近の住民からは危険で公園へ行けない、という苦情が多く出ています。

 同会や大阪市議会でも野宿者問題で論議されていますが、政府にしろ大阪市にしろ「手の施しようがない」といったところのようで簡単には解決できそうにありません。長居公園周辺の五つの連合町会では、このほど2万5千人の署名を添えて大阪市へ要望書を提出(別掲)しましたが、田辺連合町会でも三月度の町会長会議でこの問題を討議、解決へむけて地域が結束して努力していくことといたしました。(「たなべ」第71号 平成11年5月1日 編集・発行:東住吉区田辺連合町会・田辺社会福祉協議会)

 長居公園周辺の環境を守る会と関係5連合町会連名で磯村市長へ提出された要望書は、つぎのように要望しています。

 最近の新聞によりますと、全国的な広がりとの記事も出ており、根本的な施策は国並びに府・市が各々責任をもって対応すべきであると考えておりますが、私達地域住民は施設管理者である大阪市として緊急対策を打ち出していただき、安心して公園を利用できるよう別紙の通り地域住民の署名を添付し要望いたしますので、なにとぞ迅速なる対応を切にお願い致します。

 要望活動は2つの側面を持っていると考えられます。

 一つの側面は、野宿生活者を、何をするか分からない存在ととらえ、地域の安全を確保するために、言葉として明確には書かれていませんが、暗に、早く追い払ってくれ、という差別的側面です。要望書は、このことを言うために多くのスペースと言葉を費やしています。

 今ひとつの側面は、「根本的な施策は国並びに府・市が各々責任をもって対応すべきであると考えております」と、追い立て以外の野宿生活者対策の必要を肯定している、良識的側面です。しかし、付け足し的であることは否めません。

 私たちは、公園を快適に利用したいという人たちの要望や行政への申し入れの行動を理解することができます。長居公園周辺の環境を守る会と関係5連合町会で集められた署名は、私たちの行政に対する要求を後押しするものでもあると考えます。なぜなら、追い立てによっては野宿生活者問題は解決しないことがあまりにも明らかなことだからです。

 しかし、問題を残しています。野宿生活者を差別視した部分を掲げての要求活動は、野宿生活者に対する差別を振りまいたことになります。

 要望活動が実り、長居公園から野宿生活者がいなくなれば、差別意識を各自の中に植え付けたに留まります。ーそれ自体大きな問題ですが、もっと直接的な問題が起こりますー。現実的には、野宿生活者への本格的な対策が開始されない限り、野宿生活者が長居公園からいなくなることはありません。

 残るのは、差別意識と、報われない被害者意識です。そこから、より激しい言辞による野宿生活者排除の煽動、そして、物理的排除を目指す襲撃事件、野宿生活者が傷つけられ殺される事件へとエスカレートしていきます。

 「大人」は、そんなことはないと否定しますが、少年・少女達が実行します。これまで起きた野宿生活者への襲撃事件の数々が、単なる憶測ではないことを裏付けています。

 長居公園周辺の環境を守る会と関係5連合町会の人たちは、自分たちの要求活動を続けると同時に、マイナス面の是正も図るべきだと考えます。長居公園の野宿生活者と話し合い、お互いに折り合えるところでの「ルール」をつくることで、当面の解決がさぐられるべきだと考えます。話し合う対象と認識すること、実際に話し合うことで、「恐怖心」は半減するでしょう。野宿生活者と野宿生活者が公園からいなくなるようにするにはどういう条件が必要かを話し合い、野宿生活者と共に行政へ具体的に要求することが、問題をこじらせないで解決に導く道筋であると信じます。

 もっとも責任のあるのは、大阪市です。大阪市は私たちが提起している野宿者対策の具体的内容を実行し、こうした市民同士の反目と差別状況の解消に努めるべきです。今すぐ抜本的に解決できないのであれば、野宿生活者と公園利用者・周辺住民との間に立ち、話し合いの場を設け、「ルール」づくりに努めるべきです。「当事者任せ」は許されません。大阪市・行政がもっとも大きな責任を負うべき当事者なのですから。

 長居公園周辺で起きていることは、大阪中で、日本全国で起きています。「野宿生活者問題」の解決は、急務です。

 釜ヶ崎反失業連絡会がおこなう行政(大阪市・府・国)への要求内容をご理解いただき、実現に向けてのお力添えをお願いいたします。

 この小冊子は、不十分だったかも知れませんが、精一杯お伝えする努力をしたつもりです。足らざる処は補って判読いただき、ご理解と今後とものご協力をお願い申し上げます。

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