「ホームレス対策」予算確保を目指して

 

 

(1)「ホームレス対策予算確保に関する請願」の提出経過
 

 12月3日、161会臨時国会が閉会した。この国会には、釜ヶ崎支援機構・新宿ホームレス支援機構・北九州ホームレス支援機構の3者が多くの人に協力を呼びかけて、「ホームレス対策予算確保に関する請願」を提出していた。

 請願事項は簡単明瞭、『1年間200億円を見込み、その5年間分の1000億円を、「ホームレス自立支援基金(交付金)」として予算措置されたい。』というものであった。

 衆議院に提出された署名数は32,825名、請願提出にあたって紹介の労をとって頂いた衆議院議員は、民主党26人・共産党9人の計35人。参議院は、民主党8人・共産党9人・社民党1人の計18人であった。

 請願の趣旨を改めて以下に紹介する。
 

 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」が、2002(平成14)年8月7日に公布されて2年が経過しています。この間、国の「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」が策定され(平成15年7月)、大阪府・大阪市をはじめ幾つかの自治体で、「実施計画」が策定されています。しかしながら、平成15年に実施された「ホームレスの実態に関する全国調査」で、全都道府県において野宿生活者が確認されているにもかかわらず、「実施計画」の策定は全国的な拡がりを見せていません。

 法は、10年間の時限立法であり、このままでは立法の目的を達することなく法の効力を失う日を迎えることとなりかねません。

 法第10条では、「国は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を推進するため、その区域内にホームレスが多数存在する地方公共団体及びホームレスの自立支援等を行う民間団体を支援するための財政上の措置その他必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と定められています。

 定められた時限内に法の目的を達成するため、また、地方公共団体の対策意欲を喚起するためには、現状の限られた事業に対する補助金制度ではなく、基金を設け、交付金による事業実施に切り替えるべきであると考えます。

 

(2)対策予算は付いているという意見に対して
 

 請願を出すにあたっては、衆参両院全議員に対して、紹介議員となっていただくお願いをしたが、応諾頂いた以外はおおむね無回答であったが、意見は異なるとはいえ、考えを伝えて下さった議員も存在した。

 一人は沖縄4区選出(自民党)西銘 恒三郎衆議院議員。

「 今回、残念ながら政策の違いのため紹介議員になることが難しいです。理由を別紙に記入いたしましたのでよろしくお願いいたします。/自民党政務調査会に確認し検討しましたところ、紹介議員となることはできません。/厚生労働省のホームレス対策については、厳しい財政状況の中、総額30億円(平成16年度予算)の予算措置を講じ、国と地方自治体の連携協力のもとに取り組んでいるところです。/請願にあるように、新たに100%国負担で総額1000億円の基金を設け実施することは、国と地方自治体の連携や地域の実情に応じた施策の推進といったホームレス自立支援法の趣旨や現下の財政状況を考えると上記の回答となります。」

 今一人は、全国比例区選出(公明党)荒木 清寛参議院議員。

(「5。その他」を選んだ理由について)

・平成16年度ホームレス対策予算は30億1,800万円となっており、前年度の27億300万円と比較しますと、3億1,500万円(11.7%)の増となりました。こ、れは厳しい財政状況の下、一般歳出の増が0。1%、厚生労働省予算の増が4.2%にとどまったことと比較しますと大幅な伸ぴとなったと言えると思います。/また、社会保障分野を含めた各分野で新規事業の抑制が行われている中で、ホームレス対策については、「ホームレス就業開拓推進員の配置」「ホームレス衛生改善事業」及ぴ「ホームレス保健サービス支援事業」が新たに開始されるなど、事業の改善・拡大が図られていると言えると思います。/・ホームレスの方に対する生活保護、職業訓練等の施策については、「ホームレス対策予算」以外にも一般的施策の一環として行われている部分があります。この部分は「ホームレス対策予算」には含まれないため、実際上のホームレス対策予算は30億1,800万円にとどまっているものではありません。/・平成17年予算については、各地方公共団体がホームレスの自立支援施策が着実に推進できる財政措置の確保を目指して参ります。」

 両者の意見は、ニュアンスが若干異なるものの、現在でも予算確保がなされているとされている点で共通している。その点を含め、西銘議員の意見に即して反論を加えてみたい。

 西銘恒三郎議員の回答は、「請願にあるように、新たに100%国負担で総額1000億円の基金を設け実施することは、国と地方自治体の連携や地域の実情に応じた施策の推進といったホームレス自立支援法の趣旨や現下の財政状況を考えると、紹介議員となることは難しい。」というものであった。

 「100%国負担で実施することは、地域の実情に応じた施策の推進といったホームレス自立支援法の趣旨」にそぐわないと読み取れるが、緊急地域雇用特別交付金をめぐる議論では、以下のような国会答弁があり、100%国負担だから地域の実情に応じた施策の推進はできないということはないと判断することが妥当だと考えられる。
 

参考:第145回国会 本会議 第45号 平成11年7月13日(火曜日)会議録

○内閣総理大臣(小渕恵三君) 緊急地域雇用特別交付金でありますが、本交付金による事業につきましては、御懸念のような問題が生ずることのないよう、都道府県の申請に基づき地域の実情に応じた事業を行う

○国務大臣(野田毅君) 緊急地域雇用特別交付金に関するお尋ねでありますが、本交付金は、地域の実情に応じて地方公共団体がみずからの創意工夫に基づいて事業を実施できることといたします
 

 また、「100%国負担で実施することは、国と地方自治体の連携による施策の推進といったホームレス自立支援法の趣旨」にそぐわないと読み取れる。

確かに、ホームレス自立支援法第13条には「国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を実施するに当たっては、相互の緊密な連携の確保に努めるものとする。」と書かれているが、対策費用の分担が、連携の確保の絶対必要条件である訳ではないと考えらる。

同法で財政について触れられているのは、第10条で、「国は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を推進するため、その区域内にホームレスが多数存在する地方公共団体及びホームレスの自立支援等を行う民間団体を支援するための財政上の措置その他必要な措置を講ずるように努めなければならない。」とされている。現状でも30億円確保して、充分に財政上の措置に努めているということもできるが、全国の野宿生活者の状況からすれば、さらに努めることが必要と判断されるべきであるということもできる。

 最後に、「現下の財政状況」が取り上げられている。しかし、困難な財政状況の中で、必要な施策に必要な財源を確保するのが「政治」であると信じる。辻 恵議員(民主党)が、決算行政監視委員会第3分科会(2004−平成16−年5月17日)で、雇用創出基金が今年度限りのものであり、その後の対策について質問されました。それに対し、坂口厚生労働大臣は、「基金の性格から、同様のものを継続することはできないが、地域の失業率や若年層、あるいは女性、ホームレスといった点に着目したものとしては必要ではないかと考えている」と答弁されているのである。

 

(3)自民党地方議員団の動き
 

 自民党の国会レベルとは別に、地方レベルでは、予算規模が不充分と考えられており、東京都ホームレス議員連盟(東京都議会、区議会)/ザ・ホームレス・フォーラム(大阪府議会)/自民ホームレス問題研究会(大阪市会)三者が、大阪の状況を視察し、国への要望をとりまとめている。第3項を除いて、国政レベルへの反映が期待される。
 

参考:ホームレスの自立支援等に関する国家要望(案)   平成16年8月24日

1 ホームレス等の就業機会の確保に関すること

(1)ホームレスの就労による自立に関すること

○雇用政策の根幹を担う国においては、厳しい雇用情勢に対応した公的機関による雇用就労機会の創出策をはじめとして、就労による自立が可能となる実効性のある就労支援策を講じられたい。

○河川、道路など国所管の公共施設の維持・管理業務にホームレスの就労支援策を組み込まれたい。

(2)ホームレスとならないための予防に関すること

○ホームレスの相当数が山谷・あいりん等の寄せ場での就労経験を有しており、ホームレス対策を進めるためには、こうした「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域」を中心として就業の機会の確保、生活上の支援が極めて重要である。国においては、ホームレス化の防止の観点から特別の財政措置等の支援を講じられたい。

○また、山谷・あいりん地域等の寄せ場を就労拠点としている高齢日雇労働者に対し、特別就労事業の創設や雇用保険受給要件の緩和等の措置を講じられたい。

2 ホームレスの生活保護に関すること

○高齢や傷病等により就労自立することが難しく、他法他施策でも対応困難なホームレスに対しては、生活保護を適用してきている。しかし、ホームレスが全国から大都市に流れ込んでくる中、ホームレスが多く存在する大都市にとって、生活保護費の負担が過重なものとなっており、こうした財政負担を一手に大都市が負うことは不合理である。ついては、財政負担の新たなルールを創設するなど、ホームレスへの生活保護費の負担が大都市に大きく偏ることのないよう、国が特別の財政措置を講じられたい。

○現在、国は、三位一体改革の中で、生活保護費国庫負担金の負担割合の引き下げを提案しているが、地方の自主性・自立につながるものではなく、大都市の財政に甚大な影響が及ぶ。そもそも生活保護制度は、憲法の理念に基づき、国が責任をもって最低生活を保障し、自立を助長する制度であることから、その経費も本来は、国が全額負担するべき性格のものである。したがって、国庫負担金については、少なくとも現在の負担割合を変更することなく堅持されたい。

3 公園や道路、河川敷等、公共施設の適正管理に関すること

○ホームレスの自立支援策の充実にともない、ホームレスが占有した公園や道路、河川敷等を、その本来の目的にために再生整備し、地域住民の快適な利用に供することが重要な課題である。また、再びホームレスが当該施設を占有しないよう管理の強化など適切な措置が必要である。地方自治体が、公園や道路、河川敷等の再生整備等に取り組むため、特別の財政措置等の支援を講じられたい。それとともに、実効性のある適正管理ができるよう関係法令の整備を図られたい。

4 無料低額宿泊所に関すること

○無料低額宿泊所は、「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」において、ホームレス等生活困窮者の居宅生活移行を支援する場として位置づけられた。しかし、地域によっては宿泊所の開設の際、事業者が近隣住民の十分な理解が得られないまま届出を行おうとする事例もある。このため、悪質な事業者については、開設にあたって実効性のある規制を強化するなど、必要な方策を講じられたい。

 

(4)民主党の緊急申し入れ
 

 臨時国会では、請願は残念ながら採択されず、審査未了となってしまった。その事態を受けて、国会閉会日に民主党は、以下のような緊急申し入れを行っている。
 

厚生労働大臣尾辻秀久殿

国土交通大臣北側一雄殿

 

ホームレス自立支援に向けた緊急申し入れ

    民主党ネクスト厚生労働大臣 横路幸弘

    民主党ネクスト国土交通大臣 菅直人

    民主党ホームレス自立支援プロジェクトチーム

                   座長 山本孝史

 ホームレス自立支援法が制定されて3年が経った。この間、シェルター運営の強化や自立支援のための制度的枠組みが創設されてきたが、長引く不況のもとで、肝心の雇用創出や社会的就労の方策が遅々として進まず、結果とLて全国2万6千人を超えるホームレスの現状が好転しているとは雷いがたい。

 また、緊急雇用対策基金による雇用創出事業が、ホームレス就労支援事業にも一定の役割を果してきたが、これも平成16年度で打ち切りとなっており、今後の事態は必ずしも楽観できるものではない。

 従って、ホームレスの雇用対策を中心に、下記のとおり緊急の申し入れを行うものである。関係省庁にあっては、格段の配慮を行い、しかるべき対策を講じられるよう強く求めるものである。

(1)ホームレスの自立就労を対象として、交付金等による緊急雇用対策を継続されたい。

(2)来年度より「地域提案型雇用促進事業」が創設される予定であるが同事業の運用にあたっては、ホームレスの自立支援対策としても活用可能なように、弾力的な採択を行われたい。

(3)各省庁は、ホームレス自立支援法の精神にのっとり、当分の間、公務労働や委託事業、または関係外郭団体の委託事業等から、ホームレスの就労事業への割当てを行う等の措置を行われたい。

 

 地方自治の確立を目指しての「三位一体の改革」がいわれているが、財政立て直し論議ばかりが先行し、限られた税収のぶんどり合戦の様相を呈している。

 厚生労働省のホームレス対策予算は地方自治体の対策事業に対する補助金が多い。この補助金が廃止となり、交付金の中に、あるいは税源移譲額の中に含まれたとき、受け取った地方自治体では、これまで通りの配分がなされるであろうか。また、補助金という動機付けがなくなったとき、新規に対策に取り組む地方自治体が、どれほど現れるであろうか。

 この考えは、省庁の利権確保と同様のものであり、地方自治を否定するものであるといわれるかも知れないが、遅々として進まない各地方レベルでの対策状況を考えるとき、あながち杞憂ばかりとはいえないのではあるまいか。

 また、生活保護補助率飲み直しに見られるように、国が責任を持つべきことがらまで、財政問題で地方に転換しようという傾向もみられる。

 野宿生活者問題の基本は雇用問題であり、国が責任を持つ事柄である。たとえ地方地方で地方の実情にあった雇用対策を行うのが望ましいにしても、その対策が過去の負債を負って出発したのでは、その処理に追われるばかりで、新たな地域の活性化に結びつく雇用対策に取り組むことができなくなるのは明かであろう。現在の失業対策についての対策については、国が予算上の責任を持ち、地方に財政上のしわ寄せをしない事が必要である。

 

 臨時国会では成果を上げ得なかったが、来年1月国会では補正予算が組まれることも予定されているようであるので、再度、署名活動に取り組み、請願の再提出を行い、対策予算確保を実現したいと考えている。

 末尾ながら、今回紹介議員となって頂いた諸先生の名簿を掲げ、謝意としたい。そして次回提出についても協力と、請願内容の実現に向けてご助力をお願い。

 

衆議院議員      阿久津 幸彦    民主党・無所属  東京比例

衆議院議員      井上 和雄      民主党・無所属  東京比例

衆議院議員      稲見 哲男      民主党・無所属  近畿比例

衆議院議員      吉田 泉        民主党・無所属  東北比例

衆議院議員      橋本 清仁      民主党・無所属  東北比例

衆議院議員      近藤 昭一      民主党・無所属  愛知03区

衆議院議員      金田 誠一      民主党・無所属  北海道08区

衆議院議員      古川 元久      民主党・無所属  愛知02区

衆議院議員      佐藤 謙一郎    民主党・無所属  南関東比例

衆議院議員      三日月 大造    民主党・無所属  滋賀03区

衆議院議員      山井 和則      民主党・無所属  京都06区

衆議院議員      小宮山 泰子    民主党・無所属  埼玉07区

衆議院議員      小林 千代美    民主党・無所属  北海道比例

衆議院議員      松野 信夫      民主党・無所属  九州比例

衆議院議員      石毛 ^子      民主党・無所属  東京比例

衆議院議員      泉 健太        民主党・無所属  京都03区

衆議院議員      大谷 信盛      民主党・無所属  大阪09区

衆議院議員      池田 元久      民主党・無所属  南関東比例

衆議院議員      中川 治        民主党・無所属  近畿比例

衆議院議員      中村 哲治      民主党・無所属  奈良02区

衆議院議員      津川 祥吾      民主党・無所属  東海比例

衆議院議員      辻 恵  民主党・無所属  近畿比例

衆議院議員      田中 慶秋      民主党・無所属  神奈川05区

衆議院議員      藤村 修        民主党・無所属  大阪07区

衆議院議員      藤田 一枝      民主党・無所属  福岡03区

衆議院議員      北橋 健治      民主党・無所属  福岡09区

衆議院議員      塩川 鉄也      日本共産党      北関東比例

衆議院議員      高橋 千鶴子    日本共産党      東北比例

衆議院議員      穀田 恵二      日本共産党      近畿比例

衆議院議員      佐々木 憲昭    日本共産党      東海比例

衆議院議員      志位 和夫      日本共産党      南関東比例

衆議院議員      石井 郁子      日本共産党      近畿比例

衆議院議員      山口 富男      日本共産党      東京比例

衆議院議員      吉井 英勝      日本共産党      近畿比例

衆議院議員      赤嶺 政賢      日本共産党      九州比例

参議院議員      円 より子      民主党・新緑風会        比例

参議院議員      郡司 彰        民主党・新緑風会        茨城

参議院議員      今泉 昭        民主党・新緑風会        千葉

参議院議員      山本 孝史      民主党・新緑風会        大阪

参議院議員      松岡 徹        民主党・新緑風会        比例

参議院議員      朝日 俊弘      民主党・新緑風会        比例

参議院議員      津田 弥太郎    民主党・新緑風会        比例

参議院議員      福山 哲郎      民主党・新緑風会        京都

参議院議員      井上 哲士      日本共産党      比例

参議院議員      紙 智子        日本共産党      比例

参議院議員      小池 晃        日本共産党      比例

参議院議員      吉川 春子      日本共産党      比例

参議院議員      小林 美恵子    日本共産党      比例

参議院議員      仁比 聡平      日本共産党      比例

参議院議員      緒方 靖夫      日本共産党      東京

参議院議員      市田 忠義      日本共産党      比例

参議院議員      大門 実紀史    日本共産党      比例

参議院議員      福島 瑞穂      社会民主党・護憲連合    比例