野宿生活者と居住


野宿生活者の居住環境

 

 多くの野宿生活者は、現在の日本の中で、「居住空間」という言葉で多くの人が思い起こす状態とは、随分と異なる居住環境の中で生活しています。

 勿論、例外はあります。大阪の河川敷や公園の中などでは、板囲いでしっかりした外壁を持ち、畳を敷き詰め、ベッド・テレビがあるという仮小屋が存在しています。水は、近くの公衆トイレからのもらい水です。

 2003年1〜2月に、「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき実施された全国調査(概数調査と聞き取り調査)では、全国すべての都道府県でホームレスが確認され、その総数は25,296人であったと発表されています。生活している場所別では、都市公園が 40.8%、河川が23.3%、道路が 17.2%、駅舎が 5.0%、その他施設が 13.7%。

 全国で2,163人を対象とした聞き取り調査では、場所だけではなく、寝場所の形態についての項目がありました。

 それによると、一番多いのが「廃材や段ボール、ブルーシートによるテントまたは小屋を常設」で、51.3%。次いで、「段ボール等を利用して寝場所をつくっている」が21.8%となっています。

 それ以外の人は、囲いをせず、「簡単に敷物(寝袋・毛布等)を敷いて寝ている」人が11.7%。「寝場所は特につくらない人」が4.2%です。

 ちなみに、野宿が主となっての期間では、1年未満が30.4%、1年以上3年未満が25.5%、3年以上が43.5%でした。

 全国調査は今のところ1回しか行われていませんから、比較する資料がありませんが、19988月におこなわれた大阪市内の概数調査では、8,660人が確認され、「テント・仮小屋・段ボールハウス等」が33%、「敷物・ベンチ」が50.3%、「なにもなし」が10.1%でした。

 全国調査と比較して、「敷物・ベンチ」の割合が非常に多く存在していたことになります。この特徴が、日本一野宿生活者の密集度の高い大阪の特殊性によるものなのか、調査方法の違いによるものなのか、調査年次の違いによるものなのかは、定かではありません。

 1999年8〜9月に大阪市内で実施された「定着型」を中心とした聞き取り調査(回答数=672人)によれば、聞き取り時点で「テント・小屋掛け有り」は、79.2%でした。しかし、現在の野宿場所と最初の野宿場所が異なる371人に、最初の野宿形態を聞いたところ、70.7%が「テント・小屋掛け無し」でした。

 野宿生活の繰り返しと長期化により、「非テント=非定着」から「テント=定着」へと移行していくことがこの数字から読み取れると思います。

 

安定志向は誰にでも

 

 大阪西成区には、「あいりん緊急臨時夜間避難所」があります。利用資格は、夕方、列に並んで整理券を手に入ることだけで、二段ベッドの一つを、無料で一晩利用できることになっています。長期間の利用券はありません。

 この夜間宿所は、2000年4月に開所したものですが、開所当時は、整理券を手にした利用者が、配布場所から夜間宿所まで走るということがありました。整理券を手にし、すでにベッドを確保したのだから、走っていく理由はないはず、なぜ走るのか。不思議に思って聞いてみると、なるほど、と得心できる回答でした。「昨日泊まったベッドを、今日も確保するために急いでるンや」。

 多くの人は、毎晩寝る場所は定まっています。布団を敷く場所も、マクラの方向も一定だと思います。毎日変える人は、極めて珍しい部類にはいると思います。

 定まった寝場所を持たない野宿生活者は、元々、多くの人と同様に定まった寝方をしていたのです。その定まった寝方をする場所を失った結果、毎日変則的な寝方をせざるを得なくなっているのです。機会があれば、定まった寝方を再獲得しようとします。

 世間の位置づけが緊急、臨時の一晩限りの夜間宿所であろうとも、利用する野宿生活者にとっては、毎日の寝場所であり、安定した寝方を確保する場所と映るので、自分の場所確保に走るのです。

 野宿の期間が長期化する都思い定めたとき、野宿生活者は、テントを張り、仮小屋を建てます。勿論、寝場所、寝方の安定だけが理由ではありません。廃食材を利用するための調理場、荷物保管場所等、一定の生活空間を必要とする理由は沢山あります。

 

次次善の選択は問題を解決しない

 

 アパートや簡易宿泊所などに泊まれなくなって野宿となり、次次善の策として仮小屋・テント生活となるのですが、場所は、公園や歩道上、河川敷、いわゆる公共空間なので、常に追い立ての圧迫があります。時に、石を投げられ、ロケット花火をいかけられるという襲撃にあうこともあります。暑さ、寒さ、湿気、虫の問題もあります。

 食料の調達がうまくいかず、あるいは病を得て、テントの中で亡くなる人も少なからず存在します。

 人が安心して、健康に生活するには、あまりにも劣悪な居住環境といえます。

 最大の問題は、生活を切り替えにくい状況に留まり続けることです。

 公園の中や歩道上でも、郵便は届きます。しかし、住民票を設定して、国民保険に加入したり、年金の受給手続きをして利することは出来ません。就職する際の住所として、就職先に知らせるのにも向いていません。行政サービスからは、排除された状態に留まり続けます。

 生活保護法の保護(生計費扶助)を受けようとしても、行政がテント・仮小屋を居所と認めないので、受けることが出来ません。

居所のない人からの相談については、居所確保に必要な経費(敷金など)を支給してもいいことになっているのですが、全国的にそのような取り扱いがなされているわけではありません。また、保証人のいらない入居物件を探すことの困難もあります。

野宿生活者の居住・定住問題は、定住された公園や道路等の周辺住民にとっては、迷惑でどう追い立てるかの問題になりがちです。

周辺住民同様に、野宿生活者自身にとっても、野宿の継続は最善の選択では有りません。共に野宿をなくそうということでは、一致しているはずなのです。それが、多くの場合利害の対立という構造となるのは、社会のシステムがゆがんでいるからだと思います。

単なる追い立てでなく、仕事をつくり、収入の道を提示する、あるいは、生活保護の適用を促進するなどの対案を提示して問題解決すべきではないでしょうか。