(9)「依頼有りグループ」の要望と結果

 これまで、相談記録の全体と依頼や結果等にグループ分けし、それぞれの特色を、年齢や要望を軸にして検討してきた。

そして、巡回相談が、自立支援センター適格者を中心にした事業であること、その性格に、野宿生活者の少なからずの人々が、期待を抱いていないのではないかということなどを指摘した。

 さらに、「結果」の具体事例を追いながら、とりあえず「依頼有りグループ」について検討を進めていくことにする。

重回相談室への依頼元は、表9-1依頼元第一次整理に見られるように、様々である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのままでは細分化しすぎることになるので、依頼元を、大雑把に、「保健福祉センター」「大阪市立更生相談所」「行政機関」「公園事務所」「建設局公営所」「民間団体・病院等」の6つに別けることにする。

 「保健福祉センター(支援運営課)=旧福祉事務所」と「大阪市立更生相談所」は、生活保護法による「措置」を決定し、運用する行政窓口である。また、自立支援センター入所希望者が、巡回相談員への連絡を依頼する窓口ともなっている。

 「行政機関」は、ハローワークや大阪市の行政組織、人権文化センターなどと外郭団体である「みおつくし福祉会」が運営する各施設をまとめた。窓口を訪れた野宿生活者に対処できる手立てに困惑して巡回相談員へつなぐということが考えられる。

「公園事務所」「建設局工営所」は、公園や道路を管理するところであり、管理する道路や公園を野宿場所としている野宿生活者にある程度の声掛をして、巡回相談員へ連絡していると考えられる。

 「民間団体」は、釜ヶ崎地区内外で野宿生活者の支援活動をおこなっている団体や市民からの通報、病院からの連絡などをまとめた。

 依頼元の中では、「保健福祉センター」の占める割合が、最も多く(33.7%)、「民間団体・病院等」は7.2%にすぎない(表9-2・図9-1)。

 

 

 

 

 

 

 

 

表9-2 依頼元区分

 

 

 

 

 

 

 

 

図9-1 依頼元区分

 

 

 

 

 

「依頼有りグループ」は、行政機関との関わりが強いといえる。特に、生活保護法の措置権を持つ2つの機関で52.8%を占めていることは注目に値する。

 依頼元別の年齢構成を見ると(図9-2)、建設局工営所が60歳以上の占める割合の高いこと、ついで公園も高いことが注目される。60歳以上の割合が最も少ないのが、大阪市立更生相談所で、70歳以上はない。

 保健福祉センターと民間団体、行政機関の3つは、年齢構成が似通っており、全体の年齢構成とも近い。

保健福祉センターは生活保護上の措置権を持つ立派な福祉窓口であるにもかかわらず、大阪市立更生相談所の年齢構成に近いのではなく、民間団体や他の行政機関に近い年齢構成となっているのは、やや疑問を感じる。70歳以上も含まれていることからしてもなおさら、そう感じざるを得ない。ここには、「割り切り」が感じられる。住居を持たないものは、保健福祉センターで先ず話を聞いて振り分けるのではなく、話を聞くことなく、すべて巡回相談に回すというような。

 確かに、生活保護法は他法他施策優先ではあるが、住居がないだけで、ふたたび保健福祉センター窓口に相談が戻ってくることが明らかな事例まで、巡回相談に回すことがあってはならないであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図9-2 依頼元別年令区分

 

 依頼元の占める割合を年度ごとに見ると(図9-3)、公園事務所や建設局工営所の占める割合の減少がまず目にとまる。公園・道路のテント等は、2000年の3,816を最高に、2005年の1,577まで減少しており、より強固な定着層のみが残っているので、依頼が減ったと考えられなくもないが、断定はできない。巡回相談員が、公園・道路の固定層をこまめにまわっており、わざわざ公園事務所や工営所が依頼しなくても良い状況になっているとも考えられるからである。

 大阪市立更生相談所の依頼数は、2004年の多少の減少を除くと、増加し続けているといえる。日雇い労働を見切った労働者の中で、自立支援センター入所の動きが定着したと見ることもできる。「ホームレス対策」と「あいりん対策」の垣根が低くなっていることの証の一つと見えなくもない現象であるといえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図9-3 依頼元年度別

 

 依頼元ごとに本人要望を見ると(図9-4)、大阪市立更生相談所は、ほぼ自立支援センターに限られている。要望無しもきわめて少ない。巡回相談に依頼すべきものが、よく把握されているといえるかもしれない。また、更正施設を含め、野宿生活者の要望に対応できる事業が歴史的に他の機関よりも多く蓄積されている結果によるものかもしれない。

  保健福祉センターも、自立支援センター入所が多いが、民間団体ほどではない。福祉施設入所や、生活保護・医療の要望も含まれている。福祉施設入所は、民間団体よりも多い。

 この原因は、戦後混乱期を過ぎ、世の中が落ち着くに従って、福祉事務所の守備範囲が狭く限定されて運用されてきたことによると考えられる。支援運営課の職員は、福祉施設入所の手続きなどしたことがない。確かに、条例施設は今年の8月まで、市更生相談所からしか入れなかったことは先にふれた。しかし、大阪自彊館は条例施設ではなく、全く手立てがないというわけではない。生活保護(居宅)に至っては、本来業務である。

▼図9-4 依頼元と要望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要望と結果の図9-5を見れば、保健福祉センターが巡回相談に回した、施設入所や医療・居宅保護の要望が、満たされているように見える。措置権を持たない巡回相談が、いかなる手立てで結果を出したのであろうか。措置権を持つ依頼元と相談してであるとしか考えようがない。では、なぜ、巡回相談を介さないといけないのか。

 野宿生活者の窓口対応は、受付面接担当職員でなく、役職が対応しているようである。そこに、機械的な巡回相談員への引き継ぎが生じる、原因があるのではなかろうか。

 相談に訪れた野宿生活者が、要望をうまく伝えられなかったのかもしれない。しかし、巡回相談員が把握できた要望を、専門家であるはずの福祉担当職員が把握できなかったということは、大きな問題であろう。

 建設や公園事務所の依頼は、「要望無し」が多く、ともかくよそにいって欲しくて巡回相談につないでいるかに見受けられる。

▼図9-5 依頼区分と要望・結果あり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要望と結果に結びついた残りが、要望はあったけれども、結果に結びつかなかったものとなる。図9-6がそれである。

 「要望無し」が、「結果無し」の原因となっているらしいことは、ここでも確認できる。また、自立支援センター入所要望者も、全てが入所しているわけではないことも確認できる。

 市更生相談所の場合、自立支援センターに特化している分、自立支援センターに繋がらなかった割合が突出している。一つ考えられることは、市更生相談所依頼の場合、他からの依頼よりも、入所にいたる日数が長いのではなかろうかということである。待機の間に気が変わる率も高くなる。また、日雇い労働の仕事の状況によっても影響を受けやすいと考えられる。

 施設入所や、医療・居宅保護なども、結果に結びついているものもあるが、結果に結びつかなかったものも、結構な割合で存在することが確認できる。

 ここまでは、「要望」と「結果」が、無前提に一致していると見なして検討してきたが、そうであるかどうかを検討してみる必要はあるであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図9-6 依頼区分と要望・結果なし