(5)巡回相談事業相談者の年齢構成

 

 巡回相談事業相談者の年ごとの年齢構成(10歳刻み)・平均年齢と1999年に大阪市立大が期都市問題研究会がおこなった聞き取り調査・2003年全国調査のそれぞれの年齢構成・平均年齢をまとめたものが、表5-1・図5-1である。

 

表5-1

年別年齢構成と平均年令

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図5-1

年齢構成

 

巡回相談についていえば、相談年ごとの平均年齢は、1999年の56.2歳から2006年の52.8歳へと若返りが見られる。「30-39」歳の増加、「60-69」歳の減少が見られ、平均年齢の若返りの要因を示している。

 ただ、この若返りが、大阪市内全体の野宿生活者の若返りを意味しているかどうかについては、検討を要する。

 巡回相談でなく、野宿生活者一般調査では、1999年の調査と2003年の全国調査があるが、1999年時点の年齢構成と、2003年全国調査の内大阪市分の年齢構成とは、50歳未満が全国調査時点のほうで微増しているが、ほぼ等しいといえる。

 この二つの調査の年齢構成と、相談事業の年齢構成を比べると、次のような違いがある。

 

1999年調査と1999年相談を比較すると、相談のほうが、「50-59」歳の占める割合が低く、その上下の年齢である50歳未満と60歳以上の占める割合が高くなっている。

 

2003年調査と2003年相談を比較すると、2003年相談は、60歳以上が少なく、それに相当する分50歳未満が多くなっている。

 

明らかに、巡回相談の対象となったものには、年齢的にかたよりが感じられる。野宿生活者全体の縮図とはなっていないようである。

 先に紹介した「相談事業計画書」に示されていた業務内容には、「自立支援センターへの入所依頼に関すること」と「高齢・病弱者等福祉的援護が必要と判断される野宿生活者の当該野宿生活地を所管区域とする保健福祉センター、医療関係機関はじめ各関係機関と連絡・相談・調整及び対応に関すること。」があげられていた。

出会う野宿生活者に任意に声かけし、相談の結果、就労自立可能と判断されて本人が希望するものについては、自立支援センターへ入所依頼し、福祉的援護が必要と判断されるものについては関係機関と連絡・相談・調整するのであれば、前記のかたよりは生じないと考えられるが、そうではないようである。

 繰り返しになるが、「大阪市野宿生活者(ホームレス)対策に関する懇談会」での配付資料によれば、巡回相談事業の内容は、以下の5点とされている。

(1)自立支援センターへの入所依頼

(2)福祉援護施策の周知、相談

(3)相談結果に基づく各関係機関への連絡等及び各施設(自立支援センター・病院等)への付き添い等

(4)帰郷を希望する者への家族・知人等への連絡・仲介等の支援

(5)求人・住居の情報提供、年金・健康保険の調査支援

 

 福祉援護についての説明が、福祉施策上の現場措置権者に対して、積極的に働きかける色合いが強かった「巡回相談事業計画」の文言から、一般的な「周知、相談」というあっさりした文言へと変わっている。

 相談対象は、結局、相談の効果が「自立支援センターへの入所」という即時性のある結果に結びつきやすい、就労自立の可能性が高い年齢層へと比重が傾くことになる。

 このように考えれば、年齢構成の変化が、得心いくものとなる。1999年だけが変則なのは、受け皿としての自立支援センターがまだ開所していない準備期間であり、入所候補となるより若い層、そして、成果は上がりにくいが心情的に手を出しやすい高齢者に相談の比率が偏ったと考えれば、これも、得心いく数字ということになる。

 巡回相談と野宿生活者の関わりを分類すると、右の4類型になる。C.D.については把握することができるが、A.B.については把握することができない。市内野宿者の数を2005年更正調査時の参考数値3,540人とすれば、把握率は5割ということになる。この把握された5割について、自立支援センター入所適格者というバイアスがかかっているとすれば、残りの5割は、自立支援センター入所「不適格者」が多く含まれている可能性が高いということも考えられる。

 把握された5割について、どの程度バイアスがかかっているかを検討するために、C.D.を区別して年齢構成を比較する。

 「依頼」は、巡回相談事業の内容を検討した章で提示した事業図2にあるように、行政窓口などから、当該窓口を訪れた野宿生活者について、巡回相談室に相談依頼があったもので、自立支援センター入所を希望する野宿生活者が多数を占めていると考えられる。「依頼無し」は、相談員が市内巡回中に出会った野宿生活者である。

表5-2 新規面接依頼の有無別 

 

 

 

 

「依頼無し」の割合は、全体としては61.3%であるが、初期の1999年、2000年の「依頼無し」の突出は立ち上がり時期(自立支援センターの開所は2000年末)で、窓口からの依頼が少なかったと了解できるが、2003年の落ち込みと、2004年の回復は、どう理解すべきであろうか。2003年は、自立支援センターの入所枠が一杯で、窓口からの依頼を控えるようお願いしたのであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲図5-2 依頼無しグループ  ▼図5-3 依頼有りグループ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年齢構成の帯グラフを、「依頼なし」と「依頼有り」で見比べてみると、1999年を除けば、違いは明確に読み取れる。50-59歳では大きく違わないが、その上下の占める割合がはっきりと違う。明らかに、「依頼有り」グループの方が、49歳以下の占める割合が、「依頼無し」グループよりもどの年においても大きい。

また、依頼なしグループのほうが、1999年聞き取り調査や全国調査の年齢構成に近く、野宿生活者全体の年齢構成の縮図となっていることも、読み取れる。

 

(6)ここまでのまとめと今後の検討方向

 

 これまで検討したことを、まとめると、次のようになると思われる。

(1)ホームレス自立支援課のホームレス対策は、保護課のあいりん対策とは別個に構想され、実施されていること。

(2)ホームレス対策と、生活保護の運用との連携は、考慮されていないこと。

(3)市内巡回相談は、以上2点に規定され、自立支援センター入所者の発掘・対応に重点が置かれ、福祉的援護を要するものへの対応が副次的なものとなっていること。

(4)(3)の傾向は、依頼相談によってより強化されていること(巡回相談への連絡を、行政窓口で申し出るものは、自立支援センター入所希望者が圧倒的多数であることから)。

(5)巡回相談は、多く見積もっても、市内野宿生活者の半数について関わりを持てているに過ぎないが、相談者グループの内、依頼なしグループのほうが、野宿生活者全体の縮図として検討加えるに適切であること。

 以上を、野宿生活者巡回相談が、野宿生活者の自立の支援に、どの程度有効に作用しているのか、あるいはしていないのか、有効に作用していないとすれば、原因はどこにあるのか、有効な側面をのばすにはどうすればいいのかを探る指針とする。

 今後の検討は、依頼グループと、依頼なしグループを対比させる形でおこなうこととする。

 検討の重点は、両グループにおいて、相談結果にどのような差があるかにおかれるが、その背景を探るために、野宿生活者の主体的条件、野宿期間・野宿形態・収入源なども比較検討の対象とする。

 なお相談者の中には、女性も含まれているが(442人・全相談者の内3.8%)、とりあえず、多くの場合は、性別を区別せず検討していく。