ホームレス問題連絡会議

 内閣官房内閣内政審議室長殿

 厚生省社会・援護局長殿

 労働省職業安定局長殿

 警察庁生活安全局長殿

 建設省大臣官房総務審議官殿

 自治省大臣官房総務審議官殿

釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会

(略称・釜ヶ崎反失業連絡会)

 

野宿を余儀なくされている労働者の経済的自立援助に関する要望(案)

1.要望の主旨

 余剰労働力の貯水池としての役割を担い、或いは担わせられ続けてきた日本最大の日雇労働者の街・釜ヶ崎(あいりん地区)は、直接的には、余剰労働力の受け入れ産業である建設・土木産業の不振で、未だ現役日雇として踏みとどまっている労働者も多数存在しているものの、路上・公園には野宿を余儀なくされている労働者があふれており、路上死も急増しています(西成署などによると、この一、二月、あいりん地区では二十一人が路上で死亡した。去年の同時期は八人だった。朝日新聞大阪(夕刊)1999.3.20.11面)。

 当会(釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会=略称・釜ヶ崎反失業連絡会)は、大阪市・大阪府と協議の上、野宿を余儀なくされている労働者のために日々千人規模の仮の宿泊場所(あいりん総合センター1階フロアーと大阪市提供の敷地を利用しての大テント)を運営し、同時に大阪市・大阪府と根本的な対策について交渉を続けていますが、「自治体の財政難・国の基本方針がない」などを理由に大阪市・大阪府が対策を先送りにする傾向が強くなっていることに危惧を感じています。

 野宿を余儀なくされている労働者の路上死に直面した状況からすれば、いかなる事情が有ろうとも対策の遅延は許されがたいことであり、生活保護法の有効な活用等によって当面の対応がなされるべきであると考えています。地方公共団体の責務を回避しようとする姿勢は認めがたいが、しかし一方で、国の責任と対応を求めることについては、当会としても必要なことと考えています。

 よって、下記事項を要望します。

 

2.要望事項

(1)大阪市に対し、今年度野宿生活者対策費として100億円を早急に交付されたい。

(2)野宿生活者支援法(案)の成立をはかられたい。

(3)ホームレス問題連絡会議に大蔵省・通産省を加えられたい。

 

3.要望事項説明

(1)大阪市に対し、今年度野宿生活者対策費として100億円を早急に交付されたい。

 関係自治体は、ホームレス問題連絡会議に対し、要約すれば「野宿生活者の増加・集中及び公共施設の不法占拠の増加並びに社会不安の増大にかんがみ(大阪市)、国民の最低限の生活保障は国の責務(新宿区)ーであるからー国の責任と役割を明確にし、その対応の基本方針を確立されたい(横浜市)。」との要望を提出しています。そして、長短期様々な要望項目をあげています。当会は、大阪市の要望項目の内、「3・当面以下の事項について特別の財政援助等必要な措置を講じられたい。」を支持し、下記内容をふまえて、大阪市に対し緊急に100億円の交付を求めるものです。

@緊急一時的措置としての「ドヤ券」「食券」の発行に対する国の助成。

 野宿生活者対策の本格実現までには日数がかかると思われるので、過渡的対策として「ドヤ券」「食券」を発行し、野宿生活者の野宿状態からの「救済」がはかられるべきである。6ヶ月以内に他の本格的な対策に移行し、廃止することを前提とする。

・試算

 {ドヤ代1,300円+(食券500円×2食)}×30日×8,000人×6ヶ月=33億1200万円

 間接事業費見込み 5000万円。合計33億6200万円

A大阪市が実施している「あいりん」生活道路清掃事業等の日雇労働者雇用創出事業への国の助成。

 大阪市が実施している日雇労働者雇用創出事業は、就労希望者に対して求人数が過小であり、対策の体をなしていない。少なくとも1日三千人に拡大される必要がある。一日3千人の就労確保と日雇雇用保険を組み合わせれば、総数6千人規模の事業となる。

・試算

 一人当賃金6,200円×3,000人×26日×12ヶ月=58億320万円。

 間接事業費見込み 6億円。合計64億320万円。

・就労希望者全員が日雇い雇用保険手帳の発行を受けることを前提とし、給付金受給資格を得る1ヶ月平均13日就労を各人の就労日数上限とすれば、労働者の月間収入は以下のようになる。

 労働者の収入(月13日就労とし、日雇雇用保険3級の給付金を受給すると仮定)

 手取り賃金5,700円×13日+アブレ手当4,100円×11日=119,200円

 一人当賃金と手取り賃金の差額5百円は、雇用保険印紙保険料本人負担分等。

 これにより6,000人が生活保護(居宅保護)受給者と同等の最低限度の生活費が得られることとなる。なお、「ドヤ券」「食券」発行見込み人数と日雇労働者雇用創出事業対象見込み人数との差2千人は、就労に適さない層の見込み人数であり、生活ケアセンター事業や市更相を通じての施設入所あるいは入院または居宅保護の対象となるものである。

B前2項の必要見込み金額合計は、97億6520万円となる。残り2億3480万円「生活ケアセンター事業や無料低額診療事業をはじめ各種の地域福祉対策事業に対する国庫補助等」に充当されるものとする。

 

(2)野宿生活者支援法(案)の成立をはかられたい。

 関係自治体が国へ提出した要望書の中で、野宿生活者の増加の最大の要因について述べていることをまとめれば、「社会経済構造の変化、景気の低迷、日雇労働者の高齢化の進展等(大阪市)ーでありー、ホームレスの多くは、地方から仕事と生活を求めて大都市に集まって来た人達で(新宿区)、大都市の特性である(東京都)。」ということになろう。

 釜ヶ崎に於いても、釜ヶ崎に来たその日から野宿という人がふえてきており、日雇労働者対策の一部としての野宿生活者対策、釜ヶ崎という地区に注視した野宿生活者対策では現状にそぐわなくなっていることは明らかであり、その状況は全国的広がりを持つものであることから、国としての法による対策が求められている。法の成立とそれに伴う野宿者対策の全国化は、野宿生活者対策の特定地域への偏在を防ぎ、野宿生活者の特定地域への集中を防ぐことにもつながる。

1.目的

本法は、野宿状態にあるものに対して、職と居住の安定を保障し、憲法25条の理念を現実化しようとするものであり、野宿生活者が野宿状態から脱することにより社会生活全般の安定に寄与することを目的とする。

 

2.定義

1)本法でいう「野宿生活者」とは、失業・障碍・高齢・離婚・その他の理由により、安定した収入と居住空間を維持することが困難となり、公園・道路・河川敷などで生活を営まざるを得ない者をいう。

(2)本法でいう「支援」は、「野宿生活」の現状に対して行われるものであり、扶養親族の有無・過去の経歴・国籍等により制限されることなく行われるものである。

また、「支援」は、野宿生活者の人権と自己決定権を尊重した上で行う、食と居住空間の提供と安定した収入につながる職の提供を指すもので、野宿生活者の意志に反した現住地からの追い立て・強制施設収容を含むものと解されてはならない。

 

3.費用の負担

本法の目的を達成するために行われる事業の費用は、全額国庫負担とする。

4.事業の実施主体

事業の実施主体本法の目的を達成するための事業の実施主体は、左記に該当する地方自治体とする。

(1)野宿生活者が存在し、且つ、野宿生活者が行政窓口において保護申請をなしているにもかかわらず、現状法令を適用しての問題解決をなしえず、野宿生活者が存在し続けている地方自治体。

(2)野宿生活者支援団体が存在し、対策が要請されている地方自治体。

(3)その他野宿生活者支援事業の必要を認める地方自治体。

(4)事業の実施主体となる地方自治体は、事業計画の策定・実施のための機関として「野宿生活者支援センター」を設置しなければならない。

(5)事業計画は各自治体毎に策定するものであるが、次の各項目については必ず含めるものとする。

@野宿生活者からの相談があった当日から対応できる食と居住空間の提供事業

A野宿生活者が相談日から10日以内に就労可能な職業斡旋事業

B野宿生活者への医療相談事業

 

5.野宿生活者支援センターの構成

野宿生活者支援センターの構成は、当該地区の民生行政機関だけでなく、労働行政機関も参加するものとする。

また、野宿生活者支援団体が存在する地区においては、当該団体の参加を要請しなければならない。

野宿生活者支援センターは、事業計画と予算書を策定し、国へ提出することによって事業費の交付を受けるものとする。決算報告は母胎となる自治体へ行い、当該監査部門の監査を受けるものとする。

 

6.緊急対策

野宿生活者支援センターの発足と事業実施に至るまでの間、当該地方自治体は確認される野宿生活者に対応できる食と居住空間を確保し、提供することに努めなければならない。

また、本法目的達成を円滑成らしむるために、野宿生活者の人権について一般市民への啓発活動を行わなければならない。

7.市民互助活動の育成、社会的連帯意識向上のため、NPO法による法人格を取得している野宿生活者支援団体に対する法人の寄付は経費算入を認め、個人によるものは税額控除対象に算入するものとする。

8.所管それぞれに関わる部分で厚生・労働・自治・大蔵の各省庁が所管するものであるが、一体的実施を確保するために、総理府内に連絡調整機関を設け、実体的所管機関とする。

9.成立即日より施行する』

 

(3)ホームレス問題連絡会議に大蔵省・通産省を加えられたい。

 当会は大阪市に対し以下を要求している。

「各区に「リサイクルセンター」を設置し、釜ヶ崎労働者の就労場所とすること。

各区に生ゴミ以外の一時集積所を設け、資源ごとの分別を徹底し、再利用を計ることは人類の義務に応える道である。釜ヶ崎労働者は分別作業を担うことで人類の未来に貢献する。とりあえず、各区百人として二千四百人人、交代要員を入れて三千人の就労が可能となる。経費は産業界に負担を求める大義名分もある。」

 資源の再生・再利用は人類の課題である。とりわけプラスチック類の徹底した分別と焼却からの排除は、再利用の可能や採算性の論議を越えて実施されるべき課題となっている。

 通産省・大蔵省もホームレス問題連絡会議に加え、たとえば、「プラスチック類製造・使用税」の新設とそれを財源とした「リサイクルセンター」の全国展開のようなことを検討されたい。勿論、野宿生活者への雇用創出の一環として。

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