地主の喜び

   前項の如く今度名護町取払ひの件に就ては非常の僥倖を得たりとて

   地主は夫れ/\土地改良の計画をなし居るが就中彼の名護町南端れ

   の名古橋(石橋)に接する西成郡今宮村と同接続の東成郡天王寺村

   の内字合邦ヶ辻其他近傍の畑地及び農家は従来彼の不潔家屋がある

   為め随分閑静なる地所もあれど市街商家の別荘にもあらず且つ是れ

   まで料理店又は待合立場茶屋等を設立するものあれど兎角永続する

   者あらざりしに今回劇場、遊技、諸興行地となりしを聞くより地主

   の喜び一方ならず且つ又名護町の地主等は始めより集会し或は出願

   し又期限内に家屋取払ひ抔の手数は容易ならねども自分の村内には

   右様の手数もなく自然と土地の改良も出来追々地所の望人も多くな

   りしより是れまで一坪に付六十錢か一円位ゐまでにて売買せし地所

   も俄かに直段を引上げ五円乃至七八円位にあらざれば売渡さぬと云

   ふ勢なりとのこと

   

   著者:大阪日報
   表題:地主の喜び
   時期:18870804/明治20年8月4日
   初出:大阪日報
   種別:興行/長町取払/