論説 四区二郡連合町村会の結果

   余輩は嚮に名護町移転の件に付一片の論説を草し大に其美挙たるこ

   とを賛成せしが不幸にも四区一郡町村連合会の否決する所となり一

   旦は其跡を消滅せしも其精神は未だ消滅せず爾来難波村土地買上の

   件より其他道路の風説に於て再び本件に付会議を開かるべしと言ひ

   伝えたりしが果して今回は更に一郡を加へ四区二郡町村連合会を組

   織し即ち昨日を以て其開会せらるゝに至しは即大阪の進歩を促す者

   なれば先大坂府の為め賀すべきの事と謂はざるべからざるなり

   抑大阪商法会議所は大阪商工業者の意見を集めて以て之を代表する

   所の公会にして大阪商工業者に関する苦楽は商法会議所の所為に由

   て之を判定するを得べき所なるが其商法会議所は累年大阪府下に生

   ずる悪疫の大患を傍観するに忍びず之を撲除する

   完全の方法を講ぜん為向に帝国大学に依頼して博く学理上の撲除方

   を求め其回報は前日已に当地に着し数日間本紙にも掲

   載したるを以て読者は其主意の在る所を能く知了せらるべきが此答

   案にも在りし如く年々の悪疫を全滅せしむるの方法は素より一にし

   て足らずと雖も不潔汚醜の矮屋陋巷を取払ふを以

   て悪疫予防上尤も確乎たる方法なりと為したるを観れば余輩が去月

   四日の紙上旧名護町移転よ

   り生ずる利益の第二たる衛生上の利益云々は単に当時の事実に就て

   論及したるのみにあらずして学理上に於ても亦然るべきことたるは

   今日之を證するに足

   るべくして旧名護町人家移転及び其他場所に於る矮屋陋巷を他に移

   転するの衛生上必要欠くべからざることは断じて疑ふべきにあらざ

   るなり大坂は

   我国第二の都府と云ひ殊に昔日より商業人を以て成立ちたる所は全

   国中此右に出る者なく真に我国第一の商業都府と云ふべき所にして

   其商業者等の結合したる商

   法会議所に於て悪疫予防の方法を帝国大だい学に要たるは累年の悪

   疫に由り大阪府下商業の

   衰退損害の莫大なるを以て之を救治せんために外ならざるものにて

   商法会議所に於て斯くの所為あるは取りも直さず大阪商業者一般が

   為したる所の者にして已に大阪商業者一般が

   悪疫予防の事に熱心なる此の如くなる以上は名護町其他矮屋陋巷の

   不潔汚醜なるものを他所に移転せしむるは即又大阪商業者一般の意

   見なりと謂はざるを得ざるなり若し一方に対して悪疫予防の方法に

   熱中し他の一方に対して悪

   疫予防の方法を妨碍せば即ち自家撞着するものにて人をして其所為

   の何たるかを解するに困しましむるの恐あるものなりと今や四区二

   郡町村連合会を開かれたる主旨中悪疫予防は其最

   たるものなり四区二郡町村連合会に選挙せられし人々は重に大阪の

   商業者即大阪商業会議所に関係ある者なり此人々にして此目的の会

   《

   くわい》議に臨み且大阪府永遠の利益を顧みらるゝは云う迄もなき

   ことなれば今回の旧名護町其他移転の事に関したる四区二郡町村連

   合会に於ては前回の如く直に議案を否《

   ひ》決するなく前回より今日に至るまで四十有余日間の熟考と更に

   今回の議案に対して再三熟議のうへにあら

   ざれば之を決せず余輩府民として累年の大患を永遠に除却する第一

   着手を賛称せしめらるゝは余輩の殆ど疑を容れざる所なりと想ひた

   りしに別項にある如

   く終に再び廃案となりたるは余輩の大いに遺憾とする所なり(未完)

   

   著者:朝日新聞
   表題:論説 四区二郡連合町村会の結果
   時期:18861017/明治19年10月17日
   初出:朝日新聞
   種別:論説/長町取払/