一昨日より始りし同会の議案并に議員の番号等を聞得たれば其大概
を左に記す
一番大島良輔 二番武田源兵衛 三番泉由次郎 四番扇谷五兵衛
五番佐野輿兵衛 六番北田音吉 七番大井ト新 八番山口幸七 九
番湯川福太郎 拾番松村九兵衛 十一番橋本房次郎 十二番貴田孫
兵衛 十三番安井健治 十四番中野治兵衛 十五番三田政右衛門
十六番大三輪長兵衛 十七番樋口重兵衛 十八番大西直孝 十九番
中尾藤三 二十番欠 廿一番柿本宗兵衛 廿二番平松徳兵衛 廿三
番勝浦庄次郎 廿四番石上儀助 廿五番青木松右衛門
明治十九年度西区土佐堀通壱丁目外六百五ケ町村連合町村費支出予
算議案
一 金百七拾七円九十二銭 会議費 内訳金百六円五拾九銭 雑給
金七拾壱円三拾三銭 雑費 一金四万六千九百四拾壱円八拾壱銭
土木費(但共同家屋建築修繕費)一金千弐拾九円八銭七厘共有物取
扱諸費 内 金弐百四捨弐円九拾九銭 雑給 金七百八拾六円九銭
七厘 雑費合計金四万八千百四拾八円八拾二銭七厘
外に金千三百二拾四円六拾壱銭 西成郡津守新田外四壱拾弐ケ町村
負担額 内 金千三百五円九拾八銭 土木費金弐拾八円六拾三銭
共同物取汲諸費
説明 近年府下に於て連りに虎列拉其他の伝染病流行し其性猛悪に
して死亡する者甚多く殊に本年の如きは春来窒扶斯虎列拉の諸病相
踵で発起し夏期に至りて漸く虎列拉病各地に蔓延し日々病勢を逞う
せり因て我大坂府庁は夙に摂生清潔消毒等百方力を予防に竭し専ら
其撲滅を計図せらるゝと雖も如何せん甲地に減ぜば乙地に増し今尚
ほ猖獗を極め殆んど底止する所なきを此の如き病況なるを以て今に
して一層鋭意病災芟除の方法を設け以て将来該病誘困の根元を断滅
せしむるの計画をなさざるときは年々巨多の費額を支消し且つ生営
上興行其他営業の全部若くは一部を停止せらるゝに至り直接間接に
損耗を致すのみならず貴重の生命を亡失する等実に府民の不幸にし
て土地の盛衰民家の伸縮に関すること最も大なりとす
抑虎列拉病の原素たる種々の論説ありて未だ曽て確認すべきものな
しと雖ども然れども其誘因物なかるべからず凡そ都会は数万の姻戸
甍を連ね人民集居するを以て大小の家屋あり貧富の人民あり其貧民
の矯屋に棲息し雨露を凌ぐに過ぎざるもの多きは数の免れざる所な
りと雖ども蓋し我大坂市街は宅地狭乏にして家屋構造上充全ならざ
るもの少なからず就中日本橋筋三丁目以南及高津新地上町本田其他
市端諸町の細民に至ては{1}爾たる矮小の長屋に郡居し大気日光
を求引するに由なく居室厠{2}相隣り井戸溝渠相接する等汚臭の
中に呼吸するもの多し是等の細民は居室の空気流通せざるのみなら
ず概ね平素{}を怠り清潔を欠き身に汚衣を纏ひ口に腐敗の食物を
厭はず随て汚物悪臭身辺に繞圍堆積するも恬として顧みざるが如き
概ね自重自愛の意なき摂生不良の輩なるを以て自然伝染病を誘起す
る十中の八九に居る其不潔不摂生等より悪疫を誘導する蓋し既往の
事蹟に徴して知るべきなり既に日本橋筋三丁目以南其他町端の長屋
に居住する細民の不潔不摂生の為め年々伝染病を誘発し市区中該患
者の最多を占むる上は断然此摂生不良の輩に対する処置方を講じ公
衆の禍害を予防せざるべからず我大坂府庁は長屋及井戸厠{2}芥
溜等配置構造の緊急須要なるを認め嚮きに長屋建築規則を制定し嗣
で井戸規則を頒布し其改良を令せられたり本令中井戸又は厠{2}
等相当の長屋にして其数多からざるものは改修し得べきも彼の日本
橋筋三丁目以南其他町端長屋の如きは家屋粗造衛生上危険にして改
築せしむべき戸数夥多なるを以て其改修の時に方り遂に其数多の細
民を撤去せしむるときは忽ち住所を失ひ路巷に彷徨するが如き旧に
倍し醜体を造出するに至らん殊に該事業は軽易ならざるを以て到底
家主に於て充全の新屋を改修する能はざるものありて旧形を改良す
るに至らざるのみならず随て摂生不良の輩をして永く該地に居住せ
しめ伝染病誘導の根元を滅絶するに至らず故に今回地を西成郡難波
村西南隅にトし東西南北の四区及西成郡の連合町村費を以て若干町
一歩を購ひ恰当の共有家屋先づ弐千七百戸を設営して一廓となし彼
の貧民中目下閣き難き者則別表に掲記せる町村の戸口等を茲に転住
せしめ自余は漸を以て之を移転せしめ而して旧屋は長屋建築規則井
戸取締規則及び特別の取締方を以て相当の処分をなし将来現時の如
き摂生不良輩の棲家たらしむることを制せんとす
此事業を断行する就きては家屋の構造等は長屋建築井戸取締の両規
則に準じ軽実にして且つ蘇生上裨益あるものを設営すべく而して此
家屋に属する家賃取立及之に関する方法を設け該家屋及余地等貸與
の収得を以て年々此費用を消却せんとす其為経費賦課方の如きは此
際該貧民の移転せしむべき町村は勿論苟も其利害を同ふするものは
土地の冷熱戸口の多寡民情の異同等を論ぜず東西南北の四区及西成
郡に於て均しく之を負担するものとす近時諸業萎縮公費増多の折柄
に際し今又斯の如き非常の経費を賦課するは実際困難の情況なきに
あらずと雖ども前述の如き年々悪疫流行に際し人々其最も貴重なる
べき生命と財産を喪失し一般営生上に妨碍を與ふること今日の如く
んば何れの日か{3}に安じ畢生の幸福を享受するを得んや事巳に
逼迫せるを以て生民の為め焉んぞ費額を顧みるの秋ならんや是れ本
案を提起せざるべからざる所以なり茲に全体の概略を示す。(未完)
著者:朝日新聞
表題:四区一郡連合会議案
時期:18860905/明治19年9月5日
初出:朝日新聞
種別:長町取払/