地所買上の件

   今度開会せられべき夫の四区二郡連合町村会は既に議案は勿論他譲

   員も定まり何時開会するも差支なき迄に運びしにより多分来十二日

   より開会せらるべしとの事にて一時喧しかりし名護町住民移転地に

   要する西成郡難波村の地所買上の事も昨今に至り地主に於いては略

   ぼ之を承諾したる如くなれど其実左にあらず其の売払直段の如きも

   非常の高価を申立て一反歩の代価二百円或は三百円乃至四百円と唱

   へ容易に売渡さゞる氣構へなる由右は単に名護町移転の事を忌みて

   然るにあらず過般内務省より達せられたる浜地立退の事も追々差迫

   りたるに就ては己に横掘、立売掘其他の材木商人よりは材木囲場の

   為め難波村の地所を買入るゝの相談もありた事なれば今ま二百円や

   三百円に買上げらるゝも敢て喜ぶべき事にあらずと言ひ居り尚ほ同

   村民の内にも之が苦情を言募る者ありて容易に談判の纏らず尤も是

   等の唱ふる所は今名護町の貧民を同村に移せば随て村費の嵩むは当

   然なるに移住民は何れも貧民にて仮令村費を賦課したりとて一般に

   出金すること能ふまじければ終に同村人民がこれを負坦せざるを得

   ず斯くては甚だ迷惑なるを以て其筋に於ても此辺を十分酌量の上何

   とか村民の安堵する丈の方法を設けらるれば地所買上を承諾すべし

   といふにあり困て其筋にては目下尚ほ右の説諭中なるが是迄同群人

   民の望を属せし田部群長在職の時さへ容易に承諾せざりし事なれば

   同氏転任の後は容易に談判の纏らざるべしといふものなれど如何に

   や。

   

   著者:大阪日報
   表題:地所買上の件
   時期:18861010/明治19年10月10日
   初出:大阪日報
   種別:長町取払/