1.戦争終結後の応急措置関係

勤発 第882    昭和20821日  厚生省勤労局長

各地方長官殿(東京都は警視総監とす樺太庁長官を含む)

東亜戦争終結に伴う国民勤労動員令施行の為にする応急措置に関する件

大東亜戦争終結に伴う国民勤労動員令の施行に関しては、不日、根本的措置を講ぜられるべきも、差当り左の応急的措置を講ずることと相成候に付ては、之が実施に萬遺憾なきを期せられ度

1、解雇退職の制限に関しては、近く通牒相成可き「工場事業場従業者の戦後応急措置に関する件」に依り措置すべきこと
2、男子就業の禁止又は制限は、之を廃止すること(令第7條則第9條別紙告示参照)
3、土建等日備統制を除き、雇入就職に関する規制は、之を廃止すること(令第18條則第29條別紙告示参照)
4、理科系学校卒業者雇入制限は、之を廃止すると共に、従来の雇入割当は之を取消すこと(令第18條則第18條別紙告示参照)
5、労務供給業者に依る従業者の使用又は従業の制限は、之を事実上停止すること(令第57條則第69條)

厚生省告示 第86

昭和138月厚生省告示第119号(国民勤労動員令施行規則第18條の学校指定に関する件)

昭和138月厚生省告示第120号(国民勤労動員令施行規則第18條の学科指定に関する件)

昭和166月厚生省告示第575号(国民勤労動員令施行規則第29條第1項第5号の事業指定に関する件)

昭和1612月厚生省告示第576号(国民勤労動員令施行規則第29條第1項第12号の者の雇入及就職の場合指定に関する件)

昭和189月厚生省告示第556号(国民勤労動員令施行規則第9條の規定に依る男子従業者の雇入、使用、就職及従業を禁止する職種、年月日及其の範囲指定に関する件)

昭和205月厚生省告示第44号(国民勤労動員令施行規則第18條の規定に依り様式に関する件)及昭和205月厚生省告示第45号(国民勤労動員令施行規則第20條の規定に依る申請又は請求の期日に関する件)は、昭和20821日之を廃止せり

昭和2082 3日   厚生大臣 松村謙三

厚生省告示 第87

国民勤労動員令施行規則 規則第2921項第13号の場合を左の通定め昭和20821日より之を適用す

昭和20823日    厚生大臣 松村謙三

1、鉄、石炭·亜炭等、素材生産業に於ける雇入及就職の場合

2、住宅、建築其の他復旧土木建築関係(セメント、木材、釘、家具等関連資材器具の製造業を含む)に於ける雇入及就職の場合

3、電気事業、瓦斯事業及水道事業に於ける雇入及就職の場合

4、運輸通信関係業(車輌、木造船、内海航路の船舶及其の関連資材の製造業及修理業を含む)に於ける雇入及就職の場合

5、医薬品其の他医療衛生用物資の製造業に於ける雇入及就職の場合

6、製塩業及肥料、農機具の製造業に於ける雇入及就職の場合

7、陶磁器、紙、皮革、油脂及電機用具其の他の民需用機械器具の製造業に於ける雇入及就職の場合

8、紡織其の他衣料関係業に於ける雇入及就職の場合

9、食料品其の他の生活必需物資の製造業及修理業に於ける雇入及就職の場合

10、物品販売業、娯楽興業及接客業に於ける雇入及就職の場合

11、浴場業、理髪業及洗濯業に於ける雇入及就職の場合

12、家事使用人の雇入及就職の場合

13、金融保険業に於ける雇入及職就の場合

14、印刷業に於ける雇入及就職の場合

15、教育事業、医療衛生事業其の他の公務自由業に於ける雇入及就職の場合

16、公共団体に於ける雇入及就職の場合

17、其の他民需産業に於ける雇入及就職の場合

●勤発 第885号 昭和20821日     厚生省勤労局長

各地方長官殿(東京は警視総監)

戦争終結に伴う国民勤労動員署の業務執行に関する件

大東亜戦争の終結に伴い、国民勤労動員署の業務運営に関しては既に夫々御配意中のことと存候処、差当り概ね左記に依り応急措置方 可然 御配意相成度

1、労務統制の強化に伴ひ、馴致醸成されつつありたる従来の執務態勢を徹底的に切替へ、真に皇国再建、同胞相愛の強固なる信念の下、職業開拓幹旋の第一線現業機関に相応せる執務態勢を急速に確立せしむること  

2、管内産業、経済、労務事情を的確に把握せしめ、転移する情勢に対応し、業務の円滑適確なる運営の基本資料たらしむること

3、業務の運営は、国民の完全就職を目途とし、国民生活の安定、戦時復旧及民需産業の復興に之が重点を指向する如く職業の開拓斡旋に努めしむること

(1)国民生活の安定に付ては特に食糧増産、帰農開拓、自営業復活授産授職、職業訓練・職業補導等に付、関係方面と連絡提携し、其の地方の実状に即応する如く、適当施策実施せしむること

  (2)戦後復旧に付ては、店舗・住宅等の修理簡易建築資材の入手、戦災地整理取片付等の外、官庁・公共団体等と連絡し輸送・通信・道路・橋梁・水道・瓦斯・電気・緑地其の他各種施設の急速修理等に付必要なる労務の幹旋に努めしむること

  (3)民需業復興に付ては、昭和20821日より施行の厚省生告示第87号「国民勤労動員令施行規則第29條第1項第13号の場合指定の件」に揚ぐる各種民需業に付、積極的に求人開拓斡旋を行ふこと

  (4)離職者に付ては、特に傷痍軍人・帰還軍人・徴用解除者を優先斡旋する如く留意せしむること

4、求人部(係)、相談部(係)を拡充強化すると共に、巡回求人班、相談班等を編成し、之が積極的活動を展開せしむること

5、工場事業場に人、事相談部(係)を特設せしめ、国民勤労動員署と連絡し、転職其の他人事相談に当らしむること

厚生省発勤 第189号 昭和20822日 厚生次官 

各庁府縣長各 地方総官監殿

戦争終結に伴う工場事業場従業者の応急措置に関する件依命通牒  

戦争終結に伴う工場・事業場従業者の暫定措置に関し、822日次官会議に於て別紙「工場事業場従業者の応急措置」決定相成候條、左記御了知の上直ちに之が趣旨を、管下国民勤労動員署其の他関係官署に示達すると共に、民間工場事業場に周知徹底せしめ、本件運用の萬全を期せられ度、此段依命及通牒候也 

追而、軍の復員に関しては、別途通牒の見込なるも、之が就職の韓旋及採用(陸軍にありては就職のため従軍証明書を所持せしむ)は、他に優先して取扱はるべきに付、予め御了知相成度為念申添候

   記

1、当分の内、各地方の労務変動の実情を常時把握するの要あるに付、本件取扱状況に関し、庁府県は別記様式に依り動員課長宛旬報を以て速報すること

2、既定の動員計画に対する取扱は左に依ること

(1)左記通牒に依る割当及動員は一応之を取止め、必要ある事業に対しては其の都度幹旋すること

(い)第2次勤労動員割当

(ろ)清酒転換、アルコール、樟脳製造業割当

(は)戦災工場従業者等の措置

(に)工場従業者整理活用に関する件の措置

(ほ)防衛生産体制確立に関する件の措置      

(2)石炭山の緊急割当は、之が急速なる完全充足を期することとし、特に整理縮少を必要とする工場等より一括之を斡旋する様措置すること

 尚本措置第23の備考の2は、今後期間滿了者の期間の延長は之を為さざるも、石炭山等にして必要ある場合は、就職勧奨・就職命令の方法に依り之が確保を為す趣旨なること

(3)運通関係の緊急割当並松根油関係割当は、従前通り充足することとするも、其の員数職種及給源等に付関係現地機関と協議の上必要に応じ若干の変更を加ふるも可なること

3、集団移入朝鮮人及華人労務者の取扱に付ては、輸送其の他の実情を勘案しつつ、漸次帰還せしむること

4、別紙措置第210関係は左に依ること

(1)手待従業者等を復旧作業、農業等に臨時出動せしめたるときの給与は、本年730日勤発第84820管局第129号「勤労協力を為す者又は機動配置せられたる者に対する給与に関する件」厚生省勤労局長軍需省管理局長通牒の趣旨に依ること

(2)徴用期間延長に当り、既に徴用解除手当の一部を支給したる場合には、今回支給すべき支給額は延長後の期間に対する分を以て定るも、前同の支給類を含みたる徴用解除手当合計額が、今回一般労務者に支給せらるる慰労金基準を下る場合は、一般基準に依る慰労金を支給すること  

(3)入営応召者が、工場、事業場に復員後離職せしめられたる場合の手当金の支給も、本措置に依ること

(4)本措置に依る給与金(休業手当を含まず)及退手法に依る退職積立金及退職手当は、原則として期限3ヶ月以上の銀行定期預金を以て支給すること

 但し、已むを得ざる事情に依り現金の支給を必要とする場合に於ては、月收3ヶ月分に相当する金額の範囲内に於て、現金支給を為すも差支なきこと、右銀行定期預金は、期限到来後は全国各地銀行に於て元利金を受取り得るものなること 

戦争終結に伴う工場事業場従業者の応急措置

1、方針

戦争終結に伴う労務の再配置に付ては、業転換の進展に即応し逐次為さるべきも、差当り緊要なる民需業に必要の労務を確保すると共に、特に軍需業の従業者に付急激なる混乱を防止し併せて離職従業者に対する給与の基準を定むるは現下喫緊の要務なり、因て左の要領に依り応急暫定的措置を講ぜんとす

2、要領    

1.工場事業場にして左記業に関するものは、現従業者を一応其のまま継続使用せしめ、当分の内事業主の一方的意思に依る解雇は、之を為さしめざること

但し退職を希望する者に付ては、代替者補充の方途を講じたる上之を認むること

製塩業、肥料及農具等製造業

鉄、石炭、石油等素材生事業

製薬其の他医療関係品製造業

紡織其の他衣料関係製造業

食料其の他生活必需物資製造及修理業

陶磁器、紙、皮革、油脂、電気機具、民需用機械器具、印刷業等民需品製造業

住宅其の他復旧土建関係業(セメント、製材、釘、家具其の他関連資材器具製造業を含む)

運輸通信関係業(車輌、自動車、木造船.内海航路船其の他関連資材の製造及修理業を含む)

電気、瓦斯、水道業

物資配給業

金融、保険業

其の他の民需業        

2、右以外の工場事業場にして、其の事業を廃止又は縮少する為従業者の整理を要する場合は、現下の輸送及住宅等の状況に応じ、順次之を実施せしむる様指導し、急激なる一斉解雇に依り混乱せしめざる様考慮すると共に、整理せられたる従業者の為、国民勤労動員署をして民需業方面の求人開拓を実施せしめ、農林水業各種復旧土建其の他前号の民需業に積極的に斡旋する様措置すること

3、被徴用者の左に依り措置

(1)第21業に従事する被徴用者(現員被徴用者を含む)にして解除を希望する者は、代替者を以て之が補充を為したる後、其の解除を為すこと

(2)其の他の業の被徴用者(現員被徴者を含む)は、左の順により順次就業地庁府県に於て解除を為すこと

 この場合、他庁府県出身者にありては、必要事項を関係庁府県に連絡すること

(い)就業前農林水業に従事し居りたる者、但し、不己得理由に依り継続就業を希望する者は之を除くこと

(ろ)就業前大工、左官、鳶職、屋根職、疊職、板金工、土工たりし者、但し、不己得理由に依り継続就業を希望する者は之を除くこと

尚、本人の復帰先庁府県は労務報国会をして之が確保を為さしむること

(は)女子にして家庭復帰を希望する者

(に)就業前「第21」に記載せる業に従事し居りたる者、公署雇雇員たりし者、其の他物品販売業、理髪業等生活必需営業に従事し居りたるものにして、原職復帰を希望する者

(ほ)他に自活の途ある解除希望者

備考

1、(に)(ほ)に付ては、新規徴用者は現員徴用者に優先し之を解除すること

2、今後徴用期間は、之を延長せざること、但し引続き就業を希望する者及労務確保を必要とするものに付ては、之を雇雇せしむる措置を講ずること

4、其の他の一般従業者に付て、其の解雇の順序は、被徴用者に準じ措置せしむることとし、所轄国民勤労動員署の承認を得たる上、輸送の状況に応じ順次之を解雇せしむる如く指導すること

備考 被徴用者及一般従業者にして長期欠勤せる者は、直に之を解除又は解雇すること、但し病気欠勤者に付ては本人の希望を徴したる上措置すること

5、学徒及女子挺身隊員は、原則として之を学校及び家庭に復帰せしむること、但し「第21」に記載せる産業にして其の事業の継続上特に必要ある場合は、速に代替者を就業せしめて復帰せしむることとし、尚、女子挺身隊員にして継続就業方希望する者は継続せしむること

6、勤労協力措置に依り臨時要員として従事しある者は、原則として之が解除を為すこと、但し、現に輸送、荷役、鉱山、農業及各種復旧作業等に出動し居りて特に必要ある場合は、代替者の斡旋を為したる上解除すること

73乃至6号の措置は、所定の様式等に依ることなく、事業主より解除又は解雇予定者の連名簿を提出せしむる等の方法に依り、手続の簡易迅速を期すること

8、国民勤労動員令の雇入、使用、就職及従業に関する禁止又は制限の規定(令第7條則第9條、令第18條、則第18條及第29條(但し土建等日雇労務者の統制は之を除く)第57條、則第69條)は、之を廃止するに付、民需業方面に於ける雇用及募集は、動員署をして積極的に幹旋せしむること

9、工場事業場に於ける勤労統率は、概ね従前の方針に則り、団結の規律の堅持に努めしむる外、特に左の各号に依り指導を加ふること

(1)手待従業者に付ては、手持資材に依る民需品の製造、工場農園の耕作職場の整頓等、可及的手待解消方に付指導を加ふること

(2)前各号の措置を講ずるも尚存する手待従業者又は不己得休業する工場事業場の従業者に対しては、庁府県に於て一定の計画を樹て勤労協力措置に依り、災害地其の他の都市清掃、水道、電気瓦斯等の復旧作業、一般災害復旧作業、鉄道及通信の復旧作業、荷役、農業等に臨時出勤せしむること

10、従業者の意志に依らずして離職せる従業者の給与に付ては、左に依り措置すること

(1)労務者の意志に依らずして離職せる労務者に対しては当、該工場事業場にして当該工場事業場の定むる退職手当(事業の都合に依る退職の場合に於ける額とすること)の外、建康保険標準報酬月額又は最近3け月の平均收入月額を下らざる慰労金を支給せしむること

被徴用者(現員被徴用者を含む)に対しては、賃金規則に定むる徴用解除手当を支給し、前項の慰労金は支給せざること、但し、徴用解除手当が前項の慰労金を下る場合は、前項の慰労金額を徴用解除手当額とすること

(2)新規被徴用者に対しては、当該工場事業場の支給する徴用解除手当の外、国庫の負擔に依り国民勤労動員援護会をして徴用慰労金(100円)を支給せしむること

(3)戦局急変に依り在籍のまま休業せしめられたる勤労者に対しては、其の休業期間中健康保険標準報酬日額の6割を下らざる休業手当を支給すること

勤発第892号 昭和20827日      厚生省勤労局長 

地方総監府第3部長・府県長官殿

金融業、運輪通信業並に建築業等に於ける元従業者の原職復帰に関する件

戦争終結に伴ふ事態の急変に対処する、金融業並に運輸通信業等の実情に鑑み、差当り帰還軍人、傷痍軍人の就職斡旋、及、先に軍需業に配置転換せる斯の種部門、並に、大工、左官、鳶職、屋根職、疊職等の建築業証券印刷業の従業者を、原職に復帰せしむることと相成候條、左記に依り急速措置相成度、及通牒候

  記

1、復帰せしむべき者の範囲

帰還軍人、傷痍軍人及左の各項に依る措置に依り軍需業に配置転換せられたるものを対象とし金融業にありては銀行、保険及信託業に付実施すること

い、昭和18923日厚生省告示第百56号(所謂男子就業の禁止又は制限)に依るもの

ろ、徴用又は指導勧奨に依るもの

は、前記「い」「ろ」に依るの外、金融業にありては客年525日発勤第143号金融業に於ける従業者の配置及其の職域に関する件通牒、運輸通信業にありては昭和1893日官庁、地方公共国体及勤労者徴用に関する措置要領の件通牒に依るもの

2、実施手続

い、帰還軍人及傷痍車人にありては、市町村其の他関係団体と緊密なる連絡を採り、就職希望者を調査すること

ろ、転換者にありては、工場事業場等をして当該転換者中復帰希望者を調査せしむること

は、前項に依る調査の外、従業者を従前使用せる官衙、事業場又は労務報国会支部より転換先を明せる名簿を提出せしめ措置するも可なること、尚、金融業にありては、職域徴用実施に際し作成せしめたる供出男子人名表等に依るも差支へなきこと

に、就業先又は復帰先他庁府県にあるものに付ては、相互に連絡すること

ほ、庁府県前各項に依り調査したる復帰希望者の連名表を、復帰先官衙又は事業場每に作成し、当該官衙又は事業場に送付すること

3、受入措置

い、帰還軍人及傷痍軍人にありては関係各機関又は事業場をして優先採用せしむる如く措置する

ろ、復帰先官衙又は事業場は、庁府県より送付せられたる連名表に基き、速に採用の措置を講ずること

採用決定したるものに付ては、庁府県は工場事業場をして、速に解雇又は徴用解除の手続を執らしむること

は、事業の廃止、閉鎖又は縮少等に依り転換困難なる者に付ては、他の適当なる斯の種部門に優先採用せしむる如く斡旋すること

に、受入官衙、事業場、金融機関又は全国金融統制会(地方にありては同会地方委員)等の関係機関の積極的なる協力の下に実施し、受入を拒避するが如きことなからしむること

ほ、建築関係者に付ては、住宅営団(支部)土建請負業者等に雇用せしむる如く措置すること

4、其の他

い、其の他必要事項に関しては、別途通牒せらるる「工場事業場従業者の戦後応急措置」に依ること

ろ、昭和18923日厚生省告示第556号は823日廃止せられたること

厚生省発 勤第192号 昭和20829日 厚生次官 

各地方総監府副総監・各地方長官殿

戦争終結に伴ふ帰還軍人の復員に関する応急措置の件

戦争終結に伴ふ軍の復員は、既に一部開始せられ、10月上旬頃迄に内地部隊全部の実施を見ることと被存、之が必要施策は、現に講究中に有之候得共、差当り、入営者職業保障法の精神に則り前職復帰及優先採用を建前とし、左記手続を講じ、之が円滑なる復員を計る様致度、此段及通牒候也 

追て、本件実施に当りては、先づ関係陸海軍当局、特に陸軍は連隊区司令部、海軍は人事部及地方人事部と常時緊密なる連絡を図ると共に、特に退職軍人の取扱は、陸軍に付ては遺族傷痍軍人保護並退職軍人職業補導会支部、及、海軍に付ては、復員援護会支部と提携し、尚、傷痍軍人に付ては、傷痍軍人援護会支部及傷痍軍人会支部と協力し、適切なる措置を講ずる様致度、尚、帰還及退職軍人軍属の大多数は、帰還後一度其の家庭に帰郷したる後、更めて前職復帰又は新規就職を為す可きに付、差当り各国民勤労動員署に專門の係を設け、之が就職及自営業幹旋の中心機関たらしむると共に、必要なる市町村には之が相談斡旋の施設を設くる等、実情に応じ萬遺漏なきを期せられ度、

殊に現在滿洲、台湾、朝鮮、樺太出身者の退営者にして、帰郷不可能なる為、差当り困惑せる者を生じ居るに付、直に適当の措置を講ずる様致度

1、前職を有する傷痍軍人、帰還軍人軍属は前職復帰を原則とし左に依り措置すること

(1)入営応召前、徴用又は雇用され居りたる者に対しては、可及的簡易なる方法に依り、入営者職業保障法に基く手続を講ぜしめ、極力前職に復帰せしむること

(2)入営応召前、応徴士たりし者又は現に応徴士たる者にして其の徴用先事業場が廃止又は著しき縮小を為す場合は、召集解除と同時に徴用を解除し、直に其の者の徴用前の原職に復帰せしむること

(3)入営応召前、農林水業其他の自営業に従事し居りたる者は、之を前事業に復帰せしむることとし、直に前事業を再開し得る如く極力斡旋すること

2、入営応召前、学徒たりし者にして、学校に再入学せんとする者は、優先的に入校し得る如く措置する事

3、前職に復帰し得ざる傷痍軍人・帰還及退職軍人・軍属又は帰還退職後新に就職を希望する者は、原則として各官公署及民間会社工場に於て優先採用せしむることとし、左の方法に依り速に之を就職せしむること

(1)第一線行政官庁、公共団体、学校等に於て可及的に之を採用すると共に、一般民需業に対し国民勤労動員署等をして、求人開拓を実施せしめ、尚、自営業開業の斡旋を為さしむること

(2)運輸、通信、土木、建築、警備等の特殊任務に従事し居りくる軍人軍属の集団が帰還する場合は可、及的一団として其の技能を利用し得る方面に移す様措置すること

(3)民需関係の各事業より、左の者を解雇又は解除し、傷痍軍人帰還及退職軍人軍属を代替採用せしむること

(い)農林水業復帰希望者

(ろ)大工、鳶、屋根職、疊職、板金工、土工復帰希望者

(は)女子年少者及高年齡者にして家庭復帰を希望する者

(に)其他転退職希望者及徴用解除希望者

(ほ)学徒、女子挺身隊其他勤報隊

戦争終結に伴ふ復員者の職業対策要綱(827勤労局案)   

1、方針

戦争終結に伴ふ復員者の職業対策は、国民の完全就業を目途とする職業再配置計画に基き実施すべきも、国民生活の維持及民心の安定を図るが為、差当り、復員者は之を前職に復帰せしむることを建前とし、必要に応じ業振興、失業救済の措置を講ずるは刻下喫緊の要務たり、因て左の要領に依り必要措置を講ぜんとす

2、措置

1、前職復帰

(1)傷痍軍人、帰還軍人軍属及応徴士にして解除せられたる者(以下帰還軍人及応徴解除者と稱す)にして、前職復帰を希望する者は、原則として前職(自営業を含む)に復旧せしむること

(2)入営応召前、徴用され居りたる者にして、其の事業場が廃止又は著しき整理縮少を為す場合は、召集解除と同時に徴用を解除し、直に其の者の徴用前の原職に復帰せしむること

備考

1)本措置は、一応、入営者職業保障法に依り之を実施すること

(2)本措置を実施せしむる為、必要ある場合は、操業時間短縮又は交替制の採用を行はしむること

2、優先採用

(1))新に人を雇用する場合、傷痍軍人、帰還及退職軍人軍属、応徴解除者、戦災者及軍人遺族は優先採用せしむるものとす、特に、重度傷痍軍人に対しては、要すれば、強制雇用せしめ得る如く法的措置を講ずること

(2)帰還軍人及応徴解除者にして自営業を開業せんとする場合は、原則として之を優先的に開業せしむる措置を講ぜしむること

3、就職の抑制

帰還軍人、応徴解除者、戦災者及軍人遺族にして、前職に復帰し得ざる者を就職せしむることを目途とし、左の措置を講ずること

(1))女子及年少者高年者にして、家庭復帰又は他に自活の途ある者の、特定の職業に対する雇用の制限又は禁止

2)各種の勤労奉仕的就業の抑制

3)他に生活し得る收入の途ある者の雇用の抑制

備考

入営応召又は徴用前学徒たりし者にして、学校に再入学せんとする者は、優先的に入校せしむること

尚、将来必要と認めらるる各種の学校を增設し、且、義務年限其他一般修学年限を延長すること

 4、授職

1)一般失業救済事業

(い)官公営事業、特に左の事業は、総て登録失業者を採用することを條件として実施すること

開墾事業

復興土木事業(都市清掃、後片附、道路、上下水道、鉄道、軌道、建築、都市計画、港湾関係事業)

失業応急開発事業(埋立、漁港修築、林道開鑿、植林、其他業開発関係事業)

 (ろ)之等諸事業は、原則として国及地方公共団体を主体とし、支払賃金額に対し適当なる国庫補助を与へて之を実施することすること

2)事務及技術職員失業救済事業

(い)官公署、特に町村役場、農業会等末端機関の事務、教育及警備事務等を拡充し、事務職員失業者を採用せしむること

(ろ)国、地方公共団体及其他適当なる団体は、事務職員の失業者特に多数なる地方に於て、各種の研究調査、計算、製図、戸籍簿の作製、飜譯、文書整理、筆耕等事務職員向の失業救済事業を、一定の国庫補助の下に実施せしむること

(は)特に技術者は、残存工場の現場指導者及学校職員に転換せしむる外、前号の失業救済事業中の研究、製図等に従事せしむること、尚、農業関係科学技術者に付ては、可及的農業会地方公共団体に就職せしめ、以て、農村の生産指導を図らしむること

3)職業訓練及補導授産   

(い)失業者中年齡30歳未滿の者に対しては、之を国立の職業訓練所に收容し、再訓練の上、集団的に復興事業、開墾土建事業其の他適当なる事業に従事せしむること

(ろ)大工其の他必要なる職業の補導をなす為、職業補導施設を拡充すること

(は)新に鋳掛屋、理髪、靴傘修繕、家具製造、衣服更生等簡易なる自営業を開業するに必要なる補導を為す為、地方公共団体をして、一定の国庫補助の下に、自営業補導所を設置せしむるこ

(に)必要に応じ、地方公共団体をして一定の国庫補助の下に、各種の授施設を設けしむること

4)日雇労務の福利厚生施設の整備

日雇労務の積極的斡旋に資する為、之が福利厚生施設を整備することとし、別に設置せらるる労務協会(仮名)をして、国庫の助成の下に右実施に当らしむること

備考 失業の防止の為、事業に対する国家保障、低利資金貸与等の方法を講じ必要民需業を急速に振興せしむること

5、失業登録及解雇の届出

1)常時失業者の数を明にし、之等に対し授職をなすが為、失業者の登録制度を実施すること

2)大口解雇の場合は、前以て動員署に届出づる義務を事業主に負はしむること

6、機構の整備強化

(1)綜合的復員対策の樹立を図り、之が迅速なる遂行を期する為、中央及地方に臨時復員対策委員会を設置すること

2)職業斡旋機構を整備充実する為

(い)国民勤労動員署を、職業指導所に改め、職業斡旋の第一線機関たらしむる様、之が充実を図ること

(ろ)日備労務の積極的斡旋の緊要なるに鑑み、新に之が協力機構として、労務協会(自称)を設立し、日雇労務の斡旋組織を整備すること

右労務協会の設立に伴ひ、大日本労務報国会は、之を解散せしむること

(は)職業斡旋特に職業開拓の積極的且迅速円滑なる遂行を図る為、職業指導所の連絡委員制度の充実強化を図ると共に、市町村長、関係官衙、商工経済会、各種業団体等の関係者を以て組織する、総合復員協議会を、職業指導所に設置し、併せて、之が下部機構を主要市町村に設置すること