第1章 釜ヶ崎の歴史
第1節 釜ヶ崎変遷史
§4 愛隣地区(旧釜ヶ崎界隈)
昭和41年6月15日 愛隣地区対策三者協議会設置
昭和41年6月から 釜ヶ崎を「愛隣地区」と名称変更
(1)地区の概況
@ 面積・人口
あいりん地区は、西成区の東北端に位置し、東四条1,2,3丁目、東入船町、西入船町、海道町、甲岸町、東萩町、今池町、東田町、および山王町1,2,3丁目の13町丁で形成されている。
その面積は0.62q2で、西成区全域(7.42q2)の約8.4%を占めている。地区内を生活の本拠地としている者を含めた地区内人口は登録、無登録を合わせ約5万人前後が居住し、人口密度は本市平均の約5倍である。
昭和45.10.1国勢調査による区内人口は194,794人、地区内人口29,128人であった。
このうち約18,000人が労働者といわれ、まさしく巨大な労働市場を形成している。
このほか、暴力団30団体、その組員、ぐれん隊等約1,100人が居住している。
あいりん(愛隣)地区(13ヵ町)国民健康保険被保険者数調 (住民基本台帳登録者による) s47.8現在 | ||||||||||||||||
No | 町名コード | 町名 | s45.10.1 国勢調査 |
1世帯人員 | 被 保 険 者 数 (世帯) S.47 | |||||||||||
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 加入率 | |||||||||||
1 | 001 | 東田町 | 2,663 | 世帯 | 1.5 | 561 | 571 | 569 | 590 | 571 | 577 | 578 | 578 | 571 | 571 | 21.4% |
4,116 | 人 | 10 | 21 | 6 | 0 | 0 | ||||||||||
2 | 002 | 今池町 | 1,198 | 世帯 | 2.0 | 436 | 447 | 433 | 441 | 430 | 430 | 430 | 430 | 424 | 424 | 35.3% |
2,428 | 人 | 11 | 8 | 0 | 0 | 0 | ||||||||||
3 | 003 | 東入船町 | 3,636 | 世帯 | 1.3 | 329 | 340 | 339 | 354 | 341 | 341 | 348 | 349 | 337 | 338 | 9.2% |
4,560 | 人 | 11 | 15 | 0 | 1 | 1 | ||||||||||
4 | 004 | 西入船町 | 1,790 | 世帯 | 1.2 | 186 | 193 | 193 | 201 | 195 | 196 | 195 | 195 | 202 | 202 | 11.2% |
2,068 | 人 | 7 | 8 | 1 | 0 | 0 | ||||||||||
5 | 005 | 甲岸町 | 1,453 | 世帯 | 1.3 | 218 | 229 | 230 | 244 | 229 | 231 | 234 | 234 | 232 | 233 | 16.0% |
1,919 | 人 | 11 | 14 | 2 | 0 | 1 | ||||||||||
6 | 006 | 海道町 | 1,651 | 世帯 | 1.4 | 286 | 296 | 290 | 300 | 294 | 295 | 293 | 293 | 288 | 288 | 17.4% |
2,287 | 人 | 10 | 10 | 1 | 0 | 0 | ||||||||||
7 | 007 | 東萩町 | 1,369 | 世帯 | 1.8 | 383 | 395 | 391 | 411 | 390 | 393 | 395 | 395 | 391 | 391 | 28.5% |
2,448 | 人 | 12 | 20 | 3 | 0 | 0 | ||||||||||
8 | 018 | 東四条1丁目 | 227 | 世帯 | 2.3 | 125 | 130 | 129 | 135 | 135 | 136 | 136 | 136 | 130 | 130 | 57.2% |
521 | 人 | 5 | 6 | 1 | 0 | 0 | ||||||||||
9 | 020 | 東四条2丁目 | 0 | 世帯 | 0.0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
0 | 人 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | ||||||||||
10 | 021 | 東四条3丁目 | 214 | 世帯 | 2.4 | 115 | 119 | 115 | 119 | 119 | 120 | 123 | 123 | 119 | 120 | 56.0% |
505 | 人 | 4 | 4 | 1 | 0 | 1 | ||||||||||
11 | 223 | 山王1丁目 | 234 | 世帯 | 3.1 | 141 | 142 | 144 | 149 | 144 | 144 | 145 | 145 | 144 | 144 | 61.5% |
721 | 人 | 1 | 5 | 0 | 0 | 0 | ||||||||||
12 | 224 | 山王2丁目 | 1,402 | 世帯 | 2.6 | 777 | 796 | 768 | 781 | 766 | 768 | 763 | 763 | 755 | 755 | 53.8% |
3,601 | 人 | 19 | 13 | 2 | 0 | 0 | ||||||||||
13 | 225 | 山王3丁目 | 1,498 | 世帯 | 2.6 | 895 | 920 | 895 | 910 | 890 | 893 | 877 | 877 | 862 | 862 | 57.5% |
3,954 | 人 | 25 | 15 | 3 | 0 | 0 | ||||||||||
計 | 17,335 | 世帯 | 1.7 | 4,578 | 4,635 | 4,524 | 4,518 | 4,455 | 4,458 | 25.6% | ||||||
29,128 | 人 | 3 | ||||||||||||||
・上段ー現年度分。下段ー過年度分。右は両計 | ||||||||||||||||
・約50,000人居住しているので(実質)加入率は8.9% |
(72) | あいりん地区類似町 | ||||||||||||||
町名コード | 町名 | s45.10.1 国勢調査 |
1世帯人員 | 被 保 険 者 数 (世帯) S.47 | |||||||||||
4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 加入率 | ||||||||||
226 | 山王町4丁目 | 498 | 世帯 | 3.3 | 451 | 481 | 447 | 454 | 450 | 452 | 448 | 450 | 448 | 448 | 91.8% |
1,656 | 人 | 3 | 7 | 2 | 2 | 0 | |||||||||
012 | 曳舟町 | 623 | 世帯 | 2.5 | 275 | 302 | 299 | 308 | 299 | 300 | 296 | 296 | 291 | 291 | 48.1% |
1,547 | 人 | 7 | 9 | 1 | 0 | 0 |
1)
東・西入船町 →ドヤ街
(A)甲岸、海道、東萩町→ドヤ街
山王1〜3丁目 →歓楽街
(B)東田、今池町 →歓楽街
(C)浪速区(馬淵町附近)→スラム
2)大阪市の「あいりん地区」に於ける主たるスラム対策は(A)である。
A整備状況
この地区のうち、南海本線西側の東四条1丁目から同3丁目までは、大阪都市計画事業西成地区復興土地区画整理事業により整備され、さらに山王町1丁目も阪神高速道路大阪池田線阿倍野ランプ開通に伴い整備された。
なお、山王町2丁目から同3丁目にかけては、現在、阪神高速道路大阪松原線の建設がすすめられ、将来は、阿倍野再開発計画の一環としての松屋町筋延伸線建設計画がある。
B交通機関
あいりん地区の都市交通機関としては、国鉄環状線、関西本線、南海本線、南海阪堺線、南海平野線、南海天王寺線、地下鉄1号線(御堂筋線)、地下鉄6号線(堺筋)市バスがあり、昭和39年以降、交通需要に対応した交通体系の整備は著しい。
この地区には、次の駅、停留所がある。
1)国鉄環状線、関西本線:新今宮
2)南海本線 :新今宮、萩之茶屋
3)南海阪堺線 :南霞町、今池
4)南海平野線 :飛田、今池
5)南海天王寺線:今池町
6)地下鉄1号線(御堂筋線):動物園前
7)地下鉄6号線(堺筋線):動物園前
8)市バス:動物園前、曳舟町、今池町、新今宮駅前
C地区の環境
宿泊施設として簡易宿所、アパート。飲食施設として食堂、立飲屋、喫茶店などが林立しているほか、遊技場、質屋も多く、特異な生活環境を形成している。
バラック(仮小屋)や共同住宅は都市計画事業の推進に伴い、殆どなくなった。
ア、宿泊施設(建物等)
主として労働者を対象とする宿泊施設(建物)には、つぎのようなものがある。
s46 | ||
形態 | 戸数 | 収容能力(人) |
旅館 | 46 | * |
共同住宅 | 2 | 330 |
バラック | 25 | * |
簡易宿泊所 | 220 | 22,896 |
日払アパート | 46 | 2,852 |
一般アパート | 282 | 10,582 |
小計 | 615 | 36,660 |
注:戸数の計が合わない=ママ |
このうち、簡易宿所は、数年前からの新改築ブームにより、エレベーター、冷房装置を有する軽量鉄骨5階、6階建、その宿泊定員も300〜400人といった大型化、巨大化の傾向を強め、現在220軒中81軒が鉄骨構造、さらに3軒が前同様の構造に改装中である。
簡易宿所は、通称ドヤと呼ばれ、1人1畳の個室が多く、敷金なし、食事なし、寝具付、部屋代は日払い200円前後で、旅館的正確よりも住居的性格をもっている。
簡易宿所は、木賃宿或いは旅人宿と呼ばれていたが、昭和23年の旅館業法施行後、所管が警察行政から厚生行政へ移り、名称も下宿となり、さらに昭和32年同法改正に伴い簡易宿所と名称変更が行われた。
このように、外見にはきわめて近代化しつつあるが、内部構造からみる限りさしたる変容もなく、非常階段、非常口、非常ベルなど、火災その他災害発生時の非難設備等については、関係機関の強力な指導と、大阪府簡易宿環境衛生同業組合の努力によって改善が進んでいるとはいえ、全般的に見ると、まだまだ不備欠陥を数多く露呈している。
客室の構造も畳1帖の個室が大部分を占め、2帖〜3帖と部屋の形態を備えるものは少ない。
また3帖と表示のある部屋であっても、畳半帖大のもの3枚、いわゆる釜ヶ崎サイズといわれるものがいまだに存在する。
s46 | ||
広さ | 料金(円) | 利用度の多いもの |
1畳 | 130〜300 | 200 |
2畳 | 150〜400 | 250 |
3畳 | 200〜1,000 | 400 |
4.5畳 | 330〜1,300 | 500 |
4.5畳以上 | 380〜1,500 | 500 |
ベッド | 100〜350 | 150 |
s46 | |||||||
区分 | 有許可 | 無許可 | 合計 | ||||
構造 | 数 | 収容能力 | 数 | 収容能力 | 数 | 収容能力 | |
個室(小間) | 145 | 14,929 | 61 | 6,539 | 206 | 21,468 | |
ベッド式 | 1 | 230 | * | * | 1 | 230 | |
個室・ベッド併用 | 8 | 941 | 1 | 50 | 9 | 991 | |
大部屋・個室併用 | 4 | 207 | * | * | 4 | 207 | |
計 | 158 | 16,307 | 62 | 6,589 | 220 | 22,896 |
イ、酒屋、飲食店、風俗営業、古物営業等
労働者を主たる顧客とし、従って安易に利用できる施設(業態)にはつぎのようなものがある。
1)防犯営業
s46 | |||||
業種 | 質屋 | 古物商 | 金属屑商 | 金属屑行商 | 計 |
数 | 22 | 351 | 10 | 69 | 452 |
2)風俗営業
業種 | カフェー | 小カフェー | 料理店 | 小料理店 | パチンコ店 | 麻雀店 | その他 | 計 |
数 | 10 | 5 | 1 | 77 | 11 | 21 | 10 | 135 |
3)飲食店等
業種 | 立飲み屋 | 酒 類 販売業 |
食 堂 | 移 動 飲食店 |
ホルモン 店 |
喫茶店 | すし屋 | お好み 焼き屋 |
計 |
数 | 164 | 28 | 161 | 41 | 22 | 90 | 33 | 34 | 573 |
地区で最も目立つのは、立飲み屋や飲食店の多いことである。簡易宿泊所に宿泊する労働者の全てが外食にたよっていること、また生活にうるおいの少ない労働者が求めるものは、何といっても酒、このような需給関係の必然性から、逐年立飲み屋や飲食店は増加の傾向にある。
品名 | 価格(円) | 品名 | 価格(円) | ||
主 食 類 | めし(中) | 50 | めん類 | 素うどん | 40〜50 |
カレーライス | 130〜150 | きつねうどん | 80〜90 | ||
親子丼 | 140〜170 | 天ぷらうどん | 70〜250 | ||
天丼 | 130〜150 | 玉子うどん | 90〜100 | ||
他人丼 | 150〜170 | 肉うどん | 120〜130 | ||
焼きめし | 80〜180 | 中華そば | 100 | ||
雑炊 | 150 | 副食類 | 造り(タコ) | 50〜70 | |
巻きずし(1本) | 80〜90 | 豆腐 | 40 | ||
いなりずし(1皿) | 80 | 焼魚(あじ) | 60〜80 | ||
ばらずし(1皿) | 60〜80 | 酒 類 | 特級 | 150〜160 | |
にぎりずし(1皿) | 50 | 1級 | 120 | ||
かやくめし(中) | 60〜100 | 2級 | 80 | ||
汁 類 | みそ汁 | 20〜30 | 焼酎 | 40〜60 | |
赤だし | 60 | ビール(大) | 170 | ||
かす汁 | 70〜90 | ウイスキー(1合) | 60 | ||
豚汁 | 60〜70 | その他 | 関東煮 | 20〜50 | |
貝汁 | 70 | 牛乳 | 30〜35 | ||
すまし汁 | 40〜60 | サイダー | 25〜50 | ||
ジュース | 30〜80 |
ウ 保健衛生等の設備
地元の関係機関の連携協力により公衆便所の設置、道路補装(修)、街路灯(防犯灯)の設置、計画的な清掃作業等々の施策が推進され、町の様相も逐年整備美化されつつあるとはいえ、労働者層の悪癖、習慣性といったものは一向に向上せず、ときところを構わず放尿、放痰が行われ、夏場は特に異臭をはなち、衛生環境はきわめて悪い。
C労働者の稼働形態と就労状況
地区日雇労働者は約18,000人で、その内訳は
1)職安グループ 3,500人(失対 900、港湾 900、民間 1,700)
民間事業、失業対策事業、港湾労働業、職業安定所に登録されたもの
2)直行グループ 7,000人
公的機関を利用せず、常駐の形態で各事業所に直行して稼働するもの
3)労働福祉センターグループ 7,500人
総合福祉センターの寄り場を利用し、建設、製造、港湾荷役の労働に従事する日雇労務者、及び、同じく寄り場およびその周辺で求人する飯場関係手配師との間で、10日、15日と期間雇用契約により、飯場を稼働先とする労働者。
就労数は経済界の好不況、季節、天候により波動し、就労先は有技能者を除くと、建設、製造関係が多く、港湾関係は港の近代化に伴い、激減している。
各職種別の稼働日数は、20日前後が多く、賃金は、大工、トビ職、左官の3,500〜4,000円を除くと、港湾労働者3,000円、建設労働者2,600円、職安民間労働者2,200円、失対労働者1,300円の平均賃金となっている(昭和46年現在)。
建設関係 | ||
職種 | 標示賃金 | 地区労働者の最頻度賃金 |
とび職 | 3,500〜3,700 | 3,500〜3,700 |
大工 | 3,500〜4,500 | 3,500〜4,000 |
左官 | 3,500〜4,000 | 3,500 |
大工手元 | 3,000〜3,500 | 3,000〜3,500 |
屋根手元 | 3,500〜4,000 | 3,500 |
鉄骨 | 2,600〜3,500 | 2,600〜3,000 |
土工 | 2,500〜3,000 | 2,500〜3,000 |
雑役 | 2,400〜2,600 | 2,400〜2,600 |
製造(会社)関係 | ||
職種 | 標示賃金 | 地区労働者の最頻度賃金 |
とび職 | 2,700〜4,000 | 2,700〜3,000 |
熔接 | 3,400〜4,000 | 3,400〜3,800 |
サンダー、グラインダーかけ | 2,300〜2,800 | 2,300〜2,500 |
塗装 | 2,500〜3,000 | 2,500〜3,000 |
玉かけ雑役 | 2,400〜2,500 | 2,400〜2,500 |
運輸関係 | ||
職種 | 標示賃金 | 地区労働者の最頻度賃金 |
運転手(大型) | (月給7〜8万) | 3,500〜3,800 |
3,500〜3,800 | ||
運転手(普通) | (月給6.5〜7.5万) | 3,000〜3,500 |
3,000〜3,500 | ||
積卸、荷造助手、雑役 | (月給5万) | 1,900〜2,500 |
1,900〜2,500 |
港湾関係 | ||
職種 | 標示賃金 | 地区労働者の最頻度賃金 |
鉤 | 3,500〜6,500 | 有技能で地区からの就労者なし |
肩 | 5,800 | |
はい | 5,000〜6,500 | |
肩鉤 | 5,000〜6,200 | |
雑役 | 2,700〜4,000 | 2,500〜3,000 |