あいりん地域の中長期的なあり方 1998(平成10)年2月
                  あいりん総合対策検討委員会

T.はじめに
U.あいりん地域について沿革・現況・地勢・範囲・人口(a.住民人口・b.日雇労働者人口
V.現状と問題点1.生活環境(a.街並み・b.地域施設等・c.簡易宿所等・d.商店等・e.公園・f.道路等・g.保健・衛生、公衆便所・h.防犯)2.労働者の生活(a.衣・食・住・b.収入・c.健康・d.余暇・e.生活設計等)/3.就労の状況(a.就労の実態・b.紹介の状況・c.日雇労働システムの形成・d.日雇労働者の福利厚生)/4.福祉の状況(a.労働者の生活と福祉的なニーズ・b.生活保護の状況・c.その他の援護状況・d.年末年始対策)/5.高齢労働者6.地域内の路上生活者の状況7.地域社会8.ボランティア団体9.労働組合10.業界・事業所11.国における対応について
W今後のあり方.
1.「雇用対策」の今後について
1)「日雇労働」概念の再考(a.「日雇労働」概念の登場・b.常用化の進展と対峙する日雇労働 2)日雇労働システムの意義と限界(a.日雇労働システムの構築とその功罪・b.日雇労働システムの限界・c.日雇労働の再考 3)フロー型雇用形態と日雇労働(a.フロー型雇用の先行的形態・b.複線的雇用形態の選択(中長期的対応) )/4)今日的課題への対応(中長期につなぐものとして)(a.高齢労働者の分析・b.老後生活への対応・c.総合対策機能の充実)/5)総合対策の推進
2.福祉の課題1)市民理解の深化2)既存施策の見直し(a.福祉的機能を有する短期宿泊施設(シェルター・プラス・ケア)・b.就労促進の福祉施策(ウエルフェアー・ツウ・ワーク)・c.医療と福祉3)新しい社会福祉施策の展開
3.生活環境からみたあいりん地域の課題に対して1)基本的視角2)住宅対策3)環境改善施設対策/4)簡易宿所対策5)地域施設対策6)環境美化対策7)まちづくりへの総合的取り組み
V.まとめ
1.中長期的対応/2.総合的対策
(参考)〔検討委員会 委員名簿〕

1.はじめに

 行政によるあいりん地域への対応が本格的に行われ始めたのは、昭和30年代後半である。それ以降、30数年が経た現在、地域は一定の改善が図られているところとなった。
 しかし、近年の労働需要の低迷や日雇労働者の高齢化、また、路上生活者の滞在と他地域からの流入など、新しい問題も顕在化し始めている。
 中長期的将来を考えるとき、この地域の問題は、これまでの対応の延長線では、解決が困難になることが予想される。
 都市計画、環境整備、雇用、福祉、保健医療、社会教育などまちづくりを含めたより総合的で且つ、新しい視点からの中長期的なあり方と、それに向けての短期対策を検討し直すことが、今求められていると考える。
 本委員会は、平成6年11月に開催された大阪府知事、大阪市長による府市懇談会において、あいりん地域のまちづくりの視点を含めた中長期対策のあり方や展望を、総合的に検討する場の必要性が認識され、それに基づいて設置されたものである。
 この報告書は、平成7年6月29日の第1回検討委員会以後、延べ数10回に及ぶ検討をまとめたものである。
 本報告書では、あいりん地域対策の新しいコンセプトをできるだけ経験的内容を持つ形で提示した。これが、地域発展の指導理念になり、各関係行政機関が、現行施策を見直し、中長期的将来に向けて計画的に取り組まれることを期待する。
 検討するに当たっては、多くの方のご協力を得た。紙面を借り、改めて、心からお礼申し上げるものである。

U.あいりん地域について

.沿革
 古来、この地域は、紀州街道沿いにあった小集落の一つとして、なにわ江の渚が続く「難波の名呉の浜」と呼ばれた漁村であった。
 この地域が現在のような日雇労働市場を形成するのは、明治以降のことである。
 大阪市内においては、明治期半ばまで、現在の日本橋3〜5丁目付近(当時長町と呼ばれていた地域)に、長町スラムという府下最大のスラム街があったが、明治36年の第5回内国勧業博覧会が、現在の天王寺公園・新世界一帯で開催されることに関連して、宿屋営業取締規則(明治31年)が制定され、この長町スラムが取り壊された。長町スラムにあった木賃宿は釜ヶ崎と呼ばれる一帯に流入し、日雇労働市場もまたこの地域に移り、現在の原型が出来上がった。
 明治期から昭和初期にかけて、大阪は、経済の中心としての機能が格段に増大し、港湾の発展、交通網の整備等により、人的資源に対する需要が増え、都市部への流入人口が飛躍的に増加していった。また、拡大する労働需要に対し求人者が簡易に単純労働力を集める手段として、この地域での求人が一般化した。
 木賃宿や労働者、求人者の集中、そして新たな労働者の流入ということを繰り返し釜ヶ崎は日雇労働市場として拡大していった。
 更に、戦後においては、その復興期の建設需要と高度成長による港湾・運輸需要の増大により、 この地域の日雇労働市場は一層の拡大をみせた。
 また、木賃宿は、より収容数の多い簡易宿所に姿を変え、職を求める人々の流入は過去にもまして多くなっていった。
 一方、所得の向上や、公的住宅の建設と低所得世帯に対する行政施策が充実したことから、地域内の世帯持ちが劣悪な住環境からの脱却を図って減少し、行政施策の対象となりにくい、単身の不定住者の増加が目立つようになった。
 現在では、この地域は、かつての生活困難な世帯等の集合体というよりも全国から流入してくる単身者の求職や生活の拠点に変化し、それに対応した公的施設や簡易宿所・飲食店・コインランドリーなどが集中する日雇労働者の街という様相を呈している。
 なお、地域においては、昭和36年8月の第1次暴動以降、現在まで23次にわたる暴動が発生している。
 第1次の暴動以降、地域住民、関係団体等の地域活動、関係行政機関等による(財)西成労働福祉センターの設立(昭和37年10月)やあいりん総合センター(同45年10月設置)、更生相談所(同46年8月設置)などを中心とした各種行政施策などにより地域対策の充実が図られてきた。
 昭和48年6月の第21次暴動以後は、暴動の発生を見ることなく平穏に推移していたが、平成2年10月に第22次暴動が発生し、平成4年10月には第23次暴動が発生している。
 釜ヶ崎という地名は、昭和33年に「字水渡釜ヶ崎」「字釜ヶ崎」の地名が町名改称され、浪速区水崎町の一部になったことにより公の地名としては消滅したが、現在も俗称として残存している。
「あいりん」という名称は、昭和41年の第1回あいりん対策三者連絡協議会において、行政施策上の名称として決定されている。
2.現況
1)地勢・範囲
 この地域は、大阪都心部に隣接する西成区の北東に位置している。
 地域内には、JRと南海が交差する新今宮駅を始め地下鉄動物園前駅、阪堺電車南霞町駅などがあり、国道26号線や尼崎平野線など主要幹線道路が行き交う交通の要衝にある。近年は、阿倍野再開発や霞町開発など隣接する地域の開発が進んでいる。
 その範囲は、ほぼ800メートル四方にすぎない僅少な地域であるが、その地域性は、堺筋を挟んで更に東西2地域に分けることが出来る。
 東部地域は、木造賃貸住宅が多く、また地域内を商店街が通るなど、どちらかと言えば、住宅・商業地域を形成しており、大阪の下町風情を色濃く残している地域である。
 
西部地域は、高層の簡易宿所が林立し、労働者相手の飲食店やコインランドリーなどの商店や露店が軒を連ねており、地域対策を目的とした関係施設の多くが集中している。
2)人口
a.住民人口
平成7年の国勢調査によると、この地域の人口は、男性22,183人、女性5,781人、総数27,964人である。

総 数     男 性      女 性

昭和55年  25,682人   18,485人  7,197人
昭和60年  26,379人  19,847人  6,532人
平成 2年  30,745人  25,118人  5,627人
平成 7年  27,964人  22,183人  5,781人

 1世帯当たりの人員(世帯数;22,067世帯)は、1.27人で、男女構成比は、男性が79.3%に達している。
 特に萩之茶屋地域では、男性が91.9%に達しており、男性単身者の集中が大きな特徴となっている。(大阪市全体の同構成比:男性49.3%)
 1平方q当たりの人口密度は、38,280人と、西成区19,301人の1.98倍大阪市11,793人の3.25倍と高い数値となっている。
 また、高齢化が進展しており、65才以上の人口構成比は、平成2年の10.6%(3,269人)から平成7年の15.3%(4,292人)へと増加している。
b.日雇労働者人口
 この地域内に滞在・居住している日雇労働者数を端的に示すものはない。
 あいりん労働公共職業安定所発行の雇用保険被保険者手帳(通称:白手帳)所持者数は、平成9年3月末現在15,130人となっている。
 しかし、地域を就労の拠点とする日雇労働者のなかには、なんらかの理由により白手帳を所持していない者が半数近くに達すると推測され、また、期間雇用などで飯場に入っている者や白手帳所持者で地域外に居住する者もいる。
 地域内にある簡易宿所などの収容能力は約20,000人で、利用率は8割〜9割と言われており、16,000人〜18,000人の利用者が推定される。
 また、人数は不明であるが、アパートなど(収容能力:約5,000人)にも入居している者もいる。
 これらを勘案すると、地域内に滞在・居住している日雇労働者の総数は約20,000人弱と推定される。
 年末年始やお盆の時期には、飯場からあいりん地域に戻る者もおり、簡易宿所などが満室に近い状況になることから、これらの時期には、20,000人を超える日雇労働者が滞在・居住していると推定される。
 なお、近年の白手帳所持者数は、昭和61年をピークにその後減少を続けていたが、平成6年から一転して増加傾向を示している。

昭和57年度末 15,128人
昭和58年度末 15,673人
昭和59年度末 18,881人
昭和60年度末 22,485人
昭和61年度末 24,458人
昭和62年度末 22,200人
昭和63年度末 17,461人
平成 元年度末 15,371人
平成 2年度末 14,330人
平成 3年度末 13,250人
平成 4年度末 12,626人
平成 5年度末 12,300人
平戎 6年度末 13,468人
平成 7年度末 14,530人
平成 8年度末 15,130人

 また、明確な数値は無いが、平成7年1月の阪神・淡路大震災以降、その復興工事による建設需要などを期待して全国から多くの労働者が集まり、更に外国人労働者も増加していると言われている。

V.現状と問題点

1.生活環境
a.街並み
 街並みは、先に述べたように堺筋を挟んで東西で異なった特徴がある。
 東部地域においては、戦前からの木造建物が多く残り、木造アパートや商店等が混在し、古い街並みが残っている地域である。また、この地域は、天王寺村など昔から庶民の街として、親しまれてきたところでもある。反面、狭い路地が入り組み、落ち着きのある風情を持っているものの、防災上の課題がある地域である。
 西部地域は、区画整理が行われ、高層の簡易宿所が立ち並び、道路幅も広い。しかし、一部には木造老朽建物や空き地などがあり、また、屋台、露店や放置自動車や放置自転車などが路上を占拠している。更に大量の不法投棄ゴミがあり、雑然としている。
 なお、都市計画上の用途指定は、全域が商業地域である。
 また、幹線道路沿い及び高架工作物は防火地域に、その他の全域は準防火地域に指定されている。
b.地域施設等
 この地域内の地域施設・機関等は次のとおりである。
(労働関係) ・あいりん労働公共職業安定所(あいりん総合センター内)
         ・あいりん労働公共職業安定所分室
         ・西成労働福祉センター(あいりん総合センター内)
       
・あいりん労働福祉センター(あいりん総合センター内)
          ※寄場、各種福利厚生施設等

         ・玉出社会保険事務所出張所
(福祉関孫) ・更生相談所

・西成保健所分室(更正相談所内)
・あいりん生活相談室(更正相談所内)
・愛隣貯蓄組合(更正相談所内 ※通称:あいりん銀行)
・救護施設三徳寮
・救護施設今池平和寮
・救護施設愛隣寮
・生活ケアセンター(三徳寮内)
・今池子供の家

(医療関係) ・大阪社会医療センター(あいりん総合センター内)
・大阪社会医療センター歯科診療所
(社会教育関係)・西成市民館

・新今宮文庫(三徳寮内)
・談話室(三徳寮内)
・娯楽室(あいりん総合センター内)
・子供教室(三徳寮内)
・萩之茶屋老人憩いの家・萩之茶屋集会所(三徳寮内)
・太子文化会館(※太子老人憩いの家・太子集会所)

(市営住宅)  ・市営萩之茶屋住宅(あいりん総合センター内)
・市営萩之茶屋第2住宅
(消防関係)  ・西成消防署海道出張所 等
 あいりん総合センターや大阪市立更正相談所など日雇労働者を主な対象とする地域施設がある。
 各施設は、府市施策の一環として、日雇労働者の安定就労や生活改善の促進を目的として設置されたが、施設の集中が、地域を特徴付けているという側面もある。
これら施設のなかには、地域対策の充実が図られた昭和30年代から40年代に建設されたものもあり、その老朽化が目立ちはじめている。
C.簡易宿所
 0.62平方qの狭隘な地域に、200軒を越える簡易宿所や準簡易宿所が密集しており、この地域を特徴づけている。
 その多くは、鉄筋・高層化しており個室化が進んでいるが、居室の広さは3畳程度で、各室には炊事場やトイレなどの付属設備が無いものが多い。
 居住空間としては不備・狭小であり、食事や洗濯その他日常生活を送るうえで不足する部分を簡易宿所の外に求めざるを得ない状況にある。
 準簡易宿所が37軒(平成8年春)あり、その多くは、居室の広さ、設備などが平均的な簡易宿所の水準を下回っている。これらは、旅館業法の対象外であることから、その規制を受けることがなく、衛生・防災上の課題が残ているものもある。
d.商店等
 地域内には、飲食店・弁当屋、作業服販売店、公衆浴場、コインランドリー、コインロッカ一などが多い。また、酒類などの自動販売機も多く設置されている。
 地域内に幾つかある商店街は、買物客で賑わい、街を活気あるものにしている。そして、路上には屋台や露店が出店しており、そのなかには、小学校周辺でカラオケを大音量で流すものや道路を常時占拠しているものなどがある。
e.公園
 地域内には、次の5か所の都市公園が設置されている。

萩之茶屋南公園(通称:三角公園) 2,710u
萩之茶屋中公園(通称:四角公園) 1,575u
萩之茶屋北公園            833u
花園公園             3,406u
山王公園               829u

 萩之茶屋南公園や萩之茶屋中公園では、「炊き出し」が行われ、その周辺に露店などが集中し、多くの日雇労働者や路上生活者が集まっている。なかには、公園内でテントを張って寝泊まりする者もいる。
 また、不法投棄のゴミなどが散乱している。
 萩之茶屋北公園は、整備されているものの、フェンスで囲われており、自由に利用できない状況になっている。
f.道路等
 地域内及び周辺には、阪神高速道路や国道26号線、43号線、また、JRや南海電鉄、大阪市営地下鉄、阪堺電気軌道等が通っている。
 地域内の道路には、露店、屋台が多く、通行に支障をきたしている。
 加えて、廃棄された自動車や自転車などが路上に放置されており、廃棄自動車のなかには、路上生活者が寝泊まりしているものもある。
 不法投棄のゴミも多く、防災上や衛生上の問題を生じさせ、また、街の景観を損ねている。
 大阪市において、生活道路清掃事業や不法投棄物の除去、清掃などを行っており、道路の美化に一定の効果があがっているが、その量があまりにも多いため、不法投棄に追いつかない状況である。
 違法な露店、屋台に対しても、撤去してはまた現れるという繰り返しであり、その対策が課題となっている。
g.保健・衛生、公衆便所
 この地域の結核罹患率(平成8年度)は、人口10万人当たり1,900人となっており、他地域を大きく上回っている。(西成区 554人、大阪市 104人)
 大阪市においては、市民健康検診やレントゲン検診などを実施しているが、日雇労働者の受診率は低い。
 地域内に居住する日雇労働者の多くは、地域とのつながりが希薄であるため、保健衛生上の広報・啓発が灘しい状況にある。
 地域の路上や公園においては、ゴミの不法投棄が多く、また、放尿等の跡が見られ、異臭と衛生上の問題を生じさせている。
 公衆便所は、地域内の公園などに6か所設置されている。また、あいりん労働福祉センターの便所もよく利用されている。
 しかし、人口は密集状況にあり、地域内の衛生水準を維持するための検討が必要である。
 また、地域の一部においては、野犬や放し飼いの犬に対する苦情があり、その対策が求められている。
h.防犯
 地域内では、刑法犯発生件数が西成区の2割近くを占めている。覚醒剤取締法違反や公営競技法違反、銃刀法違反などの特別法犯においても高い比率を占めている。
 地域を活動拠点とする暴力団が多くおり、これらの犯罪の元凶となっていると思われる。
 地域内では、「しのぎ」と呼ばれる路上強盗容疑事犯もみられ、金品を奪われたり、怪我を負わされるなどの被害に遭う労働者が後を絶たない。
 これらの状況は、住民の生活を脅かすだけでなく、青少年に与える影響も大きいものがある。また、地域のイメージに対しても悪影響を及ぼしている。
 多発する犯罪に対して、関係機関はもとより住民においても、一体となった取り組みが図られているが、より一層、防犯対策の強化が求められる。
2.労働者の生活
a.衣・食・住
 地域の日雇労働者は、簡易宿所、飯場、賃貸住宅などを住居としている。
 この他、社会構造研究会の調査(平成8年9月実施・速報値)によると、福祉関係などの施設に入所している者や映画館、サウナ、公園などを寝床としている者がいる。
 この内、日雇労働者の多くは、簡易宿所に宿泊している。
 宿泊料金は、一泊400円位から4,500円位まで幅があるが、1,500円前後が平均的な価格帯である。
 一泊1,500円の場合、月額にすれば賃貸住宅に入居可能な額になる。それでも簡易宿所を利用するのは、期間雇用として飯場に入ることを考慮していることや保証人や権利金・敷金が用意できないことなどの事情が考えられる。
 また、日雇労働の斡旋はあいりん労働福祉センターで行われるが、その紹介時間は早朝の5時頃から始まるため、同センター近辺にある簡易宿所を利用すると考えられる。
 簡易宿所利用者の中には、住所の転入・転出届などの手続きを行っていない者もおり、これは各種社会保険制度への加入などを阻んでいる要因になっている。
 あいりん労働福祉センターから就労する者は、センター内の食堂や周辺の飲食店で朝食を済まし、現場へと向かう。昼食は現場で摂り、夕食は、地域内の食堂で済ましたり、弁当を購入して簡易宿所で食べている。
 社会構造研究会の調査によると、次のように、自炊をする者は少なく、弁当購入や食堂利用などの外食中心の食生活となっている。
 また、炊き出しを利用する者もいる。このため栄養のバランスが悪く、なかには多くのアルコールを摂取する者もおり、健康を害する一因となっている。
(夕食の場合)   自炊  弁当・食堂  炊き出し   その他

 全 体  5.7%  47.0%  26.8%  20.5%
 簡易宿所 7.6%  71.8%   7.6%   13.0%
 野宿者  該当なし 19. 1%   47.5%   33.4%
(同調査 前日の就寝場所と夕食内容のクロス集計より抜粋)

この地域を就労の拠点とする日雇労働者の多くは、建設業に就労していることから、地域内では、建設現場での就労スタイルの者を多く見かける。
b.収入
 地域日雇労働者の賃金日額は、(財)西成労働福祉センターの業務統計・平成7年度版(平成8年3月平均値・日々雇用:相互選抜管理方式、所謂、相対方式)によると、一般土工は、13,488円となっている。技能を有する場合は、仮枠大工20,510円、鳶工20,201円、左官工19,534円などと一般土工より数割高い賃金日額となっている。
 1か月の就労日数は、白手帳所持者の場合、13日から15日位が多く、20日以上就労している者は少ないようである。
 これは、雇用保険における日雇労働求職者給付金(失業給付)の受給資格要件の影響によると、思われる。
 なお、白手帳を所持していない者の中には、失業給付を期待できないことから、20日以上就労している者もいると思われる。
 また、地域の日雇労働者の多くが建設業で就労していることから、建設業界が持つ波動性により、建設需要が落ち込む時期には、就労日数が減少するという影響を受けている。
 失業給付の受給資格は、失業の日の属する月の前2か月間に印紙保険料を26日分以上納付していることが要件となっており、受給資格者は、印紙納付枚数に応じて、13日から17日分までの失業給付が受給できることとなっている。
 平成8年度のあいりん労働公共職業安定所における平均給付日数は、10.9日/月となっている。
 これらから白手帳所持者の1か月の収入を推測すると、
13,500円×13日十7,500円×11日=258,000円(13日間就労、日額13,500円、11日分の失業給付1級を受給の場合)となり、13日の就労で、単身生活を維持するには相応の月収額となっている。
 しかし・高齢労働者などの中には、就労日数が少なく、且つ、失業給付も受給できず、厳しい生活となっている者もいる。
C.健康
 地域の日雇労働者は、屋外における激しい肉体労働と、外食中心の栄養の偏り、多量の飲酒、衛生的な課題が多い生活環境などにより健康を害することが多い。
 特徴的な疾患としては、結核、腰痛、肝臓障害、アルコール依存症などがある。
 治療を必要とする者のなかには、健康に対する意識が低く、また、たまに見つかった仕事で無理をするなど、病気が完治しないまま治療を中断し、症状悪化・再発を繰り返すケースもある。
 風邪など入院するに至らない軽度の疾患の場合でも、十分な食事が摂れないことや路上生活を余儀なくされることなどから病状悪化・進展する場合も少なくない。
 今後は、直接的な医療サービスとともに、生活に困窮する病弱者などの療養環境の整備が求められる。
 大阪社会医療センターは、あいりん地域やその周辺の日雇労働者などに迅速な医療を提供することを目的として、昭和45年に設置された。以後、、地域医療の拠点として、健康保険の資格や所持金の無い者に対する無料低額診療を実施し、困窮状態にある者の医療サービスを受ける機会を保障するなど、地域日雇労働者の健康維持や労働力の回復に寄与してきた。
 近年、無料低額診療の受診者が増加傾向にあり、経営を困難にしていることから、日雇労働者の健康保険への適用促進策などの検討が求められる。
d.余暇
 地域の日雇労働者の多くは、その就労形態から、結果として多くの余暇時間を有している。この自由な余暇時間を「仲間との会話」、「テレビ・ラジオ」、「趣味活動」、「飲酒」、「競艇」、「パチンコ」などで過ごしている。
 地域内にある三徳寮内の談話室や新今宮文庫(図書室)、あいりん総合センター内の娯楽室は、余暇を過ごす労働者などで常時満員の状況である。
 簡易宿所は、居住空間としては狭小なため、宿所外に余暇を過ごす場所を求めることになるが、地域内では余暇を過ごすための施設が不足している。
e.生活設計等
 現在、年金保険に加入している日雇労働者は極めて少ない。(社会構造研究会調査速報値 「年金加入者」12、8% 461名中59名)
 日雇労働者が加入できる年金保険は国民年金であるが、月額払いであることや、各種の手続きを住民登録をしている市区町村で行うことなど、地域の日雇労働者の生活・就労実態から加入が困難な者も多い。
 また、厚生年金のように事業主負担が無く、掛け金が高額であることも加入を阻んでいる要因となっている。
 労働者の預金の奨励を目的に設置されている愛隣貯蓄組合(通称あいりん銀行)の預金額を見ると、平成9年3月末現在において、有効口座数6,706口で、預金総額11億2千8百万円、1口平均16万8千円となっている。当面の生活安定には有効な金額であるが、老後の生活設計としては、不十分な金額である。
 (同調査 速報値 今の貯蓄額について 「なし」41.4% 461名中191名「50万円未満」 8.7% 461名中40名)
 また、同じく社会構造研究会の調査によると、結婚経験に関する質問から「現在、妻がいる者」は、20.0% 461名中92名となっており、その内、妻と何らかの連絡を取っている者は、25名という結果になっている。
3.就労の状況
a.就労の実態
 あいりん地域は、全国一の日雇労働市場として、東京都・山谷地域や神奈川県・寿地域を大きく上回る規模を呈している。
 白手帳所持者数(平成9年3月末現在)
   あいりん地域 15,130人(あいりん労働公共職業安定所発行分)
   山谷地域    5,770人(玉姫労働出張所・河原労働出張所発行分
   寿地域     4,660人(横浜港労働出張所発行分)
 地域の日雇労働者の就労先は、(財)西成労働福祉センターの業務統計・平成7年度版・日々雇用の求人・紹介数によると、産業割合では、96.0%が建設業に従事している。このような建設業への偏りは、日雇労働者の就労や生活に大きな影響を与えている。その就労先のほとんどは、零細事業所で、雇用管理が十分に行われていないところもある。
 また、業界の中で弱い立場にある地域の日雇労働者は、建設業が有する景気や季節による波動性の影響を一番強く受け、労働者の生活安定が疎外されている。
 更に、地域の日雇労働者は無技能者が多く、建設業のなかでも一般土工など肉体労働が中心となっており、年齢の上昇とともに日雇労働への就労機会が減少している。
 同センター業務統計・日々雇用・建設業種別紹介者割合(上位3位まで)
 年 度      一般土工  鉄筋工   鳶工   (建設業総数)
昭和55年度 実数 547,336人 6,710人 12,653人 (610,971人)
       割合  89.6%    1.1%    2.1%
昭和60年度 実数 615,048人  62,365人 31,331人 (789,232人) 
       割合  77.9%    7.9%    4,0% 
平成 2年度 実数1,329,615人 165,669人 64,240人 (1,781,025人)
       割合  74.7%    9.3%    3.6%
平成 7年度 実数 745,799人 123,652人 71,600人 (1,089,671人)
       割合  68.4%    11.3%     6.6%
 建設業における全国の日雇労働者数は、昭和55年には、55万人を越えていたが、現在では、30数万人に減少している。
 建設業における急速な機械化の進展や業界全体における効率化の追求が、一般土工の需要を減少させている。
 (財)西成労働福祉センターにおける日々雇用の取り扱い件数においても、上述したように、年々一般土工の割合が減少している。
 今後の需要の動向は不透明であるが、これまでの傾向から半断して、一般土工の減少は続くものと思われ、地域日雇労働者の有技能化や常用化の促進、他業種への転職などの対応が求められる。
 日雇労働者の1か月の就労日数は、「収入」の項でも述べたように、白手帳所持者の場合、13日から15日が多い。
 日々雇用と期間雇用(1か月以内の複数日契約)の就労書の割合は、明確ではないが、景気が良いと、自由な日々雇用の就労者が増え、景気が悪くなると安定している期間雇用での就労者が増加すると言われている。同センター業務統計・平成7年度版による日々雇用と期間雇用の割合は、日々雇用67.2%(1,260,407人)、期間雇用32.8%(613,875延人)となっている。
b.紹介の状況
 地域における紹介状況は、(財)西成労働福祉センターの取扱い状況(日々雇用紹介件数に)よると、昭和56年度以降、増加の一途であったが、バブル経済が崩壊した平成3年度後半期以降減少を続け、平成5年度には、年度総数が平成元年の半数以下に落ち込んだ。しかし、平成6年度、7年度は、阪神・淡路大震災の復興関連工事等の影響からバブル経済時には及ばないものの一定の回復が見られた。
 平成8年度に入ってからは、復興需要の反動減があり、併せて、地域の日雇労働者数が増加傾向にあることから状況を更に厳しいものにしている。
 これに対し関係行政機関は、公共工事発注機関等に対する雇用確保に係る協力依頼や求人開拓など、日雇労働者の雇用確保を図るために種々の対策を行っている。
 しかし、一定の成果は出ているものの、地域の日雇労働市場は経済情勢などによって大きく左右されるなど、雇用確保が灘しい状況にある。
 地域における紹介では、所謂「青空労働市場」において、「手配師」による賃金の中間搾取などが問題となっていたが、(財)西成労働福祉センターやあいりん総合センターを中心とした労働対策により、一定の解消が図られてきた。しかし、依然として、建設業への労働派遣を行う業者(所謂、人夫出し飯場)が存在していると言われており、雇用経路の正常化に関する対応が求められている。
C.日雇就労システムの形成
 地域においては、第1次の暴動以降、30数年にわたり日雇労働者の生活の安定や就労の安定などを目的とした各種の地域対策、施設整備が講じられてきたことで、日雇就労を支援するシステムが形成されてきた。
 あいりん労働福祉センターにおける相対紹介は、このシステムの中心に位置するもので、白手帳所持の有無に係わらず紹介が行われている。
※「相対紹介」:西成労働福祉センターが、届出された求人条件を記載したプラカードを求人者に交付し、それを基に求職者と直接交渉して雇用雇用関係を結ぶというもので、早朝5時頃から短時間に多数の求人・求職者の契約を行う必要があることから行われている地域独特の紹介方式である。
 あいりん労働公共職業安定所は、雇用経路の正常化に関する事業所指導などを行うとともに、雇用保険の失業給付の支給を主な業務として、地域の日雇労働者の生活の安定に寄与している。

 しかしながら一方で、雇用保険の失業給付は、日雇労働者の生活を安定させる反面、日雇労働を固着させる側面を有している。
 同安定所は、常用化の促進を目的とした技能講習を実施しているが、結果として、日雇就労の安定には効果があるものの、常用化にはつながっていない。
 (財)西成労働福祉センターは、早朝の「相対紹介」を管理するとともに、有技能者や期間雇用を対象とした「窓口紹介」を行うほか、賃金未払いなどの労働相談や労働災害を被った者に対する休業補償給付立替給付事業、更に、郵便物の取り扱いから尋ね人の照会等の各種相談事業などを実施している。
 
この他、地域内には、日払、低額の簡易宿所を中心に生活を完結させる施設、制度が揃っており、不安定な収入でも暮らせるシステムが成立している。
d.日雇労働者の福利厚生
 昭和44年、地域の労働組合より府、市、建設業界に対し、日雇労働が常用労働者と比べ欠けているものとして、一時金の要求が出された。
 この要求に対して、当時の地域対策が不十分な状況において、何らかの地域対策の充実を図る必要があり、また、現に日雇労働として日々異なる事業所で就労する地域の労働者は、企業における福利厚生を受けにくい雇用形態となっていることから、何らかの労働福祉対策が求められるとして、大阪府は、大阪市及び建設業界の資金協力のもとに、地域日雇労働者の労働福祉の増進や労働意欲の向上を名目とする福利厚生措置事業を実施することとなった。
 昭和46年より実施している本事業は、「モチ・ソーメン代」として、地域の日雇労働者に定着しており、労働意欲の回復など一定の効果が現れているが、事業開始当時に比べ、各種の地域対策も一定充実が図られており、また、個人給付事業であることから、福利厚生としての効果には限界が生じている。
 今後は、地域日雇労働者の高齢化ヘの対応が課題となっていることから、より効果的な事業への転換を視野に入れた制度そのものの検討を行うことが求められている。
4.福祉の状況
a.労働者の生活と福祉的なニーズ
 地域を就労の拠点とする大半の日雇労働者は、福祉に頼ることなく日々の生活を送っている。しかし、平成3年以降の景気後退期からは、高齢労働者を中心として、生活に困窮する者が激増し、地域の福祉的なニーズは高いものとなっている。
 平成7年1月に発生した阪神淡路大震災以後は、その復興需要から福祉的なニーズは減少に転じたが、高齢者の慢性的な生活困窮状況はなお継続している。
 地域の日雇労働者は、健康保険や年金などの社会保険の未加入者も多く(社会構造研究会調査速報値 健康保険加入者 34.9% 461名中161名)、貯蓄額が少ないなど生活設計に長期的な見通しを持ちえない者が多い。
 また、単身であること、匿名性、流動性が強く人間関係や社会関係が希薄であること、家族関係が疎遠であること、企業における福利厚生が受け難い雇用形態であることなどにより、地域の日雇労働者の生活基盤は極めて脆弱であり、福祉的なニーズと隣合わせの生活を送っている。
b.生活保護の状況
 地域における生活保護の相談や措置の決定については、地域内に住居を有する要保護者に対しては、西成区福祉事務所が行い、地域内に住居を有しない要保護者に対しては、大阪市立更生相談所が行っている。
 西成区福祉事務所における被保護世帯数は、平成9年3月末現在1,344世帯と平成3年度末の約40%増となっており、ここ数年増加傾向にある。
 更生相談所における被保護者数は、平成9年3月末現現在2,850人(入所1,797人、入院1,053人)となっており、ここ数年、経済状況の変化と関係なく、同程度の人数で推移している。
 なお、更生相談所の相談件数(平成7年度)は、10,599件であり、この内、再保護の相談は、6,530件(61.6%)となっており、保護終了後に自立が難しいことがうかがえる。また、身体的・精神的に悪化した状態になってから相談に来所する者が多いため、早期の自立が困難な状況となることがある。
 被保護者の中には、自立に至らない自己退院、退所が多く、治療や自立訓練の中断を生じており、保護目的を十分に達成できないという問題が生じている。
 生活保護施設における入所者は、高齢化とともに自立が困難となることから、施設の恒常的な定員超過状況を生み出し、新たな入所者の受入れを阻害するという問題を生じさせている。
 保護施設については、平成元年度以降順次整備され、定員超過状況は一定改善された。今後一層、地域の高齢化が進むなかで、要保護者の増加が予測され、需要に見合った施設整備を図っていくとともに、生活保護施設入所者の自立促進や短期保護機能を持つ施設の創設などが求められている。
C.その他の援護状況
 地域内では、住居が無く一時的に困窮している者を対象とした生活ケアセンター事業(実施主体:大阪自彊館、補助:大阪市)があるが、路上生活からの回復、予防の足掛かりとしての効果があり、また、ベッドの回転率が良く効果的に機能している。(平成8年度事業実績 延べ利用者数 12,293人 1日平均 33.7人)
 事業拡大に対する強い要望があり、処遇スペースの確保が課題となっている。また、地方公共団体単独の事業であることから、国の補助などの財源確保が求められている。
d.年末年始対策
 地域においては、年末年始に現金収入を得る機会が少ないことから、高齢や病弱のため自力で食・住を確保できない日雇労働者を対象として、臨時施設を設置し、宿所や食事などを提供する事業を実施してきた。
 関係行政機関においては、年末年始に飯場を閉鎖しないように飯場を設置する事業所に対して協力依頼を行っているものの、現実には、近畿一円の飯場から多くの労働者が地域に入っている。
 本事業は、臨時施設を毎年建設することや1、000名を越える者を措置することなど、人的・財政的な負担が大きい。
 また、臨時施設であることからその処遇水準にも制約がある。
 今後は、飯場の維持を求める労働福祉的な対策との連携を図るとともに、日常的援護事業の充実など、越年対策をより効果的に行うためのあり方の検討が求められる。
5.高齢労働者
 あいりん労働公共職業安定所が発行する白手帳所持者の平均年齢は、平成9年3月末現在では53.7歳になっており、10年前(昭和62年3月末)の48.2歳と比較すると日雇労働者の高齢化が進展していることがうかがえる。
 高齢労働者の厳しい就労環境に対して、大阪府、大阪市が緊急対策として実施した特別清掃事業は、地域の高齢労働者の生活の安定に一定の効果があった。
 また、(財)西成労働福祉センターが実施する中高年齢者を対象とした技能講習や求人開拓は、高齢労働者の雇用安定に一定の効果を出している。
 しかし、高齢労働者の多くは、技能を有していないことから就労機会は減少しており、高齢であることから、他業種への転職も困難となっている。
 また、これらの者は、年金に加入している者が少なく、老後を支える家族等との関係が薄い者など、老後の生活設計をたてられない者が多い。
 今後は、更に高齢労働者の増加が予想されることから、それに対応した高齢労働者対策が求められる。
6.地域内の路上生活者の状況
 地域内には、景気や季節などの要因による変動はあるが、一時的な者と常態の者を併せて、常時約200人以上の野宿をする者がいる。
 野宿を常態としている者の多くは、公園等に定住し、また、あいりん総合センターの軒先、民家・商店の軒先や道路で寝起きをしているが、多くの者が狭小な地域に集まることが、結果として、公園や道路の機能を阻害させ、環境・衛生上の課題を引き起し、また、焚き火やたばこの始末などの防災上の課題等を生じさせている。
 路上生活に至る背景としては、仕事に就けないことなどによる経済的困窮が直接的な要因と考えられ、その他、様々な要因が関連していると、思われるが、路上生活そのものは、人道的に解消を目指すべき課題として検討されなければならない。
 社会構造研究会の調査によると、野宿をするようになったいきさつに対する主な回答は、「仕事がない」が72.4%(225名中163名、不明等を除く)と一番多く、次いで「怪我で働けない」9.8%(同22名)、「ドヤ代の節約」5.8%(同13名)となっている。その他、「金を盗まれた」、「ギャンブル」、「酒」、「出費があった」、「働く意思なし」などとなっている。
 路上生活者の問題を単に地域の課題とするのではなく、都市問題として全国レベルの検討が必要とされている。
7.地域社会
 あいりん地域には、単身の日雇労働者だけでなく、児童、女性、高齢者をはじめ多くの地域住民が生活を営んでいる。したがって、あいりん地域対策は、日雇労働者のみではなく、住民全体を視野に置いた対策の展開が求められている。
 しかし、これまでの各種行政施策の多くは、日雇労働者を対象としており、それは結果として労働者の集中を招くという一面を有している。
 日雇労働者の集中は、地域経済に多大な影響を及ぼす反面、地域住民の生活環境などにも大きな影響を与えている。
 今後は、環境、衛生、防災など多くの課題を抱えるあいりん地域の現状を改善し、日雇労働者を含め全ての住民が住み良く、また、互いに人権を尊重し合い、生涯を通じて安心して生活できるまちづくりに取り組む必要がある。
8.ボランティア団体
 地域には、いくつかのボランティア団体の活動が活発に行われている。宿泊や休憩場所の提供、医療や生活の相談、「炊き出し」など人道的立場に立った福祉的活動を長年にわたって行っており、多くの路上生活者等の生活を支えている。
 しかし、ボランティア団体の活動は、結果として、地域に路上生活者を呼び込むとして一部住民からは、地域内における「炊き出し」の中止を求める声もある。
 地域におけるボランティア団体の活動をいかに育成するかが課題となっている。
9.労働組合
 地域の労働組合は、一定の企業に属さず、個々では弱い立場にある日雇労働者を地域を単位としてまとめ、業界、事業所や関係行政機関に対し各種の活動を行っている。
 今後も、地域の日雇労働者の生活の安定や労働条件の改善など、健全な労働組合活動を引き続き行うことが求められる。
 また、労働組合においても、労働者の健康管理や生活改善などの支援活動が行われることが期待される。
10.業界・事業所
 地域の日雇労働者の多くが雇用されている建設業界においては、その業界が持つ波動性の調整を地域の日雇労働者に依存しているという面がある。また、重層下請け構造等の特徴から雇用管理が十分に行い難く、特に、地域の日雇労働者が雇用される重層構造の末端零細事業所においては、その傾向が強くある。
 これに対し関係行政機関は、建設業界に対して「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」及び国の「第5次建設雇用改善計画」に基づき、雇用の改善、能力の開発及び向上並びに福祉の増進を図るため、研修会の実施や事業所訪問等により啓発・指導を行っている。
 また、日雇労働者の雇用に関しては、違法な求人活動の排除、募集活動の適正化等を図るため、関係行政機関との連携を図りながら、事業主等に対して指導を行っているところである。
 今後、建設業界においては、直接雇用する事業所は言うまでもなく、元請けや業界団体においても、受注事業の工期設定を平準化するなど、地域日雇労働者の安定就労に積極的な役割を果たし、また、雇用改善や福利厚生の充実、雇用保険や健康保険などの社会保険制度や建設業退職金共済制度への加入促進に取り組むなど、労働者の生活の安定に寄与することが求められる。
 なお、個々の事業所では充実が難しい福利厚生に関しては、共同してそれに取り組み、あるいは、関係行政機関が実施する福利厚生措置事業への積極的な分担が引き続き求められる。
 更に、所謂人夫出し飯場などの違法な求人活動や地域の日雇労働者に対する不当な待遇、偏見等に対しても業界自らの努力が期待される。
 また、業界においては、技能工の不足を課題として、常用雇用者を対象に育成を図っているが、地域における技能労働者の育成に関しても、その役割は大きく、積極的な支援が求められる。
11.国における対応について
 地域の日雇労働者は全国各地で就労しており、逆に、他府県から職を求め、多くの労働者が地域に集まっている。
 日雇労働者の諸問題は、建設業界が持つ構造的な特徴に起因するところが大きく、また、社会構造の急激な変化などから要援護者となる者も少なくない。
 このようにこの地域の諸問題は、大都市特有の問題であるとともに、全国レベルの課題でもある。
 地域においては、関係行政機関が、集中する日雇労働者や要援護者を対象とした、福利構成措置事業や技能資格取得促進事業、越年対策事業、生活ケアセンター事業など地地域独自の事業を行っているが、これらの事業を地方の対策として、地方自治体に任せるのではなく、国自らが全国的な観点から取り組むことが望まれる。
 また、公共工事の発注の平準化など建設業界が持つ構造的な課題への対応や、日雇労働者の高齢化を視野に入れた、雇用保険・健康保険などの社会保険制度や退職金制度への適用促進方策などに対して、国自ら取り組むことが望まれる。

W.今後のあり方

1.「雇用対策」の今後について
1)「日雇労働」概念の再考
a.「日雇労働」概念の登場
 わが国で「日雇労働」がひとつの概念として登場したのは、歴史的にみて第1次大戦後であると思われる。とくに、当時の大都市では工業化が著しく進み、多くの労働力人口を必要とした。たとえば、大阪では1924(大正13)年に大阪市社会部から調査報告書として『日雇労働者問題』が刊行されている。これを見ると、日雇労働が一定の産業と密接なかかわりを有しており、いわば日雇労働市場というべきものを形成していたのがわかる。
 この時期になると近代的な工場で働く常用労働者の比重が増えてくるが、実態としてまだまだ下層社会がそれなりの位置を都市では占めていたのである。したがって、日雇労働は不安定な要素を抱えながらも、ある意味では下層社会のなかの就労の一部としてみられることを許していたといってよい。上述の報告書は、そうした日雇労働の世界をはじめて照らし出したという点において、それなりの意義をもった。
b.常用化の進展と対峙する日雇労働
 しかし、工業化の進展は労働者の常用化をさらに押し進めていった。したがって、戦後になると日雇労働は常用労働に対置されるようになり、むしろ不安定的要素をより強めたというべきであろう。1950年代前半に大阪市立大学のメンバーが行った実態調査(『大阪における内職と日雇の実態』、1954年)はそうした日雇労働の深部に深く切り込んでいる。
 安定した常用労働に対して不安定な日雇労働という図式は、高度成長期になるとほぼ確立したといってよい。1960年代当初に起った「釜ケ崎暴動」は、その意味で日雇労働対策の必要性を激しく訴えるものであった。実際に、その後新しくいくつかの行政的な施策が打ち出され、日雇労働問題の解決に向けての動きが生じはじめたのである。
 それら一連の施策に込められた理念は、日雇労働の不安定な部分をできるだけ緩和すべきだというのは勿論のこと、できれば常用労働者へ転化させていくことにあったといってよいであろう。
 しかしながら、高度成長期から既に20−30年経過した今日、日雇労働は相変わらず存続しているし、不安定な要素も取り除かれていない。それとともに、日雇労働者の高齢化が著しく進展している。この現実は、さまざまな課題となって現れるであろう。たとえば、60年代から始まった施策は本当に日雇労働者の自立に寄与したのかという疑問などはそのひとつである。
2)日雇労働システムの意義と限界
a.日雇労働システムの構築とその功罪
 日雇労働対策として、西成労働福祉センターを中心に種々の関連機関が設置されてきた。それら一連の施策は、日雇労働を取り巻く条件整備から始まり、日雇労働それ自体が本来の機能を果たすように支援するシステムをつくりあげるとともに、一方では何とか日雇労働から常用労働への転換を促すということも視野に収められていた。むしろ、この後者の点にこそ施策の主眼が置かれていたといってよいだろう。
 しかしながら、日雇労働から常用労働へ自立させようという意図とは裏腹に、実態としてはむしろ日雇労働を継続させる結果になったといってもよいであろう。いいかえれば、日雇労働者の生活を安定させるシステムとしての役割を演じてきたともいえるのである。
b.日雇労働システムの限界
 センターを軸にした日雇労働市場の確立は、職住の接近と相俟って一層日雇労働者の生活圏というものをつくりあげていった。見方によれば、それはひとつの経済圏の形成である。つまり、労働で得た収入の大半が生活地域ですべて消費に回ることになり、地域完結性という点では見事に一貫しているのである。それは、日雇労働者の生活世界とでもいうべきものの構築につながった。
 こうしたシステム化の進行は、当初の目的から乖離を生んだ。つまり、日雇労働から常用労働へといっても、なかなか日雇労働から離れなくなるケースが生じ、結果的にはそのまま日雇労働を続ける者の増加という現象がそれである。勿論、こうした場合本人の希望による日雇労働の選択も含まれるが、常用化への途はますます狭くなっていったといえるのである。
C.日雇労働の再考
 繰り返しになるが、あいりん地域日雇労働者に対する支援体制がそれなりの成果を収めてきたのは事実である。しかし、他方で日雇労働を固定化してきた面も否定できないであろう。だとすれば、この時点でもう一度これまでの施策のあり方について、再検討する必要がある。つまり、それは日雇労働をどのように捉え、それに対する対策をどのように考えるかである。
 この課題に接近するためには、ここ20−30年の間に日本の雇用形態がいかに変容してきたかを最低限おさえておく必要がある。とくに、近年では雇用慣行の崩壊が問題になっているからなおさらのことである。マクロ的な視点からみると日雇労働はどのように位置づけられるのかは、その意味で極めて重要な論点である。それを前提にしてはじめて今後の展望が可能になるだろう。
 高度成長期には何かと論議された日雇労働は、70年代に入ってから以降次第に取り上げられる機会が低下したように思われる。国の施策をみても、いつのまにか正面に据えられなくなっており、その位置づけ自体も不明確さを増していった。日本社会の激しい構造変化のなかでどのように日雇労働が変質していったのか、この時点で正確に把握しておかなければ、その本質は理解できないであろう。
3)フロー型雇用形態と日雇労働
a.フロー型雇用の先行的形態
 10年程前からフロー型雇用に対する関心が著しく高くなっている。終身雇用、年功型昇進等に代表されるものをストック型雇用と呼べば、パート、アルバイト、フリーター、派遣などはまさにフロー型雇用の典型である。そして、このフロー型雇用はますますその勢いを強めてきているのが事実だ。それは、これまでの雇用慣行の変更を迫るに十分なインパクトとなっている。
 しかし、よく考えてみれば日雇労働こそフロー型雇用の先行的形態といえるのではないか、以前は、フロー型の比重が低かったためにそれらはむしろ不安定なものとみなされがちであった。しかるに、経済のサービス化やソフト化はますますフロー型雇用へのニーズを高めたのであり、いまやそれはストック型に対する他方の極となりつつある。だとすれば、日雇労働もこのような流れのなかにもう一度置き直してみることが求められるのではないか。
b.複線的雇用形態の選択(中長期的対応)
 以上のような状況変化を念頭におくと、これまで日雇労働対策等の果たしてきた役割は大幅に見直さなければならない。もし、中長期的な展望をあえてするのであれば、それこそ新しい労働対策への移行を真剣に考えなければなるまい。そして、その方向を追求するのであれば、それはたんに日雇労働だけを扱うものではなく、それこそフロー型雇用全体を対象にする形での取り組みが求められるべきである。
 そうした視点は、ますます多様化する雇用ニーズに対処するうえで不可欠であるし、また日雇からパートへ、もしくはパートから日雇へというような複線的な雇用形態の選択を可能にする。いいかえれば、日雇労働しか選択できない現行制度の欠陥を克服することになるだろう。それとともに、急速に進展する情報化に即応した雇用ネットワークづくりを受け入れやすくするだろう。
 もう少し具体的にいうと、新しくフロー型雇用情報センター(仮称)のようなものが考えられる。ここではフロー型の雇用に関する職業紹介、求人情報の提供をはじめ、各種相談、職業訓練など、それこそフロー型雇用についてはすべての機能が備わっているようにすべきである。その際、フロー型といってもそれぞれのタイプの特性をよく見極めたアプローチが必要である。
 もっとも、こうした体制への転換のためには国レベルにおける雇用対策方針の見直しが求められる。つまり、単に大阪だけがかかる機能を集約させるのではなくて、主要大都市の日雇労働市場を再編、整理することが併せて考えられなければならない。そのためには、このフロー型雇用に関する機能を集約したものを全国にいくつか創設し、これらが同時的に機能することが必要である。
4)今日的課題への対応(中長期につなぐものとして)
a.高齢労働者の分析
 さて、以上は中長期的にみたとき、とくに21世紀を展望した場合の日雇労働対策構想とでもいうべきものである。その意味で、その実現のためには計画や準備に相当の時間を要することになろう。しかし、そのような方向づけなしに今日の日雇労働問題を論じれば極めて一面的にならざるをえない。将来の行方をひとまず見定めたうえで、はじめて今日的課題への対処も可能になるからである。
 一方、いうまでもなく日雇労働者の多くは高齢化しており、彼らのための施策が緊急に求められている。しかし、ここでよく考えてみるべきことは高齢者と日雇労働は必ずしも結びつかないのではないかということである。長年日雇労働に従事していた者であれば50歳位がひとつの分岐点となる。それ以後、肉体的にみて日雇労働はかなり加重である。しかも、求人ニーズの動向からみれば・日雇労働をみつけること自体極めて厳しいのが現実である。
b.老後生舌への対応
 では、高齢労働者に対する就労対策はいかにあるべきかということになる。ここで高齢労働者といっても、健康的な者とそうでない者を分けるべきであろう。健康的な者であれば、まだまだ日雇労働を続けるケースがある。50歳を過ぎて日雇労働を続けている者は、自分でしっかりと生活管理をしているし、また業者の信頼を得ていることが多い。
 こうした場合、むしろ彼らの老後の生活が問題となろう。年金制度に加入していることは非常に稀なので、老後の生活費を蓄えることなどが必要となる。既に高齢者であるから長期間にわたっての拠出は無理だが、例えば、10年間でも一定額をプールできるような制度を工夫することも考えられるのではないか、加えて、建設業等退職金共済組合(建退共)等への加入が不可欠なのは言うまでもない。
C.総合対策機能の充実
 他方、現在、健康を損なっている者はまず健康回復のための措置が最優先されるべきである。しかし、回復後においても、建設産業での就労は無理であるから、これまでとは異なった仕事に就かざるをえない。その場合問題なのは、住所不定や保証人の問題等が絡んで容易に日雇労働からの転職ができないということである。したがって、転職のための職業・生活指導体制を経過的に整える必要があり、それを公的のみならず、私的なものも活用するような方向で検討するべきである。
 この点については、いくつか具体的なものが考えられよう。たとえば、「自立支援センター」的なものもその1つである。そこでは、できるだけキメの細かい指導を行い、本人の健康、仕事のキャリア、希望等を厳格にチェックし、必要なサービスの提供に結びつけるようにする。こうした方法は、これまでの雇用、福祉、環境といった区分を越える性格を持つので、それこそセンターの総合的機関としての位置づけが求められる。
 一方、労働者のなかから自発的な組織化ができないかということも考えてみる必要がある。状況は厳しいかもしれないが、今後は一定数集まって求職活動や仕事をするような試みも検討されるべきであろう。これはユニオン的な発想をいかに地域に定着させていくべきかということに大きくかかわっており、そのためには行政や組合等、関連各種団体の指導・応援が不可欠となろう。
5)総合対策の推進
 以上のように、日雇労働はさまざまな問題を有しているので、多角的なアプローチが必要である。当面する課題について単に労働対策だけでなく、それこそ総合施策が不可欠である。特に、高齢労働者に対しては、就労能力に見合った就労斡旋は勿論のこと、健康を損なった者に対するニーズに応じた健康の回復やリハビリ、また、健康を維持するための住宅・環境の対応が併せて求められる。
 一方、中・長期的にみた場合、高齢化の進展や雇用のフロー化はますます勢いが強まるだろう。だとすれば、社会システムもそれに見合った形に組み替えていかなければならず、先にふれたセンターの創設等はかかる流れに十分沿うものだと考える。したがって、現在の日雇労働者に対しては上述したような動向を十分認識してもらう必要があるし、そのための情報開示も求められる。近年における雇用形態の多様化それに伴う就労条件の変化については、その内容を関係者はよく見極めておくことが大切である。
 このように雇用・労働面で以前とは明らかに異なった状況が一部で現出しつつある折、従来から指摘されてきたことと、全く新しい現象とをよく峻別すべきである。そして、そのための対策についても、それぞれの特性をよく理解したうえで単独で行うことができることと、横の連携による総合的な形でやるべきことを区別すべきである。後者にあたる代表的なケースが、まさに日雇労働者の高齢者層(50−65歳)への対応に他ならないのである。
2.福祉の課題
1)市民理解の深化
 一般的に「あいりん地域の日雇い」は、勝手気儘な生活をし、路上生活は、「自業自得」であると理解されることが多い。しかし、「あいりん地域での生活」は、これまでに彼らが置かれてきた社会的状況が大きな要因であることは否定できない。
 具体的には、熟慮の難しい年齢段階で、あるいは、家族との離・死別、将来への失望、生きがいにしていた仕事の失職などの精神的喪失状況下で、あるいは急迫した状況下で、「日雇いをして、あいりんで暮らす」という生活状態に至った者が多いのである。
 そして、この生活形態は、生活者としての主体的自己を維持、発達させるに足る質をもった生活を営むことを困難にすることが多い。家族、地域社会、職場などの社会集団に恒常的に属し、社会的役割を遂行することによってのみ配分される社会的資源を得る機会が失われているからである。そこには、生きることに意味を付与するものが欠けているのである。
 自己の営みに意味を見出すことのできない、あるいは将来に希望をもてない者の生活は、身体的欲求への快・不快を原理にしたものに傾斜しがちである。そこでは、就労の不快とそれがもたらす快とが比較され、その差分が就労の動因になる。そして、身体の健康が損なわれ、労働の不快が高まったり、あるいは快、不快を決定する水準が低下するとこの差分は減少し、就労の動機は低下してしまう。
 路上生活は、それを営むものの選択であるという意見がある。しかし、それは決して生活者としての真の自己の決断であるとは言い切れない。自殺を試みる者に対して、それを、「彼らがそれを望んでいるのだから」と放置しないのは、「生き続けたい」といった真の姿への共感的・追体験的理解に基づくものであろう。
 市民の、生活者としての彼らに対する共感的理解と、それに基づいた社会的支援とボランティア活動が期待される。また、この地域の居住・滞在者の生活に関わる全ての者が、地域社会構成員として、人権への正しい理解と責任の遂行を期待する。
2)既存施策の見直し
 社会福祉は、現実の社会で様々なハンディキャップをもつ人々が、人間としての尊厳が維持できる生活を営めるよう援助することを使命とする社会制度である。
 人がもつ、人間としての基本的要求としては、経済的要求、保健の要求といった身体的・物的要求だけでなく、心理的、社会的な要求を含めて考えるべきであろう。そして、この人間は、これらの要求の単なる担い手、つまり要求が、他者によって充足されることを期待するものではなく、一定の価値観をもって望ましい生活像を構成し、それを自己の意識的努力によって実現しようとするものである。この実現しようとする生活像は、自分の要求だけが充足されるというものではなく、家族や仲間たち全部の要求も充足される、従って家族や仲間たちと協働し合ってはじめて実現できるようなものである。
 人間は、家族や仲間たちと生活を共有し、それを実現するために任務を分担し合い、その実行を期待し合い、協力し合う生活の主体者である。そして、人間の尊厳を維持し得る生活とは、人間が生活者としてその主体性を具体的に実現し得ている生活であると理解する。
 従って社会福祉サービスは、ハンディキャップを持つ人の要求を、家族や教育、あるいは医療などの通常の社会制度に代わって、一定の程度充足させようとするもの、つまり保護しようとするものではなく、これらの人々が将来の生活像をもって、多くの人々と協働してそれを実現するのを側面的に支援するようなものでなければならないだろう。これが、人権を尊重し、「ノーマリゼーション」の理念に導かれた社会福祉であると理解する。
 この理解を踏まえて、この地域の社会福祉の現状を見直すと、大阪市は社会福祉が充実している都市であるが、ここで生活困窮者に提供されている援助は、生活保護法による救護施設、更生施設への入所、医療扶助の給付、社会医療センターの無料診療などで、事後的、保護的なものに偏っている。また、多面的な人間の生活への援助に必要な相互連携が見えにくい。
 そして、提供されているサービス自体は、一定の水準を達しているものであるが、それらが具体的なこの地域の居住・滞在者に成果をもたらしているかというと、重大な疑問が起こる。しかも、その費用は膨大なものである。
 その典型は、医療扶助によって病気からある程度治って退院するが、退院先が無く、回復期を路上で過ごし、悪化するのをまって再入院するというものである。
 社会福祉施策も成果が問われるべきである。事後より、事前であり、同じ成果が得られるなら、よりコストの低い方策が選ばれるべきであろう。そして、「社会的理由」による入院といった、他の施策で解決すべきニーズを、コストの最も高いサービスで対応するという不合理は避けるべきである。新しい方策が案出されなければならない。
 もちろん、この成果は、人が身体的な生存を維持できることではなく、生活全体への意欲と能力を回復させ、高めることのできる質の生活が営めるようになっていることである。
 この地域に、この地域の居住・滞在者の具体的なニーズに対応した地域福祉システムが構築されることが強く期待される。
 その出発点として、地域の既存のあらゆる社会機関と、この地域に向けられるべき社会的施策を、多面的ニーズ(多問題を抱えた者に)に応えられるよう複合化し、回復の程度に応じ得るもの、連続性をもったものとして組織化することを提案する。緊急性の観点から優先されるべきものは、住宅施策、労働施策、保健・医療のそれぞれと社会福祉施策の複合化であり、連続性の確保であると考える。
a.福祉的機能を有する短期宿泊施設(シェルター・プラス・ケア)
 その場合特に、この地域の居住・滞在者のもつシェルターのニーズに着目すべきであろう。住宅施策が、この地域特性を視野に入れることが期待される。そして、これらの施策が、緊急のニーズ、恒常的な住居への過渡的なニーズにも応える連続性をもったものでなければならないだろう。そのためには、シェルターに、生活者としての意欲、能力の回復(自立)をめざす福祉ケアがプラスされた方策が必要になるであろう。
 現行施策の中では、シェルターとケアの緊急ニーズに応えている「生活ケアセンター」の成果が高く評価されるべきである。しかし、ニーズに対してサービスの供給が少ない。その拡大は、緊急性の観点から優先度が高いと考えられる。
b.就労促進の福祉施策(ウエルフェアー・ツウ・ワーク)
 第二の課題は、労働施策と福祉施策の複合化を推進し、高齢、心身の障害などで土木・建築の日雇就労にはハンディキャップを持つものも、就労でも一定の生活の質が維持できるようにすることである。
 日雇労働ができなくなった者は路上生活しかないといった、選択性のない地域社会は望ましくない。
 就労が生活全体にとってもつ意味は、所得を得る手段であるだけではない。それは、「生きがい」にもなりえるもので、逆に、就労機会の喪失は、生活意欲の喪失にもつながるようなものである。
 労働施策と福祉施策の複合化は、就労の意欲がありながら就労が阻害されている人に対して、就労の生活全体にとってもつ意味に着目し、就労することを含んだ生活全体を支持するものである。結果として、一人の人が、日常生活、家族生活、あるいは地域生活への福祉的支援と就労機会とを同時に活用できるようにすることである。それは、労働施策と福祉施策が緊密に連携することで可能になるものであろう。
 社会福祉の他の領域で、一定の成果を得ている福祉工場、シルバー人材、授産施設のコンセプト、経験が導入されるべきであると考える。
 「高齢者特別清掃事業」の拡大は、この地域の居住者から強く要望されているところである。この事業の単純な量的拡大は、その成果あるいは波及的影響について評価が分かれるであろう。しかし、就労を含んだ生活全体を支持するポリシーの部分として新しい意味を持ち得るものである。新らたな展開が期待できると考える。
C.医療と福祉
 病気、あるいは病気からの回復は、様々な生活問題を生じさせる。その解決を支援する方策は医療福祉とされている。病気に対しては、医療を扶助するだけで足りるとするのは、生活に視点を置くべき社会福祉としては、問題が大きい。
 生活保護法による保護は、ここで批判している保護ではなく、自立を支援する福祉的ケアを含むものであると理解する。この理解を踏まえていうと、医療機関と生活保護の実施機関の関係は、医療サービスを提供するものと、その費用の負担を決定するものの関係ではなく、人間の生活を左右する主要な要因のそれぞれに働きかけるもの同士として、協働の関係にならなければならないはずである。
 この地域の居住・滞在者の生活を、個別的、現実的によりよいものにするための、生活保護の実施機関と医療機関との協働関係づくりが必要である。
3)新しい社会福祉施策の展開
 社会福祉の援助は、対象者が一定の要求充足水準以下の生活に陥ったとき、一定の手続きを経て発動するものとされている。社会福祉は、事後的なものと考えられているのである。
 しかし、論理的には、事後的・回復的援助より、事前的・予防的介入が先立つ。事後的援助は、成果を挙げるに困難であろうと思われる。われわれは、この地域の実態から、現実に社会福祉が発動している水準で、具体的な地域の居住・滞在者が展開可能な生活は、高度に方法化した支援なしには、生活意欲、能力といった主体性の維持、発達を可能にする質をもち難いのではないかという所見を得た。そして、方法化した支援がなくても、ほとんどの者が、高い確率で生活の質を保持できる程度まで、社会福祉を発動する水準を高めることは、支配的な価値観・思想、社会資源、社会連帯の現実など諸々の観点から見て、不可能であろうと考えた。
 この所見を踏まえ、この地域に、現実の条件の中で生活全体の質を高めることをめざした、方法化した社会福祉の展開を提案する。
 この社会福祉の経験的典型は、生活手段の喪失、病気、人との離・死別、価値観や信条のチャレンジなど、これまでの生活構造が崩壊するかもしれない生活危機に、人々が対処する過程に介入する援助と、将来のよりよい生活実現のために、共通の生活課題を、共同で解決することを目標にした集団の、活動過程に支持的に介入する援助とである。
 個々人が、危機に合理的に対処するためには、危機期間に日常生活のタスクから適度に開放される一時・短期保護と、暖かさと理解、受容的な関係を保ちながら、熟慮の過程に介入してくれる専門職が必要である。
 「日雇いをして、あいりん地域で暮らす」生活の構造は、退院、負傷、事故などのハザードにきわめて脆弱であり、また、構造的な欠陥を持つことが少なくない。
 この要件をもった、薪しい形態の入居施設の整備と、生活保護の実施機関及び医療機関が一貫した連続性をもって個々のケースに対処することが望まれる。
 そして、この危機対処を、具体的、現実的なものにする第一の条件は、何よりも生活機会の選択性である。この地域は、様々な障害、ニーズをもった者が滞在、居住している。それらに応え得る生活機会の創出が課題である。先に提案した既存施策の複合化とその体系化で、ある程度確保できるものと考える。
 第二の条件は、この地域に、「連帯」とでも表現すべき社会関係が成立していることである。理論的にはそれは、危機対処で明らかになる将来の生活課題の共同解決をめざす集団が成立する前提条件になる。
 この観点から、この地域の探求が期待される。
 同時に、例えば、人々の学習や余暇活動を支援するプログラムを提案したい。
 第三の条件は、新しい価値観、信条、生活知識を形成できる機会である。この地域の居住・滞在者が、価値観や生活知識、生活様式を異にした人々と結びつき、相互作用を営む姿を見る事が少ない。自己を対象化する機会、自己への反応を観察する機会が欠けているのではないかと考える。各種の救済活動を行っている地域の諸団体が、社会交流の機会創出や、あるいは地域居住者と社会交流を営む活動を展開されることを強く期待する。
3.生活環境からみたあいりん地域の課題に対して
1)基本的視角
a. 
 あいりん地域は、我が国最大の単身日雇労働者のまちとして、外見的にはかつての木賃宿が高層の簡易宿所(ドヤ)に変貌し、就労業種も港湾、運輸、製造、建設・土木等の複数産業から建設土木産業を中心とする就労へ変化し、あわせて労働者の高齢化の進行の中で、大きな変容を遂げつつある。
 昭和36年の第1次暴動前後に地域の実熊調査を実施した大阪社会学研究会が「社会病理集中地区」として分析したが、反面ここに居住する日雇労働者が、主として京阪神都市圏や近畿圏において、港湾労働や建設労働などで果たしてきた産業構造における日雇労働の生産的側面も大きく評価する必要がある。
b. 
 都市構造からみて、このあいりん地域を分散、解消すべきか、或いはこれ以上拡大せず、総合施策を実施して改善を図るべきかという議論がある。分散、解消論については、社会的、歴史的に単身労働者が集中してきた日雇労働の生産的側面の重要性を考慮せず、社会病理的側面を主に論じられている傾向がある。
 日雇労働の問題点の基本的解決なくして、地域を分散、解消していくことは難しい。解消すべきものは、地域の防災、居住上問題となっている物理的環境であり、まちぐるみで一体的に取り組まれておらず、まちづくり活動を妨げている社会環境や建設産業の後進性であり、解決に向けた総合的取り組みへの消極性である。
 1921(大正10)年に、6大都市におけるスラムの環境改善を考慮して、当時スラムであった14地域を対象に調査が実施されたが、そのうち簡易宿所の集中する「釜ケ崎」「山谷」の2地域は、現在でも大きな課題を残している。
 これまでの施策は、日雇労働者の集中に対応し得る受け入れ体制を整備し、日雇労働市場としての機能をより効果的に発揮させることを目的に行われてきたが、その集中は、結果として高齢化による要保護者、ボーダーライン層の集中を生み出している。この状況は、路上生活者の増加となり、更に地域外からの流入を招いており、あいりん地域の大きな課題となっている。
 したがって、雇用の改善のみならず、日雇労働者及びこの地域に積極的に住宅、生活環境、福祉などを含めた総合施策を実施して改善を図り、その上で、今後、周辺の再開発の進展に対応しながら、地域の長期総合的なあり方を検討していくという基本的視角が必要である。
2)住宅対策
 あいりん地域に居住している日雇労働者の多くは、建設業に従事しているが、中長期的に見た場合、その需要は減少傾向にあると思われ、他産業への展開を求められることが予想される。また、建設業に従事できる者であっても、年齢の上昇とともに、就労機会は減少し、他産業への転職を余儀なくされる。これらの際、非定住であることが障害となることが考えられ、地域労働者の住宅対策が重要となっている。また、路上生活者の居住への対応も新たな課題となってきている。
a. 
 昭和42年〜50年度実施の愛隣地区住宅改良事業により、あいりん対策の一環として地域環境の整備改善が推進された。この改良住宅の入居者、自治会が、あいりん地域のまちづくりに今後より一層活発に活動することが期待される。地区改良事業の意義を踏まえた住宅活用策の検討を行うなど、入居者の活性化を図っていくことが必要である。
b.
 公営住宅法施行令の改正により、50歳以上の男性単身者も入居が可能となる。したがって、公営住宅の募集においては、単身者枠を増加するなど、単身者が多いあいりん地域の日雇労働者も視野に入れた検討が期待される。
C.
 公営往宅に福祉施設を併設する場合の公営住宅の建替要件が緩和されるなど、公営住宅法の改正が行われたが、今後、あいりん地域対策を総合的に推進する観点からも、住宅施策と福祉施策の連携を図ることが期待される。
 この際、地域対策用施設を活用することやあいりん地域内及び周辺で福祉活動を推進しているボランティア団体等の民間活力を生かすことを考慮に入れることが望まれる。
3)環境改善施設対策
 第1次暴動以後、あいりん地域に居住する家族世帯への住宅対策として、今池生活館、愛隣寮が建設された。また、単身者への居住対策として、府は簡易宿泊施設南山寮、市はあいりん地域からの港湾労働者に対するみなと宿泊所を開設した。
 これらの環境改善施設は入居者の減少や高齢化により、その後、救護施設に転用された。その入所者の多くはあいりん地域関係者で、福祉施設として利用されているが、引き続き、地域対策としての活用が望まれる。
4)簡易宿所対策
a.
 あいりん地域には、簡易宿所が集中しており、木造、鉄筋中層から高層へと、建物構造は大きく変化し、収容者数が増加するとともに地域のまちなみは大きく変容している。
 簡易宿所の利用者は、多くが長期滞在であるにもかかわらず、その構造、機能は短期を前提としているため、居住面積、住宅設備は、十分とは言えず、利用実体に沿った改善を必要としている。
 今後、簡易宿所のうち立地条件や設備内容の良い所は、周辺の再開発の進展に対応しビジネスホテル化が予想される。また、利用者の多い簡易宿所については、建物の改善を進めマンション化が進行する可能性がある。さらに、不適格建築物や防災上問題となるものは行政指導等の強化を図り適正化を進めることを検討する必要がある。また、実体的にはこのような不適格な簡易宿所は、宿泊者のニーズの多様化のなかで整備が進められることが期待される。
b.
 公営の簡易宿所対策に準ずるものとして、大阪港地域に、昭和29年から33年に、港湾日雇労働者の単身者用簡易宿泊所が開設された。その後、港湾労働法が制定され、港湾労働者の労働条件は大きく改善された。その結果、港湾日雇労働者は大変少なくなり、単身用簡易宿泊所の利用者は減少し、さらに、高齢化に伴い、順次閉鎖される状況にある。これらの施設は、あいりん地域から離れた場所にあることや、港湾荷役に従事する日雇労働者が減少したことなどから、この施設とあいりん地域との関係は薄れている。今後、施設廃止後の利用方策を検討する際には、労働福祉の観点を踏まえた有効利用を図ることが期待される。
5)地域施設対策
a.
 新今宮小・中学校は、児童・生徒数の減少に伴い昭和59年3月に閉鎖され、跡地利用として教育施設から福祉施設への転用が図られ、昭和60年8月に萩之茶屋校区居住者の集会所、老人憩の家、こども教室、ゲートボール等の運動場に開放されるとともに、救護施設三徳寮及び新今宮文庫(同寮内図書館)として有効活用されている。
 公園、緑地、集会所、老人憩の家などの地域施設は一定充足されているが、多くの労働者が集中することから、緊急時の地域防災機能としては検討の必要があり、これらの地域施設のほか、あいりん地域内および周辺に立地する教育施設などが活用できるよう、平時から防災、避難のシステム化を図っていく必要がある。
b. 
 あいりん地域内にある労働、福祉をはじめとする地域対策のための既存施設は、老朽化が目立ちはじめている。

 今後の中長期的なあり方として、利用者の視点に立った施設機能の見直しなど、新たな見地から検討を行うとともに、建物の高度・複合利用について併せて対応していくことが期待される。
6)環境美化対策
 あいりん地域の美化の推進は、地域のイメージアップ、保健衛生環境の保持のために重要である。より実効を上げるために、美化啓発等を検討し、まちづくり活動と連携して充実を図っていく必要がある。現在実施されている府・市の清掃事業は更に改善をすすめ、今後とも、府・市の協調した取り組みが必要である。
 保健衛生的観点からは、公衆便所の整備が、防犯の観点からは、街灯の整備が求められる。
7)まちづくりへの総合的取り組み
 あいりん地域には、地域団体として西成愛隣会などが、生活環境や社会環境の改善を目的に活動している。また、多くのボランティア団体が、日雇労働者や高齢者の福祉、就労、生活、健康など、多くの側面から支援活動している。
 あいりん地域の総合的なまちづくりを推進するため、これら団体が一体となってまちづくり活動を充実、発展させることが必要である。
 また、長期総合的な観点に立って、その周辺も含めたあいりん地域のまちのあり方について、検討することが求められる。
 更に、同様の課題を抱える都市が連携して、国に対し、特別立法措置を含めた、抜本的対策に取り組まれるよう要望することが期待される。

V.まとめ

1.中長期的対応
 これまでの2か年間、検討委員会では、雇用部会、福祉部会、生活環境部会を中心に検討を進めてきた。そのなかでは、諸々の意見が出され、中には、十分な議論を尽くせなかったものもあるが、中長期的展望に立って考えるとき、このような視点、方向性が重要なのではないかということで、幾つかの選択肢などを上げながら本報告書をまとめている。
 雇用部門に関しては、あいりん地域における日雇労働システムの功罪を見直すとともに、日本における雇用形態の動向やフロー型雇用と日雇労働の関孫について考察し、単線的な雇用形態から複線的な雇用形態が可能なシステムへの移行を提案している。
 また、それにつなげるものとして、高齢労働者への対応を健康な者とそうでないものに区分して、健康な者には、老後の生活への対応策を、また、健康を損なっている者に対しては、転職等の総合的な相談・指導機能の整備などを例示的に提案している。
 福祉部門については、路上生活を余儀なくされている者に対する市民理解の期待を表明するとともに、福祉施策においても成果は問われるべきであることを述べている。
 まず、既存施策の見直しとして、地域の既存機関、施策を多面的なニーズに応えられるよう複合化し、回復の程度に応じた連続性を有するものとすることを提案している。
 第二に、予防的、長期的な観点から、居住・滞在者の生活危機に個別的に支援し、あるいはまた、生活課題を共同し、集団活動を促すソフト化した福祉サービスを提示し、それを支える生活機会の選択性の確保、地域の連帯関係、新しい価値観などを形成できる交流の場の必要性を述べている。
 生活環境部門においては、まず、基本的視点として、総合施策の実施とともに、長期総合的な取り組みの検討を訴えている。
 具体的な対策としては、日雇労働者の特性を視野に入れた住宅対策の検討、簡易宿所の利用形態に応じた整備や地域施設の複合、高度利用への期待、環境美化に対する府・市の協調した取り組みの必要性などを例示的に述べている。
2.総合的対策
 あいりん地域は、電器の街として有名な日本橋やミナミの街、新世界、天王寺界隈などの繁華街につながっている。
 また、JR、南海電鉄、大阪市営地下鉄、阪堺電気軌道が乗り入れる鉄道網が整っており、阪神高速道路など幹線道路が行き交う交通の要衝に位置している。
 このようにあいりん地域は恵まれた立地条件にあり、さらに発展する可能性を秘めている地域である。
 これまで、あいりん地域対策の実施にあたっては、府・市を始め、関係機関が相互に連携を取りながら、それぞれの所管分野の課題に諸々の施策を実施してきた。
 今後は、あいりん地域を大阪都市圏の中に位置づけ、その相互関連に視点を置いて、そこからこの地域を分析し、計画する方法が求められていると考える。
 それは、あいりん地域の居住・滞在者の現実問題を事後的に解決しようとする方法とは、峻別されるべきものであり、都市全体の発展と地域住民の生活の質のバランスを図る対応が求められるところである。
 また、民間諸団体など、地域社会のもつ問題解決力、成長力が発揮されることも期待するものである。
 具体的には、関係行政機関が課題に対応する際に民間諸団体との連携を深めることや、関係行政機関、地域関係者、学識経験者などによる議論を継続させ、まちづくり活動を推進することなどが考えられる。
 さらに、あいりん地域と同様の課題を抱えている都市との連携も必要である。
 地域の課題は、単に地方の課題として解決できるものではない。
 従って、関係行政機関が、これらの都市との連携を深め、国に対し、具体的な施策の要望など、特別立法措置を含めた積極的な取り組みを行うことが求められる。
 あいりん地域はこれまで、日本最大の日雇労働市場の町、簡易宿所の集中する日雇労働者の町として活気のある様相を呈してきたが、先に述べた問題が顕在化するなかで、今後、都市として如何に発展させていくのかは、大きなテーマとなっている。
 本報告書においていくつかの提案を行った。
 関係行政機関による、その提案を生かすための新たな事務・事業の展開が、今求められているのである。
 最後に、21世紀初頭を1つの目標点として、あいりん地域の諸課題の改善に本報告書が有効に活用されることを願うものである。

(参考)

〔検討委員会 委員名簿〕

検討委員
区 分    氏 名       現 職 等        備 考 
学識経験者  船曳 宏保  大阪府立大学社会福祉学部教授  会長 
        玉井 金五  大阪市立大学経済学部教授        会長職務代理 
        三輪 嘉男  神戸学院大学人文学部教授
地元精通者  乾 繁夫   西成区社会福祉協議会会長
         吉村 靫生  社会福祉法人大阪自彊館理事長
         辻中 由之  財団法人西成労働福祉センター専務理事
労働団体代表 鍵田 節哉  日本労働組合総連合会大阪府連合事務局長 平成7年度
         真場 成人  同上                   平成8・9年度
行政関係者  山本 晴之  大阪府労働部次長   平成7年度

桝野 正蔵  同上     平成8年度
浅野 広三  同上         平成9年度 
河野 隆   大阪市民政局福祉部長   平成7年度
清水隆治郎  同上       平成8年度 
淡居 毅   大阪市民政局総務部長   平成9年度
水本 敏一  西成区長
浦島 幸夫 大阪府企画調整部企画室企画監  平成7・8年度
池内 眞一 大阪府企画調整部副理事兼企画室企画監平成9年度
藤田 泰寛  大阪府労働部職業対策課特別対策室長 平成7年度
秋山 健一  同上      平成8年度
市谷 峰男  同上           平成9年度
吉田 直紀 大阪市市長室企画部企画課長  平成7・8年度

                      平成9年度
三島 浩一  大阪市民生局福祉部保護課長   平成7年度
門林 幸雄  同上        平成8・9年度

専門委員
医療     石田 俊武  社会福祉法人大阪社会医療センター付属病院長
労働福祉   田中 誠治  財団法人大阪府勤労者福祉協会事務局長  平成7・8年度
       有本 嘉彦  同上                  平成9年度