1911(明治44)年5月11日 大阪毎日新聞
貧民救済の警察 難波署長の新着眼
難波警察署にては 所轄部内に約9万人の人口を有し その過半は 賤業に従ふものなれば 行政上困難を感ずること多き区域にして 最近同署司法部にて注意を要する者を挙ぐれば 窃盗の常習者 男 148、女 8、恐喝取財の常習者 男 25、贓物犯の常習者 男 48、女 18、殴打暴行の常習者 男 32、三百代言が男25、団子取りが男 5
此等が重なるものにて 注意人物千余人の多きに及び 43年度の密淫売の検挙されたる者丈けにても199人、科料に処せられたる者 一年間4千5百57人の多数に上り
これ等違反者の大部分は 履物直し、紙屑買、燐寸職工、紙屑拾い、掃除人夫、人力車夫、手伝い 其他の労働者なり
茲に 同署天野署長は 彼等社会に犯罪の多きは 生活状態の不自由の起因し 其の動機は孰れも憐れむべき事情によるものなれば 犯罪予防の方法として 先づ 彼等貧民の生活状態を取り調べ その模様によりて 救済の手段をつくしやるが良策なり との意見にて
内密 巡査に命じ それぞれ条目を作りて調査せしめたる結果
日家賃月額2円以上(ママ:2円以下の誤りか) 又は 稼ぎ賃 一家5〜60銭以下、同上 月額2円以上(ママ:2円以下の誤りか) 又は 相当の稼ぎ賃を得るも特に困難の事情ある者、季節又は天候によりて俄に困窮に落ち入るが如き営業の者 木賃宿に滞在して相当の業務を得ざる者、立坊(たちんぼ)、浮浪者(ふろうしゃ)又は下等人夫、祭礼縁日等に物売りに托し若しくは他の手続きにて乞食同様の業(わざ)をする者、残飯又は其の類の劣等物を飲食し自分で炊事をせざる者、里子、不就学児童等の類を
同署に召喚し 取り調べの上 救済すべき者には相当の職業を周旋し 職業あるも就業せざる者には厳重なる説諭をなし それぞれ相当の雇い主を選んで 之に以来せんことを内定し居る由にて
同署詰三百余人の巡査を 同署楼上招集して 取り調べの注意をなしたりといふ