第3 防犯対策の推進状況 

あいりん地区は、常時1万人を超える日雇労働者の住区である。しかも、これらの労働者の殆んどが単身で、住居も一定しない。

このことが犯罪、とりわけ凶悪犯、粗暴犯及び暴力団犯罪等の多発原因となつており、また、暴動に結びつく要因ともなつている。

このような観点から実施した防犯対策は、次のとおりである。 

1 各種不法事案の警戒、取締り

(1) 暴力団の取締り

狭あいなあいりん地区に、25団体に及ぶ暴力団が存在しており、資金源として、労働者を対象とした、と博、ノミ行為等をはじめ、売春、覚せい剤の密売等あらゆる不法行為を敢行している。

これらの暴力団に対しては、地区の環境浄化、労働者保護の観点から、強力な視察警戒活動と全署的体制での取締りを実施している。 

(2) 路上強盗等(いわゆるシノギ事犯)の取締り

いわゆるシノギ事犯の予防検挙については、常に取締り重点の一つとして取組んでいる。

昭和56年中も一時期この種事犯の凶悪化、多発化傾向がみられたため、実態把握を強化するとともに、制、私服員を動員したシノギ事犯特別警戒取締りを実施した。

また、ともすれば潜在化するこの種事犯を掘り起こすため、広報活動を強力に推進した。 

(3) 常時警戒活動の実施

あいりん地区では、暴力団犯罪や、いわゆるシノギ事犯のほか、さ細なことからのけんか口論や、粗暴犯等が多発するため、制服勤務員の重点的な警戒活動、視察取締専従員による継続的、集中的な敢締り、及び、街頭防犯テレビの効果的活用等により、常時各種犯罪の封圧と早期発見検挙に努めた。 

2 特別警戒警備

地区の治安情勢が一段と厳しくなる夏場、冬場においては、例年のとおり西成署の全署員を投入し、また、機動隊の運用によつて特別警戒警備を実施した。

また、年間を通じ、早朝就労時における、あいりん総合センターでの各種トラブル及び、極左暴力集団に対する警戒活動、並びに、暴力団の取締りを継続実施した。

○ 夏期特別警戒警備(6/1〜9/15)

従事員 西成署員    延7,873人

機動隊員    延4,303人

計  延1万2,176人

○ 越冬特別警噂備』(1/1〜2/28・12/1〜31)

従事員 西成署員     延8,286人

機動隊員      延460人

計     延8,746人

○ 早朝就労警戒警備

従事員 西成署員     延17,937人

計     延17,937人

○ 極左暴力集団警備

従事員 西成署員     延3,539人

機動隊員     延1,586人

計     延5,125人

3 実態把握活動

実態把握活動については、各種資料を広く収集整備して、総合的な治安対策に資するとともに、犯罪捜査、家出人調査身元確認、更には地区対策推進の資料に供するなど、幅広い分野での活用を図つている。

(1) 簡易宿所等における宿泊状況調査

日雇労働者の宿泊状況について、毎月1回、簡易宿所、日払アパート等を対象に、調査を実施した。(別表第8参照)

 

(2) 直行労働者の就労状況調査

各事業所へ直行(就労)する労働者について、地区内の駅、停留所等13か所において、毎月1回(午前6時〜同8時)調査を実施した。 

(3) 営業実態調査

労働者の生活実態を把握するため、地区内各種営業所数について一斉調査した。 

4 環境浄化活動

最近、あいりん地区の環境はよくなつたと評されている。しかし、一歩中に入ると、路上での酒盛りや、ゴロ寝、刃物の持ち歩き、その他の不法行為等々、あいりんのイメージを悪くする種々の要因がいまだに多い。

これらの悪環境を根本的に解消し、犯罪のない明るいあいりんとするため、昭和56年中は、例年以上に積極的な環境浄化活動を展開した。 

(1) あいりんクリーン作戦の展開

6月24日から(昭和57年も継続)現地西成署が中心となり刃物追放、深酒追放をキヤンペーンとして、

○ ポスター、立看板の掲出

○ 要保護者の保護の徹底

○ 不法露店の取締り

○ 路上酒盛り、ゴロ寝を慎しませる

等のため、制私服員による街頭活動を強化した。

(2) あいりんクリーン推進協議会との連携活動

あいりんクリーン作戦の成果に呼応して、地域住民及び地区内の各種業者団体等から、「民問の力でもあいりんを良くしよう」との自主活動気運が高まり、12月8日、住民、商店街、業者等の30団体からなる、

あいりんクリーン推進協議会

が発足した。

協議会は発足早々の12月25日、三角公園で、もちつき大会を開き、参加した約1,000人の労働者と交流を図り、相互理解を深めた。

また、ポスターや立看板によつて、シノギ犯罪や刃物使用犯罪防止を呼びかけるなど、自主防犯活動を積極的に展開した。 

5 広報活動の推進

(1)「コーナーだより」の発行

「コーナーだより」は、昭和47年6月以来継続し、労働者には自活意識と遵法意識の高揚、各種営業者等には接客マナーの向上等を呼びかけ、幅広く広報媒体として劾果を挙げている。

昭和56年中も、あいりんクリーン作戦の貴重な広報媒体として、「刃物追放」「深酒慎しみ運動」「暴力団懐滅作戦」「シノギ犯罪の被害防止」等、防犯及び地域住民のマナーアツプを願つて、13回、2万9,500枚を発行し、発刊以来の延数は、157回、47万2,900枚となつた。

(2) 「一口広報」の配布

童話・故郷の話等が、労働者の心のなぐさめになることを考慮し、「一口広報」として、週刊誌に貼り付け、昭和37年4月から、おおむね毎月2回(1,600冊)無料配布している。昭和56年中も、23回、1万8,400部を配布した。
(3) あいりんクリーン作戦等の広報

ア 刃物追放及び深酒慎しみ運動の広報用として.

○ ポスター  2,000枚

○ 立看板     20枚

を掲出したほか、泥酔者保護パトロールにあたる2台のパトカーの両サイドに、横幕を掲出した。

イ シノギ犯罪の被害防止広報として

○ ポスター   1Q枚

○ 立看板    10枚

を掲出した。

ウ あいりんクリーン推進協議会発足後は、

同協議会による環境浄化のための広報として、ボスター、2,000枚を掲出した。 

6 防犯コーナーにおける相談業務の推進

(1) 労働者相談の適正処理

労働者からの相該受理に当たつては、常に相手の立場に立ち理解をもつて接するとともに、自主性の助長に配意した接遇をすすめたほか

○ 要措置事案の迅速適正な処理

○ 街頭での積極的な接触による相談受理の促進

○ 部内外関係部局との緊密な連携による相談事案の処理

など、労働者の不安と悩みを適正に解消するよう努めた。

(2) 相談受理状況

ア 相談受理件数

受理件数は、年間2,139件で前年に比べ、524件、(32.4パーセント)の増加となつている。

増加の原因は、相談業務をより強化したことにより、労働者がこれを身近かに感じはじめ、その利用が増加したものと推察される。

相談の種別は、次表のとおりであるが、生活相談では無計画な独り暮らしの結果、その日の生活費に困窮したものの相談が多く、身上相談で多いのは、家出、たずね人相談であり、これらの相談を受けて捜索した80人のうち、25人が発見され、家族との再会が実現した。

また、労働相談、傷病相談は、他機関に措置を依頼したものが多く、その他は、自立的な生活についてアドバイスしたものや、家族との連絡相談等である。

イ 年齢、世帯別構成

相談者は、次表のとおり、年齢別では最高が40歳代の898人、次いで、50歳代、60歳代となつている。

世帯別では、単身世帯が全体の94.6パーセントを占め、労働者の暮らしぶりがうかがえる。

妻帯者は、地区外に居住する労働者の家族等である。

ウ 出身地、居住地別状況

相談者の出身地は、次表のとおり、全国各地に及んでいるが、従来同様九州出身者が最も多く、次いで、近畿、四国、関東の順となつている。

 

エ 職業別地区定着状況

相談者を職業別にみると、日雇の1,472人(68.8パーセント)が最も多く、次いで、無職、その他の順となつている。

無職者及びその他の職業者の相談内容は、家出、たずね人相談が多い。

地区への定着状況は、次表のとおり、居所、就労先を転々と変えながらも地区での定着性は比較的高いことを示している。

 

オ 相談来訪者等の飲酒状況

 相談者及びその他来訪者の中には酒気を帯びているものが多く昭和56年中は、次表のとおり、飲酒者が全体の60.9%を占めている。

 従って、冷静な対応と、寛厳ある処遇に配意している。

相談来訪者飲酒状況  
飲酒量  なし
内容別
相談者 42 215 825 1,057 2,139
その他 136 258 472 196 1,062
178 473 1,297 1,253 3,201
率(%) 5.6 14.8 40.5 39.1 100

7 労働者へのコミニテイ・ケア

(1) 積極的なCR活動

 あらゆる機会をとらえて、警察に対する要望、意見等を労働者、各種業者、関係行政機関等から積極的に吸収して、相互の連携と理解を得るように努めた。

(2) 労働者慰安用テレビの活用

 三角公園設置のテレビを夜間開放し、労働者の慰安に供した。

(3) 週刊誌の無料配布

 週刊誌「週刊朝日」、「サンデー毎日」、「週間読売」、「週間サンケイ」各社の協力を得て、毎月2回、年間1万8,400冊の週刊誌の提供を受け、これに一口広報文を貼付し、簡易宿所等約300軒に無料配布した。(昭和37年4月以降計38万4,500冊配本)

(4) 労働者文庫の利用

朝日新聞大阪厚生文化事業団及び大阪南ロータリークラブの基金により、昭和37年4月設置した「労働者慰安用文庫」、(通称コーナー文庫、保有書籍288冊)を整備し、労働者の利用に供した。

(5) 労働者奨励金品(善意)の伝達

深酒をして就労先への旅費までも費消する者、犯罪の被害に遭つて困窮する者等、あいりん労働者が、窮状を訴えるケースは多い。

このような場合に、明日への労働意欲をわかせる奨励金(品)として、善意の人々から寄せられた金品を伝達した。

(6) 七夕祭りの開催

「町を明るくする会」の自主参画により、7月4日、三角公園において「あいりん七夕祭り」を開催した。

なお、この七夕祭りには、地区内の保育園児たちが特別参加して、童謡の合唱やフオークダンスなどを行い、参加した約800人の労働者の郷愁を誘つた。

(7) 郷土民芸品等の展示

防犯コーナー室において、うちとけた相談等がなされるよう、その雰囲気づくりに配意し、署員や、労働者等が持ち寄つた全国各地の民芸品を、昭和49年12月から室内に展示しているが、昭和56年中も新たに7点を加え、現在239点となつて、訪れる労働者の心をなごませている

(8) 労働者からの詩、俳句等代表作の掲出

あいりん労働者から寄せられた詩俳句、川柳等、季節にあつたものを選び、昭和52年末から、西成警察署玄関に掲出しているが、通行する労働者や、一般人の関心も高く、好評を得ている 

8 関係機関、団体等による自主活動の促進

あいりんクリーン推進協議会の活動のほか

(1) 簡易宿所業者

簡易宿所業者については、

○ 安全営業ときれいな町づくり

○ トラブルに発展させない接客マナーの醸成

○ 事件事故の未然防止、被害の拡大防止に着目した警察への早期通報

等の徹底と実践を繰り返し呼びかけた結果、逐次、防災設備の整備もすすみ、また、客とのトラブルも減少する傾向にある。

(2)飲食業者

酒類提供業者については、業者組合を通じ、

○ 深夜における自動販売の自粛

○ 空ビンの早期除去

○ 接客マナーの向上

等について機会をとらえて要望を重ねており、その結果、各業者による自主活動がみられた。

(3) 西成愛隣会

西成愛隣会では、9月2日、三角公園において、演芸会の夕べを開催したが、最盛期1,600名の労働者が集つて、夏のひとときを楽しみ情緒の安定に効果をあげた。

(4) 地域福祉団体等

萩之茶屋福祉会員3〜4名(日曜、祭日、雨天を除く毎日)、愛善会老人クラブ員(毎月2回)及び、自彊館入寮者(日曜、祭日、雨天を除く毎日)が、それぞれ地区内の道路、公園等の清掃奉仕を行い、環境浄化に一役かつている。

(5) 西成労働福祉センター

西成労働福祉センターでは、9月3日、三角公園において、音楽コンサートの夕べを開催したが、最盛期850名の労働者が参加し、民謡、童謡など、大阪府音楽団の演奏に、夏のひとときを楽しみ、情緒安定に効果をあげた。

9 雇用関係業者の啓発

(1) 大手建設業者

大手建設業者に対しては、下請業者に対する指導啓発について、従来からも、

○ あいりん地区労働者に対する理解

○ あいりん地区労働者の雇用実態の把握

○ 求人の正常化と、あいりん地区労働者の雇用促進

○ 雇用者車両への無理乗り、無理就労事案認知時の通報

等を要望してきたが、56年においても機会をとらえて、同趣旨の徹底を図つた。

(2) 求人事業者

求人事業者に対し、あいりん総合センター寄場での、求人に伴うトラブル発生時の、警察への早期通報の指導と、路上求人に対する警告、指導をすすめた。 
10 行政機関への要請

あいりん対策をすすめている大阪府・大阪市をはじめ関係行政機関に対しては、各種会議等を通じ、地区対策上の問題を提起するとともに、

○ あいりん地区労働者の就労正常化

○ あいりん地区労働者の就労確保

○ あいりん地区傷病者、生活困窮者の救護

○ あいりん地区内の環境浄化

○ あいりん地区内高層簡易宿所の防災対策

等の強化を要請した。

11 関係行政機関の推進施策

大阪府、大阪市及び地元行政機関とは、随時又は、定期的な懇談会、連絡会(昭和56年中、67回)及び、行政活動の現場等において、施策の連携推進に当たつているが、昭和56年中、関係機関が実施した主な施策は、次のとおりである。

(1) 大阪府関係

ア 福利厚生資金の支給

府労働部では、日雇雇用保険の加入促進を図るとともに、加入者に対し、福利厚生資金(夏季、冬季)を支給した。(56年中の支給状況は、別表第5のとおり)

イ 常雇化の促進

府労働部では、昭和47年度から、地区労働者の常雇化促進策として、各種技能講習会を実施しているが、昭和56年中においても、

○ 大型自動車運転   36人

○ 大型特殊自動車運転 31人

○ フオークリフト運転 21人

について免許を取得させ常雇化をすすめた。

ウ 地区労働者の雇用促進

あいりん職安及び西成労働福祉センターでは、建設業協会や、求人業者に対し、地区労働者の積極的な雇用を促しているが、本年も求人減少時に、地区労働者の優先雇用を文書等で要請した。

工 就労正常化の促進

府労働部及び、あいりん職安・西成労働福祉センターでは、本年も引き続き求人業者に対し、文書の配布、掲出、事業所訪問等によつて、労働者の就労の正常化について指導を行つた。

なお、西成労働福祉センターでは、「就労正常化促進指導日、無届求人指導日」を設定し、就労正常化の推進に努めている。

(2) 大阪市関係

ア 冬季における生活困窮労働者の救護

(ア) 市(民生局及び市立更生相談所)では、11月1回、12月1回の計2回、地区内野宿者を対象とした、巡回相談を実施し、計26人から相談を受け、うち、25人を保護施設に入所させた。

(イ) 市(民生局及び市立更生相談所)では、生活困窮労働者の越冬対策を継続実施しているが、56年においても、収容施設3か所を確保して生活相談を受け、12月29日〜1月10日の問、生活困窮者を入所させた。

イ 環境浄化活動の推進

犯罪のない明るい町を実現するため関係行政機関が連携し次の施策を推進した。

(ア) 土木局南工営所

○ 地区内生活道路の整備舗装

○ 街路燈の増設補修

(イ) 環境事業局西南事務所

○ 地区内の清掃及び廃棄物除去

(ウ) 天王寺公園事務所

○ 地区内公園の植樹

○ 地区内公園の清掃

(エ) 保健所

○ 簡易宿所の立入検査

○ 飲食店の立入検査

〇 地区内の消毒

(オ) 消防署

○ 簡易宿所の立入検査

○ 消防訓練

(カ) 区役所

○ 地区内の清掃

○ 放置自転車の撤去

ウ 結核患者対策の推進

あいりん地区においては、結核患者が多いため、関係行政機関において次のとおり対策を講じている。

(ア) 西成保健所

この種患者の早期発見、措置を目的としたレントゲン検診を、毎月1回、あいりん総合センター前において実施しているほか、市立更生相談所内の分室においても、療養相談指導を行つている。

なお、昭和56年中の精検受診者は、124人である。

(イ) 市(環境保健局)

年末の12月30日、自彊館に臨時宿泊中の困窮労働者140人について、結核集団検診を特別に実施し、要療養者等26人を発見措置した。

工 簡易宿所等に対する防災設備等の整備促進

消防局(消防署)、環境保健局(保健所)、建築局では、昭和52年末から、簡易宿所等に対する防災設備の改善指導を強力にすすめ、これを契機として、大幅な整備改善がみられているが、56年中においても引き続き指導を実施した。