(7) 古物商・質屋・金属くず営業等の実態

大阪で「釜ケ崎」といえばぞう物のさばき場所として知らぬものがないほど有名である。また事実この狭い地域に、古物商、質屋、金属くず業者が集中していることは次表のとおりで、三業者あわせて1,051軒の驚くべき数となり西成区内全業者2,482軒の約42%にあたっている。

ア 質屋

質屋業者は35軒で、管内全業者115軒の30.4%にあたり、その多くは飛田新地周辺に集中している。利用者の多くは飛田新地の遊興客であるが、一般庶民やぞう品のさばき場所としても利用されている。

イ 古物商

古物商は803(うち約30%は行商、露店である)で管内業者の半数近くをしめその密度は府下第一である。

この地区の古物商には、府下はもとより隣接府県からも相当数の古物あるいはぞう物などが流れこんでいるものとみられるが、その実態は明らかでない。

なお、このほか犯人からぞう物を路上で買取り、これを古物商等に売り込んだり、あるいはその売り込みの仲介をするいわゆる立ちん坊と称する常習的な犯罪者群があり、その数は200呂〜300名に及ぶものとみられている。 

ウ 金属くず営業

金属くず業者は213(うち約50%は行商)で、管内の全業者532軒の42%をしめ、多くは焼け跡にバラック建て程度の店舗で、くず物をもあわせて取り扱っている。

なお、これらの業者のほとんどは、買い子と称するいわゆるバタ屋数名をかかえて、これらに手押し車を貸し与え、くず物等の収集を行なっている。

 

(8) 料理店、飲食店等の実態

ア 概況

釜ケ崎地区および水崎地区における料理店、飲食店関係業者は、別表第1のとおり風俗営業者が183(釜ケ崎地区165、水崎地区18)、普通飲食店が367(釜ケ崎地区305、水崎地区62)の計550軒となっている。このほか無許可営業は風俗営業者で13(いずれも釜ケ崎地区)、普通飲食店が77(釜ケ崎地区71、水崎地区6)の計90軒である。この両者をあわせると640軒となり、これらの業者が同地区にい集している人たちの遊興あるいは飲食の場となっている。

イ 風俗営業関係業者の実態

 (ア) 釜ケ崎地区

この地区内で風俗営業を営んでいるものは、許可業者165軒、無許可業者が13軒、計178軒で、西成署管内における風俗営業の許可業者の総数は684軒であるから、その26%強を同地区でしめている。

これを業種別にみると、別表第2のとおり、小料理店が112軒で地区内業者の62.9%をしめている。次いでパチンコ遊技場の1910.7%、マージャン遊技場17軒の9.6%、カフエー168.9%、その他147.9%の順となっている。また、同地区内の各町単位の分布状況は別表第3のとおり、旧赤線地域に近接した今池町が66軒の37%、山王町3丁目が42軒の23.6%と両町でその60%以上をしめているほかは、東田町1910.7%、東入船町147.9%、山王町1丁目137.3%、海道町が11軒の6.2%、その他が137.3%となっている。

無許可業者は許可業者の8%にあたる13軒で小料理店10軒、小カフエー3軒となっているが、いずれも零細業者であり、他の普通飲食店の影にかくれ取締りの間げきを縫って違反を敢行している実情である。

(イ) 水崎地区

水崎地区における風俗営業者は、別表第2のとおり18軒で浪速署管内許可業者総数133軒の13.5%である。業種別では、遊技場営業者が17軒のほかはわずかに小カフエー1軒があるにすぎない。また、同地区におけるマージャン遊技場の10軒は同署管内のこの種許可業者の43.5%をしめ、とくに注目を要する点である。町単位にみた地域別状況は、別表第3のとおり新世界に隣接した霞町2丁目が1477%、水崎町が423%となっている。 

ウ 普通飲食店関係業者の実態

普通飲食店関係業者の業種別状況は、別表第4のとおりめしやほか13種類におよぶ雑多なものである。そのなかでも、めしやが126軒の28%、和酒スタンドが9421%でこの両者で全体の約半数をしめ、喫茶店、お好み焼、すし店などがこれについでいる。

また、地域的には旧赤線地域である飛田新地に隣接した山王町3丁目、今池'町が最も多く、次いで東田町、霞町2丁目、東入船町の順となっているが、これを各地区別にみるとその状況は次のとおりである。

(ア) 釜ケ崎地区

許可を受けたもの305軒、無許可のもの71軒の計376軒で西成署管内飲食店業者総数は無許可を含め1,417軒ぐらいと推定されるので、その約27%がこの地区に集まっていることになる。

業種別の状況は、別表第4のとおり、めしやが102軒の27.2%、和酒スタンドが76軒の20.2%、喫茶店が5414.4%、お好み焼318.2%、すし店266.9%ハイボールスタンド256.6%、その他6216.5%となっている。

さらにこれを各町単位にみた地域別分布状況は、風俗営業と同様山王町3丁目が81軒の21%、今池町が70軒の19%で最も多く、次いで東田町の6818%、東入船町の4211%、山王町1丁目の216%、その他の地域が94軒の25%となっている。最も少ないのは、東四条一帯で1丁目、2丁目、3丁目を通じてわずか6軒のみである。

業種別の地域的分布状況は、めしや102軒のうち、東田町(23)、東入船町(20)が最も多く両町に4343%が集中しており、これらが附近一帯の「ドヤ」街に止宿する人々の台所的役割を果たしているとみられる。

その他の地域では、旧赤線地域に近接した今池町の16軒、山王町3丁目の16軒がこれに続いている。

和風の大衆スタンドは、山王町3丁目が22軒の29%、東田町が17軒の22%、今池町が16軒の21%となり、この種業種の大半がこれら3地域に集まっている。

喫茶店では、山王町3丁目が1120%、今池町の815%、東萩町、東入船町の各713%がこれにつぎ、これらの地域でその半数をしめている。

次にこれらの営業者が販売する主たる品目および価格は別表第5のとおりで、飲み物ではビールが130円、飲食物では中華料理、ビフテキ、ハイボール、スタンドのつまみを除き、ほとんどが100円以下となっている。

() 水崎地区の実態

水崎地区における普通飲食店は、許可業者62軒、無許可業者6軒、計68軒で、浪速区内における飲食店業者の総数は無許可を含め750軒ぐらいと推定されるので、わずかに9%にすぎず、かつ、地域的にもジャッジャン町のある霞町2丁目のみで51軒、75%をしめている。

業種別では、別表第4のとおり、めしやが2435%、和風の大衆スタンドが1827%で、この両者で半数以上をしめ、喫茶店が69%、すし店57%、ホルモン店46%、その他が1116%の順となっているが、これらのほとんどの業者がジャンジャン町に面した霞町2丁目に集まっている。

エ 指導取締りの状況

普通飲食店については、第一次的には食品衛生法による衛生面から、主管官庁である所管保健所が中心となり視察取締まりを実施しているが、警察が直接取締まりの責任を有する風俗営業等に対する指導取締りは、別表第6のとおり本年1月から6月までの6カ月間の状況は

送庁                  8

送庁と行政処分をしたもの        10

誓約書以上を徴して説諭処分としたもの  196

の計214件である。

これらの違反形態で最も多いのは、制限時間外営業の156件、次いで無許可営業の33件、客引の13件、著しく射倖心をそそるような行為、その他12件となっている。したがって、警察としてはこれら違反の実態ならびに周囲の環境等からみて、今後も引き続き売春ならびに麻薬等の風紀事犯と並行して、

   (ア) 無許可営業違反

(イ) 制限時間外営業違反

(ロ) 客引違反

等を重点に風俗営業面からの指導と取締りを強化することが必要である。


6 犯罪の態様

(1) 概要

ア .昭和35年中に西成署管内で発生した全刑法犯は、7,584件で南署に次いで、府下第2位である。

うち凶悪犯は84(全凶悪犯の約6.5)、粗暴犯は561(全粗暴犯の6)、風俗犯 (とばく、わいせつ)46(全風俗犯の13.2)、ぞう物犯は264(全ぞう物犯の24.2)でいずれも府下第1位の数字を示している。

浪速署管内の全刑法犯は5,188件で府下第5位の発生数を示しているが、凶悪犯(53件〉ぞう物犯(65)はいずれも西成署管内についで府下第2位となっており、粗暴犯も379件で第4位をしめている。以上の点からして浪速署管内もまた有数な犯罪地域であるといいうる。

 以上のように、西成署管内においてはあらゆる犯罪が多いのであるが、特に凶悪犯、粗暴犯、風俗犯、ぞう物犯が圧倒的に高い発生数をしめしており、しかもそれらの犯罪は釜ケ崎地区に集中している状況である。

水崎地区の場合も、この地区が浪速区内でしめる面積の比率にくらべると相当高い犯罪発生率をしめしている。

 特別法犯においても、売春犯および麻薬犯は常に府下第1位の発生率を示している。

 そのほか統計に現われないこの地区独特の犯罪としてヤミたばこ(シケモク)、やみ焼酎(バクダン)、私設競輪(ノミ屋)、私設職安(手配肺)等がある。

 なお、この地区における犯罪の特徴として、犯罪の公然性と零細性がある。すなわち明らかに盗品と思われる品物が白日の下で取引され、ノミ屋が地面に予想表を拡げ、密造のたばこ、酒が店頭に並べられている状態であり、また、水道のセンやゲタ、くつの片方が盗まれたり、ヤミたばこにしても、キタやミナミの洋モクが、ここでは吸いがらの巻きもどしであり、ノミ屋、とばくにしても10円、20円を争うものできわめて零細なものである。

(2) 犯罪の発生状況

ア 釜ケ崎地区

釜ケ崎地区の犯罪状況を主要犯罪別にみた場合、凶悪犯は44件で西成区全域の52.4%をしめ、粗暴犯は277件、49.4%といずれも西成区全域の半ばをしめているが、主要盗犯については490件、13.9%で居住人口からみた場合多いとはいえない。

このように盗犯が少なく、凶悪犯、粗暴犯が多いということは、希望をもたない居住者の心理状態を犯罪面からもうかがい知ることができるのである。

町別単位にみた場合、面積に多少の相違はあるが、集団暴力事件の発端となった東田町がもっとも多く、凶悪犯は29.5%、粗暴犯は23.5%と発生率がきわめて高率を示しているにかかわらず、主要盗犯では15.3%となっており、釜ケ崎地区の縮図的様相をしめしている。

この東田町に隣接する東入船町、海道町がこれに次いで高い発生率をしめしており、この地域が犯罪面からも釜ケ崎地区の中心をなしていることがうかがわれる。
イ 水崎地区 

この地区においては、釜ケ崎地区ほど目立った犯罪の集中傾向はみられないが、この地区の面積が浪速区全体のわずかに4.7%であるのにくらべると各犯罪とも相当高い発生率をしめしている。とくに凶悪犯(浪速署全域の13.2)、粗暴犯(11.6)、あきすねらい(12.5)が多く、粗暴犯のうち、暴力は約26%をしめている状況である。

なお、この地区では主要盗犯は馬淵町に多く、49件でこの地区全体の42.3%であり、粗暴犯は霞町2丁目が多く、19件で43.2%をしめている。

両地区の主要犯罪発生状況の詳細は次頁の表のとおりである。


7 各種犯罪の実態

(1) 暴力団と暴力犯罪の実態

ア 暴力団の実態 

() 西成署管内における暴力団の状況

西成署管内を本拠とする暴力団は101団体でその構成員は約1,780名、そのほか、他管内に本拠があり西成署管内を活動地域としているものは24団体約400名もあり、府下全暴力団の約3割近くがこの地域に集中している。 

(イ) 釜ケ崎における暴力団の状況

釜ケ崎地区及び水崎地区に本拠事務所をもつ暴力団は次のとおりである。

イ 暴力犯罪の実態

() 西成署管内は府下第1位の暴力犯罪多発地域であり、昨年中に561件の粗暴犯が発生しているが、その約50%にあたる277件が釜ケ崎地区に集中している。

() この地区における粗暴犯を罪種別にみると暴行が58(西成署管内全域の61.1)、傷害125(48.8)、脅迫15(68.2)、恐鴫79(41.8)となっている。

(ウ) そのほか、大小各種のとばく、競輪のみ屋、当り屋をはじめ、表面にあらわれない、酔客同志の暴行傷害事件が毎日のようにくり返されているのが実状である。

(エ) 以上、対住民犯罪のほか暴力団相互間の勢力争いに基因する集団暴力犯罪がある。

昨年度4件、本年度1件が発生しているが、これらはいずれも昨年8!2口に発生した神戸山□組と明友会の抗争事件のように、数十名の暴力団員が、けん銃、日本刀、匕首等を携えて乱闘し、西成関係の検挙者45(本件の総検挙人員99)におよぶような大がかりなものである。このほか他管内で原因事件が発生し、刑事警察の活動とあわせ数日にわたって制服員による警備実施を必要とするもの十数件を数えている。

(2) 売春組織と売春犯罪の実態

ア 釜ケ崎地区

釜ケ崎地区において、現に売春に介入していることが確認された暴力団体は11組織(ほかにほとんど活動していないもの数組織がある)、これに所属するもの203名、組織のない売春婦、ポン引及び男娼は302名、その他売春容疑個所110を数えている。(次頁参照)

この地区は、旧飛田新地を控えていること、地区全体がスラム街の様相をなしていることからして、従来から売春と無関係でありえなかった地域である。また安い対償(時聞花300円〜泊り1,500)で肉体取引がされているのも特色である。

暴力団体の介在する売春は、シケ張り、ポン引きによる暴力的な勧誘や、「玉替え」「部屋代とり」「とばし」などもしばしば行なわれる悪質なものであり、ときには取締りを集団的に坊害することさえある。

組織のない売春婦及び男娼は、前者は主として飛田本通り及び東、西入船町を、後者は山王町1丁目、天王寺公園及び霞町を稼働地にしている。これらの売春婦は、なんらかの形で暴力団体のひ護を受けるか、あるいは、いわゆるヒモつきで稼働しているのが実状である。また、同地区の売春容疑者は、旅館業者、風俗営業者のなかにもかなりあり、往年からボン屋経営をしているものもある。

なお、西成署が昭和36年上半期に検挙した売春事犯641件のうち、458件約70%は釜ケ崎で検挙したものである。 

イ 水崎地区

水崎地区で売春に介入し現に活動している暴力団体は5、構成員112名、組織に属さない売春婦、ポン引及び男娼52名、売春容疑個所45カ所、数的には釜ケ崎より若干すくないが、地区の環境はよく似た点が多い。

ただ、この地の暴力売春は、釜ケ崎と違って「玉替え」や「とばし」をやることはまれであるが、最近取締りに対して集団的に妨害をするような傾向があらわれている。

売春対償は、花で600円、泊りで2,000円で、釜ケ崎より若干高い。

なお、この地区において昭和36年上半期中浪速署が28件、西成署が(霞町2丁目で検挙)109件、合計137件検挙しているが、これは、浪速署の同年上半期中検挙の約5割に相当する数である。

(3) 麻薬犯罪の実態

ア 釜ケ崎地区

当府における麻薬犯罪は、神戸方面を根源とし、地元の暴力団またはブローカー等のルートを経て、西成を稼働地域とする暴力団等の手に流れ、釜ケ崎周辺の「ドヤ」街を中心として密売されている。

昨年中当府警で検挙した355名のうち、西成地域(そのほとんどが釜ケ崎地区であるが)に関係あるものについてみると、次のとおりである。

西成を犯行地とするもの268名のうち152(57)は、他の地域に居住するものであり、西成に居住するものは116(43)である。違反態様の譲受渡は密売関係者、交付は密売者から売子に対するもので、所持は売子の一部を除き施用とともに中毒者層である。このほか44名が神戸方面で検挙されているが.これらはブローカー等の密売の背後関係者であり、これをあわせると、麻薬犯罪の88%がこの地区において敢行され、ヘロイン約2,142グラム(1グラム9,000円と、すると小売価格1,9278,000)が売りさばかれている。

密売所は暴力団またはそのひ護下にある密売者によって、簡易宿所、アパート等の部屋10数カ所を拠点とし、あるいは路上立売で、現場責任者、見張り、運搬、売子等の組織により、い集する中毒者等に密売している。

麻薬中毒者は、リスト全登載者1,188名中、釜ケ崎地区に居住する者(検挙当時)433(36)でその状況は次表のとおりである。

()無職者は、暴力団員、ポン引、麻薬密売を生業とする者その他いわゆる無為徒食者、その他の有職者は、会社員、医師、くつ磨、理髪職人等である。

このほか、釜ケ崎地区で居住していたと認められる住居不定者が105名あるが、これら中毒者は移動が激しく動向は握がきわめて困難である。以上のほか同地区に潜在していると思われる者が300名ぐらいあり、他の地域から買い受けに来る者をあわせると約1,000名内外の中毒者層が麻薬を求めてこの地区に出入りしている。

昨年中、検挙したもののうち、西成を稼働地域とする暴力団関係者は次のとおりである。

これらの暴力団は主として売春暴力団で、麻薬密売を資金源としており、検挙されても組員が入れ代り違反を敢行している。 

イ 水崎地区

 水崎地区における麻薬中毒者の状況は次のとおりである。

昭和35年検挙

浪速区を犯行地とする者  7名   全体の2

浪速区に居住するもの   6名    同1.7 

(4) ぞう物犯罪の実態

 大阪府下はもとより隣接府県から本地区に流入するぞう品はおびただしい数に達するものと予想されるが、その実態は必ずしも明確でなく、個々の取締りの過程を通じて判明するに過ぎない、これらの事態に対処するため、昨年所轄署にぞう品捜査専従班(従事員24)が配置され大きな成果をあげている。各表は同取締専従班の本年上半期における取締り結果であり、本地区におけるぞう物犯罪の一端を解明したに過ぎないものであって、この数字をみても、本地区におけるぞう物等の流動がいかに大きいものであるかがうかがい知られる。

(5) 密造酒等の実態

ア 酒税法、専売法違反の状況

釜ケ崎及び水崎地区では酒類の密造は行われていないが、相当多量の密造酒が消費されている。これらの密造酒は主として住吉、東住吉方面の朝鮮人等によって密造されたドブ酒、ショウチウなどであるが、アルコール度が14度〜15度ぐらいに薄められており、これを補うために唐がらし等を入れるなどきわめて低絞なものである。ヤミたばこは密輸品及びいわゆるモク拾い等の手によって再製された手巻きたばこであり、密輸たばこは主として旧飛田地区、手巻きたばこは職安周辺において販売されており、その実態は次のとおりである。

イ 取締り概況 

昭和35年度中の検挙状況は次のとおりである。