【 平成9年度決算特別委員会(公営)平成10年9・10月-10月07日−04号 】
◆関根信次委員
それでは次に、建設業退職金共済制度。以前にも財総委員会で取り上げた問題なんですが、この問題について簡単にお尋ねします。
建退共というふうに簡単に呼ばれている制度ですが、これはこういうパンフレットがありまして、日雇いの建設労働者が仕事に行った場合に、1日について何ぼと、これは 300円になっていますが、そういう退職金のためのシールを手帳に張って、そして仕事をやめたときにはあちこち行くわけですから、そういう人たちに収入がなくなったときにそれでつないでほしいという思いも込めた共済制度です。特殊法人の建設業退職金共済事業本部組合というのができていてそこでやられています。
これは読んでいたら時間がかかりますので、制度の仕組みとしてはそういうことなんですが、建退共という制度に入った企業は、公共事業を受けるのに有利になるということと、そういう退職金のためのシールを買う費用、これは税制上、損金になるというふうなことで、相当政府も、昭和39年から実施されているんですが、そういう制度ができて、建設日雇い労働者をやはり救済しようということで随分昔からやられています。
ところが、建設業界の体質もあるんでしょうか。なかなか進まないということで、大阪市の公共事業でもなかなか進まんという問題がありました。一昨年ぐらいから私、この問題を取り上げて、いろんなお願いもしているわけです。
実は、この問題が非常に大事だというのは、先日も若干質問に出た問題ですが、ことしの夏、集団赤痢が発生したあいりん地区なんです。このあいりん地区にはたくさんの建設労働者がいます。そういう人たちが今、経済の大変な大変動の中で問題のホームレスに追いやられていっているという状況があるんです。端的に言えば、公共事業に起こるこの建退共制度が本当に末端まで行けば、ホームレスをなくすことだってできるんですよ、少なくすることだって。そういう立場で公共事業における建退共制度というのをぜひ充実をさせてほしいという思いで幾つかの問題を取り上げたいと思います。
交通、水道両局で8件の建設現場の資料をいただきました。率直に言いまして、建退共制度を極めて粗末に扱われていると言わざるを得ません。
例えば水道局の2件、柴島浄水場の建設ですが、鹿島・日本国土・井上のJVがやっています。金額が31億を超える事業です。ところが、制度でいくと0.35%の建退共のシールを買い取らないかん、元請はね。実際、その制度で3万 7,097枚の1日券シールは買うているんです、元請は。ゼネコンですね。ところが、実際の問題は労働者に渡っているかどうかです。渡ってないんですよ。65%の進捗率の工事ですが、1万 8,052枚、70%しか渡ってないんです。大手ゼネコンでもこの始末であります。
次に、豊野浄水場、ここは大林・鴻池・阪神のJV。進捗率40%の工事。ここで2万 5,552枚の労働者に渡すべきシールを購入しているんだけれども、実際労働者に渡っているのは 3,096枚、12%しか渡しておりません。
交通局の方もずっとあるんですが、時間の関係で端折ります。
全部の事業所を合わせますと、8件ありまして、全体で81億 3,161万円の発注額であります。その場合に支給すべきシールの数、証紙の数は幾らかというと、枚数で1万 8,038枚です。支給していない、いわゆる本来の工事価格から一定率掛けてシールを購入している、それを渡していない。渡していないのを8事業所で合計しますと1万 8,038枚、これが労働者に渡っておらんのです。計算しますと 541万円。ごくわずかのお金です。しかし、あの西成の労働者からすれば、 541万円の退職金というのは、一体何人の労働者の命が救えるのかというふうに私はこの 541万円を見るべきやろうと思うんですよ。
ことしの夏、大変な赤痢になりましたが、今、特に高齢者の日雇い労働者というのは、本当に職がないんです。大体、労働者の住居というのは、簡易宿舎、宿所、つまりドヤですよ。それと飯場、もう1つは賃貸のアパートです。圧倒的に多いのは、賃貸アパートでは経費がかさむんで、あっちこっち泊まり歩くわけだからドヤが圧倒的に多いんです。ところが、収入が入らない、仕事がない、ドヤに住めないんです。今、市長、ドヤ一泊何ぼぐらいか御存じですか。御存じないでしょうね。大体一番安いので 500円らしいです。一番最高クラスで 5,000円だそうです。平均して 2,000円ぐらいの一泊の料金が要ると。しかし 2,000円の泊まる費用がないんです。そして路上に投げ出されるんですね。そして今度は住居費もないけど、食う金もない。
幾つかのカウンセリングの手記があって、私も胸が詰まったんですけれども、路上に投げ出されて、食い物のある場所と言えばごみ箱ですよ。ごみ箱に手を伸ばすには随分決意が要るんだそうです。そして一たんごみ箱の中に手を入れたらあとは気が楽になるそうです。つまり人間性破壊の過程を経て、ごみ箱のものをあさるというふうになっていくこの苦しみがあっちこっちで手記で書かれておるんですね。
しかしそういう中でも、建退共の手帳を持って、シールがきちんと張られている労働者は、天国と地獄の境で上へ上がるんですよ。手帳を持っていってもシールが張っていない。手帳の存在も知らないという労働者はドーンと落ちていくんです。そしてホームレスや、ある場合には浮浪者なんていう無礼なことを言われて、私は気分が悪くなったんですけれども、そういうふうになって大変な状態になっていく。それに襲いかかったんが8月の集団赤痢やったんですよ。そういう問題を解決するには、1つは建退共の制度というのはなくてはならんのです。
大阪市が発注する公共事業の中でも、元請は建退共に入っているけれども、1次請け、2次請けになるとほとんど建退共に入ってないでしょう。水道局の担当者、おわかりでしょうな。例えばさっきの豊野浄水場、下請25社あるけれども、建退共に入っているのは8社ですよ、知ってはりますな。これふやさなあきませんで。そうでないと、せっかく工事原価に含まれているシール代が労働者にいかない。命を救うシールですよ、これは。あいりん地区の労働者にとってはね。それが、せっかく仕事をしたのにもかかわらず、そこへいかないと。これは絶対に是正する必要があります。
監査事務局、もうおたくに問題を振ったらまた時間がかかるから言いませんが、余り現場の実態を無視した監査結果を出すべきではない。よく検討してほしい、現場。監査請求した人たちの中では痛烈な悪口を言ってまっせ。監査事務局の上に「あ」という字をつけたらどうやと。どう読むんか知りませんけどね。
だからこの実態ですね。例えば私が紹介した 541万円が何人の労働者を救うことになるんかと、こういう立場でゼネコンを指導せなだめですよ。そのことをぜひお願いをしておきたい。
市長、どうでしょう。大阪市の官工事の中でもこういう問題があるんです。財総委員会で私、質問したことがあったと思うんですが、何か感想があればどうぞ。
◎磯村市長 この建退共制度というのは、本当にいい制度であると思いますし、この制度の恩恵を受ける方々にとっては非常に重要なものであるということもよく私は理解しているつもりでございますが、ただいまお話を伺ったり、先ほどからマスコミの紙面で読んだりしておりますが、これが実際、対象で恩恵を受けるべき方々のところにいかないというのは非常に重要な問題であって、この制度そのものについて十分に点検してみる必要があるのではないかという思いをいたしております。
行政といたしましては、発注者としてそれなりの資金は渡しているわけですから、これがなぜ、今のゼネコンが切符を買っているにもかかわらず、直接、労働者あるいは下請の人たちのところに入らないのかという、その辺のことを十分考えながら、もし制度上問題があるんだったら、確かこれは勤労者退職金共済機構という機構があるわけですから、この機構にも我々の方から実情を説明して、何か考えるべきことがあるのではないかということも申し入れをしてみたいと思います。我々としてやるべきことはやってみます。