165-参-経済・産業・雇用に関す…-2号 平成18年11月22日

 

平成十八年十一月二十二日(水曜日)

   午後一時一分開会

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   委員の異動

 十一月二十一日

    辞任         補欠選任

     井上 哲士君     吉川 春子君

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  出席者は左のとおり。

    会 長         広中和歌子君

    理 事

       小池 正勝君  南野知惠子君  尾立 源幸君  小林  元君  澤  雄二君

    委 員

       岩井 國臣君  神取  忍君  佐藤 昭郎君  西島 英利君  野村 哲郎君

       松田 岩夫君  伊藤 基隆君  柳澤 光美君  和田ひろ子君  吉川 春子君

       渕上 貞雄君

   事務局側

       第二特別調査室長        富山 哲雄君

   参考人

       株式会社ジョーズ・ラボ代表取締役       城  繁幸君

       京都大学大学院経済学研究科教授        橘木 俊詔君

       慶應義塾大学商学部教授     樋口 美雄君

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  本日の会議に付した案件

○経済・産業・雇用に関する調査

 (「成熟社会における経済活性化と多様化する

 雇用への対応」のうち、非正規雇用をめぐる現

 状と課題について)

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○伊藤基隆君 今日はどうもありがとうございます。

 民主党・新緑風会の伊藤でございます。

 私は、この臨時国会の冒頭で安倍新総理の所信表明演説に対する代表質問を行いました。安倍総理の所信表明演説は、美しい国や片仮名が多いことが話題となりましたが、その経済政策は、小泉前内閣の構造改革を引き継ぎ、規制緩和や市場の競争原理を活用して成長を目指すとしています。一方、この間に生じた改革の痛みについては、勝ち組、負け組が固定化しないよう、再チャレンジが可能な社会を目指すというふうに述べています。

 私は、代表質問で格差問題を取り上げましたが、焼け野原から復興した戦後の日本の社会で、今日ほど所得の格差、大都市と地方の格差、持てる者と持たざる者の格差拡大を経験したことはありません。ワーキングプアや偽装請負にも触れましたが、雇用の面での格差拡大が将来日本の社会の中に階層の分化を生み出すのではないかと心配しています。

 しばらく前から、有名大学ほど学生の親の高収入がある傾向が指摘されています。最近では教育投資という言葉が使われますが、高収入と高学歴が結び付いて更に資産をも保有する階層が形成されつつあるように感じられます。一方で、ニートやフリーターと呼ばれる人々は、不安定な雇用形態から離脱できずに一生を送る可能性さえ出てきています。

 先週、アメリカの経済学者のミルトン・フリードマンが亡くなりました。国の関与を薄めた規制緩和と市場主義に重点を置くフリードマンの経済思想は、サッチャーやレーガンに採用されて、当時の英国や米国の経済・財政再建を成功させました。日本では、バブルの崩壊後、小渕内閣までの伝統的な景気対策が行き詰まった中で、小泉内閣の構造改革に影響を与えたわけであります。そういう一般新聞紙上での評価があるわけであります。

 しかし、構造改革、雇用における規制緩和は、格差拡大に伴う大きな社会問題を生み出してきています。一部では労働ビッグバンが叫ばれているようですが、経済成長の果実を一部の人だけに配分し、格差に泣く人々が増加する傾向は、今後、より強まるのではないでしょうか。

 安倍総理は、再チャレンジ支援策を推進し、ニートやフリーターの積極的な雇用を促進すると述べていますが、とても問題解決に至るとは思えません。セーフティーネットがあればとか、結果の公平ではなく機会の公平があればとする言い方は、市場主義の出口が弱肉強食の社会につながっていることをごまかしているだけなんだと、私は思うんです。

 こういうことをまず申し上げた上で、三人の参考人の皆さんに御質問いたします。

 まず、第一の質問でありますが、全国の総労働人口は約五千万人ですが、内訳は、正社員として働いている者は、正規雇用は約三千三百四十万人、パート、アルバイト、派遣等の非正規雇用は千六百六十万人です。労働者派遣法が制定された一九八五年は、総労働人口は約四千万人で、この間に約一千万人増加、正規雇用は三千三百四十万人でほぼ同数、非正規雇用は六百五十五万人で、この間に一千万人増加してきました。この二十年間で、ちょうど一千万人の総労働人口が増加しましたが、増加分はすべて非正規雇用ということになります。バブルがはじけた直後の一九九四年は、正規雇用が最も多いピークの年ですが、正規雇用は三千八百五万人、非正規雇用は九百七十一万人、現在と比べると、この十二年間で正規雇用が五百万人減り、非正規雇用が七百万人増加しています。

 終身雇用、年功序列賃金は、もう完全に過去のものです。バブル崩壊後、特に中高年層がリストラと直面する中で、労働市場の規制緩和が進んで、従来は正規雇用が担っていた職域が非正規雇用に置き換えられてきました。労働者派遣法の制定当時は、常用雇用の代替とならないよう、業務の専門性が考慮されて適用する業務を限定していましたが、三度の改正を経て、現在では偽装請負の隠れみのとしての役割さえ果たすような状況になっています。労働者派遣法の改正理由は、働き方の多様性に対応するため、ミスマッチの解消などと掲げられてきましたが、結局は、本音である安く雇用することだけを考えて、派遣労働導入時の理念など消え去ったと言えるのではないかと思っています。

 この状態では、少なくともGDPの六割程度を占める個人消費が伸びる可能性は低く、景気に与える影響も大きいはずです。私は、一体社会はだれのためにあるかという視点に立ったときに、働く者を大切にしないのでは政治に値しないと危機感を持つものです。三参考人の皆さんには、非正規雇用の現状についてどのような認識をお持ちになっているか、御意見をお聞かせいただきたいと思います。

 先ほど樋口参考人が、非正規雇用の未婚率の問題と職業技術の向上のチャンスが少ないということが挙げられています。私は、製造業の総合的な技術力の低下、正規雇用の労働者が少ないことから起こるのではないかと想定している不良製品とか製造物の危険性の発生など、日本の経済力の根幹が崩れ、また社会的な力といいますか、そういうものの弱体化が起こっているんじゃないかというふうに思いますが、御認識をお聞かせいただきたいと思います。

 次に、第二の質問ですが、バブル崩壊後の景気低迷期、一九九〇年代の後半期から数年間は企業の新卒者採用を極端に絞った就職氷河期と呼ばれたものがありました。たまたまこの不景気と新卒就業年齢が重なった人々にとっては大変な就職難が待ち受けて、そのままフリーターとなったケースも多いと聞いています。フリーターの数は二〇〇三年の二百十七万人をピークに漸減傾向にありますが、現在の二十五歳から三十四歳までの就職氷河期世代のフリーターには今更正規雇用への機会がほとんどないのが実態です。このままでは、男性は請負で、女性は登録型派遣として未熟練労働者として固定化される可能性が強まります。キャリア形成の面からは、均等処遇がままならないまま、勤続を重ねても賃金が上がらず、技能も評価されず、将来の見通しが立たないのが現実ではないでしょうか。この就職氷河期世代には特段の対策が必要なのではないかと考えますが、三人の参考人の方々の御意見をお聞かせいただきたいと思います。

 そこで城参考人にお伺いいたしますが、政府は、再チャレンジ推進会議で本年五月三十日に中間取りまとめを行って、その中で具体的なフリーター等の関連する対策について、一に、フリーターの経験を企業の採用評価に反映させる仕組みの整備、二に、就職氷河期にあったフリーター等を国家公務員に中途採用する、三に、非正規労働者の正規労働者への転換制度導入、四に、年長フリーターに対しキャリアコンサルティングの実施、能力評価等を行う再チャレンジ機会拡大プランなどが挙げられていますが、現実問題として果たして効果が見込まれるのかどうか、どのようにお考えか評価をお聞かせいただきたいと思います。

 先ほど城参考人は、リクルートCVについて説明されまして、なるほどリクルートなるがゆえの制度だなというふうに私も大変感じたところでございます。しかし、これらの制度を企業が取り入れるとすれば、その意思があるか、長期的な企業戦略又は安定的な発展への意欲と実行力が伴うのか、多くの障害があってなかなか実現しないんじゃないかと思います。

 私は、城さんに聞きたいのは、企業外の職業訓練は実践に役立つのか、非正規を正規雇用にすることは可能なのか、現実に中途で採用できるのか、その際の賃金体系はどのような問題があるかについてお聞かせいただきたいと思いますが、城さんは、非正規雇用を正規雇用にすること又は中途採用の問題について、正社員としてのキャリアの積み上げが求められること、それに対するサポートが必要というふうにおっしゃっていました。果たしてどんなサポートが可能なのかと思います。さらに、職務給の問題と将来的には同一労働同一賃金との一体性というものが述べられたと思いますが、職務給の定着、一般化は二十年ぐらい掛かるということでありました。

 しかし、私は、その職務給の問題、労働に対する適正単価が払われるべきだと。労働条件の不利益変更に関するルールを変更すべきだということも述べられましたが、世の中の賃金体系というのは、私は労働組合をずっとやってきたんですが、善意のというか発展的な対応というのは企業から起こってきません、なかなか。リクルートの例というのは、私は驚くべきことだと思っています。ということからすれば、当面、就職氷河期世代に対するもの、また現状の当面の対応というものをどう取りながら、将来的には、やはり私は職務給、同一労働同一賃金が進むべき道だというふうには思っておりますが、当面の対策が非常に重要じゃないかというふうに今考えています。

 さらに、樋口先生にお伺いします。

 日本の議会としては日本の雇用制度にかかわる基本法の制定ということをおっしゃられました。しかし、今、労働基準法も労働組合法もほとんど守られていません。こういう日本の法治国家としての非常に重大なところが守られていないことについて大変苦労しました。例えば、労働基準法は、前にも言いましたが、労働組合の正に異常な努力と一人一人の労働者の勇気によって辛うじて守られるというようなことになっておりまして、これが実は、労働組合の結集率も弱くなってきておる現状の中で大変なもう格差を生んでくる、交渉力の低下、まず相手にされないような感じということになってきているんじゃないかと。

 これは私は、先ほど申し上げたような社会的力の低下ということにつながっていきつつあるというふうに思いますので、その基本法の考えについてもう少し詳しくお聞かせいただきたいと思います。

 以上です。

 

○会長(広中和歌子君) 大変多岐にわたる重たい質問だったと思いますが、順番にお答えいただきます。

 それでは、城参考人、よろしくお願いいたします。

 

○参考人(城繁幸君) 非正規雇用労働者の増加による影響というのは確かに出ています。彼らは結局職務給ですから、従来の企業内のいろんな制度、それから風土というのは新卒で入って定年まで勤めるということを前提としてできておったんですね。ですから、もう一心同体というか、船沈んだら君も沈むぞぐらいの覚悟で、愛社精神が非常に高いものだという前提でおったんですね。ところが、派遣社員て、一年とか、今派遣法変わりまして大体最長三年ぐらいですけれども、やっぱり有期雇用であると。実際には半年、一年で転職される方が非常に多いですし、彼らは結局一時間千円、その発想でしかされていない方が多いんですね。会社のためにという方は正直いらっしゃらないと思います。

 ですので、いろんな正社員前提のシステムというのは無理が来ていますね。例えばセキュリティー問題、情報漏えいであるとか、そういったいろんな幾つかの方、やっぱりそういった従来と違う雇用形態の方が関与しておられるケースというのは非常に多いです、これ表に出ないものも含めてですけれども。ですので、長期的に企業の体力であるとか技術の醸成というのはやっぱりそういう意味ではマイナスが出ると思います。

 ただ、残念ながら、経営者の方というのは、皆さんとは言いませんけれども、非常に短期的な数字にこだわられる方が多いんですね。ですので、十年先をにらんで正社員を育成されるという方は残念ながら多くはないと思います。その一例が二〇〇七年問題、来年から団塊世代が退職をされるということで、慌てて今年から新卒求人倍率増やしているんですね。みんな一斉にやりますから、一・八倍、一・九倍ぐらいです、今年。絶対無理ですよ。これ四年前にやっていれば、一・一ぐらいだから幾らでも採れたんですよ。今になって、その四年前の人間はフリーターだから駄目だと。これ非常に無駄ですね。これエゴだと思います私は、年功序列世代の。ですから、そこは絶対に対策は必要だというふうに言っています。

 正直言うと、私個人の意見ですけれども、新卒の人間、それから派遣社員あるいはフリーター三年やってきた人間、後者の方が立派ですよ、社会経験ありますから。ただ、要は、先ほど言いましたけれども、スタンスなんですよね。新卒の二十代、二十二歳の人間、君は正社員だから頑張ってね、これだけ研修やりますよ。二十五歳のフリーターの人間、おまえはフリーターだからこれやっておけよ。これじゃ伸びないですよ。同じ待遇を与えれば必ず伸びるんですよ。三や四年、五年ぐらいの差というのは、私はほとんど関係ないと思います。ただそこは、だから、企業の自助努力に任せていたら、私の経験からはなかなか変わらないと思うので、そこは例えば法律でプッシュをするであるとか、それからメリットも与えることが必要だと思うんですね。

 そこで、さっき私申し上げたような試用期間の延長です。これはCV制度と通じるんですけれども、例えば三年間、非正規雇用労働者に対しては、正社員登用、試用期間三年間認めますよとやるだけで企業にとっては非常にメリットがあると思うんですね。今インターンや何だといって、学生に対してはインターンシップなんかで適正があるかどうか見ていますけれども、大体二週間とか一か月ですから、それ三年間、試用期間、猶予があるとなれば、企業にとってはメリットは非常に大きいです。実際三年間試用される側に立って考えれば、三年間の間に自分のアピールをすればいいんですよ。三年後に自分はこの会社にとって必要な人間だと思わせれば、当然そこで正社員に登用されるでしょうし。中にはやはり派遣社員と同じような感覚で使われる企業はあると思います。ただ、その場合でも、職歴残るんですね、正社員としての三年間の。これは、今後の転職において一気に選択肢って広がりますから、私はこういった対策ってお金掛かりませんし、非常にいいのかなというふうに考えております。

 よろしいでしょうか。

 

○会長(広中和歌子君) よろしいですか。

 それでは、橘木参考人、お願いいたします。

 

○参考人(橘木俊詔君) 一番目の御質問は、非正規労働者と正規労働者の格差のことについては皆さん全員話しましたのでそれはパスしまして、二番目の就職氷河期にフリーターになった人をどうしたらいいかという対策に絞ってお話ししたいと思います。

 この人たちは生まれた年がたまたま不遇だったわけで、そういう人たちは機会の平等が阻害されていたと。学校出た年に就職氷河期でいい職がなくってフリーターに甘んじているわけですから、私は社会全体でやはりそういう人たちを助ける義務があるというふうに、それは機会の平等を担保するために義務があるというふうに考えております。

 じゃ、具体的にどんな政策が考えられるかといいますと、一つの例としてはイギリスのニューディール計画、ニューディール政策と言われるのが参考になるんではないかと思います。イギリスも大変な若者問題で非常に悩みまして、失業者が増えたとかホームレスが増えたとか、いろんなことで悩みまして、イギリスはどういう政策を取ったかというと、とにかく一人のそういう人たちに指導員、アドバイザーが一人付いて徹底的な面接をやって、この人はどういう技能が足りなくて、どういう訓練をしてどういう職業に就いたら一番その人の持っている人間力を生かせるかという政策をイギリスはやったんですよね。

 ほかの国も、北欧だとかオランダとか、そういうことをやったんですが、かのイギリスという、アングロサクソンで基本的には市場原理主義でいくような経済ですらそういうようなニューディール計画で若者支援を徹底的にやって非常に成功したという例がございますので、先ほど申しましたように、一人一人の若者に面接者を付けて、その人が就職できるまで面倒を見ると、そしてその人の必要な技能を形成するために公共部門が積極的に支援をやると。例えば、職業訓練校に送ったり、あるいは資格を取るような制度を持っていったり、いろんな形をイギリスがやりましたので、そういうような形で、非常に一人一人に立ち入って公共部門がそういうことをやらないと、私は日本では無理だなというふうに思います。

 なぜかといいますと、企業にそれを期待するのはもう無理な時代であると。昔は企業は真っ白な新卒者を自分のところで雇って訓練をして一人前の労働者にしたんですが、今の日本の企業においてはそこまでのもう余裕がない。となると、企業にそれが期待できないのであれば、これはだれかがやらにゃいかぬ。だれかがやらにゃいかぬとなると、私はもうそれは公共部門しかないかなというふうに考えております。

 日本においては、不幸なことに、そういう公共部門がそういうような求職だとか訓練だとかいろんな形で雇用対策をやる費用というのは、GDP比で見るとこれは世界の先進国の最低レベルでございますので、そういうような意味からも、そういうような分野の支出をもっと大胆に増やしてほしい。これは教育にも当てはまることなんですが、教育と訓練ということをやっぱり徹底的にやっていただきたいというのが私の希望でございます。

 以上でございます。

 

○会長(広中和歌子君) ありがとうございました。

 それでは、樋口参考人、お願いいたします。

 

○参考人(樋口美雄君) 私は三つほど御質問いただいたんじゃないかというふうに思います。

 まず一番目に、日本において、正社員と非正社員の違いにおいて、なぜそういったものが起こってきているのか。これ、先ほどから出てきます給与体系と、それと会社における役割、あるいは会社が何を期待しているのかというようなことに基本的にやはり違いがあるんじゃないかというふうに思っております。

 正社員の場合に、これまでの生活給とかあるいは先ほどから出てきます年功賃金、一体この制度はどのように考えればいい制度であるかということを思いますと、例えば、その人の仕事に給与を払うというよりも、むしろその人の背負っている生活に給与を払うというような側面が非常に強かった。言うならば企業が家父長的な役割、お父さんの役割というようなことで、社員の生活まで面倒見ていくんだというようなことがあった。その代わり、今度は代償という形で拘束を掛けるよということで先ほどのような残業の話ですとかあるいは転勤というようなものがあったんだろうというふうに思います。その一方で、非正社員というのはこれは保障の対象にならないというような扱いがなされてきた、そこが基本的な私は違いであったんだろうというふうに思います。

 これについての均衡化をどう図っていくかというようなことをいろいろ我々も検討してまいりました。

 まず最初は、やはり検討しなければならないのは、そういった給与の決め方が、もう入口の段階で、この人は正社員だから保障します、この人は非正社員だから保障しませんというような入口の段階における違い、こういったものを是正していく必要があるんだろうというふうに思います。そのためには、生活に給与を払うというよりも、やはり仕事に給与を払う、その人の行っている職務でありますとかあるいは職責、そういったものに対して身分の違いである雇用形態の違いを脱却して払っていくというようなことで、ともかく給与の決め方を一本化するというようなことが必要だろうというふうに思います。

 例えば、正社員について職能資格制度を取っているというようなことであれば、パートの人たちについても、パートだから時給八百円ねということじゃなく、その人のしている仕事に応じて、あるいはその人の能力に応じて決めていくというようなことがない限りフェアな競争が行われない。これでは正に企業の活性化というものも進まないわけですし、身分制度になってしまっているというのが現状の問題としてあるのではないだろうかというふうに思います。

 その点につきましては、今度は法律の中で、これまでもパート労働法の中では均衡処遇をするということが企業の努力義務ということで課せられてきました。問題は、何をもって均衡というふうに言うのかというようなところが明記されていない。それについては、指針において、大臣指針という形で給与の決め方の一本化というようなことはうたっているわけでありますが、それは一切企業に対して義務化していないというようなことがあります。

 現在議論しているところが正にそういったところでありまして、給与の決め方についての一本化ということを今度はパート労働法の中で法律として格上げするというようなことが考えられるんではないかというふうに私は思っております。そうでなければ、これは身分であって、どんなにパートの人が頑張ろうと登用されないと、給与は安いままですということになってしまえば、これはパートの人のやる気が起こってこないというようなことでありまして、企業にとっても損ではないか。こういうところを見て、例えば流通業界でも、ここのところ大手の流通業界を通じて給与体系の一本化というものを志向している企業が増えてきているということだろうというふうに思います。

 二番目の、基本法についての考え方ということで、御指摘の、現行法においても法律が守られていないようなところがあるじゃないかと。私はこれは論外だというふうに思っておりまして、やはりフェアな競争をする上では一定のルールというものが必要なんだと。その雇用のルールというものを決めた以上は、その中においてどこの企業であろうとそれを守ることによって初めて公正な競争というものがなされるわけでありまして、それを守らない方が得だなんというような社会というのはこれやはりおかしいんじゃないかというふうに思いますので、そこについては厳格に適用していくというようなことが必要ではないだろうかというふうに思います。

 そしてまた、それを今度はルールをちゃんと守るよというようなことを強化する上でも基本法といったものが必要ではないかというふうに思っておりまして、例えば、先ほどから出ております厚生年金の問題、労働時間、一般労働者の四分の三以上というのが加入要件でありますが、一九八六年にこれは第三号被保険者というような形で、夫が、相手が、配偶者の方が厚生年金へ入っていればその被配偶者の方については保険料を払わずに基礎年金が給付受けることができるというような制度をつくったわけであります。これは、ある意味では、女性が例えば四分の三以上働いてしまうと今度は年金も保険料払わなくちゃいけないよというようなことになりますし、企業としてもその分保険料を払わなくちゃいけないよということで、ある意味では女性が働くことに対してブレーキを踏んだんじゃないかというふうに思います。

 しかし、その一方では、同じ年に今度は労働省の方、旧労働省の方で男女雇用機会均等法ができる。こちらは女性の社会進出についてアクセルを踏むというようなことになります。アクセルとブレーキが同時に踏まれる。しかも、旧大蔵省においては配偶者特別控除がこの年にできておりまして、これは従来の配偶者控除の二倍を専業主婦に対しては控除を認めるというような方式で、これもブレーキを踏んだ。それぞれのその役所において、それぞれは最適だろうというふうに思う施策を取っているわけでありますが、全体としてアンバランスが生じてしまっているというようなことでありまして、やはり女性の社会参加をサポートするようなビジョンを出して、その下に各省庁それぞれの役割というものを担っていくということが私は必要なんではないかというふうに思っております。

 もう一つ、三番目の御質問が、これもう氷河期に卒業した人たちに対する対策はどう考えているのか。

 これは、景気が回復してくれば企業は正社員を増やそうと、あるいは正社員に転換しようというようなところが出てくるかというふうに思います。現に幾つかのところでもう既に出てきているというようなことでありますが、ただ、長い間フリーターでやってきた人たちに対して企業がその採用を積極的にするかというと、私は懐疑的であるというふうに申し上げておきます。企業のアンケート調査を見ても、フリーターという経験をどう評価するのかということになると、ネガティブに評価するというようなことで、それであれば就業経験のない新卒者の方がいいというような企業が多い。

 だとすれば、これについてはやはり社会的なサポートというものが必要だろうということでありまして、その方法として、キャリアカウンセラーとか、先ほどの能力開発を社会として応援していくというようなことを申し上げました。これまでその企業においてはやはり正社員が多かったということで、社内教育に全面的におんぶにだっこという形でしてきたところがあります。また、政策的にもそれをサポートするというような形で、その実施に費用が掛かるのであれば企業に対して助成金を出すというようなことを雇用保険からやってきたというようなことがあります。しかし、その対象にならない人たちというのが今非正社員という形で増えている以上は、社会としてその企業を通じないような能力開発の支援といったものも必要になってきているんじゃないか。

 それが具体的に何がいいのかというと、これは先ほどの橘木さんの御意見と全く一緒でありまして、私もイギリスにも行きまして、実際にニューディールどういうふうに進めているのか、職業紹介のところにも行きましたし、その教育訓練のところにも行きました。あるいはフランス、ドイツ、みんな回ってきました。何が有効であるかというと、やっぱりマンツーマンの支援。個人、それぞれの持っている問題点が違うわけでありまして、親身になって相談に乗ってくれるような人、そしてそのアドバイザー、いろいろ知識を持っているわけでありますから、その人のアドバイスを受けながら個人が自立していこうというような気持ちを強めていくというようなことが必要ではないかというふうに思います。

 試用期間の延長という話が先ほどちょっと出ましたが、日本ではトライアル雇用が既に実施されています。三年間の試用期間というのがフランスの例の暴動のところでも大きな問題というような形が提起されまして、私もその後、日本とEUのシンポジウム等々であの仕組みというものをどう考えるのかというようなことを何人かのEUの先生方に話を伺ったことがあります。

 例えば、ソルボンヌの先生、この人はかなりフランスの雇用政策について決定権を持っている先生でありますが、三年というのは長過ぎると。人を見極めるのに三年必要だというようなことは本当だろうか、三年になったらそこでまた使い捨てという問題が起こってくるんじゃないかということで、むしろ今トライアル雇用では半年ということを大体想定したような仕組み、有期雇用という形で採用して、半年たった段階で正社員に登用するのか、要するに直接雇用にするのか、それとも半年ということで契約期間が切れることによってお引き取りするのか、もらうのか。あるいは、今度は会社の中についても、半年働いてみると会社の様子というのが分かって、自分はこれはどうも適当ではないというような判断を下すのかというような、そこの仕組みをもっと活用していくというようなことが私は必要ではないかというふうに思っております。