165-衆-厚生労働委員会-5号 平成18年11月08日

 

平成十八年十一月八日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 櫻田 義孝君

   理事 伊藤信太郎君 理事 大村 秀章君

   理事 鴨下 一郎君 理事 宮澤 洋一君

   理事 三井 辨雄君 理事 山井 和則君

   理事 福島  豊君

      新井 悦二君    井上 信治君   石崎  岳君    大塚  拓君

      加藤 勝信君    川条 志嘉君   木原 誠二君    木村 義雄君

      岸田 文雄君    桜井 郁三君   清水鴻一郎君    菅原 一秀君

      杉村 太蔵君    高鳥 修一君   戸井田とおる君    冨岡  勉君

      西川 京子君    林   潤君   原田 令嗣君    福岡 資麿君

      松野 博一君    松本 洋平君   御法川信英君    森  英介君

      山本 明彦君    市村浩一郎君   内山  晃君    大島  敦君

      菊田真紀子君    小宮山泰子君   郡  和子君    園田 康博君

      田名部匡代君    筒井 信隆君   細川 律夫君    柚木 道義君

      古屋 範子君    高橋千鶴子君   阿部 知子君

    …………………………………

   厚生労働大臣       柳澤 伯夫君

   内閣府副大臣       渡辺 喜美君

   厚生労働副大臣      石田 祝稔君

   総務大臣政務官      谷口 和史君

   厚生労働大臣政務官    菅原 一秀君

   厚生労働大臣政務官    松野 博一君

   経済産業大臣政務官    高木美智代君

   政府参考人

   (内閣官房内閣参事官)  伊奈川秀和君

   (警察庁長官官房長)   安藤 隆春君

   (総務省総合通信基盤局電気通信事業部長)     桜井  俊君

   (消防庁審議官)     寺村  映君

   (文部科学省大臣官房審議官)           藤木 完治君

   (厚生労働省大臣官房審議官)           荒井 和夫君

   (厚生労働省健康局長)  外口  崇君

   (厚生労働省医薬食品局長)            高橋 直人君

   (厚生労働省医薬食品局食品安全部長)       藤崎 清道君

   (厚生労働省労働基準局安全衛生部長)       小野  晃君

   (厚生労働省職業安定局長)            高橋  満君

   (厚生労働省保険局長)  水田 邦雄君

   (農林水産省大臣官房審議官)           小林 裕幸君

   参考人

   (国立感染症研究所感染症情報センター長)     岡部 信彦君

   (弁護士)        山川洋一郎君

   (東北大学大学院医学系研究科 内科病態学講座 感染制御・検査診断学分野教授)           賀来 満夫君

   (結核予防会労働組合書記次長)          齋藤 康雄君

   (バイオハザード予防市民センター事務局長)    川本 幸立君

   厚生労働委員会専門員   榊原 志俊君

    ―――――――――――――

  

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百六十四回国会閣法第七六号)

     ――――◇―――――

 

○齋藤参考人 今御紹介をいただきました、結核予防会労働組合の書記次長を務めております齋藤でございます。私の意見は、お手元の方にお配りさせていただきましてまとめてございますので、こちらの方を御参照いただければと思います。

 初めに、財団法人結核予防会につきまして少し御説明をさせていただきたいと思います。

 結核予防会とは、昭和十四年四月二十八日、内閣総理大臣に賜った皇后陛下の令旨を奉戴し、閣議決定により設立された公益法人です。設立当初から、結核研究を基礎として、我が国における結核撲滅のため全国にわたる組織を挙げて活動してきましたが、近年においては、結核対策に関する国際協力も幅広く行う一方、結核のみならず、肺がんその他非結核性呼吸器疾患に関する学理的、臨床的研究にも力を入れているところでございます。これらの事業は、国庫補助金のほか多くの方々の善意の募金によって支えられています。

 結核予防会は、創立以来五十五年の間、秩父宮妃勢津子殿下を、次いで平成六年四月より秋篠宮妃紀子殿下を奉戴し、総裁の御指導のもとで事業を推進しております。

 結核予防会での結核に関する事業といたしましては、本部を水道橋に置き、結核の普及啓蒙活動を行っております。水道橋の同じ場所にある第一健康相談所にて、結核の専門外来を行っております。清瀬には結核研究所があり、結核の研究と日本の結核対策を担う人材の育成、国内研修や世界各国の結核対策従事者への国際研修などを行っています。同じ場所にある複十字病院では、結核病床六十床と結核の専門外来を行っております。東村山の新山手病院にて八床の結核病床があります。同じく東村山にて、低肺機能者の方の受け入れにも対応した介護老人保健施設保生の森がございます。

 結核対策につきましては、厚生労働大臣初め、皆様の平素からの御尽力に心より敬意を表します。

 本日、感染症予防法の質疑に際しまして、私に発言の場を与えていただきましたこと、まことにありがとうございます。心より感謝申し上げます。

 これまで厚生科学審議会感染症分科会におきまして御審議いただき、関係団体や関係者の御意見、御指摘を踏まえ、現行の結核予防法の内容も踏まえて、現状の結核対策の後退のないよう法案をまとめていただきましたことを感謝申し上げます。

 法案の中で、分科会で議論となりました医療費負担の問題、命令入所の問題につきましても、結核対策と関連予算は継続されていくこととなりましたこともあわせて感謝申し上げます。

 本日の私の意見は、患者や結核予防会の現場で働く者の立場で申し述べさせていただきたいと思います。

 まず初めに、法律改正に伴う問題点と改善点について述べます。

 本法案は、現行の結核対策の堅持と改善部分が含まれています。しかし、先進諸国の中で、日本の結核対策はまだ十分とは言い切れず、WHOの中でも中蔓延国となっている現状を踏まえると、改善するためにさらなる努力が求められているところであります。

 こうした点からも、まだまだ結核の普及啓蒙活動や研究は重要と言えますので、そうした対策や予算はぜひ継続していただきたいと思います。

 今回、法律改正の御審議をいただくに当たり、ぜひともこれまでの結核対策上の積み残しや今後の具体的な結核対策を決めていただければ幸いです。そして、現状の中蔓延国から脱する取り組みを進めていただきますよう、お願い申し上げます。

 具体的に申し上げますと、ハイリスクや高齢者の患者に対する健診など、財源を含めた具体的対策が今後重要になってくると考えられます。また、結核に罹患した患者の届け出制度を現場の混乱なきよう徹底して進めていただくことが必要です。多剤耐性の対策については、専門家を交えた委員会を開催して決めていただき、入退院の基準の策定や今後の指針を国の立場でお示しいただくことが求められております。

 また、法案の中で気になっている点といたしまして、第二十二条の二「最小限度の措置」の中で、「感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要な最小限度のものでなければならない。」ということになっておりますが、これからの患者発見のために重要な要素である健康診断の後退や、入院医療費の公費負担の縮減につながらないように努力していくことが必要であると思います。

 法案の中でのこうした内容は、患者の権利の問題や人権の問題が大切に扱われるようになったことへの影響もあると思われます。現行の結核予防法では、同居者がいないと命令入所の対象とならず、現実には患者となったホームレス、独居老人、単身者などが対象外となっており、現場では大きな混乱がありましたが、この点につきましては、感染症法に統合されることになり、必要な者は入院勧告となりますので、大きく改善をされました。

 しかし、情勢といたしましては、今後さらに結核対策の将来にも積極的に取り組んでいく必要がありますが、法案の中身では、残念ながらそこまでは触れられておりません。

 今後考えられる問題については、この委員会の中でも触れられたとおり、結核の患者は郊外型から都市型に変わっているとの御指摘がなされたとおりです。さらに細かく申せば、都市部、地方部、農村部という形になっていくと思われ、今後は大きく変わっていくことが予測されます。

 具体的に申しますと、都市部では、結核患者が多い地域として東京には山谷地区、大阪にはあいりん地区があります。そこでの対策としては、ホームレスなどの対策が急務となっています。都市部や地方部では、外国人、単身者や独居老人の対策が必要となります。農村部では、患者の減少により、現在の結核病棟での対策がとれなくなりつつあります。

 このことは、既にこの委員会の中でも、結核病床の減少とその実態について御議論されたことからもおわかりいただけると思います。解決策の一つとしては、一定の条件を満たした病院での病室単位の結核病床の確保が必要になってくると思われます。

 結核の集団発生はこれまでも常にありました。一九九九年、結核緊急事態宣言が出されたことは記憶に新しいところであります。結核対策では集団発生の対応が非常に重要なことは言うまでもありません。かつて結核は亡国病とまで言われ、空気感染による拡大の対策の難しさということもございます。感染症法に統合されても、患者数としては九割近くは結核患者であるという事実は変わりません。

 結核の集団発生の対策としては、デンジャーグループと言われている学校の先生や医師、看護師などに対する対策、六十五歳以上のハイリスクグループへの施策としては、老人保健施設などへの健診を推進する取り組みがなされています。

 結核集団発生の対策としてさらに早急な対応が必要と思われることは、外国人労働者への対策です。日本での外国人結核患者はまだ三%と、欧米の約半数と比べると少ないのですが、今後、労働市場の開放が進んでいくことや、現状でも、請負労働者の中には多くの外国人労働者がいることを考えるならば、健診対策を進めるなど具体的措置が必要な時期に来ていると言えます。不法滞在者への対策も含め、外国人結核患者への対応をぜひ進めていただくようお願いいたします。

 次に、予防内服と予防対策の問題について述べたいと思います。

 現状では、結核に感染しても、発病していない時点で発見されれば、一般的に予防内服という治療を行っています。厚生労働省でも、生活習慣病の対策として、健康維持のためにも健診を拡充して、メタボリックシンドロームなどに対する予防対策が重要だと言われておりますが、結核も予防が大変重要です。法案では、薬の副作用の問題に対応されていることも含め、健康保険での対策については考慮をされています。しかし、残念ながら結核は弱者の病気であること、予防内服の内容も今後は変わっていくことも考慮すると、患者の負担の問題をぜひ軽減していただきたいと思います。

 現行の法律三十四条、三十五条の中では、二十九歳未満はゼロ%の負担となっています。この年齢を決めた昭和六十年代と現在では実態が大きく変化しています。ヒドラジッドの副作用出現率が三十五歳を超えるとやや高くなるので、注意を喚起しつつ、特に発症のリスクの高い者への化学療法ができるよう対策をとっていただきたいと思います。現状での年齢制限は、法案改正に合わせて見直していただき、現状に即した形に変えていく必要があると思います。結核の予防をする上で非常に重要な分野が法律には書かれておりませんので、ぜひとも予防に必要な対策の継続と拡充をお願い申し上げます。

 乳幼児の結核対策についてですが、法案の改正後も、乳幼児のBCG接種は定期接種としての期間が生後三カ月から六カ月と短くなっております。しかし現実は、乳幼児なので、接種を受けようと思っても病気であったり未熟児などの理由でこの期間に受けられないと、その後は任意接種となってしまいます。せめて十二カ月までは定期接種としての扱いとする方が現実的な対応ではないかと思いますので、ぜひ御検討いただきますようよろしくお願いいたします。

 さらに、診療報酬の問題と結核のわかる医師の養成についてです。

 現在、医療の現場では、医師不足、看護師不足が深刻な問題となっております。結核では、結核のわかる医師が急速に減少している問題があります。医師の養成は急務となっています。しかし、専門医を養成することは難しいことですので、医学部の教育課程の中で、テストに出題することやカリキュラムに入れるなど、無理なく施行できる方法としていただきますようよろしくお願い申し上げます。

 最近の産科医、小児科医の不足は、これまでの診療報酬の問題もあると考えられます。結核のわかる医師の減少も、診療報酬が低いという問題を避けては通れません。とりわけ、結核病床が国立、公立などが圧倒的に多く、民間病院が極めて少ないことから見ても明らかです。診療報酬自体の引き上げも望まれています。

 本日は、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。今回の法律改正が今後の結核対策をさらに前進させ、安定化させていくことにつながりますよう、格別な御配慮をいただきますことをお願い申し上げ、私の意見を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

 

○福島委員 ありがとうございます。

 政省令を決めるに当たりまして、先生の御指摘等も踏まえながら我々もフォローしていきたいというふうに思います。

 一般的な質問をちょっとさせていただきたいんですが、最近、格差社会、こういうことが言われて、しかも、健康格差につながっている、健康格差社会だ、こういうふうに言う人がいるわけですね。

 私、大阪なんですけれども、結核が多い。その結核が多い理由というのは、例えばホームレスでありますとか貧困層が非常に多い、こういうこととつながっているわけですね。そういう意味では、感染症というのはそうした社会構造、社会変化というものに影響されるんだなということを実感しております。

 例えば戦争のときに感染症がはやったりとか、そういうことも当然あるわけでありますが、感染症自体は人類とともに永久に消え去ることはないのでありましょうけれども、こうした社会と感染症という観点から、岡部参考人、御意見がありましたらお聞かせいただければと思います。

 

○岡部参考人 お答え申し上げます。

 なかなか難しい御質問で、どうお答えしていいかわからないんですけれども、後戻りは私たちはできないわけで、昔の社会に戻そうというのは、これはなかなか無理であります。それから、確かに、感染症が怖いといいながらも、かつてに比べれば、伝染病にかかるともう危ないんじゃないかというようなところは随分変わってきております。

 しかし、貧困だけではなくて、社会構造の変化によって、例えば性感染症の変化とか、あるいは食材からくる感染症の変化、あるいは、まさに国際感染症なんですけれども、旅行者による、旅行という形態をとっての病原体のやりとりというようにふえてきていますので、感染症の問題は、必ずしも、感染症のエキスパートといいますか、今までのような医療関係者あるいは研究者、保健行政関係者だけで考えてもなかなか進まない部分がございます。

 新型インフルエンザが来たらどうなるか、パンデミックがどうなるかという話もよくあるわけですけれども、これも、医療関係者だけが一生懸命考えてすべて解決できるのではなく、むしろそれは困難でありまして、社会の変化という意味では、いろいろな分野の方々が感染症ということについて、人間の問題としてそれを解決するというような取り組みをしていただければというふうに日常考えております。

 

○阿部(知)委員 これからも先進的なお取り組みをぜひお願いしたいと思います。

 もう最後になるかもしれません、齋藤参考人にお願いしたいと思います。

 私が今取り上げました保健所の問題は、特に結核の行政には深くかかわってこられた実績もあるわけです。今回のこの法改正によって感染症という中に結核が一括組み込まれていく場合に、私は、今、非常に時代は格差社会と呼ばれて、さまざまなところでホームレスの方、それから若い方でもインターネットカフェに寝泊まりする方が出てきたり、実は昨夜も私が十一時過ぎに家の近くのスーパーで買い物をしていたら、すぐその外でお弁当を手で食べているホームレスの方がおられたりして、やはり時代というのは大変だなと改めて思っているような昨今の情勢であります。

 やはり弱いところ、それから健康弱者というんでしょうか、それから社会的、経済的弱者のところに、結核がこれから新たな形でまだまだ再興してくるというか広がっていくということを私はとても懸念するわけです。

 お話の中でも触れられましたが、今回の法改正によって、そうした部分、私も保健所にしばらく勤めたこともありまして、例えば、保健所からは、リスクの高いおうちには訪問するなどの指導をして、在日外国人の方とか、少し、いろいろな御病気の方とかにはお訪ねしている業務もあったんですが、だんだんもう保健所も予算が厳しくてやれなくなっているわけです。そういう中で今回のこの法改正があって、果たして保健所の役割ということから見てどのようにお考えかということを一点お伺いいたします。

 

○齋藤参考人 お答えいたします。

 現在、保健所の役割というのは、やはり結核というのが非常に重要な部分を占めていると思います。

 御指摘のとおり、格差社会というのが昨今非常に言われていますし、NHKではワーキングプアというようなことも報道をされております。そうした方々が非常に弱い立場というところはもう先生のおっしゃるとおりで、保健所がそこにどういうふうに、早く見つけて早く対応していくということが今後どうなるのかというのは、まだはっきりしないといいますか、わからない部分があります。

 というのは、法律で、結核予防法という名前がついたものが感染症法の中に統合されるわけですので、当然その対応というのが、法案の名前が、タイトルがなくなったことだけではないとは思いますけれども、やはり自治体の対応なども後退するのではないかという心配がどうしてもついて回ります。

 それと、即座に認知をされるというところについても、今までより感染症法の方が厳密に厳しくなってまいりますので、本当にその対応のところが十分にできるかどうか。

 ぜひこの場でも、御意見がたくさん出ておりますので、御議論の中で、実態に合わせたような対応ができるようなこと、また、先ほどちょっと申しましたとおり、非常に、例えば大阪と長野ですと結核の患者さんの数というのは四倍ぐらい違うんですね。その中での対応をどうするかというところをぜひ御議論いただいて、その中で保健所の役割というのも決めていただければ大変ありがたいと思います。よろしくお願いいたします。