165-衆-本会議-14号 平成18年11月07日
平成十八年十一月七日(火曜日)
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平成十八年十一月七日
午後一時 本会議
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○本日の会議に付した案件
貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)の趣旨説明及び質疑
午後一時二分開議
○北橋健治君 私は、民主党・無所属クラブを代表して、ただいま御提案のありました貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案について、関係大臣に質問を行うものであります。(拍手)
昨今、自殺される方の数はふえたまま、減少の兆しは一向に見えておりません。一九九八年に自殺者が年二万人台から三万人台に急増して以来、現在に至るまで年間三万人を超える水準に高どまりしたままであります。言うまでもなく、自殺は人間の最大の悲劇です。この悲劇がやまないことを、私は悲しみと怒りを持って受けとめています。政府は、自殺者が一向に減少の兆しを見せないことを放置してきた責任があるのではありませんか。
この悲劇の原因の一つが、言うまでもなく多重債務問題であります。消費者金融などによる借金が雪だるま式にふえ、多重債務に陥り、その結果、自己破産や夜逃げ、自殺などに追い込まれる悲惨な事態が目立っております。また、違法なやみ金融に手を出す事例もあり、借り手だけではなく家族らも巻き込んだ重大な社会問題となっていることは、もはや言うまでもありません。多重債務者人口は二百万人を超えると言われており、消費者金融の潜在的な利用者の約二割にまで陥っていると言われております。多重債務問題の深刻化を初めとする借金苦の増大については、小泉内閣の経済政策の失敗、その結果によるところが大きいと思いますが、金融担当大臣の所見があれば、お伺いしておきたいと思います。
多重債務が広がる背景には、格差社会がどんどん広がってきている事実があります。今、年収三百万円以下の世帯の数は三割近くに達しております。もう一つ注目すべき数字は、預貯金がゼロの世帯数が二五%になろうとしていることであります。戦後六十年余、世帯数の二割を超えた事例は過去一回しかありません。それは東京オリンピックの前夜で、テレビなど、買う物がありました。現在二五%の人の預貯金がゼロであるという実態は、もはや緊急事態ともいうべき深刻な水準であります。
政府は、これまで自由な競争を促進し、豊かな人をふやすことに腐心する余り、この現実から目を背けてきたのではありませんか。政治は、今こそこの現状を正面から受けとめ、有効な手だてを講ずるときであります。
民主党は、これまで、これらの問題を重く受けとめ、出資法の上限金利が著しく高いこと、出資法と利息制限法の上限金利の間にグレーゾーンが存在することなど、制度的な欠陥を是正するために全力を尽くしてまいりました。民主党は、結党翌年の一九九九年の段階で、グレーゾーン金利を解消すべく、出資法の上限金利を現行の利息制限法の上限金利並みに引き下げ、年二〇%を上回る金利は罰則つきで明確に禁止するよう法案を提出したところであります。しかし、当時から政府・与党の協力は全く得られず、民主党案は成立することはありませんでした。その結果、深刻な問題が日本社会に放置されてきたのであります。(拍手)
グレーゾーン金利をめぐっては、消費者金融業者に返還を命じたことし一月の最高裁判決をきっかけに、ようやく政府・与党内においても、灰色金利の是正、みなし弁済規定の廃止などの方向で議論が始まりました。当初、自由民主党は、利息制限法の金額刻みの引き上げ、特例高金利の設置を盛り込むことを主張しておりましたが、自民党のこうした当初の姿勢は到底世論の受け入れるところとはなりませんでした。最終的に我々民主党の提言に沿った方向で修正され、借り手の自殺を保険事故とする生命保険契約締結の禁止などの改正も盛り込まれました。至極当然のことであります。
自殺者が急増し、その背景の一つに格差社会、多重債務問題があることが明らかであった中、民主党は、常にこの間、法改正に向けたメッセージを出し続けてきました。そのような中、今回の法改正がここまでおくれたことは極めて遺憾であります。この間、どれだけ多くの人々があいまいなグレーゾーン金利からくる借金地獄に苦しんだのでありましょうか。何ゆえここまで有効な手だてが打たれなかったのか、その政治責任は重大であります。所見があれば、金融担当大臣及び財務大臣にお伺いしておきたいと思います。
さて、政府・与党が法案作成に戸惑った背景には、関係業界をめぐる政官業の癒着の問題も指摘されております。大手消費者金融に旧大蔵省と財務省の官僚OBが役員や顧問として天下り、現在も在籍していることが報じられております。四社に五人も現在も在籍している事実については、我々も有価証券報告書によって確認することができました。また、日銀のOBも含まれております。監督官庁OBが関連業界である消費者金融会社に今なお天下りしている事実は、到底看過できない問題であります。政官業癒着の温床になるような天下りは排除すべしとは、まさに国民の世論ではありませんか。
しかし、こうした流れに逆行して、安倍内閣の動きを見守っておりますと、立件が困難な口きき行為の形式的な禁止と引きかえに、ただでさえ不十分な現行の天下り期間二年間の禁止措置を撤廃する案を検討していると伝えられております。一体、政府は、貸金業等をめぐる政官業の癒着を払拭するためにいかなる対策を講じられるのか、金融担当大臣及び財務大臣の明快な答弁をお伺いしておきたいと思います。(拍手)
去る八月五日、福岡県弁護士会の主催で、消費者金融問題等に関する公開シンポジウムが福岡市内で開かれました。この会で、高金利の業者から金を借り、過剰な利息を支払わされるなど、貧困がさらなる貧困を招く構造問題が取り上げられました。また、北九州市でホームレスの自立支援に取り組む団体の代表が、多重債務などでホームレスを余儀なくされた人の多くに働く意思があるというデータを紹介する、そういった報道がございました。
安倍内閣が現在目玉とされております再チャレンジ支援対象にはニートなどの若者などが想定されているようでありますが、こうした事例も重く受けとめ、多重債務などにより生活苦に直面している人にもきめ細かな再チャレンジ策を講ずるべきではないでしょうか。金融担当大臣より明快なる答弁を求めます。
次に、制度の枠組みについてお尋ねします。
今般の法案において、貸金業の参入条件の厳格化が盛り込まれています。この際、遵法意識の低い者が貸金業に参入することを防ぐため、貸金業者の登録制度を廃止し、新たに免許制度を設けるべきとの意見もありますが、政府としてはこうした方向はとらないのでしょうか。
さらに、民主党は、違法業者、やみ金融対策として、課徴金適用も視野に入れた行政処分の見直し、罰則の強化等を提言してきました。また、ことしの通常国会で、政府は金融商品取引法の成立を図りましたが、被害の多い商品先物が対象から外れるなど、中途半端な内容にとどまっております。私たちは、今後の課題として、包括的な金融サービス法の制定、日本版FSA、金融サービス機構の設置など監視行政の強化充実にもあわせて取り組むべきことを主張しております。これらの問題にどう取り組まれるのか、金融担当大臣の答弁を求めます。
消費者金融等の問題は、金融制度や貸金業制度の枠内だけで論じられるものではありません。当然、自己破産制度、生活保護制度の改善などとあわせて、新しいヒューマンな社会に向けたビジョンを策定すべきであります。民主党の提言によって、包括根保証制度が廃止されるなど、この間、前進の動きも見られますが、この際、日本特有の保証人制度について根本から問い直すべきだと考えます。かつて法務省内においても、アメリカの制度を見習って、この制度を見直す動きがあったのでありますけれども、金融担当大臣、法務大臣の明快なる答弁を求めておきたいと思います。
次に、業者による貸し過ぎの抑制策について質問いたします。
そもそも貸金業法は、「貸金業者は、資金需要者である顧客又は保証人となろうとする者の資力又は信用、借入れの状況、返済計画等について調査し、その者の返済能力を超えると認められる貸付けの契約を締結してはならない。」と過剰貸し付けそのものを禁止しております。しかし、条文は全く空洞化をし、行き過ぎた貸し付けが行われているのが実態であります。
過剰貸し付けを抑制するためには、具体的な対策を講じる必要があります。フランスの調査に行かれた法律家のチームは、フランスの社会においては、テレビコマーシャルなど人目に触れるところにはこういった金融の問題は取り上げないという制度があることを報告されております。日本におきましても、無人契約機による契約は、不要な資金の過剰貸し付けにつながるため禁止すべきではないでしょうか。消費者教育、啓発活動への取り組みなど、未然予防策の強化、公正で透明なカウンセリングの抜本的な拡充、信用情報機関の体制整備なども不可欠であります。これらの問題についての取り組みについても、金融担当大臣より答弁をいただきたいと思います。
さて、今年度のノーベル平和賞は、グラミンバンクとその代表であるムハマド・ユヌス氏に授与されました。バングラデシュで貧困に苦しむ農村の女性らを対象に、無担保で少額の信用貸し付けを行い、起業を助けてきました。このグラミン銀行の活動は、社会的活動を目的とした非営利金融であり、民主党は、今回のノーベル平和賞受賞に心から拍手喝采を送りたいと思います。そして、多重債務者を増加させてきた安易な営利型貸金業の対極にあるということを強調したいと思います。
こうした国際的潮流の中で、日本でも行われているNPOバンクなどの動きを支援していくべきだと思います。NPOバンクは、市民が資金を出資し合い、それを原資として、一般金融機関が資金提供しにくい社会的事業や社会的課題に対して低金利で融資を行う非営利バンクであります。例えば、新潟では、被災地復興などの活動のためのNPOが設立されております。
しかし、今般の政府案においては、小規模の貸金業者を排除し、法執行体制を強化するための規定を多く設定しているため、結果として必要諸経費がこれまで以上にかかる内容となっております。この法改正の内容は、小規模、非営利でボランティアベースであるからこそ成り立っているNPOバンクが成立できない条件であり、ほとんどのNPOバンクの動きが破綻してしまうのではないかとの懸念が指摘されております。非営利性や公益性を求めていない現在の貸金業規制法とNPOバンクとは、性質が基本的になじまない部分があります。
政府内には、合併して大きなものをつくればよいというアドバイスがあるやに聞きますが、それは、小規模、非営利のボランティア金融の実態を無視した暴論ではありませんか。貸金業規制法からのNPOバンクの適用除外、あるいは貸金業規制法内でのNPOバンクに対する規制緩和などを講じて、NPOバンクの存続につながる実効ある措置を確立するよう求めます。金融担当大臣より明快なる御所見をいただきたいと思います。
次に、中小零細企業、自営業者等に対する融資対策について質問いたします。
言うまでもなく、日本経済の屋台骨を支えてきたのは、地方で懸命に努力をされている中小企業、地場産業であります。そして、零細事業者が、生きていくために万やむを得ず高金利の資金を借り入れている実態を政府はどれだけ知っているでしょうか。悪質な金融業者を排除することは重要でありますが、中小企業などにとって頼りがいのある事業者金融を同時に育成していくことも不可欠であります。
これまで、民主党は、一貫して中小企業金融の充実強化を訴え、具体的な提案を行ってまいりました。第一に、政府系金融機関が行う融資については個人保証を撤廃すること。第二に、キャッシュフローに重点を置いた中小企業向け金融検査マニュアルをつくり、貸し渋り、貸しはがしを解消させること。第三に、金融機関の地域への寄与度や中小企業に対する融資条件などについて、情報を公開させる地域金融円滑化法を制定すること。こうした提言については、この際、政府としても真摯に取り組んでいただきたいと思いますが、金融担当大臣、財務大臣より明快なる御所見を求めたいと思います。
結びに、多くの多重債務者を救うために、地方自治体独自の取り組みが進んでいることを強調しておきたいと思います。九州のある自治体では、司法書士や弁護士などで法曹界の特別のチームをつくっていただき、借金に苦しむ方々の法律相談所を役所に設けて、過払いの取り戻しや返済に関するアドバイスを提供している先進的な試行錯誤が始まっております。私の地元の北九州においても、ぜひともそのような取り組みを進めていきたいと考えておりますが、政府において、既にそのような先進的な取り組みを進めている自治体の動向をしっかりと把握されているでしょうか。そして、温かくそれを支援していっていただきたい。そのことを金融担当大臣に伺いまして、私の質問を終わります。
ありがとうございました。(拍手)
〔国務大臣山本有二君登壇〕