164-衆-国土交通委員会-15号 平成18年04月21日

 

平成十八年四月二十一日(金曜日)

    午前九時三十一分開議

 

    

   参考人

   (国際基督教大学教養学部国際関係学科教授)    八田 達夫君

   参考人

   (前法政大学大学院人間社会研究科教授)      本間 義人君

   参考人

   (独立行政法人都市再生機構理事)         尾見 博武君

   国土交通委員会専門員   亀井 為幸君

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本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 住生活基本法案(内閣提出第三〇号)

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○穀田委員 日本共産党の穀田です。

 お二人の参考人、本当にお疲れさまです。私も若干の点について質問させていただきます。座らせていただきます。

 まず第一点、お聞きしたいのは、公共住宅の役割と住生活基本法に盛り込むべき内容についてです。

 一九五〇年に制定された公営住宅法の目的には、「健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、」として、さらに、国民生活の安定と福祉に寄与するとありました。当時、こういう、一九四〇年代から戦後の五〇年代の時期というのは、憲法に書かれた権利というものを明記するのが結構ありました。そのことがやはり基本にあったと私は思っています。そして、そのことで安価で良質な公共住宅が一定の比率になれば、民間の住宅にも影響を与え、国民全体の住生活の向上につながるという考え方が全体としてあったと見てとることができます。

 さらに、政府の住宅宅地審議会は、一九八〇年の答申で、今問題になっているそれら住宅基本法、そういう点の制定を迫って、同法に盛り込むべき内容として、一、住宅政策の目標、二、国、地方公共団体の施策分担及び相互協力、三、住宅及び住環境の水準の目標、四、全国及び地方公共団体等地域レベルで設定される住宅計画の策定、五、住宅に関する諸施策及びそのおのおのの基本方向の提示を掲げていました。

 これらは、いわば、当時なぜ住宅基本法が必要かという問題とあわせて、国や地方自治体を初めとする行政の責任という角度で、しかも、目標を明確にするという点でも大事な指摘だったし、基本法制定の歴史的経緯からしても大切だと私は思っています。

 その辺の大きな基本的観点について、まず、お二人の参考人からお聞きしたいと思います。

 

○八田参考人 居住に関する最低限の生活を保障するということが住宅政策の一つの非常に大きな目的だということは、全くそのとおりだと思います。

 そう考えてまいりますと、ある意味では、既に公営住宅に入っておられる方よりは、やはりホームレスの方に対してどういう対策がきちんと立てられるかということが、本当のことを言うと一番大切な問題だと思うんですね。今回の法案で第六条に書いてあるセーフティーネットをきちんとやらなきゃいかぬということは、私が思いますには、そのことも含まれているんだと思います。

 ただし、それは今まで、住宅政策当局に与えられた役割であったというよりは、むしろ厚生労働省の役割というふうに思われていた面があると思うんですね。だから、実際は境界にあるわけで、二つのいすの間に腰を落としたような関係で、うまくホームレスの対策が今までできていなかった。この基本法で、ある意味で省庁間の協調ということもやっていかなきゃいけないということが明確になることで、そういう問題に対する解決がこれから図られていくのではないかと期待しております。

 

○本間参考人 今穀田先生が御指摘のとおり、公営住宅法初め我が国の住宅法というのは、憲法二十五条の生存権規定の延長線上において、その確保、目的を明記しておったわけでありますが、これが年々希薄化してきているというのも事実であります。

 それは、例えば、公営住宅法の第一条、第二条等は変化ありませんが、日本住宅公団法が、その後、組織の改編を通じていろいろな名称の団体に変わってきました。その都度新しく法律がつくられてきたわけでありますが、その第一条の目的を比較検討されればはっきりすることであります。だんだん憲法二十五条の理念が希薄化してきているのが現状であります。

 国の現状はそういうことでありますが、むしろ地方自治体の方が、憲法二十五条の理念に沿った住宅条例をバブル以降各地で制定してきておる。私は、この地方自治体がつくってきておる住宅条例というのを、住生活基本法においても参考にしてしかるべきなのではないかというふうに考えております。

 例えば東京都住宅基本条例、この前文を見ますと、まさに憲法二十五条の理念を受けた上で、地方公共団体、地方自治体としてのあるべき住宅政策の責務、理念を明記しております。これは、東京都のほかに、新宿区とかあるいは世田谷区とかいうところでも住宅基本条例をつくっております。これらもすべて、地域住民の住宅確保、居住水準の改善を、地域の責任ある自治体の区としてどうしたらいいのかという方向性を示しております。

 こういうふうに、自治体の方が、地方公共団体の方が進んでいる状況じゃないかというふうに私は考えるので、ぜひ御参考にしていただきたいというふうに考えます。

 

○穀田委員 自治体の方は現実に、今本間先生からお話がありましたように、直接住民を抱えていますから、私も、その意味で中身を反映させていきたいと考えています。

 私はなぜ理念を聞いているかといいますと、実は、先ほどもお話がありましたが、一九九六年のイスタンブールでの第二回国連人間居住会議、いわばハビタット2が開催されて、日本を含む全参加者の賛成で居住の権利宣言というのを採択していますよね。宣言の骨子というのは、各国政府は居住の権利を完全かつ前進的に実現する義務を負うと。そういう理念を打ち出す限り、やはりそういう土台をしっかり据えなくちゃならぬという意見なんですね、私の立場は。しかも、居住の権利保障というのは世界の流れだ。

 したがって、今度の住生活基本法はその方向とマッチしているのかということをお二人の参考人に聞きたいと思います。

 

○八田参考人 私は、これはマッチしていると思います。

 ある意味で、これは一里塚であると思います。もちろん住宅政策というのは、セーフティーネットの整備だけじゃなくて、ほかの、例えばまちづくりのようなことで住宅の質を実質的によくしていくというような役割もございますが、セーフティーネットに関しても非常に大きな柱を置いてこれから各省庁が連携して政策をつくっていく、その土台をつくるものだというふうに考えております。

 

○本間参考人 私は、今回提案されました住生活基本法案については、非常に疑問に思っております。

 穀田先生御指摘がありました、一九八〇年に住宅宅地審議会が住宅基本法の早期制定を目指して提言をいたしました。その中に、住宅基本法に盛り込むべき事項というのがありましたですね。少なくともそれは最低限盛り込まなければ基本法としての意味はなさないんじゃないか、不備なんじゃないかというふうに考えます。

 

○穀田委員 私は、なぜその理念を強調したかといいますと、今の現実をその理念に近づけることが必要だと思っているからです。

 私は前回、住宅関連二法の質疑の際に指摘したんですけれども、先ほどもありましたが、最低居住水準以下の世帯というのは百九十五万世帯ある。さらに、国土交通省が目標としている誘導居住水準に至っては、それ以下が二千万世帯ある。さらに、耐震基準を満たしていない既存不適格住宅というのは千二百万戸あると言われている。そして今、公営住宅や公団住宅で住まれている方々のさまざまな思いがある。それらが改善される方向にこの基本法は役立つかどうかという問題だと思うんですね。

 そういう角度でやらないと、例えば九五年の社会保障制度審議会も、全体としては私はいろいろな不十分さを持っていると思うんですけれども、住宅、まちづくりは従来社会保障制度に密接に関連するという視点に欠けていた、ここまで指摘しているわけですよね。このため、高齢者、障害者等の住みやすさという点から見ると、諸外国に比べて極めて立ちおくれた分野であるとまで最後に指摘していました。まさに今、こういうものが問われていると思うんです。

 ところが、基本法は、私ちょっと見たところ、市場原理というものを重視しています。先ほど来お話もありましたが、私は、これでいきますと、市場にゆだねると家賃がさらに一層上がり、また、公営住宅、公団の民営化路線につながりかねないと考えています。

 したがいまして、最後に聞きたいのは、こういう住宅に関するものまで市場任せでいいのか、どうなるのかということについてお二人に聞きたいと思います。

 

○八田参考人 まず、この法案の一つの柱は、住宅の地震に対する安全性の向上を目的とした改築の促進などについて、国及び地方公共団体が大きな責任を持っているということを明記していることであります。したがって、それは非常に大きな柱だと思います。

 それから、住宅に関しても市場を重視すべきかというのは、もう全くすべきだと思います。先ほど申し上げたように、これを人々の選択にできるだけ任せていくということと、それからセーフティーネットをきちんとつくるということは別のことで、人々の選択に任せたらセーフティーネットにお金を使えないとか、セーフティーネットを充実できるような仕組みをつくれないということは全くないと思います。両方ともできると思います。それで、それぞれにやるべきことは別々にあると思います。

 今度、市場について、例えば借地借家法については大変な制限がありまして、借りた人が望むならばずっと借り続けていいという借家人保護の法制があったわけですが、それを変える、変えて定期借家を導入するということは借家人の保護につながらないという意見があったんですが、実際に市場化してみたら、さまざまな実証研究で、一〇%以上の家賃の低下がある、定期借家と普通借家を比べると定期借家の方が一〇%から一二、三%の家賃の引き下げが起きた。全くこれは、市場化することによって、人々に選択を与えることによって安い家賃ができたんだと思います。

 私は、市場の役割というのを今まで余りに無視し過ぎてきたんだ、住宅に関して無視し過ぎてきた、そこを回復すべきだ、しかし、同時にセーフティーネットもきちんとしたものを整備しなきゃいけない、そういうふうに思っております。

 

○本間参考人 住宅というものが市場化になじむかどうかということでございますけれども、例えば、昨今話題になっております建築確認業務が市場化されました、民間検査機関が建築確認業務を行うようになりました。その結果、どういうことが起きているか。町じゅうの至るところで建築基準法、都市計画法違反の建築物がふえてきている、町が壊れていっている。これでいいのかどうなのかということ。

 それから、住宅金融公庫の業務が民間に全面移管されることになりました。その結果、住宅金融公庫が従来定めておりました戸建ての住宅基準というのはなくなったことになります。その結果、従来は法を遵守し、法より、より水準の高い設定をしておりました水準の住宅が全く姿を潜めることになって、安かろう悪かろうの戸建て新築住宅がふえてきている。

 つまり、住宅というのは商品じゃないんですね。環境というのは商品じゃないんです。これはある程度秩序立てて供給されなきゃならないし、ある程度秩序立てて形成されていかなきゃならない。つまり、公的な役割というのはそこに非常に重要なものがあるわけであります。

 私は、現在町が壊れてきている現状、これがついには壊れてしまったということにならないように願うばかりです。

 

○穀田委員 私は、現実に住まいしている方々のさまざまな苦労というものに対して、絵にかいたもちであってはならないと思っています。したがいまして、多くの方々の現実の住まいの要求に対して、量も質もあわせて改善する方向で、こういう法律をつくるために努力したいと思います。

 ありがとうございました。

 

○日森委員 それから、もうちょっと具体的な話に入りますけれども、時代が随分変化をしてきて、最低居住水準であるとか平均居住水準、これも見直す必要が当然出てくるのではないかというふうに思っているんです。見直した上で、その水準に満たない世帯を解消する、これは具体的な課題としてももちろん理念の中にも入っているわけですが、そういう目標年次であるとか、これはこの基本法で書くかどうかというのはいろいろ異論があるかもしれませんが、こういうことの明確化。

 あるいは今、公団や公営住宅の家賃の問題、近傍同種の家賃でどんどん引き上げられていくというお話がありましたけれども、そういう国民の所得に見合った居住費負担、大体年収の一七%程度以下でないと厳しくなるのではないかという説もあるようですけれども、こういうことなどについても一定明らかにして、そして具体的に居住水準を引き上げていく、住宅困窮者に対しても対応していくというふうなことが必要なのではないかというふうに思っているんですが、それについて両先生の御見解がありましたら、お聞きしたいと思います。

 

○八田参考人 問題を二つに分ける必要があると思うんですね。

 一つは、低所得者の方、あるいは資産がない方、その方たちが健康で文化的な生活ができるように、ここでの最大の課題はやはりホームレスをどうするかということだと思います。そのことが、ある意味では、これからやっていかなきゃいけない住宅政策、福祉政策の一番大切なことだろうと思います。

 次に、今度、公営住宅が余っている地方もあるし、それから、とても入れないというところもある。そうすると、入れた人、入れなかった人の間に大変な不公平感がある。そういう問題をどう解決していくかということがございます。そうすると、公営住宅ではなくて、先ほどから何度も申し上げておりますように、家賃補助のような仕組みの活用が必要になる。一方ではストックであきがたくさんあるわけですから、それをうまく活用するような方法がどうしても必要になる。

 それから今度は、三番目に、それ以上の生活水準の人に対して、これは役所と私の考えが違うということもありますが、私は、もう誘導居住水準とか最低居住水準とかいうものは一切廃止すべきだと思っております。こういうものはまことに僣越な話で、官が人にどれだけの大きさで住めというのはとんでもない話だと思います。これも人々の選択に任せるべきで、職場に近いから小さいところに住んでもいいという人だっていてもおかしくない。

 私は、本郷で、東大のすぐそばのクリーニング屋さんで、御夫婦で、四畳半が下に一つ、それから上に四畳半。これは九十年たった木造だそうですが、本当に幸福に暮らしておられて、そして、奥さんはダンスをやっておられて、七十歳ぐらいの方たちですけれども、そこで御飯も食べるし、寝るのもそこで寝る。全く平和にしていらっしゃる。とても便利なところで、いい学生にいつも会う。そういう生活もあってもいいんじゃないかと思います。

 だから、ある程度以上の方に対しては、むしろ選択の自由を与えて、そのかわり変なものをつかませられないように情報のきちんとした整備をする、そういう対処が公の役割ではないかと思っています。

 

○本間参考人 私は、持ち家居住者については、まあ心配しておりますけれども、悲観はしておりません。といいますのは、今、少子時代で、一人息子、一人娘の御家庭が非常に多くなって、恐らく御両親が苦心して取得された持ち家を相続されるであろう、それが市場化されるだろうということで、余り悲観はしておらないわけですが、問題は、持ち家に居住できないでいる、公的住宅に住んでいるけれども、なおかつ居住水準を満たせない層、こういう方々に対しては、やはり福祉社会、福祉国家を形成する上で、ナショナルミニマムというのは絶対必要だというふうに考えます。

 冒頭に申し上げましたアメリカのアフォーダブルハウジング法でありますが、これは正確にはクランストン・ゴンザレス・アフォーダブルハウジング法というんですが、ここでは、国家としての住宅の到達目標を、すべての米国の家族が適切な環境の中に適切な住居を手にすることができることであるというふうに明確に書いてあります。

 つまり、適切な環境の中に適切な住居、これがアフォーダブルハウジングでありますが、このナショナルミニマムはアメリカでさえ明示して、とにかくそれを実現しよう、それで、自力で到達し得ない人に対しては、国の補助つき住宅とパブリックハウジングにおいて自立を達成する手段を改善しようというようなことを言っているわけですね。市場原理の祖国であるアメリカでさえこういう法律をつくっているわけです。

 市場原理だけアメリカを追って、こういう住宅法についてはアメリカのを参考にしないなんというのはおかしな話であって、やはりこれは参考にすべきではないかというふうに私は考えます。