164-衆-予算委員会公聴会-1号 平成18年02月24日

 

平成十八年二月二十四日(金曜日)

   

   公述人

   (21世紀政策研究所理事長)            田中 直毅君

   (日本労働組合総連合会副事務局長)        逢見 直人君

   (野村證券金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト)          植野 大作君

   (昭和女子大学人間社会学部教授)         木下 武男君

   (慶應義塾大学経済学部教授)           吉野 直行君

   (桐蔭横浜大学法科大学院教授)          郷原 信郎君

   (静岡大学教育学部教授) 馬居 政幸君

   (日本大学経済学部教授) 牧野 富夫君

   予算委員会専門員     清土 恒雄君

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本日の公聴会で意見を聞いた案件

 平成十八年度一般会計予算

 平成十八年度特別会計予算

 平成十八年度政府関係機関予算

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○佐々木(憲)委員 最後に、木下公述人にお伺いします。

 予算との関連で、今、所得格差の問題が議論になりましたが、例えば定率減税の全廃という方向が出されていますし、あるいは高齢者負担をふやすという方向が出されております。現実のこの社会の格差を、本来ならば底上げをして、それを縮小していくというのが政策の基本でなければならぬと私は思うんですけれども、現在出されている政府の予算というのはどうもそれに逆行するのではないかという感じがしますが、木下公述人の御意見をお伺いしたいと思います。

 

○木下公述人 税制そのものについては詳しくありませんので、違った角度からお話ししますと、今、予算上最も必要なのは緊急性だと思います。

 先日の新聞ですけれども、若者たちは、ゲストハウスといいまして、寮の社宅を売り払って、言うならば集合住宅にしているんですね。そこで、月五万円、一部屋、六畳で暮らしています。そして、共有のスペースもあります。あるいはさらに、レストボックスといいまして、雑居ビルに三階建てベッドをつくって、一泊一千四百八十円です。これはもう明らかに、若年ホームレスの登場は時間の問題です。こういうものに対して、若者に限定した家賃補助をするとか住宅援助をするだとか、私はそういう方向に税を使うべきだと思います。

 先ほど強調したのは、九〇年代からこうなったとか二〇〇〇年からこうなったというよりも、この三、四年、労働社会は激変しています。ここに緊急の予算投入をしなければ、若年ホームレスだとかさまざまな社会現象はもう時間の問題です。早く手を打たないと大変な現象があらわれることは確かです。だから、ちょっと答弁はあれですけれども、そういうところに積極的に予算投入をしていただきたいというふうに思っております。

 

○阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 本日は、四名の公述人の方々から、それぞれに異なるいろいろな立場からの御意見をいただき、大変勉強になりました。限られた時間の関係で皆さんに質問できないかもしれませんが、お許しください。

 まず冒頭、木下公述人にお願いいたします。

 今も佐々木委員からの御質疑にもありましたが、今、私どもの社会というのは、ある意味で非常に大きなスピードで崩壊しつつある。幼い子供たちがあやめられたり、社会規範が全くなくなっていっている、先生の御指摘でいえば、労働と生活をめぐる戦後的システムの崩壊、まさにそういうふうに言えるんだと思います。

 先生のお話の中で、今までのある種の格差社会がもっと二極に引き裂かれていくという中で、もちろん経済も失われた十年かもしれませんが、人間の生活の価値規範やさまざまなものも失われた十年であると。

 この二十一世紀初頭の出発が、まず二つの面で、例えば国がこの事態に対して行うべきナショナルミニマムとは何か。それから、今まではいわゆる企業が代替していた社会保障の役割、あるいは人間の安定、人間関係もかなり企業文化の中で組み込まれてまいりましたが、それも今崩壊しています。そして、国にナショナルミニマムを求めるとき、もう一方の企業にどのような社会的責任を求めていくのか。今までは、企業という枠内へのいわゆる社会保障政策で企業も成り立ってまいりました。しかし、これからはそうではないだろう。そこでの企業の社会的責任とは何か。一方の、国のナショナルミニマム、先ほど先生は住宅政策を一つおっしゃいました。そのほかにもここの中にも触れられておりますので、この二点をお願いいたします。

 

○木下公述人 一つは、これはそれほど予算上膨大とは思えないんですけれども、最低賃金制度については、今、生活保護の方が下回っているから最低賃金制を下にするという、まさしくそこに向けた二つの競争がありますけれども、これをやっていくとやはり生きていけない人たちが出てきますので、生活保護と最低賃金制度については少なくともそこをきちっとする。そこが今破れつつあるわけですから、ともかく、ここのところの、そこだけは、これ以上、下に下がらないという手当てだけは急いでやらなければならないと思います。

 それから、社会保障、社会政策ですけれども、これについては、私は医療、年金ということがもちろん大切なことはわかっています。しかし、日本で足りないのは、勤労者に向けた社会政策、社会保障です。

 これは、ヨーロッパ型となると大きな政府とよく言われてしまいますけれども、少なくとも、これまでは老後ないしは緊急の医療というところに向いていましたけれども、働く者にとって、例えばフリーター同士、二百万、二百万で結婚して四百万の収入のある人をどのようにして支えるのかという社会保障、社会政策に対象を広げるべきだというふうに思っております。

 それから、企業の社会的責任ですけれども、確かに正社員化すればいいわけですけれども、先ほどだれか御指摘あったように、やはりスキルを身につけさせて、企業が雇えるようにするということ自身が非常に重要だと思います。

 あと一つ、企業の社会的責任というふうに言うのならば、これは多分無理だと思うんですけれども、今、労働時間について少し真剣に考えないといけない事態になってきていると思うんです。

 つまり、労働時間の二極化です。フリーター、アルバイターのような大変短時間の働き方と、あと一つ、例えば三十歳代前半の男性の二四%、四人に一人あたりは週六十時間働いているんですね。この週六十時間、四分の一働いているのを学生に説明するときに、週休二日制、六十割る五、十二、プラス一、休憩時間が一時間必要です。そうすると、九時出社、夜の十時退社というのを月火水木金とやるんですね。これが四分の一ぐらいいるんだということを話すと、教室はざわめきます。そして、東京の男性の三十五歳前半の未婚率は約五五%です。

 労働時間をこういう少子化と絡めて考えないといけないと思います。当時、坂口厚労大臣が民族の滅亡であるというふうにおっしゃったことが大変耳に残っておりますけれども、まさしく今、日本民族の滅亡に向かってひた走っているわけでありまして、だから、少子化対策のつぼは家族形成期における働き方なんですね。ここにメスを入れない限り、日本民族の滅亡はとまらないと今考えています。

 そうすることによって、つまり、言うならワークシェアリングなんですね。正社員の労働時間は下げて、そのかわり非正規を入れる、こういった国のワークシェアリングというものも根本的には必要だと思います。もちろん、直ちにできるとは毛頭思っておりませんけれども、そのことをやらないと日本は大変なことになるということだけは確かだと思います。

 以上です。