145-参-予算委員会-8号 平成11年03月02日

 

平成十一年三月二日(火曜日)

   午前十時二分開会

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  本日の会議に付した案件

○平成十一年度一般会計予算(内閣提出、衆議院

 送付)

○平成十一年度特別会計予算(内閣提出、衆議院

 送付)

○平成十一年度政府関係機関予算(内閣提出、衆

 議院送付)

 

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○佐藤道夫君 しからば残余の質疑を行わせていただきます。

 ラストバッターでございます。どこのチームでもラストバッターというのは打力が最も振るわない者が置かれておりますので、どうかひとつ御気楽に対応していただければと思います。

 そこで、前回に引き続きまして、富国有徳の有徳の方につきまして、政治家の徳のあり方ということで総理にお尋ねしたいと思います。

 最初に、総理は四文字熟語に格段御堪能でございますので、先憂後楽、この言葉の意味、当然御承知と思いますが、ちょっと御説明いただければと思います。

 

○国務大臣(小渕恵三君) 読んで字のごとくだろうと思います。先に憂えて後に楽しみを持つ、こういうことだろうと思います。

 

○佐藤道夫君 まことに申しわけございませんけれども、その答案では中学校でも合格はいただけないのかと思います。

 この言葉は、千年ほど前に、中国は宋の范仲淹という政治家が説いた言葉でありまして、天下を統べる者、政治を統べる者の心構え、基本的な心の持ち方について述べた言葉でありまして、天下を統べる者はやっぱり天下をまずもって憂える、自分の楽しみはその後にする、これは当たり前といえば当たり前のことであります。そういう意味で御理解いただきたいと思います。

 それから、日本の天子にもこういうことを言った者がおりますけれども、これは当然御承知と思いますが、いかがでしょうか。

 十六代の仁徳天皇の、「民の竃はにぎはひにけり」という言葉がこれに当たるわけであります。仁徳天皇は難波宮におられたわけでありますけれども、宮殿が古くなりまして、これの建てかえの話が起きたときに、高台に上って満天下を見はるかすと、民の家からかまどの炊事の煙が全然上がってこない。それだけ民というのはもう食事にも事欠くありさまなのかと。そういうときに自分の宮殿をつくる、自分の楽しみを先にするというわけにはいかないということで宮殿の計画は取りやめまして、そして専ら民生に力を入れまして、何年かたってもう一度仁徳天皇が高台に上って満天下を見はるかすと、あちこちもうすべての民家から炊事の煙が立ち上っておる。そのとき思わず、「民の竃はにぎはひにけり」と、こうおっしゃいまして宮殿の建築を許されたという、これは有名な話であります。私があれこれ言うまでもないと思います。

 そこで、私は、総理官邸の新営、公邸の新営、この問題をちょっと取り上げさせていただきたいと思います。

 総理の公邸、官邸が大変古くなっている。つくられたのが一九二七年、田中義一内閣、今から七十年ほど前であります。それはよくわかります。そういうことを言いますと、この国会だってそのころつくられておるものですから大変古くなっておる。あちこち水漏りの跡もあるようではありますけれども、補修してもっていけば、今までも随分補修もしておりますけれども、これから三十年、五十年は十分に使えるんじゃないか。そのころの建物というのは、大体非常に堅牢にできております。今の建物とは違います。

 五十年でも三十年でも使える、こういうふうに私は思っておりますが、総理官邸の方につきましては、十年ほど前中曽根さんが、バブルの絶頂期でもあったとみえまして、新築をお命じになりまして、隣地を買収する、それからいろんな基盤整備を行うということで今までにほぼ二百七十億余りも投入されておるんですが、これは二年前に橋本内閣のときに凍結されておるわけであります。橋本さんはやっぱり先憂後楽の精神。今は日本の経済が大変な時期にある。企業倒産、リストラのあらしが吹きまくる。一家心中も後を絶たない。失業率もふえかかっておる。それから、ホームレスもまたふえておる。こういうときに、首相官邸あるいは公邸の新営は自分は許しがたいと、こう考えられたんでしょう。彼ははっきりと凍結を宣明いたしまして、私はそれを大変高く評価したわけであります。

 天下を統べる者はかくあらねばならないと、こう思ったわけでありますが、昨年、小渕内閣になりましたらいとも簡単にこの凍結は解除されて、総理官邸、公邸の新営に向けて真一文字に走り出しまして、何と何と四百五十億余りを費やして立派な、けんらん豪華なものをつくる。官邸は何か五階建てで、ヘリポートを備える。それから最新鋭の情報施設もつくる。それから、公邸の方もまた立派なものにする。何しろ敷地が五倍ぐらいに広がるんですから、どんな立派なものができ上がるか、もう想像するだに大変うれしい話だと思います。

 やってくる外国の指導者たちは、招かれましてそれを見て、さすが経済大国の日本はすごい、こんなものをつくるのかと言う方もおるでしょうし、聞くところによると日本の経済はもう破綻に瀕している、破産国家がこんなものをつくる、一体何を考えているんであろうかと言う指導者もおるでありましょう。まあ、何と言うのかは、それは見せてみなければわからないわけであります。

 これは一体、先憂後楽という精神から見て、こんなことが許されるんだろうか。民主主義国家にあっては、よほど封建時代の天子以上の心構えが指導者にとっては必要なんじゃないか、私はこう思っておりますが、どうもそうではないようであります。

 しかし、こんなことで恐れ入ってはまだまだ済まないわけでありまして、今現在、首都移転の計画がこれまた着々と進行しておりまして、最終決定はまだですけれども、もう走り出した車はとまらないと思います。法律ができ、国会決議があり、審議会がつくられている。そこにおられる堺屋長官も首都移転の審議会委員の一人であって非常に熱心に首都移転の必要性を説いておられて、その本までも出されておる。もう走り出した車をとめることはできない。

 総理官邸それから公邸の工事が完全に終わるのが二〇〇三年と聞いております。何と、翌二〇〇四年からこの首都移転の工事が始まるわけであります。──いや、私は笑い事ではないと思います。これは笑い事じゃございませんよ。どうか知りませんけれども、そこに立派なまたけんらん豪華な都ができ上がりまして、この国会と総理官邸、これは行政を代表するシンボルとも言うべきものですから、東京の官邸に六百七十億かかった、こういうことになると、新しい都ではやっぱり千億ぐらいかけないとつり合いがとれない、こういうことになるんだろうと思います。一つの国に総理官邸が二つ、十年ぐらいの間を置いてでき上がる、これは一体何だろうかと、だれだってそう考えると思います。本当に不思議な現象だと思います。一体これは何だろうかと考えざるを得ないわけで、私も大変疑問に思っているわけです。

 そして、それができ上がりますと、東京につくった新しい官邸はどうするのかと、こう担当に聞いてもはかばかしい返事はもらえないわけなんですよ。それは政治が決めることです、何でも第二官邸、第二公邸として利用するというふうに聞いておりまするがと。第二官邸、第二公邸とは何だともう少し詳しく聞きますと、総理が東京に戻ってきたときに、一年のうち何回戻ってくるのか知りませんけれども、ちょっと公邸に入ってお休みになると。第二官邸の方では何をするか。外国から人が来た場合にそこで接遇をする、あるいは在京の経済人、その他各界の要人を集めてそこで会議をする、そのために使う、それを第二官邸、第二公邸と言うのだというふうに理解しておるというのが事務の話であります。

 私は、冗談を言ってもらっては困ると。日本の総理大臣というのは大体東京にこれまた超豪邸を構えておりますから、東京に戻ってこられたらその自宅の方で十分間に合う話であります。それから、外国の要人を接遇したいと言えば、成田に着いた外国の要人はヘリコプターですぐ新首都に来てもらえばよろしいわけです。二十分もあれば来るでありましょう。当然のことです。それから、在京の経済人なんかと会いたいと言えば、経済人はヘリコプターあるいはまた新幹線、それから高速道路であっという間に新しい都に駆けつけて総理に面会を求めればよろしいわけで、そのためにわざわざ第二官邸、第二公邸をつくる必要があるんだろうか。

 日本が今金が余って困る、何とか使い道はないのかと、こういうことなら別でございますけれども、世界の先進国の中で最悪な財政状況にある、こうも言われております。もう赤字、長期債務というのは一千兆も超えかかっておるという話もありまして、これをどうやって解決するか、これからの歴代内閣の大変な私は課題になろうと思います。

 その先頭に立つ総理大臣の官邸、公邸が新しくなる。新しくなるだけでなしに二つもつくって、先につくった方は、暇なときに来てちょっと見てみるわというぐらいでお使いになる、こんなことが一体、道義が支配しているこの日本国で許されていいんだろうか、私は不思議でしようがないわけであります。

 何年か前に昭和の三大ばか査定と言った大蔵の主計官がおりました。これは何かといいますと、戦艦武蔵と大和をつくったこと、それから伊勢湾の干拓か何かをやったこと、それから三番目が最近の話ですけれども青函トンネルをつくったこと、これを三大ばか査定、税金のむだ遣いだと、こういうふうにその主計官は言ったわけであります。

 一番新しいのは青函トンネル、これは税金のむだ遣いかどうか見解の差異でありまして、今はもうあのトンネルの中を列車が一日何十本となく往復しておりまして、それが大体満員で人々が乗っておる。国民のために役立っておるわけであります。これならば許されていい。ばか査定と言った主計官は今反省しているのかなという気もいたします。

 ところが、これからでき上がる東京のこの総理官邸と総理公邸、それから新しい首都にでき上がる官邸と公邸、二つ並べて一体後世の歴史家はこれを何と言うんだろうか。そのころの日本というのはよほど金が余っていたんだな、こんなむだ遣いをやったのかなと、こういうふうに考えられるかもしれません。

 それから、人類の最大愚挙というのは万里の長城とピラミッドだ、こういう説もあるんですけれども、万里の長城はそれなりに異民族を防ぐために役立った、ピラミッドだって今はもう観光名所として活用されておる。そうすると、これから何千年かたつと、東京の総理官邸というのは観光名所にもなるのかと、そういう問題もないわけではないのであります。

 私、真剣に実はこの問題を取り上げたいと思っておりまして、ついでに申し上げますけれども、霞が関はただいま建築ラッシュということで次々に官庁が建っておるわけであります。つい最近は中央合同二号館が完成いたしました。五百億だそうで、二十数階、プールつき、ヘリコプターつき。それから、今度は七号館が建ち上がるそうで、これもまた五百億、同じような立派なものをつくるんでしょう。

 そして、完成したころはまた首都が移転して、そっちの方で新しい工事が始まる。これもまた一体どうするんだと、こう問い合わせますと、それらしい回答はいただけない。第二官庁としてつくるんじゃないでしょうか、あるいはもう何かに役立たなきゃ売ればいいですよと、平気でこういうことを言うんです、担当者が。売却する、こんなこと許されるんでしょうか。最初からせいぜい十年もたてば売るつもりでけんらん豪華な役所をつくる。政が政なら官が官、こう言われても仕方がないのじゃないんでしょうか。

 総理、今私が取り上げましたこの問題につきまして、大変恐縮で失礼ではございますけれども、どうぞお考えを国民にわかりやすいように、今現在どうしても必要なんだ、これをやらないと私の執務に重大な支障が生ずるんだと、私の家族だってホームレスみたいに住むところがないんだというようなことでもおっしゃっていただくか、あるいはまた、私は大変不思議なのは、どうしても新しい都ができ上がるまで数年間必要だというなら、この国会と同じようにやっぱりちょっとした手当てをして辛抱していただけないか。それが先憂後楽、「民の竃はにぎはひにけり」と、こうおっしゃられた天子あるいは天下を統べる者の心構えではないのかと、こう思うわけでありますので、あえて失礼とは存じながらもお尋ねしているわけであります。

 

○国務大臣(小渕恵三君) 失礼でも何でもないと思っております。一つのお考えだと思います。

 現在の総理官邸は築後七十年を経過いたしまして老朽化、狭隘化が著しく、耐震性にも不安があり、危機管理機能を初めとする内閣機能を充足するにもはや限界を露呈しておりまして、新官邸を早急に整備することが必要であると認識をいたしております。

 過去にも何回かそういう機会があったんだろうし、既に土地その他につきましては、従来その付近にございましたビルディング等の撤去も行われておりまして、この計画はかなり前からあったことでありまして、そういった意味でこの機会に建てかえをしようということだろうと思います。

 金額その他につきまして、けんらん豪華という、佐藤先生、私と異なりまして形容詞が大変立派かと思いますけれども、決してそういうものではないだろうと思います。機能的にも、実際私は今執務をさせていただいておりますけれども、恐らくこの内容の電気通信機器その他を初めといたしましても、ほかの企業体のオフィス等に比べましても機能的には大変シンプルと思いますけれども、決して言われるようなものではないというふうに実は認識をいたしております。

 それからもう一点、新首都のお話もございました。確かに、この問題についてはこれから御決定をされていくことだろうと思いますが、実際問題としてこれが新首都としてどういう形態になるかもこれからいろいろ国会での御議論も経なけりゃならぬと思いますけれども、仮にそれが、国会あるいはまた行政機関がすべて移転するということになりましても、新しい首都が建設をされ、機能を発揮されるということにはかなりの時間的な経過もあるのではないか、こう考えております。

 したがいまして、現在のこの状況の中で、やはり政治の中心として官邸としての機能を発揮するためには、新しい機能を備え万全の体制を整えて対処することが望ましい、こう考えまして、私といたしましてはそのような結論に導いた次第でございます。