58-衆-予算委員会第三分科会-2号 昭和43年03月13日

 

昭和四十三年三月十三日(水曜日)

    午前十時四分開議

 

本日の会議に付した案件

 昭和四十三年度一般会計予算中厚生省所管

 昭和四十三年度特別会計予算中厚生省所管

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○西風分科員 これから二、三の問題についてお伺いしたいと思うのですけれども、いままでの厚生大臣の答弁を評して、合気道の呼吸のような答弁で、もう一つ態度よりは内容に誠実さが感じられない。全体じゃありません。部分的にですが、そういう批評もあるようですけれども、きょう私どもがこれから聞きます問題は、あなたがやる気にさえなればすぐにできる問題ですから、ぜひそういう角度でいろいろな点についてお答えをいただきたい、こう思うわけです。

 まず第一の問題は、日本はいろいろ後進国援助とかいうようなことをやっておりますけれども、しかし、後進国援助もちろん必要でありますが、日本にまだ広範な後進地帯というのが残されております。過密とか過疎とかいうむずかしいような問題まで発展させなくとも、東京には山谷、大阪には、昔は釜ヶ崎といい、いまは愛隣地区というように言うわけですけれども、これらの日本の政治の結果生まれてきた非常に不十分な地域というものがあるわけであります。こういう山谷とか愛隣地区とかいうような点について、本年度厚生省としてはどういうふうな施策を具体的にやられるか。これは労働省との関連ももちろんありますけれども、厚生省としてどういうふうな考えでこれらの問題について当たられるか、まずお聞きしたい。

 

○今村政府委員 お答え申し上げます。

 まず愛隣地区の問題につきましては、これは先生御承知のように、約五万七千人、まあ六万人ぐらいというふうな一つの地帯があるわけであります。厚生省としましては、従来とも、隣保館をつくったり、生活館をつくったり、あるいは救護施設をつくったり、保育所をつくったり、いろいろ問題をやっておりますが、医療面がとりあえずは一番手薄である。現在、済生会の診療所がありますが、あれを本格的に直そうじゃないかということで、市と府とのほうから申し出がありまして、あそこに百ベッドの病院をつくるということになりました。これは実は主体が労働省の施設でありまして、その上の四階以上に百ベッドの病院をつくろうということになりまして、予算的にはカヵ年計画というので約四千八百九十五万円というものを計上いたしております。

 それから、それ以外の問題につきましては、従来どおり生活館、それからいろいろの相談室、保育所、そういうふうな問題については府と市よく打ち合わせの上、従来以上に進めていきたい、こういうふうに考えております。

 それから山谷地区につきましては、これは東京都は昔から非常にいろいろな施設をつくっておりますが、それの強化であって、新規に特に何をつくるというようなものは出てきておりません。それについては目ぼしい予算というものは出ておりません。

 

○西風分科員 厚生大臣、これは山谷、愛隣地区に対する厚生行政の基本的な観点、基本的な視点は何かということを聞いておるわけです。どういう点ですか。

 

○園田国務大臣 同地区の生活環境の改善が基本的な問題であると考えております。

 

○西風分科員 それでは、本年度、厚生省として山谷、愛隣地区に対してどの程度の予算が対策としてとられているか、明らかにしていただきたいと思います。

 

○今村政府委員 いま申し上げましたように、大阪の愛隣地区につきましては、医療施設の四千八百九十五万円というようなもの。それからそれ以外に、あそこにたくさんありますいろいろな収容施設、あるいは保育所、診療所というふうなものにつきましては、たとえば生活保護あるいは保育所予算というふうに大きな柱で国一本でとっておりますもののうちから厚生省が配分をするというかっこうでありますので、直接的に項目としてどのくらいになるということはちょっと申し上げにくいと思います。

 

○西風分科員 この問題について基本的な視点は何かということをお聞きしたら、厚生大臣は、生活の改善である。それはもうまさしく中心的にはそうなんですけれども、同時に為政者の側が、ああいう地区の問題についてからだを張って――からだを張ってということばが適当かどうか知りませんが、わかりやすく言いますと、からだを張って為政者がこういう問題について解決のために努力をする。むしろ中へ入って積極的な話し合いをする。それらの要求を――役所がされただけが要求ではありませんから、もっと血の通った関係というものがそこへ要るのですよ。そういう点について、いままで厚生大臣がかわられるたびに、半日か一日程度車に乗られて視察されるというようなことはあったわけですけれども、それがもっと継続的にこういう地区の問題を基本的に解決する。と言いますのは、成田あるいは佐世保その他で、政治上の問題、外交政策なんかの問題をめぐって若干の衝突がありましたけれども、こういう地区で起こる衝突というものは、もっと質の変わった、もっとわれわれとして考えなければならない問題を含んでおるわけです。現に、たとえば大阪の例で言いますと、愛隣地区では夏になると必ず衝突が、大きなものにならないでも、小さなトラブルが無数に起こるわけです。しかし小さなトラブルの火のつき方によっては大騒動が起こる。大体釜ヶ崎の労働者なんか言っております、騒動を起こさなければ厚生省や大阪府や大阪市は一銭もわれわれに銭を出さぬ、騒動は銭取り騒動だ、ということを言っておるわけですね、そこらにおるもののわかった労働者というものは。だから、大体日本の政治は全体がそうですけれども、こういう愛隣地区や山谷の問題について、もっと先手先手と愛情のあるやり方――必ずしも銭という量の問題だけではないのです。もっと質の問題が重要なのです。だから、そういう点についてどういうふうな総合的な対策をお持ちか、こういうことを聞いておるわけです。

 

○今村政府委員 それは申すまでもなく、十年もあるいは十数年も前から、ことに山谷なんかにつきましても、これは第一線は東京都、それから大阪で言いますならば市と府ですが、非常に頭を痛めております。毎年夏になりますといろいろ問題が起きるというふうな問題がありますので、医療面、あるいは医療と申し上げましても、別に日雇健康保険の手帳を持っているわけでもないという人も多いしというので、済生会に預けて無料診療というようなかっこうにしたり、あるいは職業安定の問題は労働省でありますけれども、それ以外に生活相談、あるいは貯蓄奨励をやってみたり、あるいはいろいろなサークル活動みたいなかっこうに引っぱり込もうとしてみたり、地元の市のほうでも非常な苦労と企画というものをしたことを、私ども詳細知っております。そしてそれを、現在の児童福祉法、あるいは生活保護法、あるいはその他の医療保険の運用というふうなものでできる限りの運用をするということで、内容そのものはよく存じておりますし、私どもも――実は私、二回あそこをずっと見ておるのですが、関係の方々の、たとえばお医者さんの不満とかいろいろ聞いております。その一つとして芽ばえましたのが、ことしのいわゆる百ベッドの病院をあそこの中につくらなければならぬ、こういうふうな問題でございまして、決して私ども、遠い大阪であるからといって手をこまねいておるという気持ちはございませんので、御了承いただきたいと思います。

 

○西風分科員 これは大阪の場合でいえば、万国博覧会ですか、これを一つのめどとして、愛隣地区、釜ヶ崎という地区が相当大きくふくれあがることはもう明らかです。よそへ分散して宿舎をつくるとかいうふうな点があっても、結局みなそういうことに対して忌避したりなんかしますから、そういう労働者に対する差別、正しくない考え、観念というのがまだありますから、そういう点でいまよりもさらに複雑な内容になる可能性がある。これは労働省のやるべき問題がかなりあるわけですから、厚生省だけの問題ではございませんけれども、そういう点については、厚生省と労働省あるいは現地の大阪府、大阪市というようなのが十分連絡をとって、さまざまな対策がいまやられているかどうか。事件が起こりますとすぐできますけれども、あとは月に一回か二月に一回か飯を食う会合をして、あとは解散状態になっておる。大体そういうことになっておると思う。だからそういう点についても、いま起こってからやるのではなしに、さっきからたびたび繰り返して申し上げておりますが、起こらぬ先に起こさぬようにどうするのかという積極的な手を打つのが政治なんです。

  〔登坂主査代理退席、田中主査着席〕

だからそういう点でどういうふうなことが考えられているか。これはさっきからたびたび言いますが、労働省との関係がありますから、あなたのほうだけじゃなく、労働省との間でどういう連絡機関がつくられて、どういう話し合いが行なわれているか明らかにしていただきたい。

 

○今村政府委員 これはお話のように、実は一昨年でありますか、例の大騒動がありまして、そのときに当時、建設省が仲に入って、橋本建設大臣が、これは厚生、労働、建設、文部と集まって対策を練ろうじゃないかということで、いろいろ考えまして、市や府も入れまして、例の労働福祉センターというふうなものをつくろう、それと病院を併設しようというのが本年度の予算で実を結んだ。労働省は四十二年度でも入っております。

 それから、たとえばいま万博景気でどんどん山谷のほうが減っております。そして大阪のほうが景気がいいですから、大阪のほうにどんどん流れております。それらの情勢はよく存じておりまして、労働省の職業安定局長あるいは事務担当の課長さん方というところで会合をしておりまして、それには府あるいは市の職員もときどき参加してもらう、こういう方向をとっております。

 

○西風分科員 それでは連絡会議みたいなものをやっているわけですね。引き続いていままでやっておりますか。いままでどういうことをきめておりますか。

 

○今村政府委員 当面の問題は、この労働福祉センターの問題と関連した医療機関というものの整備が一番大きい問題でございます。したがって今後は、だんだん夏場に向かいますし、また手配師――これはあまり言いたくないのですが、手配師の問題、その辺の問題がありますので、なるべくトラブルが起こらぬようにする。それからもう一つは、これは直接社会局としてはまだ結論はありませんけれども、保育所あるいは託児所というふうなものをもっと増設する余地がないか。ただ、土地の問題で労働福祉センターが一年間たな上げにされております。この用地買収が非常にむずかしい。その辺をどうするかということで、厚生省部内でも労働省といろいろ話し合いをしなければならぬと考えております。

 

○西風分科員 この間もあそこの診療所にいる本田良寛氏ですか、この人が中心になってやっている社会医学研究会ですかが子供の調査をやっておるわけです。その子供の調査の結果、あなたは何かしたいことがありますかというのに対して、そんなものはない――全部じゃないですが、ないというのが多数です。あなたは将来何になりたいと思いますか、わからない、何か具体的にやりたいような要求のようなことが――ことははもっとやさしく書いてあるでしょうが、あるのかというような問いに対して、あそこで育っている子供は、ほとんど絶望的な回答をしております。そこらの子供と違うわけです。

 そういう点で、単にあそこに働いている労務者の問題のみならず、あの中で生活している非常にたくさんの人々に――山谷の場合もそうですが、そういう人々に対してもっと積極的な施策をしてもらう必要がありますし、そのためには――それだけで解決するわけではございませんが、厚生大臣、従来のような大名行列的視察ならせぬほうがいいですよ。来られたほうが迷惑です。その前にいろいろ掃除をしたりする。二時間くらいはきれいになりますけれども、あとは、さらにたいへんなことになるわけです。ですから、そういう大名行列ではなしに、厚生大臣が何人か連れて単身で――これは先ほどから言いますように、まず労働省その他と関係がありますし、暴力手配師というものはどういうものかということを知るためにも、型破りの視察というものをやる御意思があるかどうか。あなたはうまく答弁されると思いますけれども……。

 

○園田国務大臣 ことばだけでなしに、内容も誠意を持ってお答えいたします。知らないものは知らない、できないものはできない……。

 いまの愛隣地区の問題につきましても、予算折衝中病院についての話を聞き、考えておっただけであり、その他の問題については、ただいま御意見を承っていろいろ考えているところであります。したがいまして、御指摘のとおりに、早い機会にそういうかっこうで何気なく拝見をして、それも視察ということでなしに、勉強のために必ず参ることをお約束いたします。

 

○西風分科員 次に、先ほど説明のあった病院の問題ですが、財政硬直化その他理由はわかりますけれども、いまあそこでは、もうほんとうにその日その日指で数えるほどの人が死んでいっているわけです。ちょっとした努力で死ななくていい人が死んでいっているわけです。またそういう環境になっているわけです。そういう点で、最初あの病院は大体三億程度で、一年くらいのできるだけ短い期間で建ててしまう。病院の規模その他ももちろん大きいほどいいわけですが、すみやかに建てるということが、ああいう病院には必要なわけです。だから、これは二年計画で五千万円ずつですか、そして大阪市、大阪府がさらにそこへつけ足すということになっておりますけれども、ああいうものは一刻も早く建てる必要があるわけです。そういう点で、財政上はそういうことになったけれども、政府に努力を願って、もっと早い時期に、二年かからずに一年間でやろうというような積極的な意思、情熱があるのかどうか。これはまさに愛情のあるやり方です。どうせ建てるのですから。しかも千億も二千億もというなら、それは配慮したり考慮したり、段階も追わなければならぬけれども、わずか一億や二億の問題ですから、そのことによって、あそこにいる数万の労働者が、われわれにもやっと何か手を差し伸べるような、まじめな足しになるようなことをしてくれたということになるのですから、そういう点で、もっと早く建てるような積極的な手だてというものをお講じになる御意思があるかどうか、お伺いしたい。

 

○今村政府委員 お説のように、実は私ども一ぺんでやってしまいたいというように思ったわけです。ところが、これは先生御承知でしょうが、例のお菓子屋さんですか、その用地買収が最近やっと目鼻がつきかけて、労働福祉事業団のほうでかけられる。その着工ができますのはおそらく夏にかかるのではないか。しかも四階以上を建てるということになりますと、どうしても年度内完了は無理だというので、大阪府の民政局長さん、市の民政局長さんともよく打ち合わせまして、これはやはり二カ年度に割ってもらうよりしかたがないというかっこうになりましたが、私どもとしては一発でやりたかったという気持ちであります。

 

○西風分科員 私は園田厚生大臣をはじめとする努力は認めているわけです。しかし、その努力を実りあるものにするためには、せっかくやるのですから、さすがは園田厚生大臣のときには――合気道だけではなしに、やはりほんとうの人間のあれがこもっていたというあれにしてもらうためには、さっきからたびたび言いますように、何十億、何百億、何千億というようならやれないけれども、二億くらいの金ですから――政府にしたら一億ですよ、五千万、五千万ですからね。その程度の金ですから、いますぐプラスせいとまでは言わないにしても、一年で完成さすように、大蔵省その他を説得してもらいたい。園田さんの実力をもってして、五千万程度の金が一年先支払われるということができないはずはないと思うのですよ。これはもう世の中でそういうふうに言っていますから、そういう点で、一年間で何とかやるような、そういう手だてを講じていただけないかどうかということをお伺いしておるわけです。

 

○今村政府委員 それは、労働省で四十二年度に予算をとりまして、繰り越さざるを得ないかっこうになるわけです。やっといま話がつきかかってきたので、もう一押しという状況で、始めれば、これは予算は二年計画だといっても、ただ年度がまたがるだけであって、工事は一発でやってしまうということでございますので、手をつけ出したら早い、こういう状況でございます。ただ、どうしても本年度内には労働省の分と私どもと両方が完了に至らないというので、予算技術上そういうふうに分けただけであって、実態は一ぺん勝負でやるということでございます。

 

○西風分科員 やり出したら早いじゃなくて、やること自身を早くしてもらわなければいけないのです。やり出したら早いと言ってもしようがないわけですから。しかし、まあそれでもたいへん感謝しておりますがね。

 そういうものをつくり出して、やっぱりつくる限りは、多少、そこらの地域の人、医者――専門的には医者でしょうけれども、医者とかさまざまなこういう問題に関心を持っている人ですね。ただ病院をつくっただけでは、必ずそれが役に立つということにもならないわけですね。その病院のつくり方、たとえば労務者とかそういう人が入りやすいような雰囲気とか、さまざまなこまかい点がいろいろあるわけですね。そういう点について、建設をやっていく計画――すでに始めておられると思うのですけれども、その中でどういう形でそういう意見を吸収されるか、お伺いしたいと思うのです。

 

○今村政府委員 これはまだ大阪市、それから府のほうから、その手順については、いま先生がおっしゃいますように、できるならば地元住民参加のいろんな希望をまとめ、あるいは運営協議会みたいなかっこうにしたらどうかという御意見がありますけれども、実はそこまでまだ府のほうから聞いておりません。ただ、率直に申しまして、非常にむずかしいと思うのは、ああいう地域の人方はいろいろ気風も変わっておりますので、看護婦さんとかお医者さんをどこから集めてくるか、おそれをなして三日目に夜逃げというようなかっこうになるんじゃないかということを、大阪府や市では非常に心配をしておるのです。ですから、それはやはり地元の人のほんとうの御協力をいただかないとなかなかむずかしいのではないか。実は金よりもそっちのほうが心配だということであります。

 

○西風分科員 そういう点は、たとえば医者の問題については、本田良寛さんをはじめとする大阪の市大の医学部のグループ、こういう人ができるだけ積極的に参加しようという意思を持っているわけですね。市大だけでいいかどうかは別としましてね。そういうふうな幾つかの社会奉仕的な意味を含めたグループもあるわけです。そういう人々の意見を聞くような、何とか審議会みたいなものばかりをつくる必要はありませんけれども、懇話会でも懇談会でもいいです。そういうものをつくって、そういう人の意思が反映し、しかもその話し合いを通じて、病院に対する協力の輪が二重、三重にできるというような、そういう過程をつくって病院が建設されなければならぬ。そういう点は、そういうふうなことができるような、さまざまな人々の協力を得られるように配慮していただきたい、こう思うのです。

 

○今村政府委員 それは地元でも非常に頭を痛めていると思いますが、私どもしょっちゅう会っておりますので、その問題は、今後そういう方向で十分に研究してもらいたいというふうに相談するつもりであります。

 

○西風分科員 それじゃ、これから万国博覧会にかけて、山谷も愛隣地区も夏にああいうような事態が起こらぬようにする自信があるわけですね。それをお伺いしておきたい、厚生大臣。

 

○園田国務大臣 予算の審議が終わりましたら、早急に現地に参りまして、いろいろ勉強いたし、御意見等も承りまして、そのように決意をして、また病院等も早急に一年間でやるように努力しつつ、諸般の問題を勉強するつもりでおります。