55-衆-内閣委員会-16号 昭和42年06月08日

 

昭和四十二年六月八日(木曜日)

    午前十時十八分開議

 

本日の会議に付した案件

 農林省設置法の一部を改正する法律案(内閣提

 出第一六号)

 労働省設置法の一部を改正する法律案(内閣提

 出第一八号)

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○大出委員 有馬さん御存じで、その一番大事なことをおっしゃらぬわけなんですがね、これはひとつ問題なんですよ。というのは、このすべてを職安を通す、こういうことにすれば、これはそれでなければ雇えないんだから、それでもなおかつ職安をすべて通すことになっているのにやみで雇ったら、それは雇った使用者が悪い。すべて職安を通すということにする限りは、二重取りも何もない、これははっきりしている。ところが、十六条ただし書きなんというものがくっついているものだから、それが逆にこの法律適用以前に比べて悪くなっていく、そこに問題があると私は指摘しているわけです。いいですか。あそこの所長が、千四十円しか会社側が払わないという。その場合に、それじゃ違うじゃないか、千三百円なぜ出せないんだ、こうなる。だめなんだ。だめならば、そんなところに行くやつはないじゃないか。けとばしてしまう。では八百二十円払うから――しかし、日数が足りない人は、調整手当は三百円に落ちているのですよ。そうなると、問題はそこから先は職安の窓口じゃないのです。職安が他の職を世話したのじゃないのです。八百二十円もらって、泣き寝入りで帰ってきた。ばかばかしいじゃないかということになって、やみで、職安を通さないでほかに行っているわけです。だから、形の上で二重取りにはなっていない。わかるはずはないじゃないですか。職安はあっせんしなかった。だから、調整手当をもらって帰ってきた。そしてほかのほうにやみで、職安を通さないで港湾労働に従事できるところがあるから、そこに行くのです。職安の所長さんは、自分のところで紹介できなかったのだから、調整手当を払ったのはあたりまえだ。そこから先のところは、今日の法律上からいったら、職安のあずかり知らぬところですよ。ここに問題の焦点がある。こういうわけです。職安局長、おわかりになると思うのですがね。

 そこで、朝の六時という時点で青手帳を出す。六時から紹介しますから。そうすると、六時の時点で千三百円という。それから、いやだちょうちんだといって時間がだんだん過ぎてくると、だんだんおそくなればなるほど千三百円がはね上がる。これが実情です。そうすると、ばかじゃあるまいし、六時に行って、すなおに待っておれるかということになる。そうこうしているうちに、川崎と横浜の例をあげれば、六時から両方紹介が始まる。会社のほうは七十口ギャングがほしい、そう思っているのだが、横浜で大体三十口くらい、こう見当をつける。三十口くらいをもらっておけば、大体そのあたりで十六条ただし書きの発動が行なわれる。そうなると、制約解除になってしまう。川崎のほうに山ほど人がいるのです。川崎のほうに手を打ってある。そこからやみで足らない分は引っぱってくる。こういうかっこうですね。そうすると、職安の窓口を通してすなおに行ったら千三百円。ところが、やみで川崎からということで、川崎から行く人は千八百円もらう。しかも正規の職安のルートを通った人は、引かれるものは全部引かれる。そうなると、一体これはどういうことになるのかということになる。いまの法律がそうさせているのではないか、こう思うのですが、どうですか。

 

○有馬政府委員 確かに十六条のただし書きによりまして直接雇い入れの道がございますので、それをルーズに運用しますと、そういったケースが出てくるわけでございます。それともう一つは、安定所の軒先の賃金と実際に支払われておるやみ賃金との間に格差があるというところに、そういった矛盾が出てくるわけでございます。この両面を適正化するといいますか、対策を講じなければ、いまの問題は解決しない。私どももこの両面を並行的に解決していこうということで努力をいたしておりますが、何せいま御指摘のような日雇い労働市場というものが、東京、横浜の場合におきましては、川崎というのが中間に存在するというふうな実態もございまして、その辺が指導あるいは取り締まり上なかなかむずかしい問題がございますけれども、両面につきまして十分指導を加えていきたいというふうに考えているわけでございます。

 

○大出委員 ところでもう一つ承りたいのですが、これの一つの大きな問題は、広域紹介の失敗なんですね。東京といったら、京浜港なんですね。だから、港のほうはポート・オーソリティの関係その他から言ったって、港湾法上いろいろな問題があるわけです。しかし、広域紹介の面でいえば、東京は東京の職安がある。川崎には川崎である。横浜には横浜である。それぞれはっきりしている。これは区域は明らかでしょう。そうすると、その範囲でのみ処理をするということにしなければ、横浜と東京、これは行政上は分かれて全然無連絡、こうなったままで下のほうはくっついてしまっている。そうなると、横浜と川崎とてんびんにかけてながめていて、横浜のほうは何時まで待てば、川崎のほうは十六条ただし書きで直雇いのルートができる。そうなっておったのでは、広域紹介というものは何のためにやっているのだということになる。だから、これは行政上の大きな盲点であり、失敗ですよ。だから、そういう点はまず明確にする。そしてやはりすべて職安を通す。この原則に近づける努力をしていただかなければ、十六条ただし書きがあることによって、業者の諸君だって高いものを買わなければならぬ、こうなるのですよ。さっき私が例にあげたのは、喜多村さんという原田港湾作業の専務です。この専務さんが書いているので、港湾経済学会が発行している研究会の本、この中身を読んでみると、痛切にこれを論じている。それは港湾労働というものの幅を広げなければどうにもならぬという。いまの港労法ができて、会社は高いものをつかまされる。つまり労働者が安過ぎて首を振れば、これは調整手当を払わざるを得なくなる。そうなると、まじめな人は青手帳なんかぶん投げて、初めからやみで行きたくなりますよ、働く意欲のある人は。会社は千八百円払ったって、そっちのほうが仕事になるのですから。だから、そういうことを考えていかないと、私は――三・三答申を受けまして港労法を立案をされたのはあなた方なんだから、一年やってみましてこういうことになってしまっているのに、そのままほっぽっておく手はない。してみると、さっき申し上げた原則、職安をすべて通ずる、こういうことにもう持っていかなければならない時期がきている。もう一つ、その根底には、港湾労働というものの市場を広くするためには、新規労働者、若手労働者が入って来られるようにするためにはどうするか。ここのところをもう一つ明確にしていなければならぬ。それから、広域紹介というもののあり方、ここのところをどうするかということ、こう考えていかなければ、このせっかくつくった法律は前に進まない、悪い面ばかり出てきている、こういうことになる。そのところどうですか。

 

○有馬政府委員 悪い面ばかり御指摘がございましたけれども、施行後一年たった今日におきまして、改善は逐次加えられているわけでございます。たとえば釜ケ崎の問題にいたしましても、バス輸送の問題も解決いたしまして、登録制に一歩近づけてきております。横浜の関係が非常にむずかしい状態に相なっておりますことは御承知のとおりでございますが、これも私どもとしては、今後御指摘のような方向で解決をしていかなければならぬ、かように考えておるわけでございます。

 

○大出委員 だから、登録日雇い労働者という制度をつくった。どうなったかというと、健保、失保、厚生年金、これをかけるということになった。あとは同じだという。そうなると、手取りが減るということ、それだけだ。そうなると、これはつまり五カ月雇用、二カ月雇用、いろいろ有期紹介をする。そういう形のつまり労働者になったという形ができただけであって、中身は健保、失保、厚生年金を持って行かれる、払うということであり、そういうことにしかなってないのではないか。これは例は時間がありませんから一々申し上げませんが、そういう意味でずいぶんたくさん問題がある。だから、私はくどいようですけれども、ここで何とか十六条ただし書きに触れて、すべて職業安定所というものを通す。ここに、何といわれてみても焦点が向いていかなければならない――。間違いましたか、ここのところは。とうですか。

 

○有馬政府委員 方向はそのとおりでございます。

 

○大出委員 そこを、私はともかくはっきりさしておいていただきたい。それで、この法律がうしろ向きにならないように、地区安定審議会もございます、あらゆる場面でひとつそちらの方向に向いていくようにお互いが努力するということでなければならぬ、こう私は思っておる。特に、その中心は労働省の皆さんがやはりその役割りを負っていただかなければならぬ、こう思っているわけです。そういうは意味で、私は、実は調整手当問題はあらかじめ地元の職業安定所長さんのほうに連絡がいけばおわかりが願えるだろう、となれば、論議がかみ合うだろう、実はこういうところで申し上げたわけなんで、ひとつそういうふうに御理解をいただきたいと思っているわけです。

 それから地区安定審議会の中で、公益側の方々もいまの調整手当の扱いについて、もうちょっとふやせというようなことも含めて大蔵省にもものを言っているわけですね。ですから、この点についてはさっき食える食えないの論議がありましたけれども、これもやはり改善すべきものは改善していただかないと、うまくないと私は思うのです。そこらのところ、将来に向かってどうお考えになりますか。

 

○有馬政府委員 この四月一日から最高九百八十円まで上げたいと思います。それから点数制による減額支給の場合の最低保障を、一級からいきなり最低の三百三十円に落ちるということのないように、五百円どまりという措置も講じてまいりたいと思います。こんなことで、ことしは昨年度よりも一歩前進した形で日額の改定を行なっておるわけでございます。

 

○大出委員 さっき申し上げましたように、三百円に落っこちるようになっておったのじゃ、これは三百円でがまんして、ほかに行かないで食っていけといったって、無理な話です。そういう場面に行かない事情の人もあるのですが、そうだとすれば、五百円も私は納得できませんけれども、やはり歯どめをしていただかないと、三百円に落っこっちゃった、それでもう調整手当一ぺんもらったのだから、こういうのじゃ、私はどうにもならぬ、こう思うのです。

 ところで、大臣にひとつ承りたいのですが、港湾労働法を施行される当時は、大臣おいでにならぬ時期でございます。だから、そのときあいきさつは申し上げません、大橋さんが一生懸命やった結果だと思いますから。ただ、私がいまここで明らかにいたしましたような矛盾がある。どうしてもやはり職安というものを通して港湾労働者というものは仕事につくのだという原則、これを十六条ただし書きが破っているところにあらゆる逆の問題が出てきているわけですから、将来に向かって格段の、職安をすべて通す、こういう方向に持っていく御努力をお願いをしたいわけですけれども、論議は先ほど来安定局長、専門家の局長といたしておるとおりでありますが、大臣の御所見を賜わりたいと思います。

 

○早川国務大臣 港湾労働法施行以来、いろいろむずかしい問題――普通の労働者と割り切れない特殊事情がございます。ただいま大出委員の御主張も、有力な意見の一つとして今後検討してまいりたいと思います。