55-衆-社会労働委員会-2号 昭和42年03月18日

 

昭和四十二年三月十八日(土曜日)

    午後二時五十九分開議

 

 

本日の会議に付した案件

 厚生関係の基本施策に関する件

 労働関係の基本施策に関する件

 厚生関係の基本施策に関する件(豚コレラ汚染

 肉等に関する問題)

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○早川国務大臣 第五十五回特別国会にあたり、労働大臣として一言所信を申し述べ、各位の御理解と御協力を得たいと存じます。

 わが国経済は、戦後二十年にして、目ざましい発展を遂げ、国民所得において世界有数の地位を占め、国民性活水準も著しい向上を示し、世界各国の驚きの的となっているのであります。この最大の理由の一つは、わが国の労働者が優秀な資質と能力を備えているとともに、きわめて勤勉であったからにほかならないのでありまして、私も国民の一人として、このことを誇りに感じ、わが国の労働者諸君に対し、深い信頼の念を持つものであります。申すまでもなく、労働政策は、直接人を対象とするものであり、人間尊重を具現するものであります。私は、労働政策の目標は、同胞としての信頼感に立って国民の大部分を占める労働者が自由な創意と努力を発揮することができる機会と条件を整え、これによって労働者諸君とその家族が豊かな生活を営めるようにすることであると考えるのであります。

 このような基本的な考え方のもとに、私が考えております労働政策の主要な点を申し述べてみたいと存じます。

 まず、雇用対策について申し上げます。

 今後の雇用情勢につきましては、進学率の向上等に伴い、技能労働者、ブルーカラー労働者を中心に労働力不足が一そう強まることが予測されるのでありますが、長年にわたり形成されてきた年功序列の雇用賃金慣行や学歴偏重、技能軽視の社会風潮はなお根強く残り、このまま放置すれば、労働者全体の福祉の向上と国民経済の均衡ある発展を阻害するおそれがあると考えられるのであります。

 このような事態に対処するため、このたび雇用対策基本計画を策定し、政府全体が雇用問題を重視し、一体となってこれに取り組む態勢を確立いたしました。この計画は、昭和四十年代の前半において完全雇用達成の地固めをはかることを課題としており、今後この計画に沿って、近代的労働市場の形成につとめ、技能労働力の養成確保、中高年令者の雇用の促進等積極的な対策を講じていくことといたしております。

 特に、技能労働者の養成確保は、今後一そう激化する国際競争に対処するためにも、きわめて重要な政策目標であります。そのため、技能検定制度の拡充、技能者表彰制度の創設を通じ、社会における技能尊重の気風を醸成し、技能者に対し正当な評価と待遇が与えられるようつとめるとともに、公共職業訓練、事業内職業訓練を拡大実施してまいる所存であります。

 また、今後、人手不足の進展に伴い、婦人の積極的な職場進出も予想されますので、これに対処するための対策について検討を進めますとともに、ILO第百号条約についても、これを批准する方針で臨んでまいりたいと存じます。また、炭鉱離職者対策、駐留軍関係離職者対策についても、その一そうの充実をはかることとし、関係法案を今国会に提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 次に、産業災害の防止について申し上げます。

 産業災害の防止は、交通事故対策、公害対策とともに、政府の人間尊重に関する重点施策の三本の柱の一つであります。産業災害の現状を見ますると、昭和四十一年においては、死傷者数は前年に比し約二万の減少を見ておりますが、いまなお、年間、死亡六千余を含む七十万近くの死傷者が発生しており、かつ、災害が大型化する傾向にあることはまことに遺憾に存じます。このため、特に、本年においては、安全衛生局の設置等行政体制を整備するとともに、第三次産業災害防止五カ年計画を策定し、指導監督の充実、作業環境の改善整備、安全衛生センター、労災防止会館の建設等により、労働面からする交通災害対策を含め、総合的な産業災害防止活動をさらに積極的に展開してまいる所存であります。

 次に、労働福祉対策について申し上げます。

 労働者の福祉の増進をはかることは、労働者に人間としての豊かな生活をもたらし、また労働者の能力の一そうの発揮を促すこととなるわけでありますが、特にわが国経済の目ざましい発展の成果をすべての国民に等しく均てんせしめることは、私のかねてからの念願であります。

 そのために、まず、多年の懸案であった労災保険、失業保険の五人未満事業所への全面適用を昭和四十三年度から実施することとし、近く関係法案の御審議を願うことといたしております。

 なお、失業保険につきましては、低所得層に対する給付内容の改善を行なうとともに、本土で働き、沖繩に帰郷している失業者についても本土並みに失業保険給付を行なうこと等の措置を講ずることといたしております。また、失業保険の適用拡大と関連しまして、失業保険制度の健全な運営を確保するため、一般受給者と短期循環受給者との均衡を考慮して若干の合理化の措置を講ずる考えでありますが、これについては、従来からの被保険者の生活に急激な変化を与えることを避けるため、十分な配慮を行なう考えであります。

 また、大企業に比べ立ちおくれが見られる中小企業の労働者の福祉施設につきましては、各種融資制度の拡充、青少年ホームの増設等により、積極的にその整備を進めてまいる所存であります。さらに、出かせぎ労働者、身体障害者等経済社会の目まぐるしい変化に対応することが困難な労働者につきましても、たとえば清酒製造業退職金共済制度の設立、出かせぎ相談所の設置、総合的家内労働対策の検討推進、身障者の雇用の促進、愛隣地区における総合労働福祉施設の建設、失業対策事業就労者の賃金引き上げ並びに事業主体の負担の軽減等の各般の施策を進め、働く人々が希望と意欲に満ちた明るい生活を送ることができるようつとめてまいりたいと存じます。

 なお、一酸化炭素中毒症に関する特別対策については、現在労災保険審議会において御審議をお願いしているところであり、成案を得次第、今国会に法案を提出いたしたいと考えております。

 次に、賃金問題につきましては、賃金は国民経済の成長と調和を保ちつつ、改善されるべきものと考えており、今後とも、関係労使がかかる国民経済的観点から良識を持って自主的に問題の合理的解決をはかられるよう期待いたします。また、最低賃金制につきましては、中央最低賃金審議会の答申に基づき、その実効ある拡大につとめてきているところでありますが、将来の制度のあり方については、昭和四十年八月、同審議会に基本的検討をお願いしており、その結論を待って考えたいと存じます。

 最後に労使関係について申し上げます。

 今後、資本の自由化の問題等も控え、国民経済の均衡し、かつ安定した発展を持続するためには、労使関係の安定が強く望まれることは申すまでもないことであります。このためには、労使がお互いに同胞であるという信頼感と労使協力の精神を基調とし、国民経済という共通の基盤に立って話し合いにより問題を自主的に解決するという慣行を確立することが必要であり、私としても、かかる話し合いの機運の醸成になお一そうの努力を傾注してまいる所存であります。

 以上、当面する労働諸問題について所信の一端を申し上げた次第であります。今後とも、労働行政の推進にあたりましては、各位の御意見を十分拝聴しながら、一そうの努力をいたしてまいりたいと存じます。何とぞよろしくお願い申し上げます。

 かぜひきで声がかれておりまして、お聞き苦しくてまことに失礼いたしました。

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○上原(誠)政府委員 お手元に配付いたしました資料によりまして、昭和四十二年度労働省関係予算の概要につきまして、御説明を申し上げます。

 一般会計でございますが、ここでは石炭対策特別会計に計上されます炭鉱離職者援護対策費の五十億三千三百万円を含めまして、一千百二億円でございます。四十一年度に比較いたしまして八十六億五千万円の増となっております。

 労災保険の特別会計は、歳入歳出ともに一千三百十五億六千七百万円でございまして、百三十六億六千八百万円の増でございます。

 失業保険特別会計は、これも歳入歳出ともに一千九百五十億三千七百万円でございまして、百四十六億八千八百万円の増となっております。

 次に、主要事項につきまして御説明申し上げます。

 その第一は、長期的視点に立った積極的雇用対策の推進でございまして、二百五十六億三千七百万円を計上いたしております。前年度に比しまして十六億一千二百万円の増でございます。そのおもな中身の一つは、近代的労働市場の形成と中高年齢者の雇用促進に必要な経費でございまして、特に中高年齢者の雇用促進につきまして、二ページをごらんいただきたいと思いますが、職業転換給付金制度の拡充強化、人材銀行の新設、移転就職者用宿舎の大幅建設を行ないまして、中高年齢者の雇用促進の円滑化をはかることにいたしております。なお、雇用促進融資につきましては、二十億円増の百二十億円のワクで実施をすることにいたしております。なおまた、将来の雇用構造にかんがみまして、職業研究所の新設を予定いたしまして、用地の購入を行なうことにいたしますとともに、四十二年度から職業研究の調査の一部の実施に取りかかることにいたしております。

 その次は、炭鉱離職者対策の強化拡充に必要な経費でございまして、本年に引き続き、来年度も雇用促進事業団の援護業務を充実強化いたしますとともに、特に自営対策措置の強化につきまして、拡充をはかってまいりたいと存じております。なお、緊急就労対策事業につきましては、事業費単価の改正をいたしまして、本年に引き続き実施をいたすことになっております。

 それから、港湾労働対策の推進に必要な経費でございまして、九億二千八百万円を計上いたしております。おもな中身は、雇用調整手当の実情に即した改正を行なうことと、もう一つは、港湾労働者福祉施設の整備をはかることにいたしております。

 次に、第二は、失業対策事業の改善でございます。三ページの下のほうでございますが、失業対策事業の改善につきましては三百六十八億六千七百万円を計上いたしまして、労力費単価を一三%アップ、それから事業主体の超過負担を解消することといたしまして、所要の予算を計上いたしております。

 次に四ページの第三、労働力の質的向上対策の推進に必要な経費でございます。総額は前年度に比しまして十二億八千万円の増といたしまして百三億九千二百万円を計上いたしております。そのおもな内容の一つは、技能労働力の開発向上対策の推進に必要な経費でございまして、九十九億九千三百万円を計上いたしております。これによりまして、事業内職業訓練の助成援助の強化をはかるとともに、総合職業訓練所、一般職業訓練所、身体障害者職業訓練所につきまして、それぞれ増設、拡充をいたすことにいたしております。

 次に、技能検定制度の整備と技能者の地位向上対策の強化に必要な経費でございまして、一億五千九百万円を計上いたしております。内容といたしましては、技能検定制度をさらに拡大実施いたしますとともに、技能者表彰制度の創設をいたすことにいたしております。なお、昭和四十五年度には技能オリンピックが開催される運びとなっておりますが、この開催準備の推進をはかることにいたしております。

 六ページにまいりまして、第四は、労働災害防止対策の積極的展開と労働条件の近代化の推進に必要な経費でございまして、総額十三億五千二百万円を計上いたしております。中身といたしましては、安全衛生局の新設をいたしますとともに、監督、指導体制の整備を行ない、第三次産業災害防止五カ年計画を策定いたしまして、技術進歩等に対応する科学的労働災害防止対策の展開をはかることにいたしております。なお、労働災害防止会館の建設、安全衛生センターの設置によりまして、労働災害防止に関する啓蒙、教育指導及び自主的災害防止活動の推進をはかることにいたしております。

 次に、七ページに参りまして、労働保険の拡充に必要な経費でございます。この関係では五十六億四百万円を計上いたしておりまして、昭和四十三年度より労働保険の全面適用をはかることにいたしておりまして、四十二年度におきましては、全面適用に伴う労災、失業両保険の適用徴収事務の一元化体制の整備をはかることといたしまして、その関係に必要な経費を計上いたしております。

 なお、失業保険制度及び労災保険制度につきましては、それぞれ整備をすることにいたしておりまして、特に失業保険におきましては、八ページに書いてございますように、低所得者層に対する給付内容の改善、沖繩帰郷者等に対する失業保険給付の保障、失業保険受給資格者の就職促進の強化と給付の適正化をはかることにいたしておりまして、失業保険制度の改善に関しましては、二十二億六千九百万円の増ということで予算を計上いたしております。

 次に、労働者の福祉の増進の施策でございますが、この関係におきましては、十六億三千五百万円を計上いたしておりまして、清酒製造業退職金共済制度の新設をはじめといたします労働福祉施設につきましては、大幅に拡大強化することにいたしております。労働福祉施設の設置促進に関しましては二億五千万円の増ということで予算を計上いたしております。

 次に、恵まれない労働者層に対する対策といたしましては、身体障害者、出かせぎ労働者、家内労働者等に対する対策の強化をはかるほか、特に、大阪愛隣地区につきましては、その地区の労働者につきまして特別対策を講ずることといたしておりまして、愛隣労働福祉センターの設置、愛隣地区の公共職業安定所の新設、簡易宿泊所の設置等を考えておりまして、この関係では四億三千二百万円を計上いたしております。

 次に十一ページでございますが、相互信頼関係の上に立った合理的労使関係の促進に必要な経費といたしまして、十億五千五百万円を計上いたしております。これによりまして労使間における信頼関係の基盤の育成、中小企業における労務管理、労使関係近代化の促進をはかることといたしております。

 最後に婦人年少労働者対策でございますが、この関係では婦人労働力の有効活用対策、内職対策、婦人年少労働者保護対策、農村婦人対策等の諸施策を強力に推進することにいたしております。この関係で三億九千八百万円を計上いたしております。

 以上簡単でございますが予算の説明を終わります。

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