46-衆-法務委員会-48号 昭和39年09月30日

 

昭和三十九年九月三十日(水曜日)

   午前十時三十分開議

 

本日の会議に付した案件

 法務行政、検察行政及び裁判所の司法行政に関 する件

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○細迫委員 第一班及び第二班視察の調査報告をいたします。

 去る八月四日より行なわれました派遣委員の第一班及び第二班の調査につきまして、坂本泰良君にかわり私よりその概要を御報告いたします。なお、詳細な報告書を別途提出いたしますので、会議録にとどめさせていただきます。

 第一班及び第二班は、当委員会の決定に基づき、大阪、神戸、名古屋の各都市において、(一)青少年犯罪、暴力事犯の実態調査、(二)裁判所、法務省関係庁舎の整備状況の調査、(三)その他現地の要望不順の三つの調査項目につき関係各方面の意見を聴取、懇談を遂げ、関係諸施設を視察する等の方法によって調査を行ないましたが、今次の調査視察の重点を、暴力行為処罰に関する法律の一部改正法の施行後の状況について関係各方面の意見を聴取し、懇談を遂げ、もって暴力犯界の一掃と今後の国会運営に資するという点に指向しましたので、関係各方面、特に第一線において暴力団に接触し、暴力犯罪の取り締まりに従事している警察官、検察官からその実情を聴取するということに努力し圧した。

 すなわち、大阪高検、神戸地検並びに名古屋高校の各会議室に、検察、警察当局において、この種事件の責任者としてこれを現実に担当処理しつつある係官及び公平な住民の代弁者として報道関係の業務を担当しておられる有力新開、通信社の社会部長、論説委員の方々に参集していただき、懇談会形式により、あらかじめ提出していただいた資料に雄づき説明を聴取し、質疑応答を行ない、懇談を重ねました。なお、この懇談会の成果とあわせて、なまなましい体験談を通じてこの種暴力団の活動状況と暴力事犯の実態を知るために、大阪においては西成署、神戸においては生田署、名古屋においては中村署の三警察署におもむき、現地を視察し、実情の調査を行ないましたが、得るところ多大のものがあったと考えております。

 なお、名古屋においては大阪市における釜ケ崎東京における山谷地区に匹敵するといわれる、いわゆる駅西地区の現地調査も行ないました。

 次に、裁判所、法務省関係庁舎の整備状況につきましては、大阪においては大阪高裁、同地裁、及び大阪高検、同地検の庁舎の現況と新設希望地並びに大阪法務局今宮出張所庁舎を、神戸においては神戸交通裁判所庁舎と神戸拘置所庁舎をそれぞれ視察いたしました。

 次に、調査の概要とその結果について申し上げます。一、暴力事犯について

 大阪、神戸、名古屋のいずれにおいても暴力事犯は逐年増加し、悪質化しているばかりでなく、暴力団はその数と構成員を増加しているばかりでなく、留意すべき多くの問題点が認められたのでありますが、いまこれを要約すると次のとおりであります。

 (1)暴力団の再編成ないし、系列化が行なわれ、広地域にわたってその勢力を扶植するようになったこと。すなわち、

 (イ)地方弱小暴力団の間に対抗争が激化している。

 (ロ)この地方弱小暴力団の背後に必ず大きな暴力団が控えているのが普通である。

 (ハ)大暴力団の地方進出が盛んとなり、提携、統合が行なわれつつある。

 (ニ)暴力団の系列化が行なわれ、大暴力団は広地域にわたって勢力を扶植することに成功した。

 (2)暴力団が増加し、著しく機動性を備え、指揮命令系統を確立していること。すなわち、

 (イ)暴力団の構成員は逐次増加しているばかりでなく、不良青少年はあたかも暴力団の予備軍化した情勢にある。

 (ロ)暴力団は優秀な自動車を持ち、半件があると多くの団員を迅速に動員し得る機動性を持っているばかりでなく、その統制がよく保たれ、指揮命令が徹底している。

 (3)ピストルその他の危険な凶器の入手、隠匿に力を注ぎ、暴力事犯は凶悪化している。すなわち、

 (イ)最近ピストル等危険な凶器の密輸入が多く、その大部分がこれら暴力団の手に入り隠匿されている。

 (ロ)暴力団員による殺傷、その他の暴力事犯が増加したばかりでなく、凶器としてこれらのピストルその他の銃器が使用されている。

 (ハ)暴力団による殺傷事件が白昼公然と行なわれているばかりでなく、一般市民に損害を及ぼす等、悪質化している。

 (4)資金の入手方法が多様化し、かつ、その犯行が知能化しつつあるので、その取り締まりに困難を加えつつあること。すなわち、

 (イ)暴力団の組織を維持するため、暴力団の首脳部が飲食業、遊戯場、その他の風俗営業を中心に、多角的事業経営を行ない、正業の陰に隠れて違法行為をするという傾向にあるので、取り締まりがむずかしい。

 (ロ)従来行なわれていた賭博、恐喝その他の違法行為に加え、債権取り立て業、会社荒らしその他の知能犯を犯すことが多くなった。

 暴力団ないし組織的暴力事犯の前記傾向に対し、関係当局においては、いわゆる頂上作戦を行ない、あたかも従来検挙の外に置かれているような観さえあった暴力事犯の中核体に検挙、摘発の手を進める等、その抑圧撲滅に真撃の努力を傾倒しつつあるが、次の諸点について、要望がなされた。すなわち、

 (1)暴力団のばっこを押え、その資金源を絶つために、被害者は勇気をもって届け出ること。犯罪の通報その他について一般民衆が安心して協力してくれられるよう啓蒙活動が望ましい。

 (2)暴力団は中央・地方ともに政治的な権力との結びつきについてとかくの批判があり、また、その事実なしとしないので、政界においては、中央・地方ともにいやしくも彼らに利用されることのないよう格段の注意を払われたい。

 (3)経済的に恵まれている暴力団の中には、優秀な自動車その他の運搬用具を備え、多くの構成員を擁しているので、これが取り締まりに当たる警察に対し、これに対抗し得る十分な優秀な自動車その他の器材の整備に特別の努力をいたされたい。ということがその主たるものでありました。二、青少年犯罪について

 関係各方面の努力にかかわらず、青少年犯罪も依然として増加と悪質化の一途をたどっているばかりでなく、その傾向が年少少年層により顕著であることは憂慮にたえないところでありますが、特にこれを暴力団の関係において観察いたしますと、次のような特色が認められるのであります。

 (1)犯罪少年の低年齢化の傾向と学生犯罪の増加の傾向が認められること。すなわち、

 (イ)従来少年犯罪の重点は、いわゆる年長少年にあって、低年齢層である年少少年については比較的そのきざしが少なかったが、最近においては犯罪少年の年齢はいよいよ低まりつつあり、しかもその累犯率は、その犯罪者が年少犯罪者であればあるほど高い数字を示しているという憂うべき現象を示している。

 (ロ)少年犯罪者のうちで学生、生徒の占める割合が増加しつつあるばかりでなく、低年齢の中半生による犯罪が激増している。

 (2)集団化、悪質粗暴化の傾向が顕著であること。すなわち、

 (イ)青少年犯罪は一般に二人以上の者によって集団的に行なわれる傾向にあるが、最近のそれは青少年がまず集団をつくり、その上で犯罪を行なうという傾向が著しい。

 (ロ)青少年犯非が悪質化、粗暴化の傾向にあることはかねてから指摘されてきたところであるが、特に最近のそれは集団による輪姦事件、強盗事件、教師に対する暴行傷害事件その他に見られるように、悪質化、粗暴化が目立っている。

 (3)再犯化傾向を帯び、暴力団の予備軍化傾向があること。すなわち、

 (イ)再犯化、累犯の傾向が犯罪少年のうち年少少年層に多いことは前に指摘したが、他の少年犯罪者についてもその傾向が著しい。

 (ロ)少年犯罪者が広く各階層に広がり普遍化の傾向を示すと同時に、それはいわば暴力団の予備軍化の傾向をも示している。

 このような傾向を示し、情勢を展開しつつある青少年犯罪に対し、関係各方面において種々真摯な施策を試みているようであるが、これについて次のような上要望がなされた。すなわち、

 (1)少年の福祉を害する成人の犯罪の取り締まりを強化し、少年を取り巻く邪悪な社会環境の浄化に関係各方面が協力すること。

 (2)犯罪少年に対する家裁の措置の適正化をはかり、関係諸機関の緊密化をはかるために必要な立法指貫を講ずること。

 (3)保護施設を改善拡充すると同時に関係法令の改正を行ない、犯罪少年の更生と教化をはかるために予算上、立法上の措置を講ずること。

 以上のとおりであります。三、裁判所、法務省関係庁舎の整備状況について

 このたびの視察調査におきまして、裁判所並びに法務省関係庁舎のうち、大阪高裁、同地裁、大阪高検、同地検、大阪地方法務局今宮出張所、神戸簡易裁判所交通部、いわゆる交通裁判所、神戸拘置所の七カ所を実地に視察しましたが、いずれも狭隘もしくは老朽化し、その設備は劣悪の状態にあり、新営その他何らかの措置をとる必要があるものと思われました。なお、これについては現地の方々より種々の陳情があり、要望が行なわれましたが、その詳細はすべて別紙報告書に譲りたいと考えます。

 簡単ではありますが、以上をもって御報告を終わることにいたします。