39-衆-石炭対策特別委員会-8号 昭和36年10月20日

 

昭和三十六年十月二十日(金曜日)

    午前十時二十一分開議

 

 

本日の会議に付した案件

 石炭対策に関する件

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○原参考人 私は日本炭鉱労働組合の中央執行委員長をやっております原です。

 一番初めに、現在炭鉱はどういう状況にあるかという現状について簡単に説明をしたいと思います。

 この二年の間に、労働者は大体約六万人が整理をざれました。整理をきれました六万人のうちの一割程度が青年あるいは技術者という、非常に就職のしやすい条件にある者で、六万人の約一割程度は安定職場を求めて生活をしています。あとの九割の労働者はほとんど退職手当を食いつぶし、あるいは失業保険を食って何とか生きているというだけであります。結果においては、炭鉱周辺でニコヨンの生活をせざるを得ない、あるいは生活保護法に基づいたそういうひどい生活をしている、まさに野たれ死にの一歩手前にあるわけです。また一面現在の職場にある労働者も、九州においてはニコヨン以下の賃金まで下がった賃金で、しかも労働時間は十時間とか十二時間というひどい労働強化の上に何とか生きている、こういう事情であります。特に昨年の暮れから本年に入りまして、大手の中にも五千円、一万円という賃下げが続いております。こういう実情にあります。一面能率化、千二百円のコスト引き下げに基づいて、合理化の方法として非常増産態勢的な形がとられているわけです。従いましてここでは、設備が改善をされる事情にない石炭産業においては、結果においてひどい作業条件において働かなければならない。その結果、毎日約三人の死亡者が出たり、一日二百五十人のけが人が出ている、こういう事情にあります。一面生産性は二年前と比較いたしまして、当時一人一カ月当たりの能率が十四トンないし十五トンでありました。現在は二十トンから二十一トンと、約五割も生産性が向上していろ。従って、他産業の能率からいうならば、鉱工業の生産は二年間で約三〇%でありますけれども、炭鉱の場合は五〇%の生産性を上げております。問題になります点は、職場の労働者がどんどん減る、あるいは賃下げをされる、しかも災害が起きておる、こういう事情の中で生産性だけが向上していく実情は、労働者に対するものすごい犠牲となって現われている、この点が非常に重要なことだと思いますので、現在の炭鉱の実情について申し上げておきます。

 次に、これからそれではどういうことになるかと言いますと、千二百円のコスト引き下げという至上命令的な方針が変更がない限り、しかも一面貿易の自由化の繰り上げによりまして、来年の九月までにこの目的を達成するような勧告あるいは方針が明らかにされています。その結果においては、来年の九月までに再び六万人の労働者が整理される運命にある。しかも、その労働者の職場と生活の保障がないという実情の上にこの整理が予定されているところに問題があるわけでありますが、賃下げが現在以上にもっとひどい速度で行なわれることも、現在の政策の上において結果として明らかになる、こういうこともこれは間違いない事実であります。また災害は、能率の向上という増産態勢の結果として、現在以上のひどい死亡者やあるいは負傷者が出ることも明らかです。こういう見通しの上に立つならば、まさにこれは殺人的な生産態勢の上に合理化が計画されている、こういうふうに事実として指摘をせざるを得ない事情にあることを御理解願いたいわけです。特に現在政府において非能率炭鉱の買い上げ、あるいは中小炭鉱の買い上げを計画しておりますけれども、約九百万トンに及ぶ買い上げの計画があります。ところが、九州の中小炭鉱の一年間の総生産量は約一千万トンでありますから、従って九百万トンの中小を対象にする賢い上げは、九州には中小炭鉱が一つも残らないという計算になるわけですから、これはとうていわれわれの想像に及ばない大へんなことに発展をし、それが社会問題になる可能性があります。一面、約五百四十万に及ぶ、石炭産業と運命をともにしている国民がいます。これは石炭産業の栄えること、滅びることとともに、今日は滅びる運命にありますから、たとえば特に九州の筑豊においては、滅びいく民族的な姿に炭鉱住民全体がなろうとしています。このことは、幾たびか問題がありました釜ケ崎のような結果にならないのが不思議なほどの実情にあることを御理解を願いたいわけです。こういう事情の上に、われわれ炭鉱労働組合としては、現在何を政府に要求し、あるいは石炭政策の転換を求めているのか、このことについて簡単に説明をしたいと思います。

 一つには、何といっても、職場の保障もなければ、生活の保障もないまま首を切られるということは、近代的な社会においてはとうてい考えられないような実情にあります。しかもこれがわずか一年とか一年半の間に五万とか六万という大量の人員が整理されることについて、どんな理屈がついても納得するわけにはいきません。従ってわれわれは、石炭産業に全部がしがみついておろうなどと考えてはいません。他の産業に転換することを認めています。しかしそれは、行く先がきまらず、あるいは生活の保障が立たないまま整理をされることに反対をいたしておるわけです。このことは非常に重要でありますので、特にわれわれとしては強調したいところです。

 次には、現在は中小はニコヨン以下の賃金であり、それが基準みたいになった格好で、大手といえども賃下げの競争をしておる実情にございます。従って果てしない賃下げ競争は、結果において、せっかく職場にしがみついていましても、生活の保障がありません。こういう事実を理解を願いまして、われわれとしては、少なくとも最低一万二千円の炭鉱労働者に対する保障賃金というものを確立するのはささやかな要求ではないか、こういう気持で、賃金の問題について明らかにしているところです。

 それから次に、石炭産業の需要の問題でありますけれども、これは現在五千五百万トンというのが一応何か社会常識的な数字となって、議論の中心になっています。しかしこれは将来油との関係で、石炭の量が速い速度で拡大することは希望していない。ただ問題になります点は、五千五百万トンという量を固定的に考えますと、一面能率を上げるというととが計画になっておりますから、われわれが一生懸命働いて能率を上げることは、自動的にわれわれの仲間の首を切るというしかけになっています。そのことをわれわれが初めから認めて増産体制をしくことは、どなたが理解を願いましても非常に困難な問題に衝突をするわけですから、従いまして、エネルギーの地位というものについて明らかにしていただきたいと思っています。現在総エネルギーの約三二%が、石炭の地位になっています。それを数字で言いますと五千五百万トンであります。現在油の量というのは、総エネルギーのうちの約三〇%であります。水力発電によるエネルギーが約三〇%であります。その他天然ガスとかその他の燃料が約一〇%ということになっておりますから、われわれとしては、この数字は将来の目標として確立することは不可能な道ではない、こういう判断をいたしました。その点は、たとえば十年先になりますと、どういうことになるかというと、これは約五五%程度が油の地位になります。特に五千五百万トンで押えますと、十年先には一八%が石炭の量の地位ということになります。こういうことになりますと、国内資源である石炭はますます片すみに追い込まれて、輸入原料だけで日本のエネルギー対策を立てるという結果になることを非常にわれわれは心配をしているわけです。

 次に、現在生産体制の問題について一番緊急な問題として、どういうことが起きているか。それは、銀行がほとんど石炭産業には金融をいたしません。あるいは、政府の保障も現在はありません。従って、自力で設備資金なり合理化ということを金の面で準備することは、事実上不可能に近いのです。大手の一部において、そのととはささやかに実行する可能性はありましょう。しかし千二百円のコスト引き下げというこの方針に基づく生産体制の合理化は、およそ不可能に近い実情にあります。ことにひどいのは中小炭鉱でありまして、生産体制の合理化どころか、保安を無視して増産をするという結果は、たとえば豊州炭鉱、上清炭鉱のような実例が示しているところです。そういう意味では、この金融措置について政府が重大な関心を持って対策を立てることが必要だと思います。

 もう一つは、これは石炭経営者にも政府にもわれわれが言っていることですけれども、近代的な経営の合理化は設備の改善にあると思います。あるいは、技術の改善にあると思います。ところが、御存じの通り、炭脈あるいは炭層というのは、自然の資源でございますから、一定の地域において広範に一つの層があるわけですけれども、現在では中小、大手あるいは大手の中でもまちまちでありまして、一つの畑をお花灯のごとく区画整理をいたしております。従って、ここでは縦坑の開発による生産性の合理的な向上を、そういう意味から不可能にしておるわけです。従ってコストが置くなり、石炭の値段が高くなりますから、結果において労働者の賃下げと首切りというしわ寄せになっている。非常にこのことは重要なことだと思いますので、このことについての整理統合を強く主張しているところであります。

 次に、流通機構の問題について、いろいろありますが、時間がございませんから、すべてを述べることはできません。重要な面だけ一つ申し上げますと、現在、消費者の大口と生産者の大口の間においては直接石炭価格が取りきめられますけれども、中小あるいは小口消費者は、二重、三重の販売機構を通って、それが国民の手に渡るときには、山元で五千円の石炭が一万円、一万二千円もする、こういう大へんな矛盾があるわけですから、こういう意味で、流通機構について重大なメスを入れる必要を炭労は強調しているところです。

 重油の関税の問題について、二〇%かけろと要求をいたします。これは理由は二つございます。一つは、常に政府は予算ということを中心にして、必要を認めながら、財源というところから事実上産業の発展をはばむ結果になっています。みずからそれに対案を持ってこいという姿勢をとっていますから、われわれとしましては、財源としては、輸入原料によって国内産業が壊滅される実情にあるならば、このことについて関税を考慮することは、財源の一案でもあり、一つには国内産業を守る意味で必要であるということを強調しているおけです。

 いろいろありますけれども、要求の重大な柱は三つございます。今言ったことを要約しますと、一つには、石炭の需要の安定を要求いたします。二つ目には、雇用の安定ということを緊急な問題として要求をいたします。もう一つは、最低賃金の保障という面について、同時に、どうしてもこの際この臨時国会中に国がどういう態度をとるべきかということを明らかにしてもらいたい、こういうことを特に強調しているわけです。従って、緊急な三つの問題と、生産態勢や総合エネルギーという恒久的な問題については、今国会中に直ちにせっかちに解決することを望んでも無理だと思いますけれども、継統してこの問題の解決に当たる態勢をお願いしているところです。

 次に、われわれがこういう要求をする上にあたって、現在の政府の政策についてどういう関係にあるかということについて、この際われわれの考えを説明したいと思います。

 一つには、たとえば、労働組合ですから、いろいろな思想や目的はあるけれども、この要求をめぐって池田内閣の打倒を呼びかけるとか、あるいはその矛盾についてわれわれの力をそういう方向に発展させようという考えは、いささかもございません。現在ある国民の一産業であり、しかも五百四十万の国民を擁している石炭産業について、人道的な立場から、この際、国は思い切った政策が必要なのではないか、こういうことを要求しています。一つには、現在いろいろなことが言われていましても、結果において、求人難であり、人手不足であるということを言われているにもかかわらず、石炭産業だけが短期間に十数万という大量の殺人的整理が社会的に認められることは、不思議ではないのか、こういうことが言えるわけです。一つには、消費物価はどんどん上がっています。あるいは一面ではベース・アップもされています。にもかかわらず、石炭産業だけが五千円、一万円の賃下げがあたりまえだということは、どうしてもわれわれは納得することができないのです。一面、中小においてニコヨン以下の賃金や生活保護法を適用されるような賃金の形態は、この際どうしても認められがたいということを御理解願いたいわけです。将来の石炭産業を安定さす意味において、需要が安定することによって直ちに安定にはなりません。現在、炭鉱の中から、経営者の政策もありますけれども、若い者はどんどん他の産業に移動を始めています。あるいは重要な技術職員が他産業へと転換を始めています。これは需要の安定という道を選んでも、そこに働く労働者の質的な転換が行われ、結果においてけが人や年寄りばかり残る、こういう重大なことになる可能性が十二分にあるわけです。ヨーロッパにおいては、石炭産業がいかなる産業よりも最高の賃金を支払い、一番短い労働時間という待遇をしておるにもかからわず、若き者は他産業に転換を始め、技術者はどんどん減って、新しく採用する余地がだんだんふさがれているのです。そういう一環として、日本の青年労働者がドイツに行っている理由もそういうことを証明しているわけです。ましてや、賃下げと人員整理が続いているこの実情で、将来安心して働ける職場、産業として理解ができない限り、結果において、労働者を犠牲にすることができても、石炭産業は安定をしないという重大な危機に当面することを理解願いたいわけです。

 最後に、こういう実情に対して、この際特段なメスを入れ、あるいは手術をするような、思い切った石炭産業の政策がもし打ち立てられないとするならば、思想を越えて、結果において企業形態について問題になることは、時間の問題ではないだろうか。中小はもちろんのこと、大手といえども、石炭経営者は、みずからが石炭産業の行き先について方向をきめるという重大なことが、時間の問題として発展をしてくる要素があります。もちろん労働組合ですから、社会化を要求し、国営を要求していますけれども、これは思想の問題を越えて、結果において石炭産業を少しでも残すとすれば、その道を選ばなければならぬというような、新しい角度で議論をしなければならぬ重大な時期がくることは間近です。われわれはこのことを今要求してはおりませんけれども、この際思い切った政策の転換がない限り、結果においてそうなることは、当然のことのように見通しとして明らかになっていますので、このことも含めて、政府並びに国会において十分議論されることを特にお願いして、私の意見を終わらしていただきたいと思います。ありがとうございました。(拍手)