39-衆-法務委員会-3号 昭和36年10月17日

 

昭和三十六年十月十七日(火曜日)

   午前十時四十三分開議

 

本日の会議に付した案件

 法務行政及び検察行政に関する件

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○志賀(義)委員 そこまであなたが認められればよろしい。ただ、カメラを取り上げろと言ったのは、こちらの報道関係者側なりが言ったことではなくて、報道関係者がそこに入ってきまして、カメラでその場現をすぐにとろうとしておりました。その一人のカメラに対して警察官が言ったことであります。それが別の人から聞くと、あの混雑の中だから、何だか警察のカメラを取り上げろと言ったようにあなたの方に報告した者もあるでしょう。しかし事実は今言った通りです。この問題はきょう初めて警視庁で公然とテレビカメラであらゆる場面をとっておられるということを伺いました。これについては後日また伺うつもりであります。

 ですから、法務大臣も、公安委員会とか検察庁あるいは警察から検察庁に対する報告などを通じて判断して、もし行き過ぎがあったらとかなんとかいうとでなくて、デモはこの通り整然とやっておる、警察は顔を隠しておる、私を逮捕しようとしておる、これが最近のデモの現状ですから、そういう点について、ただ報告について先ほど坪野委員にお答えになったようなことを軽々しくおっしゃらないように、一つ気をつけていただきたいと思います。

 では、次の問題に移りますが、釜ケ崎の問題であります。

 去る十月五日の朝日新聞並びに毎日新聞に、ことしの八月の大阪釜ケ崎事件の被疑者に対する警察の取り調べで、暴行陵虐の罪に問われそうなものが出てきたということでありますが、これについては人権擁護局の方に事実の調査をお願いしておきましたが、結果はどういうことになったでありましょうか。

 

○植木国務大臣 ことしの十月三日午後一時ごろ、大阪府の淡路警察署二階の一室で、刑事二名が一容疑者に対して、なぐる、ける等の暴行をしている状況を目撃した者があるというので、十月五日付の新聞情報に基づきまして、即日大阪の法務局で人権侵犯事件として受理をいたしまして、すでに関係者五名について調査を了しましたけれども、なお引き続き継続調査をする必要があるというので、目下その調査の進行中でございます。従って、断定的なことは言えませんが、問題の暴行事実がある程度あったのではないかという疑いのふしがございますので、慎重に目下なおその調査を進めておる最中でございます。

 

○志賀(義)委員 検察庁の方で何か調べておられるようですが、刑事局長の方から調査の現状を伺いたいと思います。

 

○竹内政府委員 ただいま問題になっております大阪府警刑事部捜査第一課に勤務いたしております二人の刑事が、今大臣が申しましたような事情で、取り調べ中に被疑者に罵倒を浴びせ、激高し、その間の事情はよくわかりませんが、要するに両名共謀して、被疑者を足でけったり、手拳で顔面、頸部、腹部などを殴打するというような暴行を加えて、その結果治療五日間を要する傷を負わせたということでございまして、その事実につきまして、去る四日の夕刻、大阪府警察本部刑事部から大阪地方検察庁に申し出がありましたので、検察庁としてもこの事実を知った次第でございます。大阪府警におきましては、非常な慎重な態度をとりまして、あげて検察庁の捜査に一任したいという公明な態度に出て参りましたので、その意向を承知いたしまして、大阪地検におきましては、ただいま関係者を取り調べ中でございます。結論をまだ得るに至っておりませんが、警察官の述べております当時の模様、それから相手方の述べております被害の状況等につきましては、なお食い違いが相当あるようでございまして、目下鋭意真相の究明に努めておる状況でございます。

 

○志賀(義)委員 刑事局長に伺いますが毎日新聞によりますと、淡路署で二人の刑事――この刑事は府警捜査第一課の上原刑事と曾根崎署捜査係の北口刑事の二人でありますが、隣りに淡路メディカル・センターというのがあります、その二階で、つき添い婦――名前は毎日新聞ではAさんとなっております、二十四才の人ですが、「悲鳴と大きな音が聞こえたので、向かいの淡路署二階をみると、二人の刑事が手錠をはめられた容疑者を突き飛ばしているのがみえた。さらにもう一人の刑事が容疑者をけ飛ばし、エリ首をつかんで立ち上がらせてわめいた。こんな暴行が約三十分続いたあと、一人がタタミに頭をすりつけて「あやまれ」と叫んだ。容疑者が力なくすわると、その顔をまた一人がなぐったが、Aさんに気づいたのか、刑事が窓のカーテンをあわてて閉め、間もなく静かになったという。」こういうことになっております。「同署のすぐ向かいにある東淀川区淡路新町一丁目淡路メディカル・センターの患者らが目撃した。」ということになっておりますが、警察庁ではこの目撃君たちに状況をお聞きになりましたか、どうでしょうか。今のあなたのおっしゃったのは、そこが抜けているように思いますが……。

 

○竹内政府委員 ただいまの目撃証人ももちろん調べておりますし、現場の検証もいたしておるやに聞いております。

 

○志賀(義)委員 釜ケ崎事件というのは非常に有名なことでありますけれども、昨年八月三日ですか、山谷のドヤ街でいわゆるマンモス交番に対する事件が起こりました。それがありましたので、九月になりまして、当法務委員会では、特におそらく山谷以上の大きい事件を引き起こすであろうと考えまして、数名の委員が法務委員会から派遣されて釜ケ崎の視察を行ないました。この予想は違わずに、ことし、昨年山谷で起こったのと同じ日に釜ケ崎に事件が起こってきた。当衆議院法務委員会においても、こういう事件が起こることは予想しておったことであります。ところが、それについて百数十名の容疑者が今検挙されておるわけであります。すでに論告なんかを受けておるものも一部あります。ところが、こういうことが起こってみると、この容疑者たちに対して一体どういうことが行なわれているのか、犯罪事実と称せられるものがこういうことを土台にしてあげられたのでは、大へんなことであります。まして朝日新聞によりますと、こういうことが書いてあります。「釜ケ崎事件の公務執行妨害容疑者が二人の刑事に暴行され、釈放寸前になって「暴行の事実は絶対口外するな」と余罪と取り引きにかたく口止めされた事件が起こった。」こうなっております。この事実については、警察庁の方でお調べになりましたか。

 

○柏村政府委員 私は聞いておりません。

 

○志賀(義)委員 三輪さん、どうですか。

 

○三輪政府委員 私、所管でありませんので、正確なことはお答えできませんが、取引をしたというような事実はないということを私は聞いておりますけれども、責任のあるお答えはいたしかねます。

 

○志賀(義)委員 刑事局長、その点いかがですか。

 

○竹内政府委員 捜査を待って御報告申し上げたいと思いますが、今日までのところ、今御指摘の事実は私どもとしては報告を受けておりません。

 

○志賀(義)委員 メディカル・センターから道路を隔てて見た場合には、かたく口どめされたとかなんとか、そういう取引のことはおそらく聞えなかったろうと思います。これは新聞記者が、暴行を受けた大阪市西成区西入船町三番地、手伝い業浜田貞夫、二十五歳でありますが、この浜田貞夫に聞いて、暴行の事実は絶対口外するな、そうすれば余罪はこの際もう洗わないことにする、こういう取引が行なわれたということを新聞社の方で確めたのでなければ、朝日新聞ともあろうものが軽々しくこういうことは書かないと思います。この本人の方は検察庁の方でお聞きになりましたか。検察官は田村検事でありますが、田村検事の報告にそういうことがありましたでしょうか。

 

○竹内政府委員 まだ捜査中でございますので、確実なことはまだ報告は来ておらないわけであります。ただ、この浜田という人は、これもなかなかしたたか者のように見受けられます。こういう人が新聞記者にどのようなことを言ったかわかりませんが、新聞の記事もある次第でございますので、そのような事実があったかどうかというようなことは当然検察庁としては詳細に取り調べるはずでございます。

 なお、釜ケ崎事件と今のこの事件の二人の刑事との関係でございますけれども、この二人は書類を作るのに関係したとかいうようなことはありますが、捜査には実際には当たっていなかったようでございます。そういうふうに私は聞いております。

 

○志賀(義)委員 捜査に当たらない者にやらして、こういう暴行事件が起こる。これは目撃者があったことでございますから、どうも今の新聞記事から見ますと、本人の口から漏れたのでなくて、朝日、毎日両方の新聞記事によりますと、淡路メディカル・センターの方からこの事件が漏れている。それでびっくりした。それでなければ、普通、警察と方面監察官と検察庁それからまた法務局とかが、その日のうちに動き出すということはまずないことであります。これはおそらく新聞社の方にも知らされて、新聞社の方から聞かれてびっくりぎょうてんして動き出したんだと私は推定しております。そして今お話を伺いますと、本人の方も調べておるはずだ、目撃者の方も調べておるはずだと言われます。ところがこの浜田云々という男についてだけは、その人間像についてあなたはこれはしたたか者だと言った。まだ取り調べ中で、したたか者かどうかわからないんじゃないですか。なぜこの男に対してだけ先にしたたか者だという断定をあなたは下されるのですか。きっとその報告にあるんでしょう、したたか者だと。ちょっと読んで下さい。どうですか。

 

○竹内政府委員 ちょっと私の説明が不十分であったかと思いますが、この容疑事件が今現在取り調べ中であるということは、これはもう疑う余地のない現実の事実でございますが、問題の二人の刑事は、釜ケ崎事件の捜査に専従しておった人たちではなく、書類の編綴だとかそういうような仕事にはタッチしておったようでございますけれども、本格的に被疑者を取り調べて事件の捜査に当たった刑事の方々ではないように報告では私は承知しておるわけでございます。

 それから、被疑者の人間像についてということでございますが、被疑者の人となりにつきましては、いろいろ調査されればすぐわかることでございまして、まだ関係者の調べも、志賀委員から仰せになるまでもなく、細密な調査をしておるのでございまして、いずれ真相がはっきりすることと考えております。

 

○志賀(義)委員 この問題について最後に一つ伺いたい。あなたが今言われたことは、つまり捜査には関係してない、書類作成に当たった。こういうふうになりますと、事件の実態について十分把握してない人間が書類作成に当たったためにこういう無理なことが起こった、こういうふうにおっしゃるのでしょうか。どういう意味でそれをおっしゃるのでしょうか。その点を一つ……。

 

○竹内政府委員 私の申し上げた趣旨は、こういうことを刑事がみんなやっているのじゃないだろうか、従って、釜ケ崎事件もでっち上げの事件じゃないかというような趣旨のお言葉があったように思いましたので、との二人の刑事は本格的な捜査には関係しておらなかった人のように私は聞いておるということを申し上げたわけでございますが、ほかの事件につきましても、もちろん供述の信憑性、任意性ということは絶えず検事としては細密な注意を払って検討しておるわけであります。

 

○志賀(義)委員 この事件については、まだ目下取り調べ中で、警察の方ではまだよく御存じないようなところもあるようでありますが、どうも怠慢ですね。一つもっと調べていただきたいと思いますが、お調べになりますかどうか。それに続いて法務大阪も、ただいまお聞きになったような状態でありますから、一つ大臣として事件の糾明を促進するというお気持があるならばそれを一つ……。

 

○柏村政府委員 警察といたしましても、直後に監察官をして調査をさせ、事件としては検察庁に送っておるわけでありまして、私が詳細に承知しておらなかったということは、警察の怠慢で事件を調査しておらなかったということではございませんので、御了承願います。

 

○植木国務大臣 釜ケ崎の事件はまことに残念な事件でありまして、こうした暴力事件を調べなければならない、あるいは検察の手伝いをしている捜査官の中に暴力で云々というようなことがもし事実とするならば、もってのほかの問題だと私も考えます。従いまして、この問題については、検察当局にはもちろんのこと、人権擁護局にも督励いたしまして、事態を明らかにして、責任のあるところは当然責任をつくべきだと考えておりますし、今後こうした事態の起こらないように部下を督励して参りたいと存じます。

 

○志賀(義)委員 推量を言われちゃ困る。ちゃんとその理由を最後の「我々の政暴法に対する見解」の中に言っております。こういうふうに右翼とあなたも認められる団体が賛成している。そうなってきますと、政防法というものは一体だれに向けられるものであるかということは、もう私がかれこれ申すまでもなく明らかなことであります。法務大臣も法務委員会に出ておられるのでありますが、今後この法案もまた再び衆議院で問題になるというようなことのないように、一つ法務大臣の方でも努力していただきたいと思います。まだ政防法のことに関しては参議院でも委員会でやっておりません。そのときにあらためていろいろとまた問題があるだろうと思います。

 私の質問はこれで終わります。とにかくあなた、さっきの釜ケ崎をよく調べて下さいよ。