39-衆-予算委員会-8号 昭和36年10月11日

 

昭和三十六年十月十一日(水曜日)

    午前十時十四分開議

 

 本日の会議に付した案件

 昭和三十六年度一般会計予算補正(第1号)

 昭和三十六年度特別会計予算補正(特第2号)

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○野原(覺)委員 私は、日本社会党を代表いたしまして、政府提出の補正予算案並びに民社党の組替え動議に反対、社会党の編成替えを求めるの動議に賛成の討論をいたさんとするものであります。

 私は、ただいま自民党の代表の方の本予算案に対する討論を拝聴いたしたのでございますが、いかに与党とはいいながら、政府を弁護することにのみきゃうきゅうたるその論旨には、国民の皆さんとともに大きな失望を感ぜざるを得ないのであります。(拍手)

 そこで、私は、少しく時間を要しますけれども、詳細に、端的に、私ども社会党の今次補正予算に対する見解を述べたいと思うのであります。

 まず、今回の補正予算の位置づけの問題でありますが、現在のわが国の経済危機は、明らに池田内閣の大資本本位の所得倍増計画によってもたらされたものであります。池田内閣が成立以来とって参りました政策を数えてみますと、成長金利と称して公定歩合を引き下げたのであります。輸入ユーザンスの期限を延長したのであります。公社債投資信託を開始したのであります。自己資本充実のためと称して、従来からの大資本本位の租税特別措置に加えて、新たに企業課税を軽減いたしたのであります。また、実質二兆円に達する公共投資優先の大型予算を組みました。こうした政策が民間の設備投資を刺激するのは当然でありまして、今回の国際収支の危機は、まさにこのために引き起こされたのであります。また、物価の問題につきましても、以上のような設備投資の過熱に加えて、政府みずからが、国鉄、電力、地方公営企業等々の基礎的公共料金を引き上げたことが、一般の卸売物価、消費者物価の上昇を招いたことは明らかであります。この中で、好景気を謳歌する大企業と、成長政策に取り残された農民、中小企業者あるいは高物価に苦しめられる低所得階層の所得格差は拡大の一途をたどってきたのであります。これらのことは、遺憾ながら昨年以来わが党が政府の所得倍増計画を批判してきたことがその通りの事実となって現われてきたものであり、今日の事態を招いた池田総理の責任はまことに重大であるといわなければならぬのであります。まさに今日の日本経済の動き自体が、池田内閣の政策に対する痛烈なる不信任を表明していると私は思うのであります。ところが池田内閣はこの責任をとろうとしていません。池田総理は、所得倍増計画自体は正しいものであるが、そのテンポが少し早過ぎたので、今日の狂いを生じました、テンポが早過ぎたのは民間企業が設備投資を急ぎ過ぎたからであると、その責任を民間に転嫁して平然としていらっしゃるのであります。

 現在の国際収支の赤字を解消し、これを何とか明年度末までに収支均衡させるには、今後鉱工業生産を抑制し、経済成長率を大幅に低下させなければなりません。わが党の計算によれば、明年度は経済成長率を二ないし三%にまで低下させなければ、年度末に国際収支均衡に到達することはできないと思うのであります。これは申すまでもなくおそるべきデフレであります。すでに公定歩合引き上げ、輸入担保率引き上げ等の金融引き締めのしわ寄せは中小企業や勤労者へ深刻に及びつつあることは言うまでもありません。大独占資本の勝手きわまる設備投資によって国際収支の危機がもたらされ、そしてこのためにとられるデフレ政策のしわ寄せは、大資本以外のものが負担させられているのであります。本来ならば、このような情勢のもとで編成されたこのたびの補正予算には、現在の経済政策破綻によってしわ寄せを受ける国民各層に対する緊急対策を盛り込むのが、当然の政府の責務でなければならぬのであります。ところが、責任を他に転嫁して恥じないところの池田内閣は、このような緊急対策をほとんど計上しておりません。これがまず第一に政府の補正予算の根本的な性格の問題として、わが党がこれを承認できない理由であります。

 第二に補正予算の内容の問題であります。災害対策につきましては、政府の対策はきわめて不十分であります。最近の集中豪雨等の災害で目立っていることは、小河川のはんらんによる被害がきわめて激甚なことであります。また洪水調節や発電等の目的で設けられたダムがかえって災害を激甚ならしめている傾向は重大問題であります。これらの問題は治山治水等の見地から根本的に再検討されるべきであるのに、これが政府案には意欲的施策として何にも現われていないのであります。また伊勢湾台風の際の名古屋、このたびの第二室戸台風の際の大阪の経験は、臨海都市の防災対策が一日も早く講じられなければならないことを示していますが、これも政府案ではそのつど主義の域を出ないものであります。災害復旧の見地から見るとき、局部的に激甚な被害を受けた地域では高率補助の適用を受けることが必要でありますが、被害激甚地指定の基準によってこれがきびしくしぼられるという弊害が是正されておりませんし、小災害復旧事業が相変わらず補助対象からはずされていることも遺憾であります。さらに災害復旧の場合、公共土木施設なり、農林、水産業施設等の復旧もさることながら、被害を受けた国民の生活を緊急に救援し、その生活再建を援助するといろ罹災者援護の措置がきわめて重要であります。この点については、わが党はかねてから声を大にして要求しておるところでございますが、依然として政府の施策に取り上げられていないことは、災害対策の基本が国民生活の防衛であるという趣旨を政府与党が理解していないからではなかろうかと思うのであります。国の防衛と称して役に立たない再軍備には二千億円もの予算を計上し、そのようなことをする政府が国土と国民生活を守る災害対策には予算を出し惜しむという本末転倒の態度を強く糾弾しなければならないと私は考える次第であります。

 次に公務員給与改善費の問題であります。このたびの給与改善は人事院勧告に基づいて行なわれるものでありますが、わが党の立場から見れば、この人事院勧告そのものが給与体系そのものを根本的に是正してほしいという公務員関係労働組合の要望を全く無視しております。また平均七・一%という給与引き上げの幅も不十分であります。われわれはこれを認めることは断じてできないのであります。ところが、政府の編成いたしました給与改善費は、たとえば給与引き上げの実施を五月から十月に引き下げる等々、人事院勧告の趣旨からも大きく後退いたしておるのであります。政府与党、あるいはその背後にある財界の中には、公務員給与を引き上げると、それが民間給与の引き上げを招くとか、あるいは物価の上昇をもたらすとか、あるいは消費増大を通じて輸入増加をもたらすとか等々の意見があるのでございますが、これらは申すまでもなく、原因と結果とを逆にした謬見であるといわなければならぬのであります。何となれば、現在の公務員給与は、民間賃金に比べて低いという実態があるからこそ、これを引き上げなければならぬのであります。あるいはまた今までの物価上昇によって、公務員の実質給与が低下しているという実態があるからこそ、これを引き上げなければならぬのであります。しかるに政府は、あまりにも低過ぎる公務員給与の額を是正することなく、国際収支の逆調を理由として、輸入削減のためには国民消費を緊縮しなければならず、そのためには引き上げは好ましくないという議論のもとに公務員給与を決定することは、まきに自分の経済政策の失敗のしりぬぐいをその被害者になすりつけんとするものであって、厚顔無知もまたはなはだしいといわなければならぬのであります。

 次に生活保護基準のわずか五%の引き上げについてであります。本年度当初予算に際し、厚生省は保護基準の二六%引き上げを公約いたしましたが、実際の引き上げはわずか一八%にとどまり、今回の五%の引き上げを加えましても二三%にすぎず、当初の厚生省の公約にも及ばないのであります。しかも、この間に、物価の上昇は、政府統計によっても約五%というのでありますから、低額所得者ほど、みそ、しょうゆ、といふなどの日常生活物資の値上がりの影響を深刻に受けておるのであります。池田総理は、長い目で見てもらえば、低額所得者もそのうちに所得が上がるだろうと言っておられますが、生活保護の対象になっているような低額所得者は、きょうあすの生活が問題なのであって、長い目で見ている余裕など全くないのであります。ここにも池田総理の庶民の生活への無理解が現われているのであって、わずか五%の引き上げは、全くスズメの涙にもひとしいといわなければならぬのであります。

 なお日雇い労務者の賃金引き上げを見送ったということも、同様の理由からわれわれは断じて承服することができないのであります。このような池田内閣の施策であればこそ、大阪市西成区釜ケ崎事件が勃発いたしたのであります。その再発の要素は依然として社会、に充満するであろうことを、私はここに指摘いたしたいのであります。

 また、社会保障関係で見のがすことのできないのは、医療保障であります。最近医師会等の医療費引き上げ要求に基づき、本年度当初予算の編成にあたって一〇%、本年七月に二・五%、そしてこのたびは二・三%引き上げられることになりました。この結果として当然社会保険の被保険者や患者の負担が増大いたします。ところが、政府は国の負担において国民の社会保険負担の増加分を軽減すべきであるのにかかわらず、ほとんどその予算措置を講じておりません。ことに、さきの第三十八国会でわが党委員の要求に対し、池田総理は、国民健康保険の国庫補助率を五分引き上げる、両党の山村、山本両国会対策委員長の約束を黙認されたにもかかわらず、このたびの補正予算においてはそれすら計上されていないのであります。信義を重んずべき政治家として、総理の違約は、国民の名において非難されなければならぬと私どもは考えておるのであります。

 次に、現在大きな社会問題となっております炭鉱労務者の対策が全く予算に計上されていないことは、わが党の看過できないところであります。炭鉱労務者諸君は、直接的には貿易自由化を背景とした政府の合理化政策により、また間接的には外国資本に支配された国際石油カルテルの圧力により、一日々々と首を切られて山を去らねばならぬ立場に追い込まれておるのであります。これに対するエネルギー政策転換の根本的対策は、わが党が別に要求することになっているのでありますが、この補正予算においては、当面の施策として、職業訓練の拡充強化、職業訓練手当と失業保険金の増額、再就職者の住宅確保、産炭地振興等の最小限の予算を計上することが必要であったのであります。ところが、政府はこの予算をびた一文も計上しておりません。まさに血も涙もない態度であります。私は二十数万の石炭産業労働者諸君とともに政府の無情を悲しまざるを得ないのであります。

 最後に中小企業対策であります。この点においては、政府の補正予算は、財政投融資において中小企業金融の三機関へ三百五十億円の資金手当をしておるにすぎません。しかしこれでは全く問題になりません。当面の国際収支の逆調を立て直すためには、設備投資を削減しなければならないのでありますが、その影響は必ず大企業の下請企業に対する下請代金の支払い遅延とか手形決済期間の延長等の形で中小企業へ転嫁されるのであります。あるいはまた金融機関の中小企業に対する歩積み、両建等の貸付も強まることは必至であります。ざっとした概算で申しましても、約四兆円の設備投資の一割を削減するには四千億の金融引き締めが必要であり、その半分が中小企業へしわ寄せされるとして二千億円の引き締めとなるのであります。これに対しわずか三百五十億円の資金手当では不充分なことは子供にもわかる算術であります。ことに政府がアメリカの要求によって貿易自由化の計画を繰り上げようとしている現段階においては、中小企業の体質改善のための設備近代化投資は今こそ必要なのであります。これらのことを考え合わせるとき、今次補正予算に含まれている中小企業への財政資金手当は申しわけの域を出ないものであり、全く誠意を認めることができません。

 以上を要約いたしますと、とのたびの政府の補正予算は、第一に、みずからの経済見通し及び経済政策の失敗の責任にほおかぶりし、それをデフレ政策で国民へ犠牲を押しつけて切り抜けようとしている無責任、無節操の予算であります。第二に、しわ寄せられる国民生活の救済援護には一文の予算をも出し渋っているところの冷酷無情の予算であります。よって、わが党は、政府の補正予算案に対しては、断固として反対せざるを得ないのであります。

 なお、民社党の組替え動議は論外でございます。

 そこで私は、わが党から提出いたしました補正予算案の編成替えを、求めるの動議について、今日の情勢にまことに適合したものであるとして、以下内容の若干を申し上げ、皆様の御賛同をいただきたいと思うであります。

 先ほどのわが党同僚委員の提案趣旨説明にもございましたように、本動議は第一に、大法人向けの租税特別措置の廃止または縮減により、あるいは財政投融資での開銀融資の削減により、大企業の過大なる設備投資を抑制することを主張いたしております。第二に、災害対策を拡充し、個人被害の救済対策を強化すべきものと主張いたしております。第三に、生活保護基準及び失対賃金の引き上げ、国民健康保険の補助率引き上げ及び医療費値上がりによる社会保険の被保険者、患者の負担増の軽減、小児麻痺対策等々の国民生活への緊急対策を主張いたしておるのであります。第四に、当面の石炭対策として、石油関税の関税定率の引き上げ及び炭鉱労務者の雇用安定のための諸施策を主張いたしておるのであります。第五に、公務員給与につきましては、公務員関係労働組合との話し合いにより、給与の不合理の根本的是正をはかることを主張いたしておるのであります。第六に、中小企業金融として、財政投融資において、さらに五百億の資金を増額することを主張いたしておるのであります。これらの内容が池田内閣の大資本本位の政策を転換きせるための第一歩としての意味を持つものであり、国民の今日の要望を忠実に反映していると私は信じて疑わぬのであります。よって、私は本動議に心からなる賛意を表し、政府がすみやかにこの補正予算案を撤回して組み直すことを求めるものでございます。

 以上をもって社会党を代表する私の討論を終わります。(拍手)