91-衆-予算委員会第二分科会-3号 昭和55年03月06日

 

昭和五十五年三月六日(木曜日)

    午前十時開議

 

本日の会議に付した案件

 昭和五十五年度一般会計予算

 昭和五十五年度特別会計予算

 昭和五十五年度政府関係機関予算

 (大蔵省所管)

     ――――◇―――――

 

○金子(み)分科員 私は結核の治療費の問題について少し質問申し上げて、御所見を伺いたいと思っております。

 実は、いま審議中の五十五年度の国家予算が編成されますときに、大蔵当局におかれましては、結核の治療に関する公費負担制度に関して非常に重大な考えをお持ちになったようでございます。そしてそのことが関係者にわかりまして、関係者は非常にびっくりいたしましたし、同時に大変なことになったと不安を感じたわけでございまして、いろいろ要望も出てまいったと思いますし、大蔵当局にもお願いに上がったことだろうと思いますし、いろいろございました結果、五十五年度予算におきましては従来どおりに行われることが決定したようでございますけれども、来年度新しく国家予算が組まれる際には、再検討する必要があるというようなニュアンスの御発言もあったというふうに伺っているわけでございます。

 そこで、私がこの問題に関しましてまず最初にお尋ねしたいのは、昭和二十六年から始められたこの結核治療の公費負担制度でございますが、なぜ公費負担をする必要があると考えてこの制度をお始めになったのか、そして今日なぜこの制度をやめようとお考えになったのか、全面的に廃止ということではないように伺っておりますけれども、公費負担に最優先的にかかっておりました取り扱いを、そうでなくて健康保険に優先的にしようと考えられていると承っておりますが、その理由を伺わせていただきたい。

 

○禿河政府委員 あるいは厚生省の方から初めにお答えがあった方がよろしいのかもしれませんが、五十五年度予算の編成過程におきましていろいろ議論もあった関係もございますので、私ども財政当局としての考え方を申し述べさせていただきたいと思います。

 いま先生から御指摘がございましたとおり、現行の結核につきましての公費負担制度は昭和二十六年の新しい結核予防法、これに基づいて創設されたものでございます。古くは大正八年から旧結核予防法がございましたけれども、現行の制度はこの二十六年に創設されたものでございます。

 この結核に対します公費負担制度が当時できましたのは、その当時におきましては医療保険の普及が十分でない状況のもとで結核がわが国の死亡率で第一位を占める、こういう状況にございました。そういう点から、公衆衛生面でも重大な問題になっていたわけでございます。そういう事情を踏まえまして、社会防衛の観点から感染性の患者に対しまして治療を命令する。同時に、社会保障制度の一環といたしまして患者の医療費の負担を軽減して、結核の予防と患者に対します適正な医療の供給ということを目的としてこの制度ができたものと理解いたしております。

 その後、いろいろ社会経済情勢等の変化に即応いたしまして、最近におきましては、もちろんこの間におきます関係の方々の多大な御尽力、御努力がございましたが、そういう御努力の結果、医療の高度化とか予防対策の推進とか等々、結核を取り巻きます状況が著しく改善されてまいりまして、これらに伴いまして結核患者数あるいは死亡者数というものは非常に減少傾向をたどってきております。あわせて、その間におきまして医療保険制度というものも充実整備されてまいっておりまして、こういう状況を勘案いたしますと、公費負担医療制度全般につきまして、そういう全体の状況、疾病構造の変化とかあるいは医療保険制度の充実という、そういう事態を踏まえまして、見直しを行っていっていいのではないか、かように考えておりますが、その一環といたしまして、この結核につきましても、現在の公費優先という仕組みを保険優先というふうに切りかえても差し支えのないような、そういう時期に至っておるのではないだろうか、かように考えたわけでございます。ただ、その場合でも、私どもといたしましては、保険優先となりましても、その保険の自己負担相当額というものは原則として公費で負担する仕組みといたしまして、患者負担が増大しないように配慮する必要はある、かように考えたわけでございます。

 ただ、そういう考え方でいろいろ厚生省の方とも御相談いたしましたけれども、五十五年度におきましては、一応現行の制度をそのまま踏襲いたし、今後の検討課題、こういうふうにいたしたわけでございます。

 

○金子(み)分科員 いまの御説明によって、どういうふうに結核に対する認識をお持ちであるかということがわかりました。ただ、私はいまから少し申し上げたいことがあるのですけれども、それを踏まえていただきたいと思うので申し上げます。

 確かに、結核の死亡率は日本では一番でございましたけれども、今日では十番目ぐらいに下がっております。一番がほかの病気が出てまいりまして、結核の死亡の順位は下がっておりますけれども、患者がいなくなったわけではもちろんございません。

 それで問題は、この結核は今日でも、これは一番新しい数字は昭和五十三年の数字でありますけれども、新登録患者は八万人ございます。そして死亡率も人口十万対一一〇・三から七・二に減ってはおります、国内で確かに減ってはおりますが、日本が先進国家だと言ってもし外国にその姿勢を正すのであるといたしますならば、結核の死亡率の国際比というのを見ますと、日本は世界より約十年立ちおくれております。世界でいま一番少ないのはオランダでございますが、オランダは人口十万対一・五です。日本は九・五あります。ですから、オランダの約六倍、それからデンマークに比べますれば、デンマークは二・四ですからその約四倍というふうに、日本の結核死亡の国際比較は決していいところにはおりません。先進国とは言えない状態にあるということがわかっていただけると思います。

 なお問題は、感染性の結核患者はなお今日でも三十万近くいるということでございます。しかも、もう一つわかっていただきたいことがあります。従来は結核患者は大変に手厚い取り扱いが行われておりまして、そして感染源は全部、ほとんど結核療養所に収容されて、そして手厚い看護を受けていたわけでございますけれども、今日の様子はすっかり変わってしまいまして、結核患者はどこにいるかということです。結核療養所は確かに患者さんは減りました。国立結核療養所でもベッドがあきましたのを、結核でなく、難病ですとかあるいは筋ジストロフィーの患者とかあるいは身体障害者というようなところに振り向けるほど、ベッドはあいてくるようになったわけですが、その分だけ結核はなくなったのではなくて、ほかのところにいるわけでございます。

 どんなところにいるかと申しますと、問題は自営業者とかあるいは家庭の主婦あるいは自由業、高齢者、在宅医療に主としてかたまっているということでございます。数字を申し上げれば、活動性結核患者、活動性結核患者は申し上げるまでもありません、排菌者です。菌を出している感染源です。この在宅医療を受けている人たちは二十二万九百九十六名おります。これは昨年の十二月の数字でございます。肺結核は二十万六千二百十四、その他の結核が一万四千七百八十二でございます。合計して二十二万九百九十六名おります。これに対して入院している結核患者、従来ほとんどが入院していたその患者ですが、これは大変減りました。入院している患者は、肺結核が六万四千八百六、その他は三千二百七で、合計して六万八千十三名、合わせて二十八万九千九名、こういう数でございます。

 これをごらんになっていただいてもわかりますように、家庭の中に在宅の結核患者が非常にふえたということです。そしてその死亡率も高齢者になればなるほど高くなる。高齢者の結核患者がふえたというところに大きな問題があります。あ、おじいちゃん、ぜんそくだ、と言っているところが、全部孫に感染させてしまっている。こういう例は幾らもございます。こういうとごろに問題があるということを見逃さないでいただきたい。

 また、これは一つの新聞に出ていたことですけれども、これはキリスト教新聞でございますが、大阪の釜ケ崎というのはドヤ街でございますね。この釜ケ崎に対して、キリスト教の団体で越冬委員会というのがございます。冬の間をこの釜ケ崎の人たちを病気にさせないようにどうやって守っていこうか、こういうことで運動が進められているわけでございますが、死亡者を一人も出さないでといってがんばってきたのに、五名結核で亡くなってしまった、こういうふうに言っております。そしていま一番弱い立場の人たちがいつも取り残されて、しわ寄せが来る、結核患者がいなくなる日までがんばろうとお互いに話し合っているということでございますが、この冬の結果では、結核患者がいま一番大きな緊急課題になっているということでございまして、千七百名から千九百名の結核患者がおります。そのうちの七百名は排菌者でございます。感染源です。これは西成保健所の調べでございますから間違いないと思いますが、そういうような実態にあるわけでございますから、私は公費負担制度を今回切りかえようとなさっていらっしゃる財政上のお立場の御意見は、いま御説明を承りましたので納得できないこともないのでございますけれども、それだけで進めていったら大変なことになるということを私は警告申し上げたいと思うわけでございます。

 ことに心配だと思いますのは、現在の公費負担制度の中で一番重要な問題は命令入所の問題ですね。患者を発見して、そしてこの感染源を強制的に入所させて感染源を周りから取り除くという方法ですが、この命令入所は全額公費負担になっております。この全額公費負担を今度どのようになさろうとなさっていらっしゃるのかということも知りたいことでございます。これは全額をやめようという御趣旨のようでございますから、そうしたらこれは全額でなくなる。そうすると、それが半々になるのか七、三になるのか、その辺のことは私はつまびらかにいたしておりませんけれども、命令入所がもしなくなってしまうということになりますと、現在の患者さんたちをどうやって管理することができるようになるだろうかということが非常に問題だろうと思います。

 いま一つは、健康保険に切りかえる、それも結構だと思いますけれども、健康保険法の改正問題もいま取りざたされているところでございます。この国会に提案されております。この改正がもし実現するようなことがあるといたしますならば、患者の受診を抑制することはもう目に見えております。有料になるわけでございますから、これはとても大変なことになる。そうすると受診抑制が起こる。したがって、早期発見ができなくなる。そうなれば本人の健康はもちろん悪化するでございましょうけれども、それだけではなくて、感染源として放置されますので、これが公衆衛生上大変大きな問題になると思います。初めに公費負担制度ができたときには、先ほど御説明がありましたように、公衆衛生上重大な問題だからというので公費負担にしてこれだけの措置をしてきたということはよくわかりますが、同じようなことがまた繰り返されるんじゃないかという心配があるわけでございます。管理と指導はどうやってやるようになるだろうか、登録はどうしてするようになるだろうかというようなことなんかも非常に心配になるわけでございます。

 そこで、これらの問題につきまして私が一人で心配しているだけじゃ話になりませんが、そうではなくて、関係者が大変にそのことを心配いたしておりまして、中でも専門家の方々、公衆衛生審議会の結核予防部会でありますとか、あるいは日本結核病学会でありますとか、結核研究所でありますとか、そういった専門家のおられるところの御意見というものが厚生省の方へ申請として出されていると私は伺っておりますので、厚生省の方にお尋ねいたしますが、どういうような内容でそれらの申請がなされているのか、聞かせていただきたいと思います。

 

○大池説明員 御説明申し上げます。

 先生御設問のように、昭和五十五年度の予算編成過程におきまして、結核医療費公費負担制度を保険優先に改めることの是非につきまして政府部内での検討が行われたわけでございますが、それにつきまして、私どもの諮問機関でございます公衆衛生審議会の結核予防部会の意見書が年末に出されたわけでございます。その中で主として二つほどの点が強調されておるわけでございます。

 その一つは、結核医療費公費負担制度のあり方については、医療費公費負担制度全体の検討を行う際に総合的かつ慎重な検討を行うべきである。

 その第二は、医療費公費負担制度の変更は患者管理、治療に支障を来すことが懸念されるというようなことを理由に、単に財政再建の見地からのみこの問題を取り上げることには反対の意が表明されたわけでございます。

 また、同じ時期でございますけれども、日本結核病学会、結核予防会等からも同様の趣旨の陳情書が提出されておるわけでございます。

 

○金子(み)分科員 ありがとうございました。

 お聞き及びいただいたことだと思うのでございますが、専門家の人たちはそういうふうに心配をして意見を出しているわけでございまして、私も全くそれに同感でございます。いまの専門家の方方の御意見の中に具体的には出ておりませんでしたけれども、私がさらに懸念いたしますのは、最も大きな伝染病であるこの結核の感染源をそのままにしておきますならば集団発生、先ほどどこにおるかということを申し上げましたからおわかりいただけると思うのでございますけれども、こういった高齢者だとか無職とか自営業とか中小零細企業の人たちとか、あるいは家庭の主婦などというようなところに感染源があるわけでございます。そうだといたしますと、一遍に集団発生だって起こらないとは限らない。何十年か昔の日本の状態に戻ったら大変だというふうに考えるわけでございます。

 そこで、いまの御意見の中にもございましたように、単に財政的な見地からだけでこの問題を処理なさるということは大きな過ちを犯すのではないかということを私は懸念いたしますが、この点についてどのようにお考えでいらっしゃいますか。