84-衆-内閣委員会-11号 昭和53年04月11日
昭和五十三年四月十一日(火曜日)
午前十時三十分開議
本日の会議に付した案件
中小企業省設置法案(鈴切康雄君外二名提出、
衆法第一三号)
科学技術庁設置法の一部を改正する法律案(内
閣提出第一二号)
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○熊谷国務大臣 大体いま局長から御答弁したとおりでございますが、私からも一言申し上げます。
言うまでもありませんが、原子力発電所の運転につきましては、何よりも安全第一ということが目標でございますので、いわゆる従業員の被曝といったような問題につきましても、かねてから万全を期しまして、なるべくその被曝が少ないようにいろいろ考えているところでございます。発電所がふえましたりあるいは修理がふえまして、本来の社員でないいろいろ臨時的な雇用者もふえてまいりますので、いわゆる被曝を記録します登録制をつくりまして、そして累積した被曝量が危険値に達しないように極力努めているわけでございますが、今後ともそういう面にもできるだけの配慮を尽くしてまいりたい、このように考えております。
○上田委員 被曝者といいますか、そういう方々は、原子力発電所の所員よりも圧倒的部分が下請会社で働く労働者であるという実態にあるわけであります。そのことを長官なり局長なりもお認めになるというように思うわけでありますが、そういう実態であるということをまず頭に入れていただきたい。
原子力発電所の清掃等を全国的に引き受けて君成長したところのビル代行という株式会社があるようでございますが、この会社などは最も汚染度の高い部署に送り込む日雇い労働者の手配をやっているわけであります。昭和四十五年十一月に、この会社は敦賀原発で日雇い作業員の被曝事故を起こしておるわけでありまして、敦賀市会やあるいは国会でも科技特でも問題になったわけでありますが、その後も依然として無軌道で悪質なやり方で日雇い労働者を集めているという実態があるわけでございます。
私、大阪の選出ということもございますが、大阪市内の西成のあいりん地区などで、二泊でどうだ、こういうような形で職安も通さずにかき集めて敦賀や美浜へマイクロバスで乗せていく。仕事の中身を言わずに連れていって、向こうで原発のそういう仕事だということで、いやだ、話が違うではないかというようなトラブルも起こっておるというように聞いておるわけでございます。もちろんこういう方々は放射線障害防止法に定められた教育や訓練も全く受けてないし、またやられてないわけでありまして、放射線管理手帳の存在すら知らずに働いているという状況があるわけです。こういう前時代的でしかも明らかに労基法なりあるいは職安法、放射線障害防止法違反の労働行為によって原発の維持が行われているということは恐るべきことではないか、このように考えておるわけでありまして、そういう点で、特に特徴的なビル代行に対して立ち入り調査をして、そういう実態を明らかにして、やはり監督すべきところは監督していかなければならぬ、このように考えるのですが、その点について考え方を述べていただきたいと思います。
○牧村政府委員 先生御指摘の、過去にビル代行が放射線の管理につきまして非常に手落ちがあった件につきましては、御指摘のように国会等でもいろいろ御指摘を受け、その当時、私どもの担当官も現地に参りましていろいろな指導、監督をし、また必要な指示も行ったわけでございます。その後、私どもの方の規制法等によります監督は、事業者を中心に管理しておるわけでございますが、その観点からも常々電力会社の特に下請の方々の放射線管理の徹底につきましては注意を促しておるところでございますが、私ども調査いたしましたところでは、ビル代行もこの事件等を踏まえまして、みずから教育訓練を実施するようなことをいたしております。また、電力会社もそういう教育訓練を受けない者は受け入れないというふうなことでやらせておったつもりでございますが、ただいま先生が御発言になりましたような、全然放射線下の作業も知らない人を無理やり連れていって作業せしめておるというようなことでございますと、いろいろ大変な問題でございますので、実情を十分調査し、改善させる必要がある点が判明いたしましたらば厳重に注意をいたしたい、かように考える次第でございます。
○上田委員 早急に調査して、その結果についてお知らせをいただきたい、このように思います。
特に、今日構造不況と言われておる状況の中で失業者が百三十万とも二百万とも言われているような状況があるわけでございまして、そういう点で、手軽に現金収入が入るということからこのような危険な仕事に従事する方々がいまたくさんおられるわけでございまして、これらの仕事は、許容量がオーバーすると仕事から外されるというようなことがあるがために、逆に危険だということを知りながらこの被曝線量をごまかすというんですか、こういうような形で、たとえば携帯している線量計が警報を出すと故意に床にたたきつけて警報をとめたり、あるいは一定以上被曝して就労できない労働者が、今度は隣の異なる事業所へ偽名を使ってもぐり込むというような例が現実にあるようでございます。幾らフィルムバッジやあるいは線量計をつけさせても、これらのものは放射能から体を守る道具でないということは明らかでございますので、こういう点についてやはり人命尊重という立場から厳重に対処していただきたいし、また、これはもう政府自身の責任でございますけれども、こういう失業者がそういう危険の道へ歩んでいくという まあ献血のような場合と一緒だと思うのですよ。日雇い労働者が自分のとうとい血を売らなければならない、こういうような状況と同じような悲惨な状況があるわけでありまして、その点について十分にひとつ対策を考えていただきたい。
また次に、具体的な問題として、敦賀のプラントメーカーの下請として原子炉のバルブの点検作業に労働者を従事させているAという会社にしておきたいと思うのでありますが、この会社では、労働者の安全のために労使双方によって徹底した話し合いが行われておりまして、国のこの安全基準を大幅に上回る条件をつくり上げておるようでございます。
具体的には、たとえばまず第一に、今後子供をふやす予定のある者は従事させない。子供をつくるんだというような労働者は子孫の関係もあってそういう仕事はさせない。これからもう子供をつくらないんだという労働者だけそういうものに従事するということであるとか、あるいは二番目には、染色体異常の検査を含む定期健康診断の合格者に限るということ、あるいは三番目には、作業管理者と別の放射線被曝安全管理者を設ける、こういうようなことも考えておるようであります。また四番目に、年間累積放射線量は一レムにする。国の決めた許容量は五レムということでありますが、この会社の場合は労使で話し合って一レムにするというようなことであります。また五番目には、現在の労災では認定でき得ない放射線障害についても労災並みの支給を考える。
こういうようなことでございまして、本当に危険な区域で従事する労働者の要求はこれほど真剣なものであろう、このように考えるわけであります。専門家の意見も大切でございますが、現場の労働者の声に耳を傾けて、このような前進的な先例があるわけでございますので、積極的にやはりこういう先例を取り入れていただきたい、このように考えておるわけであります。
時間がありますので、次に続けたいと思うわけであります。
いずれにいたしましても、現在建設中のものとあるいはすでに計画決定済みのものを合わせると、日本の原子力発電所は二十八基にもなるわけであります。ここで働く労働者の数だけでも恐らく十万近くなるのではないか。この被曝問題は一層社会問題化していくというように思うわけであります。電力会社はいまのところ、住民の合意を取りつけるために、周辺へ排出する放射能の抑制には関心を払っておられるわけでありますが、その分、原発内の労働者の被曝量がふえ、しかもそれが下請労働者にしわ寄せされているというのが実情であろう、このように思っておるわけであります。
一九七五年に原子力委員会は、一般の被曝線量の目標値として五レムという値を出したわけでありますが、これは従事者の許容量の千分の一であるわけでございまして、安全と健康を願うことに一般も一従事者も変わりはない、二のように思うわけでありまして、五レムならば絶対無害ということは言い切れない、そういう状況がある以上、今後従事者の許容量を引き下げる、そういう方向をとっていただきたい、このように私は考えておるわけでございます。
特に、わが国は被爆国ということで、本当に被爆者団体から被爆援護法の制定あるいは被爆二世のそういう要求というものは非常に大きな問題になっておるわけでありまして、これらに対して十分な対策がなされていない中で、どんどんどんどんこういうような被曝者が出てきているということで、全般に原発そのものに対する大きな疑問ということにもなってきておるわけでありますから、そういう点で単なるエネルギー危機論という形だけで国民は納得できない、このように思いますので、いま私が申し上げた諸点について、長官を初め各担当の局長さんの明確なお答えをいただきまして、質問を終わりたい、このように思います。