71-衆-社会労働委員会-23号 昭和48年06月05日

 

昭和四十八年六月五日(火曜日)

   午前十時五十九分開議

 

 

本日の会議に付した案件

 港湾労働法の一部を改正する法律案(内閣提出第四〇号)

 船員保険法の一部を改正する法律案(内閣提出第四八号)

 雇用対策法及び雇用促進事業団法の一部を改正する法律案(内閣提出第八九号)

 労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案(内閣提出第五五号)

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○田中(美)委員 指導監督してまいるつもり――つもりはいいんですけれども、実際にそれがきちんとなされない限りは、名古屋港の場合は、ほかは大体定数と登録数というのがとんとんにいっているわけですけれども、名古屋港だけは表を見てみましても、ぱんと半分ぐらいですね。ですから、これはどう見たって相互融通している。ほかにどういう理由があるかというふうに私は思うわけです。

 それで、いまここに、私どもが名古屋港に行って調べてきたわけですけれども、これは四月三十日の表なんですね。これで相互融通している確かな――会社側は、貨物がたくさん来たから、これはハッチごとに違う業者に頼んでいるんだから、同じ船のところで働いているが、それは違うんだ。外から見ればそんなふうに見えますね。ですけれども、実際彼らが――だれでもこれはもう常識になっているんです。名古屋港だけでなくて、ほかの港でも、名古屋ではああやっている、ああいうことになったら困るんだぞと、こう言っているわけです。今度の港湾労働法の一部改正が出たときに、こういうふうになるのじゃないかというふうな懸念というものを持たれるくらいに、これは公然の秘密のようにやられている。これを労働省が指導監督していくつもりだという口の下からやられているわけです。これは私は四月三十日の一日のものを見てきたわけです。これはこまかく出ているわけです。どこがやったかというのが、これは暗号みたいにして書いているのですね。これは暗号と合わせてみますと、藤木工業というところからカムカットとかなんとかという船に十人来ているというふうに、常用労働者が来ている数なんですね。これを総計してみますと、一口というのが何名か、十三名から十四名ですから、必ずしも数ははっきりしませんので総計ははっきりしませんけれども、ここに口数が書いてあるわけです。そうして足してみますと、大体百四名から百十二名という数になっているわけです。こういうのが毎日出ているわけですね。こういうことがなされているわけです。ですから、こういうことがあるから、これは毎日百名前後ということがなされているとするならば――これは偶然四月三十日です。これはもう当然定数に満たない。そうすると、定数に満たないから、この次定数を減していくというふうにすれば、どんどん削られていってしまうわけですね。この問題というものは私は労働省としては、やっていく、指導監督していくというなら、至急この調査をしていただきたい。こういうものは絶対にだれが見てもあり得ません。これは名古屋港の特徴なんですから、特徴としてだれでも港湾関係の人なら常識のように知っている。あああれかと、こう言っているわけです。理屈をいえば、荷物はこうなっていると言うけれども、こういうものが出ているわけですから、ちゃんと労働省が――私のような者が行ったってこういうものが手に入るわけですから、それほど公然とやっているのです。ですから、御存じないとすればずいぶん怠慢だと思うのですけれども……(「知っているんだ」と呼ぶ者あり)知っていて知らないふりをしているんだと私は思いますけれども、それをやはり徹底的に調査するほうが先じゃないかというふうに思うわけです。こんなことを許しているということは許されないと思います。

 

○加藤国務大臣 これはまあ政府委員から答弁するよりも、私が信念を持ってお答えいたしますが、下請請負関係は、元請がこっちの下請にやる、こっちの下請にやる、これは、そのときによって、その事情事情によって、これは供給事業で許されておるのでございますが、それが、下請業ということに名をかって結局共同手配ということで手配をしてあっちこっちやるということは、現在でも行なわれておるということを私、良心をもって否定することができないということもあろうと思われます。このことにつきましては、現行法であろうが今回の改正が通った場合でも同様でありまして、これはもうさっそく港の職員を通じて、かようなことが現時点においてもないように厳重にこれが指導、そして違反の場合にはびしびしとやらなくてはならぬと思います。こういうことが、いろいろなことが山積して今回の改正案になった要素にもなっておりますので、改正法が通ろうが通るまいが、これはやらなければならぬことでありますから、厳重にやらすように行政指導をいまからやらせます。

 

○田中(美)委員 それではさっそく行ってください。それこそもう私が行ってもこういうものが手に入るくらいなんですから、労働大臣、お連れしますから、もしあれでしたら名港に大臣みずから乗り込んでどうなのか見てくる、それくらいの熱意がなければ、こんな疑問だらけの一部改正をするなんていうことは、ほんとうにおかしいというふうに思うのですよ。こんなことさえいままでやれていない。そうして業者が今度はそれをやるわけですから、もっとやられてない。

 これは御存じだと思いますけれども、日港協との団交が決裂したのは御存じだと思います。この五月二十九日にまた団交して決裂しているわけです。いま港湾労働者というのは、この間石母田委員が非常になまなましいことを話されましたけれども、あそこで働いている職種によっては、ほんとうにひどいものがある。私なども調べるうちにほんとうに胸を打たれるようなことがあるわけですけれども、たとえば原皮という、牛のなまの皮を塩づけにしてあるわけですが、それを運ぶ仕事というのは、マスクをしてもくさくてほんとうにたいへんなわけです。そこで長時間働いた労働者というのは、おふろに入っても犬がついてくるというくらいにそのにおいがしみ込む。毎日その仕事でないにしても、そういう仕事もあるわけです。そういうものの労働時間を十時間も十一時間も――むしろ船の中に入ってしまいますと、拘束時間は三十何時間というのがある。それに対してトイレもない。そして特に外国船なんかですと、日本の日雇いの労働者が外国船のトイレを使ったというので袋だたきになったとか、そういうふうな待遇をされているわけです。それを、せめて労働時間を少しでも一般の労働者と同じようにしたい。普通ならば私は、ああいう労働だったら一日四時間で同じ賃金が出て普通だと思うのです。これは労働大臣のようにたけた政治家ですと思わないかもしれませんけれども、私のような新米の政治家ですと、中学生のような頭で考えるわけですから、こんなにたいへんな仕事でしたら、どう考えたって労働時間が短くて賃金が一人前に出るのがほんとうだ。それがもっと長い時間出ているというのは、どう考えても――明治時代じゃないのです。かつては原始の国といわれたアフリカだって、どんどん近代化して独立して、どこの国も地球上の人類は人権意識が高まってきている。そういう中でまだこういうことが行なわれている。その団交さえ拒否しているような業者団体がやるのですから、こういった業者団体が労働協会をつくるわけです。職安がやっていたってこういうことが行なわれている。それをこんな業者団体が今度は職安の肩がわりをする。これはとんでもないことだと私は思うわけです。

 それからその次にいきますけれども、いま名古屋から盛んに私のところに言ってきているやみ雇用の問題があるわけです。これは太洋海運というところの問題で、ことしの四月からいま起きている問題なんです。これは大阪にしても何々港湾のトラックが愛隣地区ですか釜ケ崎地区といわれているところに行くということは、もうだれでも知っていることですけれども、これは名古屋の笹島地区というところに太洋海運からトラックでやみ雇用をしにきているわけです。太洋海運に雇われている横山さんという人がやっているわけなんです。私はそこの労働者から聞いたことですので正しいかどうかということはわかりませんので、ちゃんとそちらで調べていただきたいと思うのですけれども、前からそういう手配師かいるのです。前は郷さんという人がいた。その人のかばん持ちをして歩いていた横山という人が、今度はいつの間にか手配師となってやっている。労働者はそういうふうに顔なんか全部知っている。笹島に来ると、あれが横山さんであるとか、あれが郷さんであるとか教えてくれるわけです。横山さんという人が二十名、三十名、百人というのを、会社から頼まれたか会社の職員になっているのかわかりませんけれども、送り込んでいるわけです。それを雇うときに、いま労働者は一日の賃金を四千円というふうにいって、四千円を払っている海運もあるのです。同じ名古屋港です。ですけれども、この太洋海運というところは日雇い労働者に対して三千五百円しか払わない。登録に対しては三千五百円しか払わない。そして笹島で連れてくるやみ雇用の場合、これは表向きは三千五百円と言っていますけれども、五百円から六百円の金を手配師が渡しているわけです。その金がどこから出ているかということはわかりませんけれども、おそらく会社から出ているというのは常識だと思うのです。そういうお金を横山が渡しているが、全部の人に五百円から六百円正しく渡しているかどうかも疑問だと労働者は言っているわけです。そこにちょっとぴんはねがあるのではないか、人によりて違う、こう言っている。そうすると、笹島から来たやみ雇用は六百ぐらい高い。その上に足代が要らない。そこまでトラックで迎えに来てくれるわけですから。そういう形でやみ雇用しているわけです。これを何べんも職安にも抗議に行って、これはおそらく御存じだと思いますが、太洋海運にも抗議に行った。そこで太洋海運の青木取締役という人が、非常にあいまいですけれども、一応そこで認めたような結果になっている。そして、さかのぼって五百円か六百円を払うということを言っているわけです。ですけれども、それは非常にきちっとした契約をして払うというふうにまだなっていないけれども、いまそういう交渉をやっているわけです。

 それで県の労働部長やなんかもこの調査に動き出しているということを、現場の労働者が私のところに言ってきているわけです。こういうことが、労働者が何回も何回も太洋海運に行き、職安だって何べんも抗議して、やっと動き出す。そしてやっと今度は県の労働部長が動き出す。こういうことは、労働省にしてみれば、どこでもやっているから、訴えがあったからといってほうっておくのかもしれませんけれども、これほど明らかに出ている問題というものは早急に解決していただきたい。青木取締役が、五、六百円をさかのぼって払ってもいいようなことまで言っているわけですから、これを早急に解決して、今後こういうことを一切させないだけでなくて、いままでの登録日雇い労働者にさかのぼって支払うということをきちっと指導していただきたいと思うのですけれども、その点について……。

 

○道正政府委員 この点につきましては、最近愛知県庁を通じまして是正をいたさせました。

 

○田中(美)委員 是正というのは、どういう結論になったのですか。こまかくおっしゃってください。

 

○道正政府委員 現在は、登録日雇い港湾労働者が第一順位。第二順位が安定所に来ております日雇い労働者。第三順位が、なおかつ充足できない場合は直接雇い入れ。笹島のケースは第三のケースになるわけであります。その場合の求人条件が違うではないかという問題でございますが、安定所で出す求人条件と笹島の場合同じにするということで措置をするという方法をとっております。

 

○田中(美)委員 そうすると、それは結果的に労働者にとってどうなるのですか。そういう指導を労働省がしてくださると、太洋海運に雇われた日雇い登録労働者はどうなりますか。

 

○道正政府委員 求人条件については差がないということになります。

 

○田中(美)委員 もうちょっと、中学生にでもわかるように言ってほしいのですけれども、差がないということは、その五百円か六百円を払うということですか。四千円にするということですか。

 

○道正政府委員 求人条件が違っておることに問題があるわけでございまして、それをそろえるということで、格上げをして高いほうにそろえたわけでございます。

 

○田中(美)委員 一ぺんに言っていただくといいのですけれども……。そろえたということは、これからそろえるということと、それから過去の問題はどうなるのですか。

 

○道正政府委員 詳細は現地について調べまして、後刻御報告申し上げてもよろしゅうございますけれども、基本的には今後の問題として解決をするということだろうと思います。

 

○田中(美)委員 いま労働者は、それはずっともう何年も前にさかのぼってといえば、これはどこにさかのぼるのかむずかしいわけですけれども、やはりどろぼうは見つかったときからどろぼうなんですからね。ですから、見つかったときにさかのぼってやってもらわないと――その前にもやっていたかもしれないというのは、これはしかたがないです。ですけれども、少なくとも四月、三月、ここ何ヵ月ですね、やっていたわけですから、少なくともここのところをいま労働者が要求しているわけですよ。それをやはりはっきりと、どろぼうと言えた時点からの補償というものをしていただかないと困ると思うのですけれども、それはどうでしょうか。

 

○道正政府委員 六月一日からの分は是正をしたということでございます。

 

○田中(美)委員 何べんも言わないで……。私が言っているのは、その前はどうかと聞いているのです。(「どろぼうはどうだ」と呼ぶ者あり)

 

○道正政府委員 どろぼうという御発言でございますけれども、求人条件がそろってないことがおかしいではないかということでございますね、それをそろえるということで、六月一日からは求人条件をそろえた。したがって、安定所に求職をしようが笹島で就職しようが、同じ条件でいけるという態勢を六月一日からとったということでございます。

 

○田中(美)委員 そうすると、その前のものを補償するということは、そういう指導はしていないということですね。

 

○道正政府委員 愛知県庁が指導して是正さしたのは、六月一日からでございます。

 

○田中(美)委員 しつこいようですけれども、愛知県庁がやったのはそうだというのは、何か人ごとのようですけれども、労働省はどうなんですか。

 

○道正政府委員 過去のものについてどろぼうしたということでもないと私は思いますので、求人を出すのに、同じ人を使うのに、ところによって求人条件が違うということが適当でないわけでございますね。そういう意味で指導を加えて、六月一日からは是正するということでございますので、過去のことについては、なお現地の事情は聞いてみますけれども、労働省としていまここで、過去にさかのぼって全部是正措置をするということまではお約束できかねます。

 

○田中(美)委員 私がどろぼうと言ったのは、何も太洋海運がどろぼうと言ったわけじゃないのです。ものを盗んだんじゃないてすけれども――まあ賃金を盗んだようなものですけれども、私が言ったのは一般の、世の中にはほんとうに浜の真砂のようにどろぼうはいる、だけれども見つかったときからどろぼうというのであって、そういうことを言っているのです。ですから太洋海運が、はっきりした証拠があって、見つかったときからは、そこから同じにしていかなければいけないことだというふうに私は言っているわけなんです。それはもう当然だと思うのです。それは何年先にさかのぼるのか、いや百年先にさかのぼる、そんなことを言っているわけでなくて、この間見つかったのですから、その見つかった時点から同じにするのは当然だと思うのです。その指導を私はしていただきたい。愛知県庁がだめならば労働省が現地を調べてしていただきたい、こう言っておるのです。

 

○道正政府委員 理屈を申し上げるようで恐縮でありますけれども、求人条件が違うということに問題があるわけで、これは適当でないから是正をさせる、しかも六月一日からは高いほうにそろえたということでございます。賃金の不払いがあるわけでもございませんし、補償をどうするかということは労使の問題でございますけれども、一応問題を解決する意味で、六月一日以降は今後の問題としては差別をしないということで解決をしたわけでございます。したがって、過去の賃金について不払いでもあれば、これは賃金不払いで追及できますけれども、そういう性質のものとはちょっと違うんじゃないかというように思います。

 

○田中(美)委員 もう早くやめたいと思うんですけれども、そういう返事をされるともうほんとうにやめられなくなってしまうんです。差別があったからといいますけれども、そういう考え方、そういう感じ方をしていたら――これはやみ雇用と言っているんですよ。それは逃げ方によって、あとから人数は出したとか届け出をしたといえば、第三のあれに当てはまっている。ただそのときの賃金の差があったからというふうにすれば、これは法に触れてないんだというような解釈をなさるのかどうか知りませんけれども、これは明らかにやみ雇用ですよ。やみ雇用ですから、法に触れる。これはただ差があったというふうな、そういうふうに少しいけなかったからお直しなさいという問題ではないんです。やみ雇用なんですから。だからそういう考え方でいられるから、もう大っぴらにやっているんですよ。道正さん、笹島にお連れしてもいいですけれども、いつだって朝六時ごろ行ってごらんなさい、朝早く行かなければ見られませんけれども、行ったら、だっと海運の車が来て、とっとことっとこ入れているんですよ。どうしてそんなに早くからできるんですか。職安の登録が来ない前からやっているんですからね、これは明らかにやみ雇用です。それをそんな甘ったるい考え方でいるということは、私はまさに、政府の労働省の役人と話しているんじゃなくて、太洋海運の賃金課長か労務課長か何かと話しているような、そんな気かするわけですよ。もうちょっときちっとした姿勢で、間違っているのはいまの法律の不備である、その不備をわれわれはついている。不備だからしかたがないというかもしれませんけれども、法を守らせるのは労働省はきちっとやっていただきたいと思うんです。

 

○道正政府委員 十六条ただし書きの違反の事実は即刻調べます。そして違反があれば厳正処分をいたします。

 

○田中(美)委員 けっこうです。それできちっとやっていただきたい、そしてそのあとの報告をしていただきたいと思います。