[006/019] 40 - 衆 - 予算委員会第一分科会 - 2号
昭和37年02月20日
○赤松分科員 私が今政府にお尋ねしたいと思います問題は、本来内閣総理大臣にお尋ねすべき性質のものでございますけれども、その機会を得ませんでしたし、三十七年度予算が衆議院を通過いたしますると、いよいよその機会を逸しますので、この機会に大蔵大臣及び国務大臣として、あなたに一つ質問をしたい、こう思うのであります。
それは御承知のように、昨年釜ケ崎事件が発生をいたしまして、当時政府は釜ケ崎だけでなしに、日本におけるスラム街の全体の対策について十分に施策を行ない、かつ来年度予算においては十分にその対策を講じたいということをしばしば言明したことは御承知の通りであります。以来、衆議院におきましては法務委員会、社会労働委員会、地方行政委員会、相次いで現地の調査を行なったのであります。その際に、現地調査の結果、大体現地の治安関係あるいは環境衛生関係、住宅関係、労働関係、教育関係、その他各機関としての総合的な一致いたしました意見は、治安対策の面からのみスラム街の問題を処理することはできない、すなわち大阪高検の意見によれば、これは検事長の意見でありますけれども、問題は釜ケ崎だけではなしに、尼崎にも神戸にもスラム街がある、そして一触即発の情勢だ、第二、第三の釜ケ崎事件はいつ何時発生するかもわからない状態にある、従って事件が発生したときに、そのおしりぬぐいを治安当局がやるというのでは、これは自分たちとしては大へん迷惑だ、この際、政府としては問題が発生しない、すなわち問題発生の前提条件を除去するような方策を強く推し進めてもらわなければ因る、ぜひ国会においてこのことを十分取り上げてやってもらいたいということが、責任ある大阪高検の意見であったのであります。その他、大阪には若い学者でもって組織しておりまする社会学研究会というのがありまして、この諸君は数カ月間釜ケ崎に、釜ケ崎居住者に変装しまして、そしてドヤ街に居住しながら、しさいに、あらゆる観点から調査をいたしまして、その報告書も私どもいただいておるのであります。今さら私はスラム街の実態につきまして、ここで調査の結果をあなたに申し上げようとは思いません。ただ私は、この衆議院の各委員会の国政調査のあり方につきまして、当時批判を加えました。と申しますのは、多額の国民の血税を使い、私どもが地方に出張して国政調査を行なう、そして各方面の意見を聴取して調査して帰って参りますけれども、これが委員会におきましては通り一ぺんの報告になって現われて、何らこれが施策の上に織り込まれてはいない。従いまして、法務委員会におかれましても、あるいは社会労働委員会におきましても、私は当時委員長に対しまして、この問題は調査をいたしました各委員会が総合的に問題を処理して、そうして三十七年度の予算の中に織り込むように政府に強く要求すべきである、そしてその結果を委員会に報告すべきであるということを要求しまして、中野社労委員長は委員長会議にこれを諮りまして、当時私の意見が採用されましたけれども、三十七年度予算の上におきまして、しからばスラム街対策、なかんずくこの釜ケ崎の対策につきましてはどのような予算が計上されておるか、すなわち政府の治安対策あるいは厚生対策またこの環境衛生あるいは労働、教育諸般の予算がどのように計上されておるか、この際これを明らかにしていただきたいと思います。
○水田国務大臣 こまかいことはあとから補足説明していきたいと思いますが、今私のところに持っております資料で申しますと、やはり環境の改善というようなことに資するために、厚生省の予算において生活館を設置するというようなことから、三千百万円の予算を計上しておりますし、労働省関係では、無料職業紹介あるいは生活相談その他の福祉対策を行なうための施設補助千二百万円、それから山谷地区につきましては、勤労青少年の福祉向上をはかるために青少年ホームというものの設置を補助する意味で五百万円、そのほか住宅関係の費用がまだ計上されていると思いますが、労働、厚生関係の予算はそういうことになっております。
〔主査退席、保科主査代理着席〕
○赤松分科員 今三千万円というお話がございましたが、不良環境地区対策として厚生省が予算を計上しておるのは三千百五十五万円です。一体スラム街の環境を改善するための予算が三千百五十五万円であっていいのかどうか、これは非常な問題だと思うのです。昨年釜ケ崎事件の発生いたしました直後の政府の言明が、わずかに三千百五十五万円の施策になって現われたといたしまするならば、私は非常に問題だと思うのであります。しかもこの予算の内容を見ますると、これは都市のスラム街からドヤ街、パタヤ街、同和地区、アイヌの集団地区、こういったものを全部含んでおるわけであります。そうして日本全国のこういうような地区におけるところの環境改善の対策として三千百五十五万円、わずかこれぐらいな予算が計上されておりまして、これでもって不良環境地区の改善だとか、大きなことは池田内閣は言えないと思うのです。これではやらぬこことと同じなんですよ。一体これは全国にばらまいたらどれくらいな額になりますか。そしてここに内訳がありますけれども、たとえば生活館の設置費補助金、これは全国に十三カ所作る。共同浴場の設置は、これを十一カ所全国に作る。共同作業場の設置は全国に二カ所作る。共同作業場を全国に二カ所作って、これがスラム街の改善であります。共同浴場を十一カ所作って、これがスラム街の改善でございます、生活館十三カ所作るのだ、この施策で大蔵大臣、ほんとうにいいとお思いでありますか。今労働環境の予算が出ましたが、私は現地を視察したときに、今宮の職業安定所は暴力団手配師に圧倒されまして、ほとんどその機能を発揮することができない。それで、やむを得ません、あの事件が発生したので、あわてて大阪府の労働部が、非常に合法的でない、いわばこれは職安法違反だとも思うのでありますけれども、いいことですから僕は思い切ってやった方がいいと思うのだが、いわゆる正常でない労働分室というものを当時現地に作りまして、それでごまかしていっておる。そうして私どもが当時あのドヤ街をずっと視察をすると、何々組というようなちょうちんが、ずらっと入口に掲げられて、そうして木刀、鉄かぶとといったものがずらっと並んで、一見愚連隊とおぼしきやつがたくさん町に見張っている。われわれが行くと姿を消すわけです。しばらくするとまたぞろぞろ、みつにありついたアリみたいに出てくる。それから麻薬の町もちゃんと当局は知っているわけですが、これはどうすることもできない。その麻薬の町では、香港から入ってくる麻薬が神戸で仲介をされて、そこでうどん粉やその他をまぜて、どんどん売られておるわけです。たまたま麻薬の中毒患者でもって誤って死んだやつは、やみからやみへ葬られている。御承知のように釜ケ崎というのは、表からから見ると非常にきれいだ、どこがスラムかと思うくらいきれいなんです。しかし一ぺん中へ入ると大へんなんです。これは大阪の社会学研究会の諸君が書いておりますけれども、このドヤ街の一つの実態を申し上げますと、どれぐらい高い家賃をあの貧民窟の中で彼らは払っておるか。一例をあげますと、間借り地区では二階借りをしている世帯もあって、平均一・四軒、一世帯の平均の畳数はアパートでは二・二畳、間借り地区では四畳、しかし一人当たりの畳数にすれば、間借り地区は家族員が多いために平均一・一畳、一畳のところに寝ているわけです。そしてアパートでは〇・八畳ですよ。畳一畳にみな寝ていないのです。間代は、間借り地区では月払い、アパートでは日払いです。金額は、間借りの場合は一世帯大体平均月四千円です。それからアパートの場合は日に百三十円、一畳当たりに換算すると、間借りの場合は月に七百円、アパートの場合は千九百円、こういうことになるわけです。骨一畳が千九百円ということになりますと、これは日本では相当高級住宅だということになるわけです。しかし彼らは、ここに住まなければ住むところがないわけです。従いまして、こういうようなべらぼうな高い家賃を取っておるところのボスのもとで、こういうみじめな生活が行なわれておる、こういう実態であります。最近五階建の鉄筋を建てるといっておりますけれども、かりに五階建の鉄筋をあそこで建ててみたところで、どうにもなりません。根本的にはあのスラム街を一掃して、あそこへ近代的なアパートを作ってやる以外に方法はないと思うのです。
それから手配師の問題については、これはまだ依然横行しております。労働省の方では、手配師はなくなったと言っておりますけれども、なるほど山田組は解散になったけれども、なおあそこには手配師がたくさんおります。
それから、今大阪には千名以上の麻薬中毒患者がおって、このうち四百三十三名が釜ケ崎に住んでおる。これは警察の調査です。この四百三十三名のうちで、男が二百六十五名、女が百六十八名、これを国籍別にすると、日本人が三百七十四名、朝鮮人が五十一名、台湾人が八名、こういうことになって、職業別に見ると、無職者が二百九十一名、売春婦が三十一名、女給流れが十七名、工員が十六名、店員が十四名、土工、人夫が十一名、それから男娼が七名、行商、露店商が七名、飲食業が、五名、その他有職者三十四名、こういうように出て参るのであります。ここでその原因を大体調べてみると、中毒患者になったのは約六〇%が、麻薬業者の利益のために、勧められて、おもしろ半分に最初に麻薬の味を覚えて、それがだんだん高じてきておる。それから売春にいたしましても西成区は圧倒的に多くて、大体全大阪の四二%の売春婦がここに蟠踞をしておる。こういうような数字になっておるのであります。
それならば、一体暴力団がどれくらいおるだろうか。これは私はあさっての法務委員会の際に、法務大臣に聞こうと思っておりますけれども、大阪の刑務所の中の四百六十名というのは、ここに蟠踞しておるところの暴力団です。釜ケ崎におるところの暴力団は、約七十三団体、千七百名の会員がおります。その重立ったところを言うと、まず博徒では町田組、二七組、隆野組、愚連隊は互久楽会、藤井組、大義同志会南大阪本部、それから売春暴力団では鬼頭組、西川組、間組、和田組、山田組、それから右翼的偽装をしておるところの暴力団が、大義同志会、それから日本青年党、大日本菊桜会、平田会北大阪支部、愛国青年党、在日韓国反共殉国団の青年行動隊、こういうものが釜ケ崎に蟠踞をして、先ほど言ったように公然と鉄かぶと、木刀、ちょうちんなどを店頭にずらっと掲げておる。大蔵大臣、一ぺんごらんになるとよくわかるのですけれども、そういうことです。
それならば児童の状態はどうか。児童の状態を言えば全く悲惨で、目をおおうような状態です。まず三〇%の児童は、両親または片親のない欠損家庭の子供で、その内訳は、両親のない者一%、父親だけの者が七%、母親だけの者が二二%ということになっておる。それでどういうことをやっているかというと、託児所がありませんから、朝労働に出るときには子供に五十円ほどの金を渡して、これできょう一日食べておきや、大阪弁で言えば、こう言って、金を渡して出るわけです。従いまして、その子供はその五十円で一日の生活をするわけなんです。この間、全然ほったらかしです。その就学状態などもありますけれども、きょうは時間がありませんからこれは省略しておきますが、就学状態などは全く見るべきものがない。これを調べてみると、りつ然とするような状態です。こうして五十円を与えられた子供は、何を買おうと選択の自由があります。いわゆる買い食いのくせがだんだんついてくる。同時に、不在家庭で、それで不良の仲間に引き込まれるということになってくるわけです。
それから今度、子供を預かる商売があります。これは朝の八時から夕方まで、弁当代は別にして一日二百円です。それから夕方から夜十二時までが、これは売春婦も中におりますが、二百五十円です。別に住み込みというのがありまして、これは月に九千円から二万円という相場です。この点は、昭和三十六年九月四日の朝日新聞の「釜ケ崎にあすを」という記事にもこれは明確に現われておるわけであります。こういうふうにいたしまして、教育の面において、また児童福祉の面において、あるいは住宅対策の面において、労働対策の面においてあるいは環境衛生の面において、ほとんど見るべきものがないわけであります。しかるに大蔵大臣、昨年、池田総理があれほど国会において、二度と再び釜ケ崎事件が発生しないようにしよう、まことに遺憾でございましたと遺憾の意を表明しながら、昭和三十七年度のスラム街対策がわずかに三千万円とは一体何ごとですか。釜ケ崎一つだって、三千万円の金を投じただけで一体何になりますか。アパート一つ建てるのにどれくらいの金が要りますか。厚生省の社会局の方で幾ら対策を講じようとしたって、元来財布を預かっているあなたが、ぐっと財布のひもを締めておればこれはどうにもできるものではない。日本は二重構造ということを盛んに言うけれども、二重構造じゃない。二重ならまだいいんですよ。五重構造くらいです。厚年省はボーダー・ラインということをよく言うけれども、ボーダー・ラインの階層の中には、さらに三つも四つもの階層があることをよく知らなければならない。こういうような日本でありながら、一方においてはオリンピックがどうのこうのと言っている。私はオリンピックに対して別に反対するものではない。反対するものではないけれども、オリンピックにうき身をやつしておる陰に、こういうようなボーダー・ラインの階層、いわゆるスラム街に泣くところの多くの同胞がおるということを一体政府は何と考えているか。新聞が幾らこの人たちにあすを与えよといったって、政府の方がその気にならなければ、これはどうにもなるものではない。私は何も政府だけを責めておるものではない。こういうものが生じて参りました資本主義それ自身の内包する本質的な矛盾というものは、個々の人が何と考えようと、これは必然的に生まれてくるものだということはよく知っている。よく知っているけれども、しかし、それを少しでも改善していくのが保守政治家の任務じゃありませんか。他方におきましては、ごらんなさい、八幡製鉄あるいは日立、芝浦、これらの売り上げが一体どれくらいになっておりますか、おそらくこの三月決算におきましては、一社でもって二千三百億以上あるいは二王五百億を突破するかもわからない。八幡などは一日五億の売り上げをやっている。そうしてすばらしきこの高度成長の中で大もうけをしている。一方では独占はどんどんもうけている。他方においては、こういうように、食事代を含めて五十円子供に渡して出かける、その子供のめんどうを見ることもできない諸君がたくさんおるということです。私は、釜ケ崎対策というものは、ただ物を与えてやれば、それでもってあのスラム街のそれがすべて改善されるという単純な考えはありません。私があそこでもっていろいろ調べた結果、結論は、八〇%は善良な人間だ。労働能力を失っている人間もある、あるいは老人でもって寄るべのない人たちもある、未亡人もある、売春婦もある、しかし、その八〇%は善良です。これは政治の力で救うことができる。二〇%は暴力団です。この暴力団に物を与えてやっても、これは改善することはできません。この二〇%の暴力団に対しては仮借なく徹底的に弾圧をする。そして、これはむしろ権力の力で更生させていくというくらいな――それはむろん権力だけではだめなんですよ。権力の裏づけになる愛情、その他もありましょうが、とにかく二〇%の暴力団対策というものと、八〇%の善良なドヤ街の住人に対する対策というものは、おのずから別でなければならぬ、こういうふうに考えるわけであります。
この際、厚生省にお尋ねしたい。社会局長は、三千百五十五万円の予算をもらって、これで十分だと考えていますか。一つ、大蔵大臣の前であなたはっきり言いなさい。どうです。
○大山(正)政府委員 来年度の不良環境地区改善費は、ただいまお話がございましたように三千百五十五万円でございまして、前年度すなわち本年度は千七百四十九万三千円でございますので、約一千四百万円ほどの増額に相なっております。その内訳は、ただいまお話もございましたが、生活館あるいは共同浴場といったような施設をすることを主眼にいたしておるのでございまして、釜ケ崎地区につきましては、府、市におきまして西成区対策協議会というのが設けられまして、労働対策、住宅対策あるいは福祉施設の拡充、医療、教育対策、いろいろ検討しておるところでございますが、厚生省といたしましては、昭和三十六年度の予算におきまして、釜ケ崎地区に生活館を建築中でございまして、補助をいたしております。来年度の昭和三十七年度の事業といたしましては、大阪市が第二愛隣会館という隣保館を設置する計画がございますので、先ほど申し上げました三千百五十五万円の予算のうちで、釜ケ崎地区につきましては、この第二愛隣会館の補助金を出すという計画をいたしておるのでございます。
御指摘にもありましたように、この不良環境地区改善費は、スラム街あるいは北海道のアイヌ部落、いろいろ各方面にわたっての施策の予算でございますので、私どもといたしましては、ぜひ、さらにこれを増額したい、かように考えておる次第でございますが、前年度に比べましては相当な増額に相なっておる、かような次第でございます。
○ 赤松分科員 労働省の方で、この特別地区労働福祉対策ということで、釜ケ崎地、区に建設予定の福祉施設に対する補助として千二百万円を計上しておりますけれども、この内容、それから構想、運営等についてちょっと説明して下さい。
○ ○木村説明員 お答えいたします。先ほど先生から御指摘を受けましたように、大阪の霞町付近を中心といたしまして、千五百人から千七百人、こういったいわゆる立ちん坊と称する労働者が三々五々たむろしておりまして、これがいわゆる手配師の手によりまして仕事をあっせんされておる。そこにはピンはねとか強制労働等が伴うというふうな非常に悪い条件のもとに働いておるわけでございます。これではいけないということで、まあ騒ぎが起きたあとでございましたけれども、大阪府といたしましてはこれを何とかしなければならないということで、とりあえず大阪府分室というものを設けまして、そこに適当な練達の職員を配置いたしまして、いわゆる直接募集の援助というふうな形で、工場、事業場、すなわち求人者側から適当な連絡員というものを指名しまして、それが募集に来る。そして、労働者はその分室の前に集まるというふうにして、そこで直接募集行為を行なわせるような体制にしたわけでございます。それによりまして、いわゆる従来の悪質な手配師を排除しようという施策を講じたわけでございます。しかし、それでは不十分でございますので、施策の充実を期する意味におきまして、この就労の確保と、それとあわせまして労働者の福祉、すなわち生活相談であるとか職業相談であるとか、それから宿泊施設、食堂、理髪室、そういったものも作りまして、そういった労働福祉もあわせてこれを行なう。このためには適当なる法人というものをこしらえて、そこで運営をせしめて行政機関が強力にこれを側面から援助する、こういったような態勢にいきたい、それに要する経費といたしまして、補助率四分の一でございまして、千二百万円計上いたしたわけでございます。設置運営費の補助でございます。あとの四分の三は大阪府がこれを負担するというふうな計画で仕事をしておるわけでございます。
○ 赤松分科員 今厚生省及び労働省が説明しましたように、大臣あなたよくお聞きになったと思うのですが、これは地方自治体が行なうところの施策に対する補助金なんです。何分の一かの補助金ですよ。そうすると、池田内閣として、このスラム街対策としての総合的な国費によるところの大規模な対策というもの、そういったものは全然計上されていないわけです。だからスタートが間違っているんです。つまり地方自治体がスラム街対策をやるべきものである、そういうスタートから出発して、従って政府はそれに見合った補助金を出せばいいんだ、こういう考え方が三十七年度予算に貫かれておる。スラム街対策に対する考え方が貫かれておる。私はここに問題があると思うのです。それならば池田総理などがああいう事件が起きた直後に、いや自治体にやってもらいます。政府の方はそれに見合って補助金を出す程度のきわめて消極的な防貧対策しか進められませんとはっきり言えばいい。当時はまるで政府の手で一ぺんでスラム街がよくなるようなことを言って、ああいう事態が起きたのは、ひとえに政治の貧困にあるとこう言って遺憾の意を表しておきながら、三十七年度の予算の中においては、政府としての独自の政策というものは全然ない。たとえば建設省から出す予算にいたしましても、きわめて一般的な予算であって、釜ケ崎とかあるいはどこどこというようなスラム街に対する特別な対策というものは見当たらないわけであります。この点は一つ根本的に考え直さなければ、もう参議院選挙なんかで大きなことを言ってもらっちゃ困る。私どもはこういうような二重構造を何とかしますなんということは、以後あまり口にせぬようにしてもらいたい。二重構造など、たとえば、貧困対策とか防貧対策、福祉対策などはおおむね地方自治体にやってもらいます、政府の方はそれに見合ってただ補助金を出すだけの考えでございます、こういうふうに演説をやってもらわないと事実を歪曲することになるし、全く国民を欺瞞することになる、こういうふうに思うのです。私は大阪の治安当局の意見と全く一致しておるのであって、一度大臣もごらんになればおわかりになりますが、こういう階段式のところへみな寝ておるわけです。シラミと南京虫に襲われながら寝ているわけです。夏はとてもとても寝ていられるものではない。むんむんいたしますから、つい外へ出る。外へ出て何かのきっかけでああいうような事件が発生する。これからおそらくこれは何度も繰り返される。だれが扇動しなくても何度も繰り返される。ただその場合に事件の本質というものを見きわめなければならないのは、あの群衆が、政府は暴徒と呼んでおりますけれども、先ほど言ったように暴徒といわれるのは全体の二〇%、しかもこの二〇%は、あの釜ケ崎の事件の際には権力側に回った、警察側に協力したのです。群衆に向かって暴力をふるったのです。従ってその八〇%の人たちは善良な国民なんです。善良な日本人なんです。この善良な国民がどこに向けてその不満を爆発させたかというと、権力に対してです。警察に対してです。あれがもし権力すなわち警察というらち外から出て、一般民衆に対する暴力が行なわれたならば、おそらく群衆みずからの手でこれは克服されます。この点私は釜ケ崎の住民といえども私どもの同胞として十分に信頼していいと思う。平素から権力に対する不満が累積をいたしまして、あのように集中的に爆発したけれども、これが大阪市民の手にこういうような暴力が加えられた場合には――加えられることはありません。限界があります。しかし加えられた場合には、その住民みずからの手でそういう方向は是正される、これは現地の学者が長い間スラム街に入って研究したその研究の結果実証しておるところの結論なんです。私もこれを確信しております。従ってあの事件が発生した、暴徒に対しては何か断圧すればそれで事は足りるのだというふうな考え方でなしに、あのスラム街の中にいろいろ重なり合っているところの諸条件というものをあらゆる角度から、つまり社会科学の立場から十分にこれを科学的に検討して、そうしてこれに見合うところの対策を講じなければならない、かように考えるわけであります。
○ 繰り返して申し上げますけれども、なお神戸にもある、尼ケ崎にもある、東京の山谷にもある、全国至るところにこのスラム街というものがあるわけであります。これがまた例の差別をされるところの部落民、その部落民の差別観念、それに対する不平不満、そういうものとずっと結びついて、今、日本社会の底辺にこういうものがあるということをよく考えていただきたいと思うのであります。この諸君は政治に対しては無関心です。池田であろうと、水田であろうと、だれが総理大臣になろうと、そんなことは関心はありません。河上になろうと、池田になろうと、別にそんなことは彼らの重大関心事ではない。だから選挙の際にはおおむね棄権してしまう。共産党が行っても喜びません。自民党が行っても悲しみません。政治に対しては無関心であるだけに、われわれはこの底辺に泣くところのこういうような貧民階層、ボーダー・ライン以下の諸君に対しましては、特別に愛情の手を差し伸べなければならぬ、そういう責任がある。あなたたちのように、池田もそうだけれども、皆東大をぬくぬく出て、そうして官僚畑を歩いて、けっこうなお給金を国家からちょうだいして、出世街道をひたすら歩んできた者にはこのスラム街の人たちの気持はわからぬ。幾ら私がここで説明してもあなたたちにわかるものではない。百万べん、千万べん私が言を費やしましてもそれはわかるものではない。ただ私は多くのことを望みません。母親が行商のため、あるいは日雇いのために自分の子供に五十円を渡して働きに行かなければならぬ、その母親の気持、あるいは夕方から売春に出かけなければならぬ、その場合に子供を二百五十円で他のうちに預けなければならぬ母親の気持、こういったものだけでも十分に一つ考えてやってもらいたいと思うのであります。その一点だけでも考えてもらえば、立ちどころに、福祉対策としてはもっと愛情のある予算が組めるのではないだろうか、たった三千万円くらいの金を、しかもアイヌ、同和事業を含めて、日本全国のスラム街でこれが福祉対策でございます、これが三千万円出しましたと、今厚生省の説明によりますと、去年の予算よりは何か一千万円ふえてはおりますとかなんとかいう説明なんです。そんな説明だれがまともに聞きますか、そんな説明を釜ケ崎でしてごらんなさい、ぶんなぐられてしまう。だれがそんなものをまともに聞きますか。一千万円ふえたといっていばっているのはあなたたちだけなんです。そういうことでは問題の処理はできないということをよくお考え願いたいと思うのであります。
○ 私はなお釜ケ崎の資料につきましてはたくさん持っております。先ほど申し上げましたように、われわれ自身も反省しなければならぬ。それは国民の血税を使って国政調査に出かける。出ていって帰ってきて何をやるかといえば、通り一ぺんの報告君をこの委員会に出して、それをぺらぺらと委員会で五分ほど読んで、それで万事終わりなんです。毎年々々国会議員が国政調査に出かけていくけれども、それが予算のしに一体現われたことがあるのかどうか。現実に政治の上に生かされたことがあるかどうか。こんなことを繰り返しておったのでは国会の権威は地に落ちます。どんなりっぱな憲法を持っておっても、国権の最高機関なんと言っておったって、言っているのは国会議員だけで、おれは最高機関だなんて言えるのは国会議員だけで、国民から見れば、最高機関でもない、最低機関だということになる。ですから、われわれ自身もそういう点を反省しなければならぬということから、法務委員会に対しましても、あるいは社会労働委員会に対しましてもこのことを申し上げまして、従来の惰性を一掃して、国政調査をやった場合、私どもがそれを忠実に委員会で報告すると同時に、委員会は与党、野党を問わない、政府に対してその結果を十分に政治の上に、予算の上に反映させるという措置を講じようではないか、こういうことを私は強調して参りました。政府の方も、ああ、あれは恒例の国政調査という考えでなしに、衆議院から三委員会を特に釜ケ崎を指定してそこに調査に行った。その調査の結果も委員会で報告されておる。その委員会で報告されました報告書をせめて通り一ぺんでけっこうだ、ばらばらっと目を通すだけでもけっこうだから一ぺん目を通してもらいたい。そうして、その中から、たとい一つでも二つでも予算の上に生かしてもらいたい。そうしなければ池田、水田を含めて、あなたも国会議員だ、池田総理も国会議員だ、国会議員全体の権威を落とすことになる。三委員会が足並みそろえて、一地区に国政調査に行ったという前例はありませんよ、それほど当時国会も政府もこの事態を重要視しながら、三十七年度予算では三千万円、アイヌ、同和も含めて去年よりも予算がふえております、こんなことでどうして国民に申しわけが立ちますか。財政投融資も大事でしょう。しかし、財政投融資を受けるのは独占です。食うに困らぬ連中です。政府から投融資を受けられないところの階級、特に底辺にうごめいておるところのわれわれの同胞に対して、もっと思いやりのある政治を一つ考えてもらいたい。いわゆる補助金制度にたよってすべての責任を地方自治体に転嫁して、てんとして恥じないという態度は改めてもらわなければならぬと思いまするが、この点について水田大蔵大臣並びに国務大臣水田三喜男としてどう考えておられるのか、明確に一つ御答弁をお願いしたい。
○ 水田国務大臣 国民生活に非常に密着した福祉行政というのは、御承知のように建前としましては第一次責任者が地方団体ということになっております。従って、政府は補助助成をやるという建前になっておりますが、これは、たとえば道路政策を政府が立てましても、その執行は御承知の通り国が直接やるものと、地方団体を通じてやらせるものといろいろございますが、今そういう建前になっておりますので、本年度は二千何百万円で昨年の倍ぐらいの予算は盛ったつもりでございますが、これによって地方費の支出は相当あるはずでございますし、またさっき申しました住宅対策、文教対策、このほかにも政府はいろいろの施策をしておりますが、いずれにいたしましてもこの問題は重要な問題でございますので、今後国としての助成、そのほか各省で立てた対策の線に沿って、地方団体と十分協力して施策の強化をはかりたいと思っております。
○ 赤松分科員 政府は独自の施策を進めていくという力強い発言をいただきました。私も満足です。おそらくこれは三十七年度の予算には間に合わないと思いますが、三十八年度の予算の中には今のあなたの言葉が明確に出てくるということを期待いたしまして、私の質問を終わります。