路上死をなくすためにー提案
野宿者と釜ヶ崎労働者の人権を守る会 野口道彦
司会 時間が刻々迫ってございますが、今日の皆さん方の意見、及び報告などをですね、施策として大阪府、市、国に対して要求するものとして、刷りものとして皆さん方に渡してございます、その内容をですね、本会の事務局長の大阪市立大学の野口先生に紹介していただき、皆さん方の確認を得たいと思います、
野口 事務局の野口です。事務局の方で、本日のフォーラムで確認しようとする事項を、予めまとめておきました。
お手元にお配りしております「大阪府、大阪市への要望----路上死を無くすために」という、半ピラのものです。これをご覧になってください。
先ほど森井先生が、是非とも、次回は、府、市の方にこの会場に参加していただきたいという、ご意見をいただきました。
実はですね、フォーラム実行委員会事務局として、西岡さんと私とで、大阪市や大阪府へ、フォーラムの後援をしていただきたい、挨拶を頂きたいとお願いに行きました。
しかし、私たちの力不足もあって、このフォーラムには、参加することはできない、後援会という形で名前を連ねることもできない、と断られました。
そのときに、アメリカ留学している時のことが、非常に鮮明に思い出されました。それはバークレイ市長がサンフランシスコ市警に逮捕された事件です。
バークレイ市は、サンフランシスコ湾の東側にある、カリフォルニア大学のある街です。そこの市長さんは、レニー・ハンコック。柔和な顔立ちの中年の女性です。その人がある日、新聞の一面にでかでかと、逮捕されている写真が、載っていました。
なぜ逮捕されたのか。日本であれば、汚職であるとか選挙違反とか、かっこの悪いことで政治家が逮捕されることはあるわけです。けれども、その市長さんが逮捕されたのは、エイズ患者と共に、連邦政府のサンフランシスコ事務所のビルの入り口のドアに体を鉄の鎖でくくりつけて抗議したためです。
抗議の内容は、連邦政府がエイズ患者のための予算を削減している。これは、けしからん、認められない、ということです。文字通り体をはって、エイズ患者と共に抗議闘争したわけです。
今の、府や市の行政の姿勢は、残念ながら、レニー・ハンコック市長の姿勢と大きく隔たりがあります。
いつの日か、大阪市長、あるいは大阪府知事が、釜ヶ崎の労働者と共に、国の無策に対して、労働省や厚生省に、抗議する行動をする、デモンストレイションするというようなことが、あってもいいわけですね。
そういうことを実現させるためには、やはり我々の力が強くなり、そういう行動をよくやったと評価する市民の声を創り出していかなければなりません。
そういうようなことが、今日のフォーラムをきっかけとして生まれていけばと、その出発点になることを、世話役の一人として願っております。
さて、お手元にあります「大阪府、大阪市への要望----路上死を無くすために」、時間がないので、いちいち読み上げることはいたしません。
今日の小柳さんの報告の中にもありましたように、路上で死んでいく人たちが、昨年一年間で、天王寺区、浪速区、西成区だけで、100人近くにのぼっています。
西成労働福祉センター労働組合の方の報告では、高齢者清掃事業を試案されていました。
どうしてもこれだけは必要だという、最小限度の現実的でつつましい試案ということわりをつけていましたが、それでも繁忙期では84人、仕事の現状期では220人が、毎日就労できるように高齢者清掃事業を、最低限、実現して行かなければいけないと報告されました。
これにかかる予算が年間3億円ということです。3億円で、100人の路上死していく人の命が救えるのです。
単純に計算しますと、一人の路上死の命の値段は300万円。3億円で100人の命が救えるのに、そのお金すら惜しんでいるのです。
一体、釜ケ崎の労働者の命の値段は、いかほど低くみられているのでしょうか。
3億円で、100人の命が救えるということを、府と市に、市民に強く声を上げて行く必要があります。
そこで第一に、生活基盤の安定化のために、一人最低週三日の就労を保障する高齢者就労を要望しております。
それを運営する主体として、高齢者事業団を構想しております。
事業団の運営する主体は、行政ではなく、労働者自身であるべきです。
今日の報告の中にもありましたように、労働行政の側では、第二失対は絶対につくらないといっています。非常に強い行政の壁があります。
それだから言うわけでありません。釜ケ崎の労働者は自分のことは、自分で決定するという自主、自立の原則を打ち立てる必要があります。
そのために、運営していく組織として、高齢者事業団を考えています。
だからといって、行政に、あんたらが勝手にやりなさいと涼しい顔をさせるのではなく、逃げさせるのではなくて、初動体制の確立、継続的な一定の仕事の保障、事業団の経営をバックアップする補助金を行政に対して強く要求していく必要があります。なんとしてでも高齢者事業団を実現させていかなければなりません。
第二に、住宅の確保です。仕事と共に重要なのは、寝るところ、住宅です。単身労働者向けの住宅、低家賃で住める労働者住宅を、遠隔地じゃなくて、釜ヶ崎に、あるいは隣接地に建設することを要求します。この場所については、西岡さんが具体的に提案されております。
それとともに、福祉の充実、ショートケアシステムも求めていきます。
それから、最後の命の助けになっている生活保護が、簡易宿泊所に住んでいる場合には、適用されないという現実があります。こういう現実を無視した行政に対して、柔軟に対応するよう強く求めて行かなければなりません。
第三に、啓発活動の推進です。
最初の報告、西成区人権啓発推進会の、「別冊フレンド」西成差別事件の報告にもありましたように、市民の間で持たれている偏見・差別意識は、子どもに受け継がれていきます。
差別意識をなくすためには、小学校・中学校などでの教育が重要です。
部落問題については、副読本『にんげん』があります。これを使って学習しています。これをつくったのは解放運動の力です。
今から26年前、1970年にできました。これを作ることによって、大阪の解放教育は飛躍的に発展しました。それまでは、同和教育に取り組んでいる先生は、大阪には点でしか居なかったのですが、これによって、点から線になり、面に広がっていきました。
副読本『にんげん』の釜ヶ崎版をつくる必要があります。それを釜ケ崎の労働者と先生が協力して作り、小学校生、中学生に対して、釜ケ崎に対するきちっとした認識を持つように教育していかなければなりません。
もちろん、子どもだけじゃなくて、市民に対しても、それから府、市の行政職員にも行う必要があります。
行政職員は、日々の業務に関わってるわけですが、釜ヶ崎の問題を本当に理解して、心から共感して取り組んでいくような、そういう質を持った行政の職員が必要です。そうした啓発の推進を行政に求めて行きます。
さらに四番目は、労働者の社会的参加です。
これまでの人生の中で奪われてきた自己の能力を再獲得する場が必要です。
労働者の成人教育、講習の場の設置に関して、西岡さんが非常に夢のあるビジョンを語っていました。温泉をつくって、そこに総合解放センターをつくろうという構想です。
そういうところでも、労働者自身が、自らの力でつくり、運営していく。
労働者自身の持っている力や才覚を出し合い、いろいろな形で参加していく。
そう言うような能力開発の場、ボランティア養成講座、成人講座です。あるいは園芸、民謡など趣味、自分の隠された能力を再発見していく場、技能養成の場、こう言うようなものをやっていくような場所として、活用していく。
それから内職、共同作業所、屋外のきつい労働はできなくなったものに対して、室内でできるような作業、労働をやっていく、そういうような夢のあるセンターづくりを、是非とも実現して行きましょう。
最後に、国への「釜ケ崎総合対策に関する要望書」提出です。
以上にあげたことを、実現していくために、府・市だけではなくて、国に対しても強く求めていかなくっちゃいけない。
大阪市とか大阪府は、何かあると予算がないとか、今の制度の中ではできませんと言って、すぐ逃げるわけです。
部落解放運動の非常にすばらしい点というのは、逃がさないように、自治体としてどのように考えるのか、差別をなくすために何をするべきなのかを答えさせ、市町村から府県へ、府県から国へ、ともに要求を突きつけて行こうと迫り、それを実現させ、特別措置法まで制定させたところにあります。
下から突き上げて、国に対して、ものを言っていくような自治体の姿勢をつくりだしました。部落解放運動は、そういう大きな経験を持っています。
それと同じように、行政に、今の制度ではできませんとか、予算がありませんとかいわせない。できない理由をぐちゃぐちゃ言わせない。逃げさせないで、市としては、あるいは府としては国に対して何を要求していくのか、釜ケ崎の労働者とともに国に要求する姿勢を強く求めていく必要があります。
以上の要望事項を、今日のフォーラムのまとめとして提起し、共通の認識として確認したいと思います。よろしくお願いいたします。
司会 ありがとうございました、では長時間に渡りました本集会、『21世紀に路上死を持ち込まない、ストップザ路上死の釜ヶ崎フォーラム』の、この三時間余に渡る、提案と意見交換のまとめとして、今述べられたものを、拍手を持って確認をし、大阪市、府、国に対して署名を付して提起することを確認したいと思います。
本フォーラムも、時間、予定よりも30分超過してしまいました。
このフォーラムには
部落解放研究所、
寄せ場学会、
そして多くの研究者の方々、
労をとっていただいた市立大学同和問題研究室の方々、
さらに釜が崎の現地で活躍しているキリスト教協友会、
そして労働福祉センターの労働組合、
西成区人推協、
そして釜ヶ崎の野宿労働者に心ないいたずらをする、その偏見をただす教育実践をしている地元学校の先生方、
大阪市同和教育研究協議会の方、
そして今日の看板や会場設営をしていただいた学生の諸君、
そして多くの日々生死と闘っている釜ヶ崎での労働者と大いに団結したことが、この釜ヶ崎フォーラムの出発点でもあるしまた財産であるという事をまず確認したいと思います。
今日皆さんとともに確認した要求書を大阪府、市に突きつけて、その交渉の経過を、またこの場において報告するため第二回釜ヶ崎フォーラムを準備したい。その決意を持って今日の第一回釜ヶ崎フォーラムを閉じたいと思います。
以上で釜ヶ崎フォーラムを終わりたいと思います、ご苦労さんでございました、お疲れさまでございました。