19901221日  対府市申し入れ 釜ケ崎差別と闘う連絡会議

大 阪 市 長     西 尾 正 也 殿 

大 阪 府 知 事   岸   昌   殿 

                釜ケ崎差別と闘う連絡会議

釜ケ崎労働者の怒りを背景としての申し入れ

 すでにご承知のように、大阪府・市が「あいりん地区」と呼ぶ釜ケ崎において、10月2日、報道機関によって世に広く伝えられた西成署巡査長と地元暴力団との癒着事件につき、釜ケ崎日雇労働者の怒りを基盤とした抗議行動が展開されました。それは連日五日間にも及ぶ激しいものでありました。

 その間の出来事については、全幅の支持を与え難いことがらもあります。しかしながら、その事を理由に単なる「暴動」とし、治安対策上の問題としてのみ考え、労働・民生等の行政とはなんら関わりのないできごとであったとの判断がなされるべきではないと私達は考えます。それどころか、今回の釜ケ崎労働者の怒りの表われは、これまでの府・市の縦割り行政に基づく「あいりん対策」の破綻を示すものであり、釜ケ崎の現状に即した新たな府・市一体となった「対策」が求められていると解すべきであると考えます。市長・府知事連名で同一の申し入れを行う所以であります。

 確かに、今回、西成署巡査長と地元暴力団との癒着事件をきっかけとする一連の釜ケ崎労働者の抗議行動は、西成署にある労働者蔑視の傾向に汚染された警察官の労働者に対する日常の粗野な対応、あるいは、街頭にいくつも設置されている監視カメラから与えられる釜ケ崎労働者総体が犯罪予備軍視されているという日常の被差別感などを背景とする怒りが第一の要因であると判断されます。その限りにおいては、大阪府公安委員会の責任が深く問われるべきであると考えます。

 しかし、一方で、抗議行動の持続と西成署から離れた場所への行動の広がりなどを見るとき、多数で多様な若者たちの登場というかってない現象がその意味を見失わせがちではあるが、労働者のすべてとはいわないまでも、一定部分の労働者の中に、いまある「釜ケ崎体制」を不満と怒りで打ち壊したいというエネルギーが高まっていたという点は、見落とされてならないと考えます。

 現在の「釜ケ崎体制」を支えている要素としては、「市立更生相談所」・「あいりん職安」・「西成労働福祉センター」・「医療センター」・センター一階での「相対方式」という就労方法などが挙げられるが、これらは、過去の「暴動」と呼ばれる労働者側からの問題の突き付けに対して、行政側が社会的認知に基づき、既存の労働・福祉行政の枠を基盤としながらも、かつて就労申告書を正規の雇用保険印紙の代用として認めていたことや単身で簡易宿泊所住まいの労働者を専らに対応する民生窓口を釜ケ崎地区内に設けたこと、あるいは「越年対策」・夏冬の「福祉更生一時金」の支給などにみられるごとく、釜ケ崎の現実になるべく即した弾力運営をすることにより、一定の役割を果たす機関として定着してきたものと見受けられます。その限りにおいては、評価されるべきでありますが、それぞれの機関が定着し、「行革-臨調」の時代を経た今日では、それぞれの機関において、既存の労働・福祉行政の枠組への閉じ篭もりが強化されているように思われます。

 「あいりん職安」は、日雇労働求職者給付金(アブレ手当)の支給総額を減らすために、従来住民票変わりに認められていた「ドヤ証明」を認めようとはせず、これまでは必要とされていなかった「雇用主」の「就労証明書」の提出を強要するなどして、新規の「日雇労働被保険者手帳(白手帳)」の発行を実質上制限しているし、「越年対策」についていえば、その収容者数は、激減しています。また、「福祉更生一時金」については、その支給そのものの取り止めが論議されています。

 「市立更生相談所」は、施設収容を第一としているため、労働者が増大し続ける釜ケ崎の現状に対応しようとすれば、常に受け入れ病院や保護施設の拡充がおこなわれなければならないのに、必要な措置がとられていず、受け皿不足は相談に訪れる労働者の切り捨てによって糊塗されているに過ぎません。それどころか、地区内の単身で簡易宿泊所住まいの労働者に対応する民生窓口が、施設収容を第一としているために、他地区では認められている簡易宿泊所を住所地とした生活保護(居宅保護)が受けられないという弊害すらあります。

 釜ケ崎の労働者の生活実態の大枠が変わらず、高齢化や新規参入者の増加などの新たな問題を見るにいたっている今日において、行政の諸機関が、釜ケ崎で定着するために必要であるとして採用した弾力運営という方針を捨て去り、既存の労働・福祉制度の枠内でのみ仕事をする傾向を強めれば、労働者にとっては、「市立更生相談所」や「あいりん職安」が、労働者を差別・選別する機関となったと受け取らざるを得ないのではないでしょうか。この点で言えば、「市立更生相談所」も「あいりん職安」も西成署同様の権力機関により近いものとなっており、今回の労働者の怒りの底流をかもしだしたものと考えます。

 以上の判断に基づき、私達は次のことを申し入れます。

1、     従来の縦割り行政を改め、現実に即した「対策」が府・市共同のもとに立てられ、実施されること

  そのために、

  ① 府・市協力のもとに、釜ケ崎の現状を把握しなおす調査を実施されること

  ② 既存の労働・福祉行政の枠組を超える総合的な釜ケ崎対策を摸索するために、府・市共通の審議会を設置すること

  ③ 既存の労働・福祉行政の枠組を超える釜ケ崎対策を実効あるものとするために、特別立法を国に求めること

2、緊急に現在の「あいりん対策」を見直し、各行政機関において釜ケ崎の現実にあった対応がなされるよう指導すること

   そのために、市長・知事が先頭となって、釜ケ崎地区内の各種団体との懇談会を設け、当面改めるべき点について意見を聞くこと

3、釜ケ崎労働者の怒りが、第一義的には警察官から日常こうむる差別的な取り扱いに向けられたものであることは明らかであり、警察官に対する啓発をおこなうと共に、労働者への人権侵害の象徴として存在する街頭モニター・テレビカメラを早急に撤去すること

4、釜ケ崎労働者の怒りは、世間にある釜ケ崎労働者に対する偏見・蔑視に対しても向けられたものであると考えられ、そう解する根拠も現実に挙げ得ることから、市民全般に対する啓発活動を行うこと

5、以上の申し入れに対しての基本的な見解を早急にまとめ、当会に伝達する場を設けること

                               以   上 

1990年12月21日